リタイヤ 0
廃墟 0
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神坂夫妻の会話、続きます。美奈子は、夫は確かに自分の感情に欠陥はあるものの、他人の感情は感じることができることを知っていました。特に、悲しみについては、神様がそれを知ることを人生の命題にしていると話してくれたことがあったのです。「あなたは、自分自身については、サヴァンのせいだと言いつつほぼ無感情だけど、他人の感情については違うわよね。」一郎、素直にうなずきました。「そうだな。自分に対しては、感じない。しかし、他者については感じる。」美奈子、意地悪な質問をしました。「じゃあ、一番悲しいと思ったのはどんなこと。」「それは、美奈子の前世だな。僕の前世と相思相愛で結ばれて、子供までできたのに、身分違いだからと結婚を認めてもらえなかった。しかし、父は、僕同様君のことを、働き者でよく気が付く女中とお気に入りだったから、お妾さんとしてなら認めると譲歩してくれたのに、君のお姉さんが、悪気は無かったのだろうが、「妹を売るのか。」と言ったものだから駄目になって、その上に自分の一族から子供をおろせと迫られて、子供だけを殺すことはできないって、屋敷の納戸で首を吊って死んだ。その時の君の感情に同調すると、涙が止まらない。」即答した一郎、何と美奈子の前で涙を流したのです。「不思議ね。私は憶えていないのに、泣かないあなたが泣くなんて。」一郎、昔あったことを話し始めました。「美奈子の前世の蓮花、自殺した後もずっと大阪の祖父母の家の裏にあった物置小屋に留まっていたんだ。」何故幽霊が物置小屋に居たのか、気になります。「お屋敷の納戸で首吊ったんでしょう。何故物置小屋に出るのよ。」「ああ、そのお屋敷ね、大分昔に取り壊されてなくなっていたんだけど、僕が子供の頃まで、祖父母の家の裏手に大きな土塀の残骸が残っていたんだ。お屋敷取り壊しの時に、納戸の部分の廃材で建てられたのがその物置小屋だったらしい。だから、そこに居たと言うか出たんだろう。」一郎が見たということは、その時は既に私は転生した後だったのだろうか、それとも2歳にもならないのに、彼は私の幽霊を見ていたのだろうか。「一つ疑問なんだけど、あなたが見た私の幽霊って、地縛霊みたいなものだったのかしら。あなたの臨死体験って、私は丁度生まれたころのはずだし、その前だったらいくらあなたでも覚えていないだろうし、その後だったら、転生した今の私との関係がよくわからないし。」それについては、最初は一郎も疑問だったのですが、彼、結婚前の母親や、終戦直前に裏山の竹が開花した時の祖母等、時空を超えた映像を見ることができましたから、見た時期と実際の事件が起きた時期とは関係なかったのです。「最初は僕もその疑問があった。見た幽霊は、口から血を流した赤い襦袢の少女だったのだが、それが2歳の頃だったのか、もっと後だったのか、美奈子との関係もよくわからなかった。でも、祖父が死んだ後にやってきた変な霊能者が、「慰みものにされて自殺した女の霊が祟っている。」と言い出したことで、その幽霊を見たことをはっきり思い出した。そもそも、僕が見る映像は、時空を超越しているから、美奈子の前世だと認識できただけで十分で、見た時期は関係ないと思う。」「そうだったんだ。」美奈子は、最初に夫からこの話を聞いた時、あれ、自分はもう生まれていたはずなのに、前世の自分の幽霊を見ることができたのかと不思議に思ったのでしたが、疑問が解けて安心しました。「でも、その幽霊、容姿はどう見ても小学生ぐらいの年齢に見えたな。」美奈子、夫は、人間を顔かたちではなく、別の何かで区別していることを知っていました。「あなたは、小学生の顔でも、たとえ別人の顔でも、私とわかるのよね。」「うん。化粧して髪をばっさり切っても一目でわかったしね。」美奈子、一郎と付き合う前に、交際を申し込まれた男とデートしたら、もろ体目当てでホテルに誘われたため、拒否したところ、その男、その夜の内にナンパした女子大生に乗り換えてそれっきりになったことがあったのです。それで、半分ショック、半分頭に来て、気分転換にそれまでおかっぱ頭で座敷童と呼ばれていた髪を短髪にし、パーマもかけて、大胆なイメージチェンジを図ったのです。その時、職場の同僚たちですら誰も美奈子だと気付いてくれなかったのに、当時まだ付き合っても居なかった一郎だけは、一目で見分けたのです。「あの時、どうしてわかったの。毎日顔を合わせていた職場の同僚たちですら、私と気付かなかったのに。」一郎自身、どうしてと言われるとよくわかりませんでした。「うーん、顔かたちで見分けたものではないことは確かだな。雰囲気というのも少し違う。変な表現になるが、その人が持っている波動のようなもので見分けていると言う感じ。」「それも、サヴァンの超能力の一種かしら。」夫には不思議が多いので、それが一番わかりやすい理屈かなと思いました。「ああ、絶対音感の副産物で、音と感情の共感もあるし、その人から感じる波動も音の一種と考えればありうるな。」不可解なことばかりの夫一郎ですから、美奈子は話題を戻しました。「まあ、いいわ。あなた、泣くぐらいに悲しみの感情を感じたこと、他にもあるの。」「うん。変な話なのだが、大分前に、ペルーで過激派が人質とって日本公使館に立てこもったことがあっただろう。」「ああ、そんなこともあったわね。」「その時、テロリストの一団で、日本人の拘束役になったのは、何と、12歳から18歳の少年少女たちだったんだよ。」「なんで、そんな子供たちがテロリストになるのよ。」「貧しさから、戦闘員にするために過激派テロリスト組織に売られた子供たちだったんだ。」「それで、人質の日本人たちは、拘束されていた4か月の間、彼らに日本のことをいろいろ教えたんだ。すると、「日本に行きたい。」「日本の警察官になりたい。」と言い出す者もあらわれ、ペルー警察が突入してきた時に、銃を持っていて、本来なら人質を殺さないといけなかった彼らだったが、撃つことができず、一人も殺せなかった。それなのに、全員警察に射殺されてしまった。恐らく、突入部隊の隊員は、不都合な証拠隠滅のためもあって、ゲリラは全員殺せと命令されていたのだろう。死ぬ時に彼らは、日本のような平和な国に生まれたかったと思った。その悲しみを感じて涙が出た。」一郎の目がうるんでいました。「不思議ね。自分の感情はないくせに。」美奈子、正しいけど感情のない夫には時々腹がたつことがあったのですが、こんな一面は救いでした。「これは、現実の出来事に感応したものだが、不思議なことに、お話なのに泣けるのもある。」「どんなお話。」「笑うかもしれないけど、「ごんぎつね」と「幸福な王子」だ。」確かに二つとも泣ける話だけど、その二つというのが面白いと美奈子は思いました。「ちょっぴり安心したかしら。あなたも人間らしい面があったんだと。」「自分の夫を、化け物みたいに言うな。」顔は笑っていますが、心から笑っているわけではないことを美奈子は感じていました。「そう。他人の悲しみは感じられるあなただけど、自分の感情はどうなの。」「よくわからないな。」一郎、本当に感じないのですから、そうとしか答えようがありませんでした。「私だったら、実の母親から虐待され続けたら、悲しいと思うけど。」「そうなのか。」ここら辺が、夫の本当に変なところです。「だって、何にも悪いことないのに、毎晩殴る蹴るの虐待に遭っていたんでしょ。」「そうだな。」「それなのに、悲しくなかったの。」「幸い、臨死体験の時に出会った転生を司る神様のイギギさまに、お前はこのまま現世に帰したら直ぐに舞い戻ってきそうだからと、特別に強靭な肉体にしてもらえた。だから、殴る蹴るの虐待をされても、大して痛くもなかったし、傷一つつかなかったからね。悲しいとも思わなかったよ。むしろ、離婚調停を最後にひっくり返された時の方が、学生時代を犠牲にしての半年間の苦労は何だったのかなって、ちょっぴり悲しくはなった。でも、皮肉なことに、それで一番得することになったのが僕自身だったからなのかもしれないが、本当に悲しいとは思えなかった。」夫はそこまで予知したから悲しくなかったのだろうなと考えることができた美奈子でしたが、自分が同じことをされていたらと思うと、悲しくなりました。「話を聞いた私の方が、悲しくなったわ。」「いいんだよ。あの過去があってこそ今の平穏な生活がある。」夫は、何時も行き当たりばったりの様で結果的には正解を選択する。それが、サヴァンの、予知というよりも究極の未来選択能力であることは、43年間の夫婦生活の末ようやく理解できた美奈子でした。「あなたには、今のこの状況が最良の選択の結果なのよね。」「そう。僕は、無意識にあらゆる選択を演算した結果、美奈子と結婚しての今の状況こそが最良だと選択した。」そんなことだろうなと美奈子は思っていたので、夫の口から聞けたことは、特に自分と結婚したことが最良と言ってくれたことは嬉しいものでした。「それならいいわ。確か、私にとって一番幸せな選択だったのよね。」「うーん、一番幸せというよりは、美奈子が一番長生きできる選択と言う方が正しい。」これも恐ろしい答えでしたが、美奈子は32歳の時に、子宮筋腫の破裂で死にかけたことがあったのです。今のようなスマホも携帯電話も無い時代でしたから、夫に知らせることはできなかったのですが、出血が止まらないので何とか救急車を呼ぼうと思った時、何故か彼が仕事を放り出して帰って来て、病院に運んで助けてくれたことがあったのです。「そう言えば、一度助けてくれたわね。あの時あなたが帰って来なかったら、私は死んでたかもしれなかった。」「ああ、イギギさまなのか、神様が教えてくれたんだ。」いわゆる虫の知らせのようなものだったんだろうなとは思っていたのですが、具体的に神様のことを聞いたのは初めてでした。「何て教えてくれたの。」答えも不気味なものでした。「最初にね、こう聞かれた。「自分の寿命を削って、妻の命を助けられるとしたら、お前はどうする。」って。」「で、あなたは何て答えたの。」自分のことはどうでもよいという感じの夫ですから、迷わず助けると答えただろうことは予想できました。「寿命全部やるから、助けてくれって答えた。」「それでどうなったの。」「神様は、わかったと答えたが、そんな質問をしたということは、美奈子に何かあったのだろうと想像できたから、仕事を放り出して帰宅した。」幸運だったのは、当時夫が自宅から車で5分ぐらいの事務所で働いていたことでした。「そしたら、私が「血が止まらないの。病院にお願い。」って泣いてたのよね。」「そうだったな。」「でも、そんな約束して良かったの。」美奈子は心配になりました。「美奈子の命を助けられるなら、何でもする。恐らく、神様は僕を試したんだと思う。」「何を試したの。」「美奈子のためなら命を削ってもいいって返答するかどうかを。」「何のためにかしら。」「おそらく、僕に与えた能力を、自分のためではなく、周囲の人々のために惜しみなく使えるかどうかを試したかったのだろう。でも、僕自身の寿命はせいぜい78歳だと思っていたから、当時32歳の美奈子と足して2で割っても55年だから、もう過ぎちゃったところを見ると、神様、まけてくれたんだろう。だから、おまけの人生お互い大切にしよう。」「そうね。」他人に惜しみなく与えることができる夫ですが、逆に自分には与えていないのではないかと、美奈子は心配になりました。「あなた自身は楽しむことってあるの。」「別にないな。」「もう。」即答されてがっくり来ましたが、確かにそうなのです。彼は、一人で旅行させるとその土地の有名店で食事したりすることは一切なく、パリでは、外食はバカ高いとスーパーかパン屋でサンドイッチ買って来て食べていたといいますし、国内では、閉店間際のスーパーで、半額になった弁当を買って食べて喜んでいるような人間なのです。「そうよね。あなたって、自分で贅沢することないでしょ。」「あはは、唯一贅沢した摩耶美紀子さんとの食事でも、彼女に呆れられたな。」一郎、彼女とは高級ホテルで一人3万円の食事をしたことがあったのです。普通なら不倫を疑いそうですが、一郎、彼女が拒食症で死にそうだったので、少しでも食べてくれるならと応じたのです。そのことも夫は隠さずに教えてくれていましたし、美奈子にはその代わりにと、ピンクトルマリンの指輪をプレゼントしていたのです。「私が知っている限り、唯一贅沢した相手でしょう。何故呆れられたの。」「僕は、3万円の食事でも、300円の牛丼でも、食べられるだけでありがたいって感謝するから一緒だろうって。」「そうよね。そのとおりだわ。だから、私が一週間同じ献立出しても文句言わないからありがたいけど。食事はともかく、女性はどうなの。私と付き合う前に、職場の先輩が、あなたを口説いてもさらっとかわされたから、女性には興味がなさそう。ホモかしらって、本気で思ってたわよ。」一郎、吹き出しましたが、口説かれたことは自覚していました。「ああ、そんな先輩の女性居たな。彼女、結婚したことあったんじゃないかと思ったし、上司の男性とも付き合ってたし、僕を口説く意味ないんじゃないかなと相手にしなかった。」「えー、それ本当なの。」自信過剰気味に私はもてると思っていた先輩でしたが、美奈子はそこまで見抜けませんでした。「僕は、その気になれば、他人のプライバシーなんて透視できるよ。」美奈子、答えはわかっていましたが、思わず聞き返しました。「えっ、私のことは。」「見ないよ。その必要はないし。」「先輩とセックスしたいって思わなかったの。遊びであと腐れなくできそうだったけど。」妙にプライド高い女性で、男とセックスするのは、自分が遊ぶのであって、男に遊ばれるのではないと言い張っていたのです。「その気はない。それだけだな。」「私とは。」美奈子自身、結婚前提で真面目に付き合っているのに、手も足も出してこない彼は、ホモか不能かと疑ったこともありましたから、確かめてみました。「美奈子は、僕がセックスする相手のソウルメイト。」そう言えば、彼、摩耶美紀子さんもソウルメイトだが、美奈子とは種類が違うと言ったことがありました。「摩耶美紀子さんは、そうじゃなかったんだ。」「そう。彼女はソウルメイトはソウルメイトでも、ツインソウル。つまり、魂の上での双子。セックスするようなソウルメイトじゃなかった。」「変な関係ね。」「そう。彼女とは、知的好奇心を満たすという意味で同じ性向の女性だったが、性的な魅力はなかったな。それに僕は、やせ細った女性は生理的に受け付けない。彼女でなかったら、絶対一緒に食事することもなかったよ。」そのことも聞いていた美奈子でしたが、夫のセックスに対する考え方を確かめました。「あなたは、私に限らず、セックスして快感なのどうなの。全然やりたいって感じはかんじなかったんだけど。」美奈子、彼とセックスして気付いたことでした。「美奈子が快感なら、僕も快感。」本当にその通りですから、彼には女性を乱暴する男が理解できないのです。「それって悪いことじゃないと思うけど、あなた自身に、嬉しい、楽しいって感情が欠けている気がするわ。」すると、一郎は素直にうなずきました。「そうかもね。確かにそんな感情は希薄だ。働いていた時に先輩方から、「酒もタバコも女もやらないって、何が楽しくて生きてるんや。」ってからかわれたこともあったな。」美奈子、その言葉を逆手にとって聞いてみました。「そや。何が楽しゅうて生きてるの。」答えがまた変なものでした。「楽しみを求めているわけじゃないから、楽しゅうて生きてるわけじゃないな。」「じゃあ、何のために生きてるの。」「前世の宿題というか課題というかの解決のためかな。」前世と言われてしまうと、彼にしかわかりません。「宿題、課題って、あなたにしかわからないじゃないの。」「ああ、そうだな。当面は、美奈子が平穏無事に人生過ごせるように夫として助けることが宿題だったかな。」宿題と課題と言ったからには、課題もあるのでしょうか。「私にとってはありがたい宿題なんだろうけど、課題はなあに。」「これは、神様の意地悪だ。」「意地悪なものなの。」「そう。人間の悲しみを知ること。美奈子の前世の悲しみを知ることにもつながったから、宿題と課題はつながっていた。」それを考えたら、サヴァンの感情欠陥も、課題の解決に一役買っているとも言えます。「感情欠陥のあなただからこそできる課題なのでは。」「ああ、そうかもね。でも神様って、その人が負えるだけの課題しか与えないものだよ。だから、僕にはいっぱい負わせて大丈夫って考えたんだろう。」「結局あなたって、幸せの感覚がわからないのね。」「いや、今幸せだと思ってる。」「うーん、違うか。普通の人とは幸せの感覚が違うと言うべきか。」「ああ、それはそうかな。禅の文句でいいよ。我唯足るを知る。今は、不足なものはないし、不満はない。これ幸せ。」自分も贅沢したいとは思わないし、好きに買い物をさせてくれる余裕がありますから、美奈子にとっても幸せではありました。「そうね。まあ、そんなあなたの妻で、私も幸せだとは思うわ。」「贅沢を望まなければいいし、たまに贅沢する余裕もあるし、足るを知ったから幸せかな。」何時まで生きることができるのか、夫と寿命を分けっこしているのか、それはわかりませんが、元気で生きていられる、それでいいと思った美奈子でした。今我が家では、いい匂いの花が咲いています。ユズとスイカズラです。
