美月らしく

美月らしく

2006.01.15
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ねこ.JPG


当時は1月15日が成人式で、その日も着飾った新成人たちが家の前の道を歩いていた。
少年Yがまぶしい気持ちでそれを見送っていると、朝の遊びから帰った飼い猫のミーちゃんが、両足の間に擦り寄ってきた。
「みぃ♪(^-^)」
「ミーちゃん、どこ行ってきたの? 汚い顔だなぁ」
ミーちゃん―正式には小倉ミソラヒバリ―なぜひばりさんなのかはYは知らなかったが―どうせ、母の趣味だ―を抱くとYは庭の水道に向かった。ミーちゃんを洗ってやろうと思ったのだ。
家の中に入らなかったのは、母や姉や弟にじゃまされたくなかったからである。
Yはミーちゃんをとてもかわいがっていた。

美人で利発な姉とかわいくて甘え上手な弟の間にはさまれ、性格も顔も成績も地味なYは、家でもどこでもパッとしない少年だった。



その後、休日をYがワルガキどもと、日のさす縁側で過ごしていると、空から何かが降ってきた。
なにか、…いや、ネコが、小倉ミソラヒバリが、ミーちゃんが、…空から降ってきた。そしてYの前に落ちた。

冷たい水で洗われたミーちゃんは、寒さに耐え切れず、少しでもお日さまに近づこうと屋根に登って体を干していたが、急性の肺炎でも起こしたか、心臓マヒか、とにかく、その日の午後、短い一生を閉じたのである。
そんなことになるとは、小さなYにはわからなかった。

ミーちゃんは庭のみかんの木の根元に埋められた。
Yは母親につまみ食いをねだるふりをしては、かまぼこやらハムやらにぼしやらを、そのみかんの木の根元にそなえた。

Yは実はこれが心の傷になっていて、成長してから「この人なら」と思う相手には必ずこの打ち明け話をしてみた。
みんな、笑い話に終わってしまった。だから、Yの中で、これはいつまでも心の傷として残った。

結婚してはじめて迎えた1月15日、Yは妻にこの昔話をした。
聞き終わった妻は、しばらくYの顔を固まったように見つめていたが、やがて爆笑した。「やだ~! 過失致死~!? 前科もの~!?」
そう、みんなこんな反応なんだ。誰に言っても同じだ。Yも笑った。



白いかわいらしい小花ばかりを花瓶にさすと、妻はいっしょに買ってきたちょっと贅沢な吟醸酒を、年末に買い求めたびーどろの冷酒グラスについだ。

「ミーちゃんに」妻が言った。
午後4時の暮れていく冬の空を、社宅のベランダから見える小さな空を、Yは見た。
「ミーちゃんに」と言うと、「かんぱい」と妻がグラスを合わせた。

ミーちゃんの小さな顔を思い出した。



* * * * *
お友達との定例コラボです。
「空」という題で、自由に書いています。
参加してみようという方をどなたでも歓迎します。
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最終更新日  2006.01.15 23:08:34


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