May 23, 2023
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昨日は冷たい雨、今日は晴れたものの強風の那須でした。前世記憶の続きですが、前世記憶はいろいろなところで不思議なシンクロニシティーを生みます。例えば、剣術に関しても、何も知らない子供たちは、時代劇の影響なのか、ちゃんばらごっこで刃の部分で斬り合いますが、私は無意識に、峰で受けてから刃で斬ることをしていました。前回の話で、最後は息子を斬ったわけですが、現世の息子と竹刀でやり合った時に、ああ、前世で斬った相手だと直感しました。当時彼は高校生でしたが、最初は彼の一撃の重さに感心しました。そして、その時も私は峰で受け流すことを徹底したのですが、それで、ああ、こんなことが前世であったなあと思い出したのです。また、それを応用した受け方の一つで、相手の刀に峰をからめてくるくる回しながら受けたこともあったのですが、これって普通の剣道では絶対教えないと思います。そもそも私、現世では剣道を全く学んだことがありませんから、息子の打ち込みに臨機応変に合わせて受けることができたこと自体、不思議な感覚でした。剣術よりも不思議なのは、自己流の霊供養法です。こちらも私、現世では全く学んだことはありませんが、般若心経を唱えたり、密教の真言を唱えたりして、何故か供養できてしまうようなのです。ただ、私の供養法、お経と真言でできるという方法論ではなく、根底には霊力の強さがあるのだと思います。ですから、同じことをしてもできるわけではありません。へたすると憑りつかれますから、絶対真似はしないでください。また、眠れる預言者として有名なエドガー・ケイシーも触れていますが、転生は割と小さな集団単位で起きることが多いと思います。夫婦や兄弟姉妹、親子は、前世でも一緒の集団であったことが多いのは私自身の経験でも言えることで、私の場合は特に妻とはお互い転生の常連同士ですが、息子や母とも何度も一緒になっています。ただ、私だけなのかも知れない特異的なものはセックスの相性?で、前世でも妻や愛人だった相手としかうまくできないようなのです。事実、そんな相手でないと、どんなに魅力的な女性でも、性的な欲望を感じなかったのです。あれ、平安時代の腕利き陰陽師は浮気しまくりだったのでは、と言われそうですが、前々回触れたように、陰陽師の仕事は、方違えを根拠に貴族の男性たちに浮気相手をあっせんするコーディネイターのようなものだったため、実は、自分自身は浮気した記憶がほとんどなかったのです。つまり、当時の妻には、誤解で浮気されて殺されたというのが現実だったと思います。何か支離滅裂になってきましたので、また整理して続けます。今日の画像は、現在庭に咲いている春のお花シリーズの続きで、ハナニラ、西洋オキナグサ、クワです。
Apr 16, 2023
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前世記憶シリーズ、119編は実は今回のものも含めて2倍ぐらい書いていたのですが、何故かエラーになって、普通は復元すれば直るのですが、復元もうまく行かなかったため量が減りました。さて、その書き直しの120編です。今の妻と私、いろいろな時代で夫婦になっていますが、平安時代に次いで壮絶な関係だったケースとして、江戸時代の武芸者だった時のことがあります。いわゆる剣術家だったのですが、弟子がいっぱいいましたから、結構有名だったようです。それで、妻はと言うと、お決まりと言うか、師匠の娘だったわけですが、ここでまずややこしいことになります。その師匠からして、弟子は複数いたわけで、たまたま私が一番優秀と言うのか強かったから、娘も私にくださった(なんていうと差別だと言われそうですが、当時は常識。)のです。ところが、今の私もそんなところがありますが、当時の私も、女性に対していわゆる惚れたとか、愛している、とかいう感情が欠けていたのです。それでも、師匠が後継者に指名してくださって、娘さんもくださるのはありがたいことだと祝言をあげたのです。2年後には息子、そのまた1年後には娘も生まれたのですが、実は私の兄弟子にあたる者が、私が後継者に指名される前は妻といい仲であり、祝言を上げた後も、関係が続いていたのです。要は、師匠と私が居ないときに情事を働いていたわけで、何と息子は、私の子供ではなく、彼の子供だったのです。それでも、妻も隠しておくしかなく、娘の方は正真正銘私の娘でしたから、妻も兄弟子も、知らぬ顔して過ごし、その兄弟子も、力関係から道場では私の高弟となって、大いに盛り上げてくれていたのです。これ、妻にとっては針の筵だったのかもしれませんが、私、そんな感情には疎いので、何だか二人は妙な雰囲気だなとは思いつつも、しっかり尽くしてくれる妻でしたし、熱心に指導してくれいる高弟でしたから、無視していました。面白いもので、剣術は血の影響もあるのか、息子も優秀な剣術家でしたが、その剣術が、私よりも実の父親である高弟に似ているのです。私は、ひたすらスムーズに受け流しつつさらっと打ち込んで勝つタイプだったのですが、息子と高弟は、割と力任せに押し切るタイプだったのです。ただ、息子はひたすら私と母親を信じていましたから、彼が元服するまではうまく行っていたのです。しかし、まず耐えられなくなったのが妻の方で、息子が元服し、娘の縁談もまとまったところで、遺書を残して自害したのです。そして、高弟も、その責任を取って切腹して果てました。これ、考えようによってはひたすら無責任な話で、残された息子と私は、当事者が二人とも死んでしまったわけですから、責めるわけにも行かず、呆然とするしかありません。まだ私は、道場主としての責任があり、多くの弟子を抱えていますから、そちらに注力して切り替えられましたが、息子は荒れまくりました。これで、息子が凡庸な剣士だったら他の道に進ませればよかったわけで、大したことにはならなかったのでしょうが、私とは違った意味で才がありましたから、まず、他の弟子たちに当たり散らして大変だったのです。収めるのは私で、一応父親ですから、しばらくは私が直接相手をすることで何とかなっていたのですが、当時横行していたいわゆる辻斬りの警護にあたらせたことが災いしたのです。元々実の父親だった高弟に匹敵する実力の持ち主ですから、辻斬りごときがかなうはずはありません。それでも、辻斬りをやるようなぶっ飛んだ奴ですから、警告した息子に身の程知らずに斬りかかったのです。剣術、チャンバラごっこではありません。そして、如何に素晴らしい切れ味の日本刀であっても、人間を簡単に斬ることはできません。当然、私にしても、息子にしても、人間を斬った経験は無かったのですが、行きがかり上息子は辻斬り犯を本当に一刀両断に斬り捨てたのです。当然ながら即死です。生身の人間をこのように斬ることができるとはと、師匠であり父親でもある私が感心するほどの見事な切り口だったのです。しかし、辻斬り犯とは言え、人間です。そして息子、実の父の高弟に似て優しいところもありましたから、自責の念から、その後も辻斬りの警護を引き受けたのですが、馬鹿は他にもいるもので、なまじ名の知れた道場の弟子たちが警護していることが知れると、彼に挑む奴が次々と現れたのです。二人目になると、更に見事に斬り捨てたのですが、そこで心の糸が切れたようで、息子は辻斬り警護に名を借りた殺人鬼に変身してしまったのです。その後始末は苦渋の選択で、息子を殺すしかなくなりました。ただ私、感情の欠陥も今と同じだったようで、単純に最善の選択をするために、弟子たちを総動員して当たったのです。ただ、普通に相手をしては、弟子たちが返り討ちに会って犠牲者が出ますから、弟子たちには遠巻きにして矢を射かけさせ、手傷を負わせたところで、私自身でとどめを刺したのです。最後に息子は、こう言いました。「地獄で母上と兄弟子に謝ります。父上、あなたに斬られて死ぬことができて幸せでした。私は、自分よりも強い剣士は居ないと思いあがっていました。そのことを最後に思い知らせてくれたこと、感謝いたします。不肖の弟子であり息子であったこと、申し訳ありませんでした。」息子が息を引き取ると弟子たちはみな泣いていましたが、私はどうしても泣くことができませんでした。その代わりに、主だった弟子たちを集めて道場を譲り、自身は剃髪して出家し、妻と高弟、息子を弔うことにしました。その後どうなったのか、その記憶はありませんが、普通に長生きしたようです。それから、不思議に思われるかも知れませんが、私の前世記憶、ほとんどの場合人名とその人の容貌等が欠落しています。今もそうなのですが、人の名前と顔を記憶することが苦手と言うよりは致命的にできないのです。ところが、他の記憶たるや、1時間半の講演をほとんど記憶してレコーダーに頼らず講演録を作ることができたり、何も見ないで2時間ぐらいの講義もこなしますから、他人は私が正直に「人の名前と顔が覚えられないのです。」と告白しても、全然信じてくれないのです。ですから、自分を知っていると言う人に挨拶されると、困惑します。必要だと思えば正直に相手の名前を聞くのですが、何が何やらわからないケースは笑ってごまかすしかないのが実態なのです。世の中、そんな人間も居ることを知っておいてください。続く。画像は、今我が家の庭に咲いているニリンソウ、ヤマブキ、シラユキゲシです。例年なら4月末から5月に咲く花なのですが、今年は異常です。
Apr 14, 2023
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リタイヤして、毎日通勤しないことにようやく慣れてきました。それでも、毎朝5時に起きて、猫の朝食を用意して、掃除機かけて、モップかけて、お風呂の残り湯を庭の散水や貯水のために運び出して、(これが私の分担で、妻はその間に食事の用意と庭の鳥と野良猫の餌の用意をしています。)の規則正しい生活は続いています。さて、前世記憶に関しては、以前にもだいぶ触れていますが、家族、特に妻との大変な関係(腐れ縁?いや、貴重な関係?)や子供たちとの関係について、重点的に触れてみることにしましょう。まず、前世記憶をどうして思い出したかですが、これ、もしかしたら神様のミスかもしれません。臨死体験のところで触れていますが、私は2歳の時に母に縁側から4メートルぐらい下の岩に向かって突き落とされて、死んでいます。というと、今のお前は幽霊なのか、と言われそうですが、後ろ向きに突き飛ばされて、宙を飛んで、頭からまともに岩に激突し、頭蓋骨がぐしゃっと砕けた感触までありましたから、死んでいないとおかしいのです。ところが、次の瞬間青い光の満ちた静かで快適な空間に居たのです。うーん、いい所に来たなと感じていると、目に見えない存在が、慌てて聞いてきました。「お前は何故ここにいる。」そんなこと言われても、「知らへんがな。」としか答えようがありませんが、流石に全能?の神様、事情は直ぐ察した様でした。しかし、更に慌てていました。「お前はまだ死んでいないはずだ。ここは、死んだ魂が、前世の記憶を消去されて、次へと、つまりは転生する直前の段階なのだ。」あれ、僕は神坂一郎ですよね。2歳でそこまで考えることができたところが、私が天才と言われた所以の一つなのですが、ちゃんと意識していたのです。「だから、余計変なんだって。ここに、前世の記憶を持って魂が居ること自体が異常なんだよ。つまりは、非常事態でもある。」要は、神様の手違いってところでしょうかと考えると、ちゃんと伝わりました。「うーん、誰も何もしていないのに、お前がここにいる。しかもいくつかの関門を超越してしまっているのだから、誰の手違いでもないというか、神様の手違いとも言えない状態なんだな。」それはどうでも良かったのですが、私はどうなるのでしょう。死んじゃって、次に進むのか、元に戻るのか、どちらでしょうか。疑問を考えると、神様、少し考えてから答えてくれました。「死んでない、というか、死ぬはずではなかったようだから、元に戻ってもらおう。」この会話、相手がサヴァン症候群らしい私だからこそ2歳児相手に成り立っていましたが、普通ならその年齢では大したことは考えられませんから、即転生か即送還で終わっていたでしょう。でも、気になったのでもう一つの疑問を頭に描きました。戻ってもらおうって言いますけど、私の頭完全に砕けてますよ。ちゃんと死にに戻って、またここに帰ってくればいいんですか。それは神様も気づいたらしく、説明してくれました。「いや、ここに居れば五体満足に再生されるから、大丈夫だ。いや、完全に再生されたら、それこそ奇跡になってしまうから、適当なところで帰してあげよう。」適当なところって、何でしょう。「そうだな。頭グシャグシャでは本当に死ぬために戻すことになるから、そう、後頭部に切り傷ぐらいになったところで、帰ってくれ。」それでも奇跡だと思いますが、この後、神様の今度こそ手違いで奇跡が起こります。私、現世の記憶がある状態でそこにいたのですが、普通なら転生の直前なので、まっさらに近い状態になって来ているところですから、元に戻すためには、現世の記憶を戻す処置があったのです。そこで、記憶を戻す作業が加わった結果、現世ならぬ前世記憶が詰め込まれたのです。ここでまた、二重に偶然が重なります。何が二重だったかと言うと、普通の人間なら、2歳児で記憶を詰め込んだところで、到底それを処理することはできませんし、理解できません。つまり、戻ったところでなーんにも覚えていないで終わったわけです。ところが私、サヴァン症候群の超人的情報処理能力がありましたから、2歳児でも、その記憶を処理して、理解できる状態になるまで保存しておくことができてしまったのです。ですから、複数の前世記憶を、理解できるようになってから徐々に解凍処理していったわけです。そんな前提というか、メカニズムがあっての前世記憶だったのです。如何にサヴァンでも処理能力に限界がありますから、断片的なものにとどまっているのは仕方ないでしょう。その前世記憶の中でも、ずいぶん一緒になるなあと思ったのが今の妻です。つまり、数々の前世で巡り合っている仲なのです。そんな相手ですから、私、現世では一目で彼女を見分けました。私は大阪出身で、彼女は東北の寒村(と言うと怒られそうですが、初めて行った時にそのことがに納得したような田舎でした。)出身、しかもお互い上京してきて出会ったわけですから、以前に出会ったことはありません。まあ、彼女は普通の人間ですから、私のことはわかりません。それでも、彼女なりに私のことは初対面でも印象には残ったと言いますが、氏も育ちもかなりの差がある同士でしたから、会社の同僚たちからは、私のことは、「所詮田舎の高卒のあなたとは、住む世界が違う人なんだから、絶対好きになっちゃ駄目よ。」と言われたそうです。私は私で、当時はまだ交際するには時期尚早と考えていましたが、その日の日記に、「将来の妻と巡り合った。」と書いていましたから、ちゃんと見分けたうえで、真面目に考えていたのです。それで、半年後によい機会が訪れましたので、それとなく付き合ってもよいと伝えたところ、彼女、前世の因縁の賜物なのか、絶対他の女には渡したくないと思ったそうです。それで、結婚前提の真面目な交際を要求してきて、私はそれを快諾しました。その後の交際は、周囲にはほぼ秘密ながら順調に進んで、1か月で婚約、1年後には結婚することができました。ただ、相思相愛に持ち込んだものの、それだけでうまく行くほど結婚生活単純ではありません。彼女は悪く言えば因習深い田舎の娘でしたから、村内の有力者の息子に嫁がせようと言う圧力がありましたし、私はその逆で、両親と上の妹からは、「京大卒のあんたが何を好き好んで田舎の高卒娘と結婚しないといけないのよ。彼女の色仕掛けだったんでしょ。」とまで言われました。誓って言いますが、婚約して結婚式の日取りが決まるまでやることはやりませんでしたし、彼女は潔癖な人間でしたから、色仕掛けなんてことは全くありませんでした。強いて言えば、我が家の女たち、仕事はできたのですが、まともに家事ができる者が皆無で、それに対して彼女は、高卒とは言え、頭が良く、仕事も家事も抜群にできて、大変よく気が付く女性でしたから、多生の縁プラス女性としての価値が大変優れていたから結婚相手に選んだと考える方が当たっています。そんなわけで、幸せな結婚だったとは言い難い面もありましたが、お互い大変堅実で、当人同士の問題はほとんどありませんでしたから、順調に人生の課題を克服して43年間続いているのでしょう。そんな関係でしたから、正直言って、前世の因縁がマイナスに作用したことはありません。でも、前世の関係は結構壮絶だったのです。二つ前の前世では、相思相愛ながら、それこそ住む世界の違う同士でしたから、仲を引き裂かれ、妊娠していた彼女は、自殺してしまいました。それ以外も数々の前世で身近に居た同士だったのですが、平安時代の前世は強烈でした。これ、恐らく安倍晴明のエピソードの種になった事件だったと思いますが、私は腕利きの陰陽師で、彼女が北の方でしたが、貴族の娘でしたから、家柄は彼女の方が上だったのです。これ、実態からばらしますと、当時の陰陽師って、お祓いやら方違えを言い訳に、貴族の男たちの浮気斡旋事業をやっていたようなものだったのです。ついでに、自分もちょこっと浮気していましたが、そこで見事なしっぺ返しを食ったのです。彼女、私の弟子と浮気して、二人で共謀して私を見事に陥れたのです。当時の私、腕利きであることから鼻持ちならない人物でしたから、妻は陰陽道の秘伝書を弟子に渡して書写させ、弟子つまりは愛人に、こう言わせたのです。「神様が夢に現れて、陰陽道の秘伝書をくださいました。」今の私だったら、「おう、それは素晴らしい。」とほめるところですが、当時の私は、自分より上は居ないと威張り散らす高慢ちきな野郎でしたから、「そんな馬鹿なことはあるか。お前のような未熟者に秘伝書がわたるはずはない。」と一蹴しました。そこで妻は、こうアドバイスします。「もし本当に秘伝書をいただいていれば、あなたの首をください。」と言ってみろと。これ、夫の能力を逆手に取った脅しで、腕利きの陰陽師である私は、自分の言魂にしばられるのです。ですから、そんなばかなことあるかと思っている私は、「本当だったら首をやる。」と言ってしまったのです。それで、妻から秘伝書を渡されていた弟子は、自分で写し取った秘伝書を見せて、逆襲し、私は自分自身の呪によって死んでしまったわけです。当然のことですが、伝説と違って、私は生き返って妻に逆襲するようなことは起きませんでした。続く。画像は、我が家のクルミの花とハナニラです。今年は、例年よりも半月早い開花です。
Apr 11, 2023
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那須塩原は昨夜から雨の一日、一時は注意報が出るほどの豪雨でした。こちらは滅多なことでは水害が起きない土地だからよいのですが、下流の方は先週の洪水被害で大変なところですから、無事を祈ります。さて、この編最終話です。ニン・ウルクは、夫を恨みの目で見つめました。「見つかってしまったのね。」余り悪いと思っていない様子なので、ギルガメッシュは怒りました。「何だ、この狂態は。お前は実の娘まで殺すつもりだったのか。」娘たちの中にライラとミラが混じっていたことを知ったニン・ウルクは、流石に驚いていましたが、悪びれずに言い返しました。「全てはあなたのため、私の美しさを保つためにしたことです。スメルの王の栄光のためです。」「そんなことを、私は望んだか。」言い返すと、彼女は食い下がりました。「あなたの妃は私しかいない。あなたは、私が他の女をいくら薦めても受付なかった。あなたが不老不死となった以上、私も老いるわけに行かないじゃないですか。どんな犠牲を払ってでも、たとえ娘の命を奪ってでも、私は美しくあらねばならないのではありませんか。」それには答えず、ギルガメッシュは、妃に確かめました。「お前は、何人の娘の命を奪ったのだ。」彼女は正直に答えました。「5年前から冬至に一人ずつの5人。去年はそれに一人加えた二人、今年は夏至に7人ですから、計13人です。今晩の12人を全員殺していたら、25人になっていたところでした。」スメルでは殺人は死刑だったのです。 ギルガメッシュは、自ら剣を抜くと、血まみれで横たわる妃を見下ろしました。彼が、自ら妃を処刑しようとしていることを察したラガシュとハルゴンは、慌てて止めに入りました。「父上、おやめください。」「国王、王妃はどうかしていたのです。何とかお許しください。」しかし、ギルガメッシュは、国王として許せなかったのです。「いや、ニン・ウルクは重罪を犯したのだ。たとえ王妃と言えども許すわけにはいかない。せめて私の手で処刑するのだ。」二人が取りすがっている様子を、当のニン・ウルクは冷ややかに見て言い放ちました。「王よ。あなたは永遠の命を得、王の栄光を永遠に保つと言われた。そして、私以外の女を愛することはないとも。それなら、私以外の女を全て犠牲にしてでも、私は生き続けるしかないのではありませんか。人間の身で不死を願えば、それぐらいの報いは当然なのではありませんか。それなのにあなたは、私を罪に問うのですか。これは、あなたの罪でもあるのではありませんか。」ギルガメッシュが愕然として剣を落すと、ニン・ウルクはなおも続けた。「私がイュンの商人から買っていた薬、あれはイュンの若い娘の肝や血で作ったものだったのですよ。つまりは、イュンの娘たちの命を奪って作られた薬なのです。それが効かなくなってきたので、薬を作っていたイュンの医師を呼び寄せて相談しました。すると、イュンの娘の生き血生き胆を使ってイュンで作ってウルクまで運んでくるよりも、私に近いスメルの娘の生き胆、生き血を使ってここで作った方がずっと効果があるに違いないと言われました。ですから、娘たちの命を奪うことになったのです。そして、それでも効果が薄れて行ったため、薬の量を増やさざるを得なくなりました。ですから、犠牲者の数が増えて行ったのです。」ギルガメッシュが驚愕の余り黙っていると、ニン・ウルクは続けました。「私が、平気で娘たちを殺していたとお思いですか。あなたは、常々国民は全て我子だと言われますね。私もそう思っていました。私は、その我子を殺したのです。あなたの為に、永遠を願うあなたのために。身よりの無かった七人の娘は、私の美しさのためなら、自らの命を捧げますと言ってくれたのですよ。本当の我子まで殺すところでしたけど、私にとっては、殺した娘たちは全員我子同然でした。その悲しみをあなたはご存知ですか。娘たちの命と引き換えに得た美しさ、あなたは存分に楽しんでいただけましたか。悲しみで塗り固めたこの美しさを。」「私はそこまで望んだ覚えはない。お前が殺人を犯すことを望むものか。」ギルガメッシュが吐き捨てるように答えると、ニン・ウルクは更に食い下がりました。「王よ。あなたの若さが罪なのです。あなたは、自分の若さ故に、何時までも若い私を望み、毎晩私を求めました。生身の人間がそれに耐えるためには、どれだけの努力が、犠牲が必要か、わかっていらっしゃいましたか。さあ、私を裁いてください。あなた自身の手によって。さあ、悲しみで塗り固められた私の魂を解放してください。」途中から涙を流し始めた妃を、ギルガメッシュはどうしても斬ることはできませんでした。「私にはできぬ。お前を裁くことはできぬ。」すると、ニン・ウルクは絶叫しました。「できないなら、何故永遠の命なぞ望んだのです。何故永遠の栄光を望んだのです。あなたは人間でしょう。人間が永遠を望んだらどうなるか、賢明なあなたにはわかっていたのではないのですか。」ギルガメッシュがうなだれると、ニン・ウルクは彼の剣を拾い上げ、自らの首に押し当てました。「では、私が自分で裁きます。」「やめてください母上。」ラガシュが絶叫したが、ニン・ウルクは笑った。「いいえ、王が裁けないのなら、私自身が裁くしかありません。さあ、あなた。私を見送ってください。私を解放してくださいね。」「やめろー。」「やめてください。」「おやめください。」3人は同時に叫びましたが、ニン・ウルクは剣を引き、自らの首を斬りました。血しぶきをあげて倒れた妃を、ギルガメッシュは抱きしめました。「ああ、これで私は安らかに眠ることができます。あなたは、私の罪も背負って、永遠に栄光に包まれて生き続けてください。娘二人を殺さずに済んだことがせめてもの幸せでした。」ギルガメッシュは、その時、自分は永遠の命なぞ望んでいなかったことを思い知らされました。カセンコことウシャスが彼に言ったように、自分はニン・ウルクとの幸福な生活を望んでいたのであり、他のものは付け足しでしかなかったのです。「嫌だ。私は嫌だ。お前がいない人生なんて、何の価値があろう。死なないでくれ。」ニン・ウルクは、苦しい息の中で微笑みながらささやきました。「人間は、死ぬものなのです。でも、あなたのその言葉、最後に聞けて嬉しい。」ニン・ウルクは、ギルガメッシュの腕の中で息を引き取りました。彼は絶叫しました。「悪かった。私が悪かった。許してくれ。」そして、ニン・ウルクのなきがらを抱えたまま宮殿の外に飛び出し、空に向かって叫びました。「天使たちよ、私を殺せ。死なせてくれ。私は人間の悲しみを十分に知った。そして愛も。私を最愛の妃とともに死なせてくれ。」すると、上空にヴィマーナ・トゥーラが音も無く出現し、エナジービームを放ちました。次の瞬間二人の体は完全に消え去り、不老不死の王ギルガメッシュの魂は、最愛の妃と共に解放されたのです。 マガダに帰るヴィマーナ・トゥーラの機内で、アスタルテは、物思いに沈んでいました。「アスタルテさま、納得が行きましたか。」アシューラに修理されて少し体が変わったフワワが尋ねると、彼女は、首を振った。「わからないわ。なぜ、ヴェルダンディーやヒミコだったニン・ウルクがあんなことをしたのか。」すると、トゥーラが答えました。「人間は、悲しい生き物なのです。」アスタルテは、その答えに深くうなずきました。「そうね。チーチェンさんが言ったとおりになったわ。人間の悲しみを知るいい機会だと。でも、それ以上に大切なことが一つわかったわ。」「何を学びましたか。」トゥーラに聞かれて、彼女は答えました。「この世界を、そして運命を作った神は、とっても気紛れで、残酷で、それでいてとっても賢くて正しいってことを。」この編終わり。原作?とは大分違いますが、私の前世記憶では、このような物語だったので、紹介してみました。画像は、子猫のカメ一郎とカメ四郎、病気が心配ですが、少し元気になってきたトメコです。
Oct 19, 2019
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台風が過ぎたら、急に冷えて寒くなってきた那須塩原です。風邪をひかぬように注意しましょう。さて、続きです。ギルガメッシュ夫妻には、皇太子のラガシュと、隣国アッシリア出身の大臣ハルゴンに嫁いだ娘ライラがいましたが、ギルガメッシュが65歳になった時、二人揃って内密の話があるからと国王である父に会いに来たのです。しかも、母のニン・ウルク王妃には絶対知らせないようにとの条件を付けて。ギルガメッシュは不審に思いながら二人に会うと、ラガシュの妃ミラの侍女と、ライラの侍女が母に呼ばれて手伝いに行ったきり行方不明になってしまったと言うのです。ギルガメッシュは、ミラとライラの侍女は美女揃いで、誘拐されたに違いないから大々的に捜索しようと答えると、二人は彼を制して実は侍女の失踪は今回が初めてではなく、5年前から冬至の祭りの時に一人ずつ行方不明になっており、何れも最後の足取りは王妃の宮殿で途絶えていたこと、今回は二人同時だったため心配になって王の耳に入れることになったことを話しました。今まで全く彼の耳には入っていなかったので訝ると、王妃が、行方不明になった娘たちの家族に金貨と高価な宝石を贈って黙らせたと言うのです。それは確かに二人の言うように怪しいと思ったギルガメッシュは、二人にまた母から侍女を所望されたら、とにかく先に報告しろと命じて帰しました。 ギルガメッシュは、悪魔を崇拝する者たちが若者の生き血をすすることによって不老不死を保つとの迷信を持っていることを知っていたため、ニン・ウルクにそれとなくたずねてみましたが、彼女は『迷信を信じたりはしませんわ。』と素っ気無く答えたため、単なる偶然かと思って、王宮内の警備の強化を命じました。しかし、ラガシュとライラの言うことにも根拠があり、怪しいと思ったため、近衛隊の中の選り抜きの特殊部隊の隊員に命じ、王妃ニン・ウルクとライラ、ミラの3人の行動を監視させました。 程なく特殊部隊から、王妃の奇妙な行動に関する情報が報告されました。彼女は、毎月満月の夜の翌日、何か怪しげな薬を大金をはたいて買い求めているとの情報でした。彼女は、丁度満月が生理にあたるため、その前後は一人で王妃の宮殿にこもっているのが習慣だったのです。しかも、その薬を持ち込んだのは出入りの商人ではなくイュンから来ているとのことだったので、ギルガメッシュは妃に直接確かめました。すると彼女は悪びれることなく、夫のために自分は若返りの秘薬を買い求めているのだと答えました。ギルガメッシュにしてみれば妃は彼女ただ一人であり、精力旺盛だったため生理の時以外は毎晩のように彼女を抱いていて、どうもそれらしい薬を飲んだ後の妃がとても淫乱に魅力的になることに気付いていました。だから、若返りよりも媚薬のようなものかとその時は深く考えず、それ以上の詮索はしませんでした。 その後特に目立った動きはなかったため、たんなる偶然かと思い始めた翌年の夏至近くになって、今度は王妃が密かに身よりの無い少女を集めているとの情報が入ってきました。そして夏至の前夜、7人の少女が彼女の宮殿に呼ばれ、そのまま消息を絶ったと言うのです。流石に不気味なものを感じ始めたギルガメッシュは、ラガシュとライラに、今までの調査結果を知らせ、母の行動に十分注意するように命じました。 ところが、ライラと義姉のミラは、同じ歳で仲が良く、お互いの子供3人も仲良かったので二人で示し合わせて、今度母のニン・ウルクから侍女を所望されたら、二人揃って侍女に変装して行ってみましょうと危険な約束をしたのです。冬至かと思っていたら、秋分の夜に儀式を行うので侍女を一人ずつよこしてもらいたいとニン・ウルクは二人に頼んできました。二人は夫に告げずに白い肌に染料を塗って褐色に見せかけ、ヒンダス国境付近の出身の侍女と偽ってニン・ウルクの宮殿に入りました。 ギルガメッシュは、予てから秋分も危ないと考えていたため、特殊部隊から侍女が入っていったとの連絡を受け、ラガシュとハルゴンに連絡を取ったところ、ミラとライラが行方不明と聞くや、自ら軍勢を率いて妃の宮殿を急襲しました。 使用人たちは、主人のニン・ウルクから誰も入れるなと言われていたため抵抗しましたが、相手が国王や皇太子、大臣の軍勢と知るや渋々中に入れました。3人は、神殿の奥の隠し部屋に突入すると、あっと叫び声を上げました。そこには、ライラとミラだけでなく十数人の少女が裸で横たわっており、その中の何人かは首から血を流していたのです。そして、ニン・ウルクは、なんと娘のライラの首から血をすすっていました。ギルガメッシュは、ラガシュとハルゴンにミラとライラの容態を確かめさせましたが、二人を含めて全員麻薬を飲まされたのかほとんど意識のない状態ながら、首を傷つけられていたライラ他3人も、発見が早かったので命には別状がなさそうでした。続く。画像は、3か月が過ぎて、元気いっぱい家中走り回っているカメ一郎とカメ四郎です。
Oct 17, 2019
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台風19号の通過で、物凄い雨と風だったにもかかわらず、何とか無事に済んだ那須塩原の我が家ですが、近くの蛇尾川の氾濫注意報が解除されたのはなんと今夕でしたし、普段は水無川なのに、ずっと清流が流れていましたから、今回の降雨が如何に多かったかということなのでしょう。そして、下流に行くほど水量は増えていきますから、水害の危険も下流ほど大きくなるわけです。どこぞやの政治家が、事業仕分けで、「90年に一度の水害に備える必要があるのですか。」と堤防の予算を削ったところ、そこが見事に決壊して大水害を招いた事実もありましたし、皮肉なことにその時削られたものの後に復活したダムが今回役に立ちましたし、千年に一度の東日本大震災級の天災に備えることは事実上不可能だとは思いますが、百年に一度級には備えて行かねがならないと言うことなのでしょう。さて、続きです。「本当に、不老不死は得られるのか。」ギルガメッシュは半信半疑でしたし、反対していたチーチェンがあっさりと認めたことも不気味でした。「あなたは、アスタルテと違って限られた命の体しか持っていません。ですから、私はあなたの体の細胞を改質して、寿命を半永久的に延ばしてあげましょう。」体の細胞を改質してと言われると怖かったのですが、ギルガメッシュは、それでも死ぬことがあるのかどうかを先に確かめました。「その体で、私は死ぬことはあるのか。」「あなたが望めば、死なせてあげるわ。」自分が死を望むことがあるのか、それは彼自身にもわからなかったのですが、チーチェンの申し出はとてもあり難かったので、即座に答えました。「お願いします。永遠の命をください。12人の部下の犠牲に報いるためにも。」チーチェンは、もう一度念を押しました。「人の心の悲しみ、そしてその愛を知るためにあなたに与えるのです。その覚悟は十分ですか。」「はい。」そこでチーチェンは一つ条件を付けました。「では、余りにあっさりと投げ出されると意味がありませんから、あなたが本当に心を引き裂かれるほどの悲しみを感じ、その上で本当に死を望むまでは、死ぬことができないようにしましょう。あなたは自分では死ぬことはできないのです。つまりは、自殺もできません。もし自殺したとしても、我々が強制的に生き返らせます。それでもいいなら、認めましょう。」ギルガメッシュは、余り深く考えずに答えました。「お願いします。永遠の命のためなら、それしきのことは何でもありません。」アスタルテは、ギルガメッシュに何か言おうとしましたが、チーチェンはそれを制して答えました。「わかりました。では、アシューラ、あなたとゲンブを倒したご褒美として、彼に不死を与えてあげなさい。」アシューラは、チーチェンに再度確認しました。「本当にいいのですか、人間を不死にして。」「いいのです。ミトラ、ヴァルナ、ウシャスのような人間がもう一人増えたところで、世界には大した影響はないでしょう。」アシューラが首を傾げると、ゲンブが皮肉りました。「とんだご褒美ですな。人間にとって、不死は、果たしてご褒美と言えるのですかな。」チーチェンは、ゲンブに向かってにたっと笑いました。「本人が渇望するのです。それ以上のご褒美はないでしょう。」ゲンブは更に皮肉りました。「そうですな。本人が強く望むのならば、たとえどんなに恐ろしいことでも、褒美と言えるでしょうから。」そのやりとりに何となく怖くなったギルガメッシュでしたが、12名の部下を失った手前、ただで帰るわけに行かなかったのです。「私が望む。お願いします。」アシューラは、ゲンブと顔を見合わせ、うなずきました。「わかった。では、その望みかなえよう。」 アシューラは、天使が伝えてきた文明の超越的な技術によって、女神セイシが作った、今はスザクの体となっている肉体や四神、十二神将、そして自らの天使の体の遺伝子を解析し、人間の寿命を限定する要素を既に割り出していました。そして、ギルガメッシュの遺伝子を解析し、遺伝子情報の段階まで遡って不死の情報に書き換えたものを、特殊なウィルスとミトコンドリアを利用して彼の体に注入することで肉体を細胞段階で改造したのです。ただ、本人には麻酔で眠らされている内に終わっていたので、全くどこが変わったと言う意識はありませんでした。不死になったと言われて無邪気に喜んでいる彼に、チーチェンは注意しました。「あなたは、自分では死ぬことができないのよ。肉体が消え去らない限りは、殺されても生き返るからね。傷つけば当然痛みはあるわよ。それでも死なないからね。というよりも、我々が簡単には死なせてあげないからね。そのことは覚悟しておきなさい。」ギルガメッシュは、単純に感謝しました。「それは素晴らしい。私を簡単には殺すことはできない。神のような体だ。本当に有難い。」チーチェンは笑っていましたが、他の天使たちは冷ややかな態度でした。 アスタルテは、彼をウルクに送り届け、帰って来てチーチェンにもう一度確かめました。「本当にあんなことして良かったの。それとも、私のミスで12名の人間を殺してしまったお詫びだったの。」チーチェンは、アスタルテに答えるとともに、天使たち皆に呼びかけました。「よかったのよ。少しはお詫びの気持ちもあるけど、むしろ利用させてもらったのよ。あなたたちも、人間の心の悲しみを知るいいチャンスになるから、ギルガメッシュの今後をよく観察しておきなさい。」アールマティーもうなずいていたので、アスタルテは釈然としませんでしたが引き下がりました。 ギルガメッシュは、ウルクに帰ると、自分は12名の戦士達の貴重な犠牲により、神から不死の体を授けられたと国民に宣言しました。そして、不死を証明するのだと自分が先頭に立って周囲の国々を攻め、ギズ・ジダ王の頃のスメルの領土を確保したのです。その過程で、元々が超人的な戦士である上、無謀とも思える戦闘でいくら負傷しても死なないどころか、直ぐに傷跡一つ残さず回復してしまうことが証明されましたから、ギルガメッシュに、周囲の国々の戦士達は震え上がりました。ギルガメッシュ本人は、チーチェンに言われたとおり、負傷すると痛みはあったのですが、確かに不死と言ってもよい体であることを確認できましたし、国民にもそのことをアピールすることができましたから、満足していました。そして彼は、国民の熱狂的な支持を得ることもできたのです。 ただ、ギルガメッシュは好戦的だったわけではなく、スメルの昔の領土を確保すると、大臣達の意見を容れて周囲の国々と和睦し、その後は国内の充実に目を向けました。その点は大変な名君であり、妃も運命に導かれて結ばれたと信ずるニン・ウルクただ一人を熱愛し続けていました。 永遠の命とともに王の栄光も手に入れたギルガメッシュでしたが、それ以上何かをしたいわけではありませんでしたから、名君でい続けるしかやることがなくなってしまったのです。そして、当初は何時までも若々しく精力あふれる夫ギルガメッシュに満足していた妃のニン・ウルクでしたが、十年がたち、自分の容色に衰えが見え始めると焦り始めました。英雄であり、国王であり、すばらしい夫でもあるギルガメッシュにふさわしい美しい自分でありたい。このことは彼女の夫に対する愛情でもあったのですが、そのために彼女はあらゆることに手を染め始めたのです。最初は単なる美容法、健康法程度だったのですが、やがては食生活全般に及び、50代になっても驚異的な美しさを保ち、夫とともに奇蹟と言われていたのですが、生身の人間にはそのあたりが限界だったのです。ニン・ウルクは、夫のために自分は若々しくいなくてはならないと信じていましたから、普通の人間なのに、夫同様の不老不死を望むことになってしまいました。そうなると、どうしても怪しげな薬やら呪術まがいのものにまで手を出すことになったのです。ギルガメッシュは、60歳を過ぎても30代の若さのままだったのですが、妃のニン・ウルク以外の女には目もくれませんでしたから、彼女には余計に負い目があったのです。若い女と浮気でもしてくれれば気が楽だったのですが、毎夜のごとく自分を抱きしめ、お前一人がいてくれれば、私は幸せだといってくれる夫でしたから尚更でした。 続く。 画像は、カメがトメコをいじめているわけではなく、体が突っ張るような異常な症状が出たトメコを抱え込んで可愛がっているのです。幸い、その後かなり症状が改善されましたが、水頭症の疑いがもたれています。
Oct 16, 2019
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昨夜は、いや、昨日の昼3時から今朝の2時頃までの長時間、那須塩原に来て35年間、一度も経験したことのない物凄い暴風雨でした。しかし、我が家は2年前に定年を機に屋根や外壁をリフォームしたこともあってか、そして、周囲に適度に木を植えていたこともあってか、物凄い暴風雨でも全く被害はありませんでした。庭の畑も、吹っ飛んだかなと思っていたニガウリは無事で、その代り、ハヤトウリの実が数十個落下していました。炒めて、漬物にして、有効に活用することにします。 元々私、大阪出身、東京勤務だったのですが、こちらに居を構えたのは、支部と言ってもよい事業所がこちらにあって、そこに10年間勤務したことと、大阪に居た小学生の時に関西大水害があり、平地は水没、丘陵地は崖崩れ続出で、丘の上にあった我が家と祖母宅の間が崖崩れで一夜にしてグランドキャニオンならぬ深い谷ができ、心配で祖母の様子を見に行った私はあわや谷に転落するところだった記憶が大きいと思います。ですから、浸水、がけ崩れの絶対ない所に住もうと思ったのです。何せ、今の我が家の土地は、蛇尾川箒川の扇状地と言ってよい位置にあり、水はけがよいというよりも、本来水のない土地ですから、時間雨量100ミリを超える雨でもへっちゃらですし、平地ですから崖崩れの心配もありませんから、ここならいいやと選んだのです。 今回の被害の一刻も早い復旧を祈ります。 さて、前置きが長くなってしまいましたが、続きです。チーチェンは、その時ようやく戻ってきたアスタルテに聞きました。「どう、気が晴れた。」「うん。トゥーラに慰めてもらった。」チーチェンから騒動の顛末を聞いて、アスタルテは目を丸くしました。「えっ、アシューラ兄さんはともかく、あんたゲンブさんを倒したの。」アシューラもゲンブも、苦笑していました。「そう。怖いことに人間は自分で考えていないことをするんですな。何も考えないで突っ込んでくるのですから、備え様がありませんでしたな。昔のアガルトの狂人兵、アストランの死人兵みたいでした。」 レムリア時代に、アストランは、死体をリモコンで動かす部隊を作り、アガルトは、薬物で恐怖心だけでなく、痛覚までも遮断し、死ぬまで戦い続ける兵士を使ったのでした。「ふーん、それにしても、あんた凄いのね。ところで、どうしてそんなことをしたの。」余りの言い様に、彼がチーチェンに言われたからやったことを説明すると、アスタルテは彼に向かって手を突き出したので、ギルガメッシュは思わず身構えました。何も起こらないので少しほっとしていると、彼女は両手を上に上げました。すると、彼の体が宙に浮いたのです。なるほど、確かにチーチェンさんが言ったように、彼女も念力が使えるのか、これじゃかなうわけもないか、と宙に浮いたまま考えていますと、アスタルテは手を下げて彼を降ろしました。「わかったかしら。でも、駄目ね。悲しみの感情があると、普段の力が出ないわ。」 これで普段の力ではないとすると恐ろしいなと思いながら、ギルガメッシュは聞き返しました。「どうして悲しむのだ。」チーチェンに聞いていたことではありましたが、彼は、本人に確かめてみました。アスタルテは、チーチェンの顔を見ましたが、彼女がうなずいたので答えました。「チーチェンさんが説明したらしいけど、私からも答えましょう。」ギルガメッシュは、何も話していないのに二人は意思が通じたようなので、不気味に感じました。「私は人間です。しかも、不完全ながら父ミドのように心に感応します。父は、部下にも誰にも、人を殺すならその人の悲しみを全て背負う覚悟を持て、と言いました。私は最初、その意味がわかりませんでした。だから、平気で人々を苦しめ、殺したりもしました。夫イスラフェルは天使ですが、私とともに18年間人間の社会で暮らしましたから、父の言葉の意味を理解していました。そして私に、人々の心に感応することとともに、人間の持つ深い悲しみを教えてくれました。同じ人間の命を奪うことは、たとえようのない悲しみなのです。まだ相手が悪人なら自分なりに割り切ることもできますが、12人の戦士には、あなたへの忠誠心とともに家族への愛情もありました。私を襲ったのは悪の心によるものではなかったのです。」ギルガメッシュは、機械でありながら心を持つトゥーラが、何故アスタルテが悲しむようなことをしたのか不思議でした。すると、それを察してアスタルテは答えました。「トゥーラは、私の尊敬する母であり、レムリア一の巫女でありながら、最愛の夫であり国王の父に平気で手を上げた、世界で唯一人の人間でした。そして、父にとっては、最愛の妃でもあったのです。ヴィマーナ・トゥーラは、人間トゥーラの心を持っています。母は激情に任せてとんでもないことをよくしました。父に手を上げたのはその一つですが、今回もそのようなものです。私を愛する余り、私に危害を加える存在に対しては、過酷なまでの報復を行ってしまったのです。」「では、人格を持った機械というわけですか。」「そうです。」「彼女は、今は落ち着いていますか。」ギルガメッシュは元はと言えば自分の責任だと思っていたので聞きました。「ええ。トゥーラも悲しみ、悔やんでいます。もう、二度とはしないでしょう。」「では、私からも謝りたい。私が悪いのだ。きっとアールマティーさんの言うとおりなのだろう。人間の身で不死を願った報い、私にはとても重いものだった。永遠の愛など、望むべくもない。」深く頭を下げたギルガメッシュに、チーチェンが悪戯っぽく笑いかけました。「じゃあ、永遠の命、味わってみたいとはもう思わないかしら。」ギルガメッシュは、考え込みました。「いいや、味わえるものなら味わってみたい。」すると、チーチェンは思っても居なかったことを申し出ました。「じゃあ、味あわせてあげましょう。」「本当ですか。」思わぬ言葉にギルガメッシュが聞き返すと、チーチェンは厳かに答えました。「その代償として、あなたは人の心の悲しみを知るでしょう。そして、その悲しみも人間の愛であることを。」 続く。 画像は、庭のハヤトウリです。このつるから10センチぐらいに育ったウリが、ボコボコ落ちまくったのです。
Oct 13, 2019
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台風19号、ここ那須塩原でも、昼過ぎから暴風雨が続いています。こちらに住んで35年になりますが、これほどの風雨が続いているのは初めての経験です。しかも明日朝まで続きそうですから、空前絶後のものとなりそうです。如何に平成15年だったかの那須大水害でも無事だった我が家でも、被害のないことを祈るばかりです。さて、続きです。マガダに到着したギルガメッシュは、アールマティー、アムルタート、チーチェン他の天使たちに迎えられました。アールマティーは、驚いてアスタルテに聞きました。「おや、人間を連れてきたの。イュンのハン皇帝以来かしら。それにこの子、タケルなのね。」アムルタートも、驚きながら歓迎しました。「そうね。タケルだわ。転生しても大した男ね。人間では敵はいないでしょう。」ギルガメッシュは、3人の美しさに驚きながら確かめました。「あなた方は、人間ではないのか。」3人は自己紹介し、周囲に居た天使たちの名前も教えました。アールマティーは、ギルガメッシュに単刀直入に切り出しました。「人間の身で不死を願うことの報い、十分に受けたか。」彼は、納得できませんでした。「確かに、何物にも代え難い部下12名を失った。しかし、不死を願うことが本当に悪いことなのか。そこのチーチェンさんも、元は人間だったと言うではないか。」すると、チーチェンは夫の天使ヤシャを呼び、並んで彼の前に立ちました。「人間は、宿命によって結ばれた相手がいるのよ。私は、その相手が天使のヤシャだったけど、普通の人間には当然人間の相手がいるの。もしあなたが不老不死の肉体を得たとしたら、あなたの宿命の相手、ソウルメイトであるニン・ウルクはどう思うでしょう。自分だけが老い、死んで行くのですよ。転生によって巡り合うことがあるにしても、あなたは永遠にそのまま。彼女は、年月にさらされる。出会い、結ばれる機会は失われて行くでしょう。このことは、あなたと彼女の魂にとってはとても寂しいことです。満たされることがなくなっていくのですから。そして、私やアスタルテは、天使ヤシャとイスラフェルに慰められはしますが、転生できませんから、永遠に救われません。」「救われるとはどう言うことなのか。」ギルガメッシュは、転生についてまだ良くわかりませんでした。「人間の魂は、転生を繰り返して学び、この世界を離れるのです。」「それが救われると言うことなのか。」「そうです。肉体を持たない高次の意識としての生命に生まれ変わるのです。」「それで、何かよいことはあるのか。」ギルガメッシュには、救われるとは何か、何故永遠に生きる彼等は救われないのか、わかりませんでした。「この世界は、何時かは滅びる。永遠を生きる我々であってもその時は一緒に滅びてしまうが、この世界を離れた魂は滅びないで済む。そう言うことなのだ。」ヤシャの説明に、彼は少し理解できました。「なるほど、それならわかる。しかし、何時滅びるのか。」何を聞いてよいかわからなかったので、彼は取り敢えず聞いてみました。「お前が生きている間ではない。しかし、お前の魂がこの世にいる間でないとは言えない。」そうか、何時までも転生を繰り返していれば、何時かは滅びの時に出会ってしまうのか。ギルガメッシュは、理解しました。ふと気付くと、アスタルテがいなくなっていたので、彼はチーチェンに聞きました。「アスタルテさんがいませんが、どうしたのでしょう。」流石の彼も、周囲が天使ばかりだと心細かったのです。「あの子は、トゥーラの中で泣いているでしょう。」「何故です。」「自分と同じ人間を殺してしまったからです。」「アスタルテさんが悪いわけではない。悪いのは私だ。」言い張るギルガメッシュに、チーチェンは微笑みました。「いいえ、あの子が軽率だったのです。フワワは12名の戦士に気付いていましたし、アスタルテは、フワワにわざと負けるように命じていたのです。」ギルガメッシュも、先日の圧倒的な強さを考えれば、自分も頭を使ったとは言え、確かに手加減されていたことには気付いていました。「そうだったのか。では、最初から彼女は私をここに連れて来てくれる積もりだったのか。」「恐らくそうだろう。」「では、尚更私が悪い。そして、手出しをするなと命じたにもかかわらず手を出した彼等にも責任がある。」チーチェンは、微笑んで彼を慰めた。「いいえ。あなたのフワワ相手の戦いも、人間としては十分なものでしたし、それ以上にあなたに責任を負わせるべきではないでしょう。アスタルテは、全てを見抜くべきだったのです。あの子は、自分が襲われることを全く考えていませんでした。トゥーラとは、あの子の実の母の名なのです。ヴィマーナ・トゥーラは、機械ではありますが、人間と同じ意思を持っています。しかも、あの子の母の意思を。ですから、我子に危機が迫れば当然攻撃することを、あの子自身が気付くべきだったのです。それに、あの子は十分強いんです。あなたとフワワの戦いに気を取られていなければ、人間の戦士12名ごときを相手に負けるはずはなかったのです。」ギルガメッシュは、チーチェンの言葉を理解しましたが、アスタルテが強いとは思えませんでした。「彼女が浅慮だったことはわかったが、どうしても強いようには思えぬ。しかも、あの12名は、我スメルでも精鋭中の精鋭だ。」チーチェンはまたにっこり微笑むと、ヤシャと周囲の天使たちに目配せして下がらせた。「では、少し試して見ましょう。私の今の体は、神と言ってもよいスザクさんのものですから、その火の力を使えば、人間を一瞬にして焼き尽くします。ですから、その力は使わず、アスタルテと全く同じ力だけで、あなたのお相手をしてみましょう。」チーチェンは、アスタルテよりも華奢な感じの体でしたから、ギルガメッシュが本気になって戦う相手のようには到底思えませんでした。「何をすればよいのだ。」チーチェンは、彼を挑発しました。「私の体に指一本でもいいから触れてごらんなさい。もしできたら、あなたの願いをかなえ、不死にしてあげましょう。」「本当か。」そんな簡単なことで望みをかなえてくれるとは、彼は到底信じられませんでした。「ええ。私も今は天使の一員です。嘘はつかないわ。」「では行くぞ。」ギルガメッシュはそのために来たのだから、アスタルテや戦士たちのことを忘れてチーチェンに挑みかかりました。ところが彼女、彼がつかみかかるたびに紙一重で身をかわし、本当に指一本触れられなかったのです。ギルガメッシュは、ようやく本気になりました。そして、フェイントをかけてタックルに行ったところ、何物かにタックルされたように倒されました。「ずるいぞ、加勢するとは。」てっきり誰かが加勢したと思った彼が振り向くとそこには誰も居ず、単に自分でつまずいてこけたような状態だったのです。「何だこれは。本当に誰もいなかったのか。」気味悪がる彼に、チーチェンは確かめました。「もう降参する。」「いいやまだまだ。」しかし、何度やっても同じで、1時間も続くと流石のギルガメッシュも息が上がってきました。それなのにチーチェンは息一つ乱れていなかったので、彼は、自分が考えたことを話してみました。「あなたは、私の動きを予測すると同時に、私が使おうとしている力をそのまま返しているのではありませんか。」チーチェンはうなずいた。「そのとおり、よくわかったわね。そして、アスタルテはこんなこともできるのよ。」チーチェンがギルガメッシュに向かって右手を突き出すと、彼はそのまま数メートル後ろに飛ばされたのです。「念力なのか。」「そんなものね。だから、あなたは自分で考えて行動している限り、私には指一本触れられないのよ。」それではと、ギルガメッシュは頭をからっぽにしてホール中を走りまわり、誰彼かまわずつかみかかる暴挙に出ました。しばらく暴れて取り押さえられた彼は、チーチェンの笑い声で我に帰った。「やはりだめだったのか。」チーチェンは笑いながらうなずきましたが、彼の後ろを指差しました。「私には指一本触れられなかったけど、信じられないことが起きたわ。見てごらんなさい。」彼が振り向くと、男が二人倒れており、美女に介抱されていた。倒れていたのはアシューラとゲンブで、介抱していたのは、彼らの妻のビャッコとプロセルビナでした。二人は、人間が来たと言うので見物にホールに入ってきた途端に突進してきたギルガメッシュに押し倒され、何が何だかわからないでいたのです。事情を説明されると、二人は、チーチェンを非難しました。「チーチェンさん、あなたも人が悪い。」「そうですよ。まさかこんなことをしてるなんて知らないから、二人で人間が来るなんて久しぶりだなと話しながら入ってきたんですよ。」しかし、二人ともギルガメッシュの怪力には感心していました。 続く。画像は、台風に備えて収穫した我が家の庭のアケビです。種が多くてそれほどおいしいものではありませんが、自然な甘さの果物です。
Oct 12, 2019
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今のところ平穏な那須です。仕事で明日の台風の対策を呼びかけて回りましたが、実際どの程度の風雨となるのか、難しいところです。さて、続きです。アスタルテは、一月に一度はディルムンとシッパルの中間の川岸に現れるので、ギルガメッシュは待ち伏せしてマガダまで乗せて行ってもらおうと考えました。 アスタルテは、ギルガメッシュが待ち伏せしていることを予想していたので、スメルに赴く前にフワワに命じました。「ギルガメッシュと戦って、わざと負けてあげなさい。」フワワは、奇妙なことを命じる主人に確かめました。「アスタルテさまは、あの男をマガダに連れて行く積もりなのですね。」彼女自身、よくわかりませんでした。「そうしてみたくなったのだ。ただ連れて行くのも芸が無いから、お前に勝ったらと言うことで。」「わざと負けては、フェアではありませんが。」「あの男素直じゃないからな。」フワワは、素直じゃないのはアスタルテの方だと思いましたが、了承しました。「わざと負けるのはいいですが、壊れたら修理してくださるようにアシューラさまに頼んでおいてくださいよ。」フワワにしても、ギルガメッシュは人間としては異例の強さを持っていることは感じましたから、下手に負けると壊されると予想していました。「もう頼んでおいたわ。」がっくりきたフワワは、ぼやきました。「もう。私だけがいつも危ない目にあっているじゃないですか。ニドヘグは一度も危ない目にあっていないと言うし、シユウも姿見ただけで人間は怖がって近寄らないし、ヴリトラだって怖そうだし、私だけがとぼけた姿してますからね。」ニドヘグとヴリトラは蛇と龍がモデルでしたし、シユウは金属の塊みたいだったのに対し、フワワはトンボの頭に蛙の体を持ったような姿だったので威圧感に乏しかったのです。そのために、アスタルテ目当ての賊だけでなく、盗賊や腕試しの武術家に狙われたこともありました。当然、一度も負けたことはなかったのですが。「そう言わないの。あんたが一番お気に入りなんだから。」確かに、アスタルテ自身定期的に出かけているのはスメルだけであり、その時は何時もフワワを伴っていましたから、他の3人からは羨ましがられていたことも事実だったのです。「わかりましたよ。負ければいいんでしょう。でも、間違って勝っても知りませんよ。」「勝ってもいいけど、殺さないでね。」「はいはい。じゃあ、行きますか。」 二人がヴィマーナ・トゥーラに乗ってスメルに出かけた頃、ニン・ウルクは夫が何を考えているのか、戸惑っていました。二人は、ミスラとカセンコに言われたように離れ難い夫婦でしたし、ギルガメッシュは彼女以外の女性には見向きもしなかったのです。この点ではフェンリル、タケルの時と同じだったのだが、それでいて不死の夢を追っているのですから、夫は自分を残して行ってしまうのか、それとも彼だけが生き続けるのか。いずれにしても、寂しい気がしたのです。彼女は、アスタルテに会って天使の街に行こうとしている夫に、思い留まるように説得しましたが、彼の意思が固いので彼を守ろうと近衛隊に警護を言い付けたのです。 近衛隊は、ギルガメッシュからは付いてくるなと命令されており、国王と王妃の相反する命令に困ったので、とりあえずは12名の精鋭だけを派遣し、遠くから見張らせることにしました。ギルガメッシュが草むらに潜んでいると、トゥーラが着陸しました。そして、フワワが先に降りると、アスタルテに報告しました。「ライオンが1頭と猫が12匹います。」アスタルテは、12人はニン・ウルクが遣わしたものであろうことを察しましたが、少し心配になりました。12人に加勢されては、フワワはわざと負けてはいられなくなるし、何人か殺さざるを得なくなってしまうかもしれないので。「猫も、できるだけ殺すな。」命じたものの、フワワが複数を相手にすると自動的な攻撃を行うことも知っていたので、危ないかもしれないと思いました。そして一番の危険は、フワワがわざと負けた後で12名が加勢に出てくることだったのです。そうなると、ヴィマーナ・トゥーラが攻撃することになり、彼女にとっては娘のような存在であるアスタルテの敵とみなした者全員を、一瞬にして消し去ってしまうはずですから。フワワは、まっすぐギルガメッシュの方に歩いて行くと、彼に告げました。「アスタルテさまに会いたければ、私を倒すことだ。お前一人でな。」フワワの言葉に護衛の存在を悟ったギルガメッシュは、大声で叫びました。「ニン・ウルクに命じられたのだろうが、国王の命令だ。私の戦いに、一切手出しはするな。」そして彼はフワワに挑みかかったのですが、前回の教訓を生かし、彼に自分に触れさせないようにしました。そして、天性の格闘技のセンスから、フワワと互角に戦いを展開したのです。フワワは感心しました。人間で、自分と互角に戦える者がいるとは思っていませんでしたから。 ところが護衛の者たちは、主君がアスタルテに会いたがっていることを知っていたものですから、気を利かせて、ギルガメッシュが思ってもいなかった行動に出たのです。つまり、手っ取り早くアスタルテを誘拐していこうとしたのです。 アスタルテは自信過剰で、まさか人間が自分を直接襲うとは思ってもいなかったので、気付いた時は手遅れでした。相手は複数で、しかも精鋭中の精鋭なのですから、あっと言う間もなく口を塞がれ、手足を縛られてしまいました。アスタルテは、トゥーラが攻撃するから彼等に止めるように叫びましたが、声にならなかったのです。そしてトゥーラは、娘と考えているアスタルテの危機に、冷酷な一撃を繰り出しました。卵型の機体の一部が開き、触手のようなものを出したかと思うと、一瞬にして12名の兵士を光線が貫いたのです。アスタルテが塞がれていた手を振りほどいて「止めて。」と絶叫した時は既に遅く、12名の兵士は、その姿勢のまま絶命していました。彼女は、彼等を殺す積もりは無かったので、大声で泣きました。 フワワは、何が起こったが悟ったので、わざと攻撃の手を止め、ギルガメッシュはその機に乗じて彼の頭をもぎ取りました。アスタルテのところに駈け付けたギルガメッシュは、凍りついたような兵士たちを見て尋ねました。「何が起きたのだ。」「私を襲ったから全員殺されたのよ。こんな積もりは無かったのに。」彼は、アスタルテを縛った縄をほどいてから12名の兵士を確認しましたが、確かに息をしておらず、死んでいました。「誰がこんなことを。あなたがやったのか。」アスタルテに対する問いかけに、何とトゥーラが答えました。「私がやった。アスタルテに危害を加える者は許さない。」ギルガメッシュは、どこにも傷が無いので、生き帰らせることはできないかと思って聞き返しました。「生き帰らせることはできないのか。」アスタルテは、涙を流しながら首を振った。「トゥーラは、人間の体を構成している細胞の結びつきから破壊した。元に戻すことは誰にもできない。」「元通りではないか。意識はないし、息もしていないが。」動かないだけで死んでいるようにも思えないので聞き返すと、アスタルテは答えました。「嘘じゃないわ。疑うなら触って見るといいわ。」ギルガメッシュが兵士の一人に触れると、彼の手はほとんど抵抗なく体の中に飲み込まれたのです。悲鳴をあげながら手を引っ込めると、彼が触れた兵士は粉々に崩れて形がなくなり、12名の兵士全員が次々と崩れて行きました。ギルガメッシュは己の無力を思い知らされると同時に、彼の行為が12名の兵士の命を奪ってしまったことを悔やみました。 トゥーラは、機体の別の部分を開くと、フワワの頭と体を回収しました。 呆然と立ち尽くすギルガメッシュを、アスタルテはトゥーラの機内に誘いました。「フワワを倒したし、あなたもこのまま帰るに帰れないでしょう。せめてもの償いにマガダに連れて行ってあげるわ。」彼も、その誘いに応じることしか思い付きませんでした。 ギルガメッシュを乗せたトゥーラは、わざとウルクの上空を通過し、彼に上空からの光景を投影して見せました。それから超音速飛行に入り、30分もかからずマガダに到着したのです。 続く。画像は、我が家で出産している所を保護して3か月を迎えたカメ母子です。すっかりなじんで、サンラメラ前の特等席を確保しています。
Oct 11, 2019
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那須は一挙に秋、室内でも20度を切るようになってきました。こうなると、冬も近づいてきます。ギルガメッシュは、たとえ徒労に終わろうとも不老不死に挑戦しようと決心し、ヴァルナたちの元を辞そうとしましたが、3人に引き留められ、その夜は彼らの家に泊まることになりました。彼らは、ギルガメッシュに古今東西の王の一生を話して聞かせました。その中でも、アスタルテの父であるレムリア国王ミトラスの一生は心に残りましたし、大異変で滅亡したアストランのテスカスポロ国王の生き方も興味深いものがありました。しかし、彼らも死んでしまえばアスタルテも言ったように、偉大な王国レムリアも滅び去りましたし、理想の国を目指したアストランも、大異変であっけなくこの世から消えてしまいましたから、何も残らないように思われました。すると、ヴァルナはとんでもない謎をかけました。「時間とは、永遠のようで一瞬、つながっているようでそうではない。ミトラス国王も、トゥーラ王妃も、スサノオも、天使たちも、今でも生きているのだ。たまたま普通の人間は転生して姿が変わっていて、天使たちや我々、そしてアスタルテはそのままの体であるだけで。」ギルガメッシュは意味が分からなかったので聞き返しました。「でも、時は続いているのではないのですか。」するとヴァルナは、更に謎のような言葉を続けました。「本当の神から見れば、この世界自体が自分が書いた物語の幻に過ぎないのだ。我々がつながっていると思っている時間も、神にとっては、自由に切ったりつなげたりできるものなのだ。ミトラスは、そこまで理解していた。」ギルガメッシュは、怖いことを聞いてみました。「では、この世に終わりはあるのか。」3人は当然そうにうなずいたので、ギルガメッシュは慄然としました。「何れは終わるのだ。人間が終わりの無い物語を書くことができないように、神も終わりのない世界は作れなかったのだ。世界は、存在するもの全ては、何時かは消滅するのが宿命なのだ。」「では、終わればどうなるのだ。」ギルガメッシュは、恐る恐る聞いてみました。「神があきるか、もうこれで良いと認めればお終い。全ては無に帰る。」「認めなければ。」「神が作り直すか、面倒なら過去につなげる。」「そんなばかな。」疑う彼に、ヴァルナは面白いたとえをしました。「私の話とお前さんの言葉の間は、ほんの少しの間しかなかった。しかし、神ならばその間に一つの時代を押し込むことさえできるのだ。」それでは、時は、不連続なのでしょうか。「それではつながらないのではないか。あなたがた3人は、ずっと生き続けてきたのだろう。」代わって、カセンコが答えました。「確かに私達は生き続けてきました。でも、時は繰り返しているようにも感じています。以前にも全く同じことが起きたと思うこともしばしばです。そんな時は、神が手抜きをして時を継ぎ合わせたんじゃないかと疑いたくなります。何度でも同じものを見ろと言われているような気さえします。」ヴァルナが更に付け加えました。「私が知っている限りの王の中の王ミトラスは、過去から未来に至る自らの転生全てを見通したが、ミトラスとしての人生が最高であると結論づけた。これはおかしいと思わないか。」転生によって学んで行くのなら、確かにおかしいと言わざるを得ません。「時間を経るに従って進歩しなくては変ではないか。」「そう考えれば、時間の連続性を無視して、ミトラスが最後だとしても良いであろう。」その考え方にも一理あることをギルガメッシュは理解しましたが、時間の流れを無視することが可能なのか、想像も付きませんでした。黙っていると、ミスラも意地の悪いことを言いました。「あなたも、ミトラスの息子でヤシマの王となったタケルの時の方が立派だった気がしますよ。タケルなら天使と戦っても勝てたかも知れません。それよりも、本当の強さを知っていましたから、そんなことをしても無意味だと言うことを理解して戦わなかったでしょう。」「本当の強さとは、一体何なのだ。」ギルガメッシュにとっては、強さも不老不死と同じく大きな課題だったのです。「お前さんは強い。確かに今お前さんに肉体的な強さで勝つことができる人間はいないだろう。しかし、お前さんの力は肉体のそれであって、それでしかないのだ。」では、精神力で強くなれるば何が変わるのか。彼にはその差が理解できなかったのです。「心の強さが何になるのです。力で負ければお終いではないですか。」ミスラは答えました。「力だけでは、本当の強さは得られません。ヤシマの王タケルの本当の強さは、人並み外れた力以上に、その心の広さだったのです。彼の本当の強さは、一人で十数人と戦うことができた以上に、自分よりも弱い相手とでも戦わないで済ませることができたことだったのです。」ギルガメッシュは混乱しました。何故弱い相手と戦わないことが強さなのか。「強さを誇ることだけが強さではないのです。無用な戦いを避け、敵を増やさないことも強さなのです。こう言えばわかりますか。」ミスラの言葉で、ギルガメッシュにも理解できました。自分は強さを頼りに支配してきたのですが、長老エリドゥ・シンは、むしろ懐柔策を繰り返して支配する方が得策であると常々進言してきたのです。そして、二人が折り合ってスメルはうまくやってきたのです。「なるほど、その考えもよくわかる。確かに戦うばかりが強さではない。」「あなたの国スメルが、ギズ・ジダ以来、奇跡的に生き残って来た秘訣はそこにもあります。ジダは、ミトラスからそのことを学び、その位置を利用して周囲の国とのバランスを保つことで乗り切ってきたのです。時にはヒンダスと、時にはアガルトと協調しつつ、スメルの国を維持してきたのです。」「我が国が奇跡的に生き残ってきたというからには、他の国は、皆滅びてしまったのか。」ギルガメッシュは、そのことにも興味を覚えました。彼らの答えは、ヤシマ以外は、全て最低でも一度は滅びたとのことでした。では、ヤシマは何故続いて来たかを聞いてみますと、四方を海によって他の国と隔てられていたため、外国からの影響を受けにくく、国内紛争だけで済んだことが大きいとミスラは説明しましたが、国内紛争で滅びなかったのは、自分が神オオモノヌシとして導いたお陰もあったかなと笑いました。何だか彼等に丸め込まれてしまいそうに思えたギルガメッシュでしたが、自分は挑戦してみたいと告げると、3人は、『失敗するだろう。』とした上で、挑戦する、それも運命だと認めてくれました。 一晩泊まった後ウルクに戻るギルガメッシュに、何とミスラ夫妻が同行しました。 二人は、ギルガメッシュに安全な道を示しつつ旅の道連れとなりましたが、不老不死については触れませんでした。 ウルクに帰り付いたギルガメッシュとミスラ夫妻を、国民は熱狂して迎えましたが、二人は彼の妻ニン・ウルクを見て驚きの声を上げたのです。 彼女は、ヴェルダンディー、ヒミコの転生だったのです。 当の二人は何もわからないでいるので、ミスラは、アガルタのフェンリル、ヴェルダンディー夫妻と、ヤシマのタケル、ヒミコ夫妻のことを話しました。 ギルガメッシュ夫妻は驚きながらも、お互い宿命的に魅かれたことも事実でしたから、素晴らしい縁なのだと喜びました。 ミスラ夫妻は、ヤシマとヒンダスの神のような存在なので、ウルクに留まって欲しいとギルガメッシュは頼みましたが、それでは二人の影響で未来が変わって混乱を招くから、と固辞しました。 そして、何とそのまま西に進んでアガルトから海を渡ってレムリアに行き、また海を渡ってヤシマに戻ると言って、3日でウルクを後にしました。 出発する時、ミスラはギルガメッシュに確かめました。 「あなたは、またアスタルテに会うつもりですね。」 彼は、素直に認め、そこに居れば不老不死を保てるというマガダに行くだけでも行ってみたいと答えました。 カセンコは、二つ注意しました。 「あなたは、まず妃のニン・ウルクを大切にしなさい。それから、アスタルテを決して怒らせてはなりません。そもそも人間自身、この大地から見れば邪悪なものでしかないのです。彼女は、自身が人間ながら、父のミトラスと違って必ずしも人間が大切とは考えていません。むしろ、正当な口実があれば減らしてやろうとさえ考えていますから、その口実を与えないことです。彼女の乗り物ヴィマーナ・トゥーラは、ウルクを一瞬にして焼き尽くす力を持っているのです。その昔、ヒンダスにあったヴィマーナ・インドラがヒンダス北方の都市国家群を一瞬にして焼き尽くしたように。」そう言われてみますと、ガヤに行く途中、彼はその伝説の都市チャダルヒュークの廃墟を通り、一木一草生えていない焼け焦げたような場所を不思議に思ったものでした。 ギルガメッシュは二人に礼を言い、一族で丁重に見送り、国境近くまで警護隊をつけて送り届けました。画像は、我が家のアケビです。今年はいくつかなっています。あすあたりが食べごろかな。
Oct 9, 2019
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東京はまだ暑いようですが、那須は朝結露するぐらいに冷えてます。これからどんどん寒くなってきます。さて、続きです。ギルガメッシュ神話とは大分違うお話ですよ。ウルクに戻ったギルガメッシュが、長老たちに大昔のレムリア王国のことを尋ねると、最長老のエリドゥ・シンは、ギルガメッシュの遠い祖先の神とも言われるギズ・ジダ王は、大異変で一度滅びたスメルを復興させましたが、その妃ウズメはレムリアの王女であり、彼女の父が神の王といわれたミトラスだと答えました。アスタルテの話と符合するなと思った彼は、彼女の言ったようにミトラス王の娘にアスタルテと言う名の王女がいたか、聞いてみました。すると、確かにミトラス王と、巫女でもあったトゥーラ王妃の娘がアスタルテ王女であったが、彼女は天使の世界に消えてしまったと伝説にあるとのことでした。アスタルテの言ったことは真実だったのか。ギルガメッシュは愕然としました。するとシンは、スメルの東の高原にも、天使あるいは神とあがめられているエキドーナとバールの姉弟が出没すると言われていることを教えました。ヒンダスのガヤについて聞くと、とても遠く、オナガーの馬車でも一月ぐらいはかかるのではないか、とのことでした。 そこでギルガメッシュは、アスタルテが話してくれた不老不死の先輩というヴァルナに会いに、東の高原を通ってガヤまで行ってみようと決心しました。しかし、如何にギルガメッシュが剛勇無双とは言え、彼は国王であり、異国に出かけることは大変なことだったのです。一人で行けば危険ですし、かと言って軍勢を率いて行けば侵略になってしまいます。猛反対を受けたのは当然でしたが、天使たちに導かれたのだと説得し、妃ニン・ウルクを国王代行に立て、息子のラガシュを皇太子に指名することで何とか臣下たちの承認を取り付け、彼は単身ヒンダスに向かうこととなりました。 姉のような存在のアスタルテからギルガメッシュのことを聞いていたエキドーナ姉弟は、彼をからかってやろうとスメルの東のヒンダスとの国境に近い高原で、野宿をしていた彼の前に姿を現しました。ギルガメッシュは、彼女らの来訪を予見していましたし、エキドーナは、女性的なアスタルテとは違った中性的な魅力を持った美女だったので、喜んで迎えました。そのエキドーナは、ギルガメッシュに対し、アスタルテと同じく、何故不老不死を求めるのかという質問をしましたが、彼はやはり不老不死は人間の最高の望みだと答えました。浅黒い肌の精悍な若者の容姿を持つバールは、ギルガメッシュに対し、人間は、肉体的に150年が限界であり、魂の入れ物としてそれ以上はもたないと教えました。ギルガメッシュは、それでは何故アスタルテは不老不死なのかと尋ねると、彼は、アスタルテの肉体にだけは、定まった寿命が無いのだと答えました。それでは、自分は不老不死にはなれないのかと単刀直入に聞くと、肉体から作り直さねば無理だとの答えだったのです。それでは絶対に無理なのかと諦めかけましたが、アスタルテは、天使の街マガダに居れば不老不死だと言ったことを思い出して確かめましたら、エキドーナに、「確かにそのとおりだけど、一歩でも外に出たら中に居た期間の時が一瞬に過ぎるのよ。マガダという籠の中で永遠に飼われたいの。」と笑われました。それでも諦め切れなかったギルガメッシュは、アスタルテが言った不老不死の人間ヴァルナは実在するか、彼女らに確かめました。すると、エキドーナもバールも、ヴァルナは確かに不老不死であり、自分たちよりもずっと昔から生き続けていることは真実だと認めました。実は、不老不死の人間は他にも何人かいて、彼等もアスタルテと同じで定まった寿命がない上に、ギルガメッシュとは大きく違うことがあると言って笑いました。それが何かを問い質したところ、二人は顔を見合わせて笑いました。「今ここで答えを言っても、あなたには理解できないでしょう。それを知るためには、少なくともヴァルナには会ってみることね。」そう言うと、二人は姿を消しました。 混乱しながらもヒンダスを目指したギルガメッシュは、行く先々で武勇を誇って名を売りながらヒンダスに入りました。ヒンダスは、王朝は全く変わっていましたが、王族は、スメルと同じくジダ王と同時代の王クリシュナ・ナーガの子孫を名乗っていました。そして、各地の豪族たちは、ギルガメッシュをライオンをも倒す勇者として手厚くもてなしてくれたのです。しかし、肝心のヴァルナのこととなると誰も知らず、本当に実在するのか、彼は不安になってきました。 何とか約1ヶ月かけてガヤまでたどり着いたギルガメッシュでしたが、街の者はヴァルナの名を知りませんでした。半ば途方に暮れていると、街外れの門の前に立っていたイュン、ヤシマ系の顔立ちの美少年が、彼にスメル語で尋ねました。「あなたは、一日の内、朝と夕、どちらが貴重だと思うか。」突然スメル語で話しかけられて驚いたギルガメッシュでしたが、大して考えずに答えました。「朝だ。」少年は続けました。「では、昼と夜では、どちらが大切か。」「昼だ。」少年は、首を傾げました。「スメルでは、夕方が一日の始まりとされているのではないですか。その夕と夜は何故大切ではないのですか。」確かにその通りだったのですが、ギルガメッシュは、事実上朝が始まりだと考えていましたから、自分が思っている通りを答えたのでした。「夕は一日の終わりだ。夜は眠るだけだ。だから、朝と昼の方が大切だ。」相手は少年だし、半ばばかにして答えたギルガメッシュだったのですが、その時一人のヒンダス系の老人が現れてその少年から彼の答えを聞くと、彼に言いました。「スメルの王ギルガメッシュとも思えぬ言葉ですな。あなたは、真理を、そして人生をも理解していないようだ。スメルに帰られるがよい。」自分の名を知っていたことから、もしかしたらこの老人がヴァルナかも知れないと思ったギルガメッシュでしたが、拒絶されて怒りが込み上げて来ました。背を向けて立ち去ろうとした二人に、ギルガメッシュは呼びかけたが無視されたので、落ちていた小石を拾ってぶつけようとしました。ところが、何と小石と思ったのは岩が突き出たもので、急いで拾い上げようとした彼の爪がはがれたのです。悲鳴を上げると、二人は振り向いて笑いました。怒りに我を忘れたギルガメッシュは、剣を抜いて脅そうとしました。すると、今度は剣が束から抜け、彼の足の甲に突き刺さったのです。もう怒りどころではなくなったギルガメッシュに、老人は戻ってきて声をかけました。「私は夜。ヴァルナと呼ぶ者もいる。そして、この少年は昼。ミスラと呼ぶ者もいる。彼は、ヤシマではオオモノヌシと名乗っておったが、お前さんがスメルから来ると知って見物に来たのだ。我々二人は、自分でも一体何年生きているのかわからぬ。そして、永遠にこのままなのか、それとも普通の人間のように死ぬことができるのか、それもわからぬ。まあ、お前さんもここまで来たのも何かの縁だ。手当てぐらいはしてやるから付いて来るがよい。」ギルガメッシュは、気力も失せたし足を引きずりながら二人に付いて行きました。街の中の簡素な家に入ると、年のころは20歳前後のイュン系の美女が迎えてくれました。彼女は、微笑みながらてきぱきとギルガメッシュの傷の手当てをしてくれましたから、ギルガメッシュは心が動きました。「彼女を気に入られたようですね。」ミスラに声をかけられた彼は、慌てて否定しました。「私には、スメル一の美女の妃ニン・ウルクがいます。それに、あなたがたが何歳かわからないなら、彼女もとんでもない年寄りだったら、興醒めです。」すると、彼女が自己紹介しました。「私は、カセンコ。イュンの出身ですが、ヤシマでは繁栄を表すサクヤ、ここヒンダスでは、曙を表すウシャスと呼ばれています。お二人に比べればまだまだ若いのですが、それでも何千年かは生きています。そして、私はミスラの妻ですので、普通の人間の殿方には興味はありません。悪しからず。」ギルガメッシュは、3人に聞いた。「あなたがた3人は、本当に人間なのか。」3人は、顔を見合わせて笑った。「生き物の一種として考えれば、人間でしょうな。ただし、このとおり老いることも死ぬこともないから、普通の人間の目から見れば神にも見えるのでしょう。あなたをここへと導いたアスタルテの両親が生きていた頃は、私は、この容姿と特技の予知のために、夜の神、予知の神ヴァルナと呼ばれていました。まあ、神でいるのも嫌気が差しましたから、ヤシマに200年ばかり出かけてきましたら、都合よく全ては伝説になっていましたから、それからは定期的に居なくなっては、忘れ去られた頃に帰って来て、ひっそりと暮らしています。」ギルガメッシュは、彼のことを聞いても誰も知らなかった理由がわかりました。「では、そちらのミスラさんは。」彼は、永遠の老人よりも、永遠の少年の方に興味を覚えました。「実は、私とヴァルナ、見かけは全然違いますが、双子の兄弟なのです。」これは、衝撃的な事実でした。「では、何時からそんな容姿なのですか。」ミスラが答えてくれました。「私は15歳の時から時は止まり、兄は逆に15歳の時には既に老人の容姿になっていました。最初は、二人で若さと老いを分け合ったのかと思っていたのですが、兄も死にそうで死にませんし、二人とも15歳の時に肉体の年齢は止まってしまったのです。こんな二人ですから、幾度と無く時の権力者から狙われました。丁度あなたのように、人間自分に無いものを欲しがるのです。特に地位も名誉も手に入れると、最後は永遠の命を欲しがります。ただ、変わらぬ老いには興味がないらしく、兄は比較的安全でしたが、私は何度殺されかかったかわかりません。逃げ回っているのも大変なので、兄はヒンダス系の容姿なのに、私はイュン系の容姿なことを利用して、海を渡ってヤシマで神として隠れ住むことにしました。すると変なもので、神になってしまえば、不老不死の者は崇拝の対象として皆ありがたがってくれたのです。お陰で、ヤシマでは家と山を一つもらって大変快適に過ごせています。そして私は、神となってから、世界の神のことを学びました。その結果、人間は、より高度な神とも言うべき存在が、自分たちに似せて作り上げたものであると確信するに至りました。そこで私は、ヤシマの伝説で世界全てを作り上げた神であるオオモノヌシを名乗ることにしたのです。自ら神になっておりますと、人間達はいろいろなことを願い、かつ教えてくれるようになります。カセンコと出会ったのは、イュンにも不老不死の女性がいると聞いて興味を持って出かけて行ったからなのです。彼女に会って私は初めて人を愛することを知りました。彼女もこのとおりの美女で、しかも老いませんから、誰も愛することができなかったと言います。ただ、残念というべきなのか、当然というべきなのか、二人には子どもはできませんでした。その辺はうまくできているとも言えます。」「何故です。できたら素晴らしいではないですか。」ギルガメッシュが聞くと、二人は笑いました。「二人の間に子どもができ、皆不老不死だったらどうなります。」「素晴らしいではないですか。」ギルガメッシュは、そうすれば、人々は老いと死の恐怖から逃れられると単純に思ってしまった。「その子孫の人間どんどん増えてしまい、世界中に溢れたらどうなると思いますか。どうにもならなくなってしまうのではないですか。」言われてみるとそのとおりと、ギルガメッシュもうなずきました。「なるほど、そんなことも考えられますね。でも、天使は不老不死ですが、子どもができるようですよ。」アスタルテと天使の夫との間の子ども二人を見たことを思いだし、彼は確かめてみました。「彼等は、自分で数を制限していますよ。自然界とは、そうやってバランスを取るものなのでしょう。あなたは、不老不死を願っていますが、普通の人間には子どもを残すことと、転生することと言う、素晴らしい幸せがあることを認識すべきではないですか。所詮、この世の生は幻のようなものです。我々も、神の手の上で踊っているに過ぎません。同じ体で永遠に踊り続けなくてはならない我々は、哀れな存在でもあるのですよ。」「本当にそうなのか。」ギルガメッシュはまだ迷っていたので、ミスラは、ヴァルナに振りました。「兄さん、彼の運命を全て教えてあげたらどうかな。」「本当にわかるのか。」ヴァルナは不気味にうなずきましたが、良く見ると彼の顔は、老人のようでもしわは全くありませんでした。「私は、お前の過去から未来に渡っての運命を見ることはできる。所詮お前はどんなに努力しても本当の不老不死にはなれない。そして、本当の幸せはとは何かは、死を受け入れた時にようやく悟るであろう。それ以上は、聞かぬ方がお前のためだ。人間、先がわからぬからこそ、無駄かもしれない努力をすることができるものだ。前世のお前の父ミトラス王は、全てを見通しながらもそれに向かって努力することができた稀有な人間だったが。」確かにそうかもしれないな、と思った彼でしたが、それでも、無駄な努力と言われようと、自分で運命に立ち向かって不老不死を求めてみたいと思いました。「私は、たとえ得られないものであっても、最初から諦めるのはもっと嫌だ。できる限りのことに挑戦してみたいのだ。」答えると、カセンコが、真剣な顔で彼に聞きました。「時の流れは、全てを流し去ります。その中に佇んでいることは、ある面では大変な悲劇でもあるのです。幸い私達は3人ですが、この3人以外は全てのものが成長し、そして朽ち果てて行くのです。それを私達は見続けるのです。そのことに耐え続けることができる自信はありますか。」彼はよくわからなかったが、エキドーナ姉弟が、3人と自分には大きく違う点があると言ったことを思い出したので聞いてみました。「わからないが、ここに来る途中エキドーナとバールと名乗る天使の姉弟に会い、彼らやあなた方と私には大きく違うことが一つあると言われました。それが何かを尋ねても、笑って教えてくれませんでした。そして、ヴァルナさま、あなたに会えとだけ教えてくれました。それもあって私はここまで来たのです。」するとカセンコは、にっこり笑いました。「その答えは、私の問いの答えと同じではありませんか。」時の流れを見続けて行くためにはどうすればよいか、その答えであるとすると、ひたすら強くあればよいのではないかとギルガメッシュは考えました。「とにかく、強い精神を持てばよいのではないですか。」答えると、カセンコが首を傾げました。「あなたは、私を見ても妃のニン・ウルクがいるからと心を動かさなかった。そして、アスタルテの誘いにも乗らなかった。精神の強さだけなら、決して我々に劣らないと思いますよ。」では何なのか。強さではないのか。ひたすら強くありつづけ、全てを見続ければよいのではないのか。考えていると、3人は顔を見合わせて笑いました。「あなたの考える強さ、全てを見続けようとする強さ、それだけで本当に時を乗り切って行けますか。」カセンコの問いに、ギルガメッシュは同じ答えを返した。「私には、それしかないと思っている。」「では、全てを見続けることは、ある面ではその時の流れに逆らうことにつながることはわかりますか。」「はい。」「それが本当の強さだと思いますか。」「私は、そう思っている。」時の流れに負けない強さ。それ以上の強さがあるのだろうか。戸惑っていると、カセンコは、優しい顔で今度は自分のことを話し始めた。「私たち3人は、最初は人間の母親の体から生まれ、少なくとも最初は普通の人間だったのです。二人は15歳と言いましたが、私は18歳から変わっていません。当然恋もしました。一度は普通の人間の男と結婚もしました。でも、子供ができません。そうこうする内に、夫も両親もどんどん老いていきます。私は見てのとおり全く変わりませんから、時のイュンの皇帝は、私を捕らえて若さの秘密を明かすように迫りました。私には、秘密はありませんから何とも答えようがありません。すると、私を殺してその肉を食べれば良いのではないかと言い出す人まで現れました。殺されそうになった時に、ミスラが助け出してくれたのです。彼は、私が囚われていた牢に火を放ち、焼け死んだように見せてヤシマに連れ帰ってくれました。私がヤシマに逃れたことを知ったイュン皇帝は、永遠の若さを求めて何千人もの若者を差し向けましたが、誰も私を探し出すことはできませんでした。ヤシマでは、私は繁栄の女神、コノハナ・サクヤと呼ばれるようになりました。そして、オオモノヌシことミスラの妻となったのですが、彼は滅多に人前に姿を現しませんから、ミスラに会いに来たヴァルナ兄さんと私が一緒にいるところを見た人々は、サクヤの私が象徴する美と繁栄は、ヴァルナ兄さんの老いと長寿に対極するものと思ったようです。私もヴァルナ兄さんを見習って人々の前から姿を消したましたから、余計に美と繁栄ははかないものと思われたようです。人間にとっては、それが真理なのですが。そして、私はヒンダスでは、その若さから曙の女神ウシャスと呼ばれるようになりました。ヴァルナは夜、ミスラは昼、そしてウシャス、私は夜明けです。これも面白いものです。」ギルガメッシュは、ガヤの門前でミスラが問いかけてきた言葉を思い出した。自分は、朝と昼の方が夕や夜よりも大切だと答えてしまった。しかし、考えてみると全ては同じように存在するものであり、大切さに差はないと思い直した。「私の答えは誤りでした。朝、昼、夕、夜、それぞれが大切であり、同様に存在しているのです。優劣はつけられません。」カセンコは、ギルガメッシュの答えに微笑みました。「あなたは、一つ賢明になりました。それでは、果たして時に逆らうことが本当の強さであるかどうかの答えもわかるでしょう。」朝、昼、夕、夜、それぞれの存在意義を認めることは、時の流れを認め、受け入れることになるだろう。つまりは、時の流れそのものをあるべくしてあるものと受け入れること、その方が強さであり賢明なのだろう。そうなると、人間は死すべきものと認め、それを受け入れることにつながるのではないか。ギルガメッシュはその理論の正しさを認めながらも、自分の挑戦を諦める気にはなれませんでした。ヴァルナは、笑顔で説きました。「理解できても、そのとおりにしないのが人間の面白さであり、人生の楽しさでもある。あなたは、思ったとおりに生きるが良かろう。」続く。画像は、遠赤外線ヒーターサンラメラの前で温まりながら、まだ母カメのお乳を吸っているカメ一郎とカメ四郎です。もうすぐ3か月になります。
Oct 7, 2019
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昼は夏並みの暑さ、夜は秋の寒さ、温度差で大変な那須です。さて、続きでようやく主人公が登場します。アスタルテの父ミドが死んでから何千年かが過ぎ去った頃、スメルの都市国家ウルクの国王となったギルガメッシュは、時々領内を訪れては何をするでもなく時を過ごして行く、女神と言われるアスタルテに興味を覚えました。単身狩の途中彼女を見かけたギルガメッシュは、その美しさに感動するとともに、何故か懐かしさを感じたのです。思わず彼女に駈け寄ろうとすると、トンボのような顔をした怪物が立ちはだかりました。「そこをどけ。」彼が叫ぶと、アスタルテが気付いて、自ら彼の方に近づいてきました。「あなたはギズ・ジダの子孫のようね、彼と違って巨人だけど、面影があるわ。」思いがけず声をかけられたギルガメッシュは、ギズ・ジダは自分の先祖であり、大昔にスメルを復興させた神だと言われていると話すと、アスタルテは笑いました。「ジダは人間だったわよ。私はジダの義姉でもあるから、彼のことはよく覚えてるわ。もう何千年も前の話だけど。あなたも、人間にしては凄い能力を持っているわね。あら、あなたタケルでしょう。」アスタルテは、ギルガメッシュがヤシマの王となった弟タケルの転生であることを見抜きました。タケルと言われたギルガメッシュは、その名前にもなぜか親しみを感じました。「タケル、ですか。聞いたことがあるような気がしますね。」「ところで、私に何の用なの。」問われたギルガメッシュは、正直に答えました。「あなたの美しさにひかれたのです。そして、何故かとても懐かしい気分がしました。それで、あなたと寝てみたいと思ったのです。」アスタルテは、彼の正直な答えに大声で笑いました。「まあまあ、正直な坊やですね。何千年も生き続けている私に、身も心も捧げると言うのなら考えてもいいわよ。」そう言われると、ギルガメッシュのプライドが許しませんでした。彼は王であり、人並みはずれた体力、知力の持ち主でもあったのです。そして、妃はアスタルテに勝るとも劣らない美女、ニン・ウルクでした。その上アスタルテには、寝た男を殺してしまうという良くない噂がありましたから、彼はあっさりと拒絶しました。「いや、それならやめておきます。あなたは、淫楽に耽った後、相手の男を殺すと言われていますから。」これはアスタルテには身に覚えのないことで、自分を襲おうとした男達が、ボディーガード役の4体の怪物に殺されただけなのです。「はて、私は、夫の天使イスラフェル以外と寝たことはないけど、どう言うこと。」「あなたに懸想した男たちは、誰一人帰って来ません。だから皆食い殺されたと言われているのです。」アスタルテは、その誤解に怒りました。「私を無理やり我が物にしようとした男達が、そのフワワたちに殺されただけよ。人間たちはそんな噂を立てているの。愚かな。」ギルガメッシュは、間近にアスタルテを見ましたが、どうしても人間にしか見えなかったのです。「あなたは、本当に女神なのですか。長老達に聞くと、彼等が生まれるずっと前からあなたはスメルを訪れていると言います。しかも、その容姿が全く変わっていないと。ですから、「天の貴婦人」と呼ばれていると聞きました。でも、こうして間近で見ると、あなたは普通の美しい人間の女にしか見えません。本当はどうなのですか。」アスタルテは、正直に答えました。「私は人間よ。」「では、何故歳をとらないのですか。」「それは、神の気紛れね。確かに私は不老不死だわ。」「それで、人間と言えるのでしょうか。」彼には、そんな人間がいるとは思えませんでした。「それでも私は人間よ。でも、人間の世界に暮らしてはいない。私は、天使の街マガダで暮らしている。夫は天使イスラフェル。彼は、空を飛ぶこともできるし、あなたがいくら強くても所詮は人間。天使には敵わない。妻の私は、不老不死だけど人間よ。」「嘘だ。不老不死の人間なぞいるわけはない。」ギルガメッシュには、どうしてもアスタルテが不老不死とは信じられなかったのです。「嘘じゃないわ。あなたでも、天使の街マガダに居続ける限りは不老不死が得られるのよ。でも、一歩でも外に出たら、それまでの年月が一挙に襲いかかるの。」アスタルテは、平気で外に出ているので、矛盾します。「では、あなたは何故平気なのですか。」「さっきも言ったけど、これは神の気紛れなの。私には、いや私と極一部の人間だけには老いがないの。私は、はるか昔にあった王国レムリアの王女だった。ギズ・ジダは当時のスメル王よ。そして彼の妃は、私の義妹ウズメだったわ。でも、偉大な父ミトラス王も母トゥーラ王妃も、兄弟姉妹たちも皆死んでしまった。そして、理想の王国といわれたレムリアも滅び去った。私一人だけが生き続けているのよ。」ギルガメッシュは、自分もマガダに行けば不老不死になれるかもしれないと思った。「私も、天使の街に行けば不老不死になれるのか。」アスタルテが大きな声で笑ったので、馬鹿にされたようでギルガメッシュは腹が立ちました。「なれるわよ。でも、そんなことして何になるの。」「不老不死は人間の夢、理想ではないのか。」スメルの英雄ギルガメッシュには、残された夢は、不老不死ぐらいしかなかったのです。「違うわ。人間は死すべきものよ。そして魂は転生を繰り返す。新しい肉体で何度もやり直せるのよ。これは素晴らしいことよ。」ギルガメッシュには、彼女の言葉が理解できませんでした。「一つの肉体で生き続ける方がよいのではないですか。」「ううん、違うわ。人間肉体にも魂にも限界がある。たとえ何千年生き続けても、できないことはできないの。全てを忘れ、新しい肉体でやり直した方が、むしろ楽なのよ。」それは、彼女が不老不死だからこそ言えることではないのかとギルガメッシュは考えました。「あなたには、老いと死に対する恐怖がない。だからこそ言えることではないのですか。」アスタルテは、また大きな声で笑いました。ギルガメッシュは、同年輩いやむしろ自分よりも若く見える彼女に再び笑われて怒りが込み上げて来たので、彼女に飛びかかって押し倒しました。フワワは彼を殺そうとしましたが、アスタルテは制止しました。「怒ったの。何故怒ったの。私をどうしたいの。」「わからない。」これは、ギルガメッシュの正直な感覚でした。「私を抱いてみたくなったの。」「あなたを見れば、誰だってそう思うだろう。」そう答えたものの、彼には欲望はありませんでした。「私が、何千歳のおばあさんでも。」「そうは見えない。」「見かけなんてどうにでもなるわ。」「あなたが、こんなところで一人でいるからだ。誘っているのではないのか。」言うことが見つからなかったのでそう答えると、アスタルテは悲しそうな顔をしました。「人間の男って皆そんな風に考えるのね。やっぱり私の夫は天使のイスラフェルしかいないのね。」悲しそうに微笑んだアスタルテに、彼は完全に欲望が失せたので彼女の上から飛びのいた。「わからなくなった。人間は、不老不死を願うものではないのか。あなたのような美女を見れば、思いを遂げたくなるものではないのか。」アスタルテは、起き上がるとギルガメッシュを優しい目で見詰めました。「不老不死を願う生き物には、セックスは必要ないわ。全ての執着を捨てねば、心の方が不老不死には耐えられないのよ。」「本当にそうなのか。」ギルガメッシュは、アスタルテの言葉を信じる気になっていました。「人間で私のような運命を持った者が他にもいるわ。興味があるなら会ってみたらどうかしら。」半信半疑で、彼は聞き返しました。「本当か。本当にいるなら、どこにいるのか教えてくれ。もしかしたら、私も不老不死を手に入れることができるのかもしれぬ。」まだこだわっているので、アスタルテは笑いました。「何のための不老不死なの。」「私は、王の栄光を、永遠にこの手にしていたいのだ。」「あなたの周囲の人が、全て老いて、死んで行くのよ。あなたは一人だけ残される。それでも栄光なの。人々は新しい肉体を得、また新しい人生を送るのよ。それをあなたは永遠に見守っていけるの。確かにあなたの妃ニン・ウルクは美しいわ。今は私よりも美しいかも知れないわ。でも、どんなに美しくてもそれは一時のもの。一時のために人間は美しく輝く。それが素晴らしいの。永遠に輝くことは絶対に不可能なのよ。人間ならば、誰にも老いは訪れるのよ。考えるなら、美しく老いることね。」それでも、アスタルテはどう見ても20代後半の美しさを保っていた。「あなたは、十分に美しいではないか。」「私の美しさは、ともに永遠を生きる夫イスラフェルのためのもの。私自身には空しいものよ。だからこんな風に世界を巡っているの。」ギルガメッシュは、彼女の夫が何故彼女を自由にしておくのか疑問だった。自分は妃を絶対人に渡したくはないし、彼女を守るために王宮から外に出すことすら滅多になかった。「あなたの夫は、何故あなたを野放しにしておくのだ。私なら手元から放しはしないものを。」アスタルテは、また大きな高い声で笑った。「あなたは、自分の妃を囲っているだけよ。ライオンがハーレムを作って雌を確保しているのと変わりはないわ。」「人間とは、男とはそんなものではないか。」その言葉には彼女もうなずきました。「そうね。私の父、偉大なる王ミトラスは、天使の一人と私の母トゥーラをかけて戦った。そして、自分も結局は動物と同じだと悟ったと教えてくれたわ。」「それが当然だろう。」ギルガメッシュも、もし同じ立場なら、相手が天使だろうが悪魔だろうが、戦うに違いないと考えました。「でもね、永遠に近い時を過ごすと考えたらどう。お互いを束縛しあっていたら息が詰まるわ。」「では、あなたは夫を愛してはいないのか。」ギルガメッシュは、もし彼女が愛していないと答えたら、彼女を犯すつもりでした。「愛しているわ。私が愛することができるのは彼だけよ。」逆はどうなのだ。彼女の夫は彼女を愛しているのか。疑問に思ってギルガメッシュは聞いた。「その夫は、あなたを愛しているのか。」「ええ。天使は裏切らないわ。彼は、永遠に私だけを愛し続ける。」「それが愛と言えるのか。一緒に居て、セックスして、結ばれているのが愛なのではないのか。」ギルガメッシュには、彼女の言う愛が理解できませんでした。「お互いを縛り合うのは永遠の愛じゃない。一時だけの愛。一時しかないからお互いを縛るのよ。永遠の愛は、お互いを尊敬し、守りながらも縛らないものよ。そう、心の、魂の愛よ。」ギルガメッシュは、彼女がセックスをしないのか確かめました。「では、あなたは夫に抱かれないのか。」アスタルテは、嬉しそうに微笑むとゆっくり首を振った。「いいえ、抱かれるわ。私が抱かれるのは彼だけ。こんな風に世界を巡ってマガダに帰ったら抱かれるの。彼に抱かれると私は宇宙と一つになれる。その時時間はないわ。全てが一つになるのよ。」セックスの最高の快感だろうなと思うと、彼は彼女が羨ましくなった。「あなたには子供はいないのか。」彼女はどう見ても母親のような感じは受けなかったので聞くと、彼女はフワワの方を向いてうなずいた。すると、フワワの触角が伸び、光った。「何をしたのです。」「息子と娘を呼んだのよ。」「どうやって呼んだのです。そして、何に乗って来るのです。」「呼んだのはフワワのテレパシー。そして天使には乗り物はいらない。瞬間的に世界中に移動できるのよ。」信じられないで居ると、彼の前に忽然と二人の男女が現れた。「お呼びですか、母上。」白い衣を着た彼女に似た若者が聞いたので、アスタルテはギルガメッシュを指差した。「この男はギルガメッシュ、スメルのウルクの王ですね。」何も言わないのにその若者が答えたので、ギルガメッシュは驚いた。「何故そこまで知っているのだ。」ギルガメッシュもアスタルテも一言も発していないので、その若者が何故知っているのか不思議でした。「この子がシャムシェル、私の息子。そして、こっちがレリエル、娘よ。」二人はほとんど同じ背格好でしたが、レリエルは黒い衣をまとっていました。「私達は、世界中の知識を持っています。あなたのことも知っていますよ。」彼に告げたレリエルは、アスタルテに似た大変な美女だったので、彼は心が動きました。すると、シャムシェルが彼に注意しました。「妹に対し、邪な心を抱くことは許さぬ。」心を読まれたギルガメッシュは怒り、シャムシェルに飛びかかったのですが、彼の腕は空しく空を切りました。振り返ると彼はアスタルテの隣に立っており、母に話しかけていた。「人間は乱暴ですね。少しこらしめてやりましょうか。」無視されて怒りに震えるギルガメッシュを尻目に、アスタルテはさらっと答えた。「あなたが手を出すまでもないわ。フワワ、少し遊んであげなさい。」触角をしまったフワワは、無雑作にギルガメッシュに近づくと、彼の左胸を蛙のような形の手の指先でちょんと触れた。「何を…。」叫ぼうとしたギルガメッシュは、その場に硬直し動くこともしゃべることもできなくなったのです。「まあ、長くとも半日もすれば動けるようになるでしょう。人間は小さな存在よ。あなたはその中では強いでしょうけど、本当のことを言えば、フワワだけでなく人間の私にも勝てはしないわ。まして天使には勝てないわ。今まで天使と戦うことができる力を持った人間は、私の父ミトラス、祖父スサノオ、弟であなたの前世のタケル、それから父の部下で世界最高の暗殺者と言われたクマノ・ヤタの4人だけよ。タケルはあなたの前世だけど、思い上がらないことね。」アスタルテたちは側に着陸していたヴィマーナ・トゥーラの方に歩いていこうとしたが、ふと思い出して振り返りました。「人間は死すべきものよ。そのことをもっと知りたければ、ずっと東のヒンダスのガヤに居るヴァルナと言う名の老人をたずねてごらんなさい。彼は、私よりもずっと年上の人間だから。」トゥーラが飛び去って1時間ぐらいたった頃、ようやく動けるようになったのでギルガメッシュは、這々の体でウルクに戻りました。
Oct 6, 2019
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ヤマトタケル編に続き、かなり省略されていたギルガメッシュ編も原文を掲載することにします。このお話、元はと言えばレムリア王国編からのスピンオフなのですが、神話で有名なギルガメッシュ王ではなく、レムリア編の主人公ミドことミチュエラ皇太子後のミトラス国王の娘でありながら不老不死の運命を持ったアスタルテ王女が主人公とも言えるお話になっています。とは言え、レムリア編の登場人物?には天使たちの他にも何人か不老不死の者がいまして、ギルガメッシュと妻のニン・ウルクの他にもレムリア時代から輪廻転生を繰り返してきた者が登場しますので、このお話を呼んで興味を覚えた方は、レムリア編もご覧ください。なお、レムリア本編は、書いた本人が、自分で書いたとは信じられないほどの長編ですので、お読みになる際は覚悟してくださいませ。アスタルテは、レムリア国王ミドことミトラス・カンヘル・アーリアンと、王妃のトゥーラことトゥリトゥーラ・ククルカン・シャンバラの長女、レムリアの第一王女として生まれました。しかし、彼女の夫となったのは、父ミドと天使アムルタートの間に生まれた異母兄と言うべき天使のイスラフェルだったのです。二人は、18歳までの間レムリアの人間の社会で育ちましたが、18歳になった時に天使の街マガダに移って結婚し、永遠の時間を共に過ごすことになりました。マガダは一種の異次元空間であり、そこに居続ける限りは人間であっても不老不死を保つことができましたから、元々不老不死の天使イスラフェルと人間であるアスタルテが、永遠に一緒に暮らすおとぎばなしのようなことが可能だったのです。しかし、人間の世界で18年間育った彼等には、その後の年月は余りにも長いものでした。 二人の父ミドは、彼等が人間の年齢で32歳の時に51歳で亡くなりました。 その時二人は、マガダを出て、レムリアの都パレンケで行われた父の葬儀に出席しました。 ミドは、自分の死後一切天使との関係を絶つように厳命し、天使の長アールマティーもそれに応ずることを約束していましたから、二人には最後となるべきレムリア訪問だったのです。 アスタルテは、天使と人間を結ぶ存在でしたから、父も、母も、兄弟たちもやがては死んで行く中自分だけが生き続けることに一抹の寂しさと疑問を感じていました。 ミドは、娘である彼女には、人間は限られた人生を転生によって繰り返して学びながら更に上の存在である意識体に昇華していくのが宿命であると説明していたのです。 その宿命には反しますが、彼女には、天使たちとともに、人間の歴史と転生を見守って行くように頼んだのです。 レムリアの都パレンケでの父の葬儀に出席したアスタルテとイスラフェルは、人間が全て老いて行くことを実感しました。 母のトゥーラ王妃、父の後を継いで女帝となったサクヤ王妃、その姉でやはり王妃のツィンツン、弟マルドゥーク、タケル、ニヌルタ、ラーフ、妹のウズメ、それから帰りに立ち寄ったヒンダスで会った、ヒンダス皇太子妃となっていた妹のニンリル、皆14年間分の歳を取ってそれなりに老いていたのです。 ところが、アスタルテ自身は全く変わっていませんでした。 すると、自分は本当に父ミドの娘なのか、本当に人間なのかと言う疑問が湧きました。 いくら異次元マガダに住んでいるとは言え、天使の長アールマティーは、18年前に当時は普通の人間の女だったチーチェンをマガダに迎える時、ここに居る間は不老不死だが一歩でも外に出ればそれまでの年月を一瞬にして背負うことになると説明したと言うのです。 しかし、自分はこの14年の間、ちょこちょこ外出していましたし、マガダの外に出ても全く変わったようには思えませんでした。 つまり、全く老化していないのです。 マガダに帰った彼女は、義母の天使アムルタートに詰め寄りました。 「私は、本当は誰の子なの。天使のイスラフェルやサハーラと同じで、マガダを出ても全く歳をとらないじゃないの。人間じゃないのでしょう。」 アムルタートは、顔色一つ変えずに答えました。 「あなたはミドとトゥーラの娘よ。あなたの母親トゥーラが浮気するはずがないでしょう。」 確かに、母トゥーラは、父を命を懸けて愛していたように思えますし、浮気は考えられませんでした。 「じゃあ、何故私は歳をとらないの。こんな人間がいるわけないじゃないの。」 実は彼女、父ミドが、今の夫であるイスラフェルの前身である天使クシャスラと、人間の命運を賭けて戦った時、クシャスラがミドに変身してトゥーラを犯して生ませた娘だったのです。 ただ、クシャスラは遺伝子段階から変身していましたから、ミドの子と言っても間違いではありません。 ただ一つだけ違いがあったのは、天使の遺伝子には寿命を限定する部分が欠損しており、根本的に不老不死だったことで、変身してもその根本までは変わらなかったため、アスタルテには、人間のような寿命がなかったのです。 そのため、アスタルテは、ミドの形質を受け継ぎながらも不老不死となったのです。 しかし、他の天使と違って、彼女は人間の女であるトゥーラから生まれていましたし、トゥーラ自身、彼女がクシャスラの子であることは知らず、アスタルテも母がクシャスラに犯されたことは知りませんでしたから、そのことに気付くはずはなかったのです。 しかし、父のミドだけは気付いており、死の前にアールマティーに頼んでいました。 「アスタルテは、本当は私に変身したクシャスラさんの子供なのでしょう。でも、本人にもトゥーラにも黙っておいてくださいね。」 アールマティーも、アスタルテはミドの子供と言っても間違いはありませんでしたから、秘密はばらさないことを約束しました。 永遠の少女天使アムルタートも、ミドとアールマティーとの約束を守って、アスタルテにはとぼけとおしました。 「あなたの父ミドは、天使の私達が惚れたぐらいの超人だったのよ。だから、たまたまあなたには、その能力が不老不死の形で受け継がれたのよ。」 そんな都合のよいことがあるものかと素直には信じられませんでしたが、アムルタートに「じゃあ父親は誰なのよ。あなたの容姿は、明らかにミドにも似ているし、母のトゥーラが浮気をするはずないでしょう。」と言われると反論しようがありませんでした。 確かに自分は他の兄妹たち同様、父ミド、母トゥーラに似た容姿でしたし、母は、本当に父一筋だったのですから。 そして、人間の中にもヴァルナやオオモノヌシのような、永遠の老人、永遠の若者もいると言われると、余計に反論できませんでした。 そして、アスタルテの永遠への挑戦が始まりました。 アスタルテは、マガダで暮らしている存在の中では、第一世代とでも言うべき、アールマティー、アムルタート、ヤシャ(アシャ)、サハーラ(ハルワタート)、アシューラ(ウォフ・マナフ)、夫イスラフェル(クシャスラ)、それからイュンの四神のゲンブ、ビャッコ、真の女神と言うべきセイシの肉体を得たスザク、そしてスザクの元の肉体を得て不老不死となったヤシャの妻で元は人間のチーチェン、四神の部下の十二神将を除くと、他の天使達は皆年下と言ってよい存在だったのです。 そのため、彼女は年下の第二世代以下の天使たちのボスのような存在となって、異質な存在である寂しさを放埓な行動で紛らわしていました。 天使たちと、人間であるアスタルテの一番大きな違いは、生理的なものから来ると思われる気分の振幅の大きさでした。 異次元空間であるマガダにいる間は、人間の女性につきものの生理的周期も現れないのですが、マガダから出て生理を迎え、そのまま戻ってくると、ずっとそれが続いてしまうのです。 この時の荒れ方は凄まじく、他の天使たちに当たり散らすだけでは飽き足らず、弟アシューラの試作した気象制御兵器を勝手に動かして世界中に大洪水を起こし、多くの人間の命を奪ったり、他の天使に迫ってみたり、とんでもないことを繰り返したので、皆呆れていました。 不思議なもので、この放埓な行動は、夫イスラフェルとともにマガダから出て2年間暮らした時に、双子の男女の天使、シャムシェルとレリエルを授かると嘘のようにおさまりました。 しかし、やはり人間であることが寂しかったのか、母トゥーラ、サクヤ、ツィンツン、そして兄弟姉妹たちも皆死んでしまった後は、時々こっそりレムリアやヒンダス、スメルなどに出かけて一人でぼーっと過ごしていることも多くなりました。 彼女は、不老不死でしたが、他の天使のようなテレポート能力は持っていませんでしたから、ヒンダス出身で母トゥーラと同じくレムリア王妃であったツィンツンが、天空の女神アーディティーの血により受け継いだ、大いなる神々の遺産である空飛ぶ戦艦ヴィマーナ・ウシャスのレプリカを弟のアシューラに作ってもらって、母の名前をとってヴィマーナ・トゥーラと名付け、愛用していました。 そして彼女は、時々訪れる人間世界では、空を飛んでくることとその不変の美貌から「天の貴婦人」と呼ばれていたのです。 夫イスラフェルを始めとした天使たちは、一人で出歩く彼女を心配し、護衛のためにシユウ、フワワ、ニドヘグ、ヴリトラの4体の怪物を作って付き従わせていました。 時として荒野で一人で眠る彼女に、その美しさゆえ襲いかかって思いを遂げようとする男達もいましたが、4体の怪物たちは容赦なく鉄槌を振るい、アスタルテを襲おうとした男たちを、誰一人生きて帰すことはありませんでした。 そのために彼女は、「天の貴婦人」とともに、「残忍で淫蕩な女神」とも呼ばれることになってしまいました。 彼女の行動自体は、義母ツィンツンが、父ミドの死後、ヴィマーナ・ウシャスで世界を巡ったのと似ていました。 夫ミドが死ぬ時、無敵の戦艦ヴィマーナ・ウシャスの主人である彼女にだけは、気に入った相手が居れば再婚すればよいと勧めていたのですが、結局ミド以外の人間と再婚する気は愚か抱かれる気にもなりませんでしたから、彼女は世界中の英雄たちの良き友人、良き理解者として余生を送り、最後は故郷インドラに戻って、ヒンダス王妃となった娘ニンリルに看取られてひっそりとこの世を去ったのです。 主人を失ったヴィマーナ・ウシャスは、自らの意志でヒンダス北部の山村クジャラートにあったシェルターに戻り、再び主人となる人間が現れるまでの長い眠りについたままでしたが、天使アシューラは、太古の天空の女神アーディティーの遺産と言われるそのシェルターとウシャスを研究し、姉である彼女のためにレプリカを作ったのです。 しかし、天使の持つ超越的な科学力を持ってしても、宇宙から来たと言われる神ミケーラが、妻ウシャスの心をコピーしたと言われるヴィマーナ・ウシャスの複雑怪奇な感情思考回路を純粋に機械で再現することだけはできませんでした。 その代わりにアシューラは、脳細胞に似た働きをする細胞を創造して機械の代用とし、生きた機械を作りあげたのです。 彼女の護衛役の4体の怪物たちにも同種の細胞が使われていましたが、大きさの制約とアシューラの妻ビャッコの機能デザインにより、個性的な反面知能的にはかなり劣るものになっていました。 その点、アスタルテが母の名を付けたヴィマーナ・トゥーラの思考回路は、本当に超越的なものであり、最初は幼児程度からスタートしたものの、学習能力を発揮して製作者のアシューラに匹敵する思考能力にまで進化していました。 これには製作に当たったアシューラ夫妻も驚いたのですが、もっと驚くべきは使用者となったアスタルテの教育で、母の面影を求め、彼女の言動や感情の表現方法の模倣まで要求したため、モデルとなったヴィマーナ・ウシャスのように、大変人間的な、奇妙な自律思考機械ができあがりました。 何しろその日の気分まで思考に反映させるのですから、アスタルテ自身の激しい性格と衝突して、親子喧嘩を再現しているようなこともありました。 夫イスラフェルやアシューラ夫妻は、そんな彼女とヴィマーナ・トゥーラのやりとりを、呆れながらも微笑ましく見守っていました。主人公が登場しないうちに続く。画像は、すっかり猫集団に溶け込んだカメ一郎とカメ四郎、トメコです。です。
Oct 5, 2019
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このところ不調で、病院を受診して血液検査やら超音波検査までしたのですが、結局原因不明。異常に発汗したりするのは男性の更年期障害の疑いもあると言われたものの、症状を見ると全然当てはまらまいし、よくわかりませんから、気にしないことにしました。さて、続きです。翌朝、ミズヤはミヤになりかわってオワリに留まり、イソタケルは、彼女にイセの巫女である姉のカグヤからもらった剣を、形見にと与えました。ヤマトに向かって出発した一行は、海を渡ってからゆっくり進み、イブキの近くにさしかかった時、アサヒコは、イソタケルの髪と彼が父のハヤミ国王から与えられた剣を所望しました。イソタケルがその剣を抜いて自分の髪を切り、剣とともに渡すと、彼はそれをイブキのヤマノカミの首領イノカミの元に持参し、東国への遠征時に渡海する船中で、イソタケルが伴ってきたオトタチバナ姫が、夫の身代わりとなってサイ王妃とミナカタ大臣の手の者に暗殺されたこと、イソタケルも、侍女のミズヤとともに昨夜暗殺されたので、暗殺者は自分が殺したと話しました。そして、自分はイソタケル亡き今ヤマトには帰りたくないので、イソタケルの形見を差し上げるから、あなたの手柄とされたいと申し出たのです。イノカミは、ミナカタから、イソタケル王子は、弟ハツセノミコを殺した上父のハヤミ国王をも亡き者にして国を乗っ取ろうとしている悪人である。それでも剛勇無双であるから、アサヒコと協力して暗殺して欲しいと持ちかけられていたのでした。しかし、正義漢であったイノカミは、豪遊無双との評判を聞いていたイソタケルがそのようなことをするとは思えませんでしたし、エミシとニギハヤヒの勇者たちと戦ってツクバまで進軍したのですから、彼の武勇は本物だと感心していたところだったのです。アサヒコから真相を聞いたイノカミは、まず、ヤマト一の勇者を亡くしたことを嘆き悲しみました。そして、サイ王妃とミナカタ大臣の仕打ちに激怒し、イブキの山の麓にある居館に残されたイソタケルの部下たちを迎えると、彼らに呼びかけたのです。「英雄イソタケルを亡き者にしたサイ王妃とミナカタ大臣を許しておいてよいのか。今こそ主人の敵を討ち、ヤマトの正義を示す時だ。わが軍とともに、王妃と大臣を討とう。」彼の呼びかけに、イソタケルの軍勢も意気を高めて賛同しましたから、彼らを無事ヤマトに帰すことができそうだと、隠れて様子を見ていたイソタケルとミヤは喜びました。そしてイノカミは、軍を結集して秘密裏にかつ駆け足休まずに行軍を続けてヤマトに向かい、アサヒコに国王と極秘の面会を手配させました。ハヤミ国王は、イブキの地で、独立した勢力を保っていたイノカミが、息子が連れて行ったはずの軍を引き連れてヤマトまでやってきたことにまず驚いていました。そして、イノカミから、イソタケルの遺髪と彼が息子に与えた剣を渡され、まずオトタチバナが、それからイソタケルと侍女のミズヤがサイ王妃とミナカタ大臣の手の者に殺されたことを知らされ、イソタケルの部下たちから、オトタチバナがサイ王妃の命を受けたワニに殺されたという証言も聞かされました。そして、イノカミから、ヤマト一の勇者を亡き者にしたサイ王妃とミナカタ大臣に、わが軍とイソタケルが残した軍で、仇を打ちたいとの申し出を受けると、ハヤミ国王も息子を不憫に思い、二人を討つことに同意しました。そこでイノカミの軍勢は、休むことなくハヤミ国王の軍勢を加えてサイ王妃とミナカタ大臣の元を急襲しました。陰謀が露見したサイ王妃とミナカタ大臣は、イノカミとハヤミ国王の軍勢に囲まれるや、館に火を放って自害したのでした。 アサヒコは、自分はサイ王妃の従兄弟であり、彼女とミナカタ大臣の陰謀に加担した罪があり、イソタケルのいないヤマトには留まりたくないからどこかに追放してくれと国王に申し出ました。ハヤミ国王は、追放はしないが、彼が自由にどこかに行くことには同意しましたから、イノカミが、自分の力の及ぶタンゴのカヤに彼を送り届け、不自由なく暮らせるように手配してくれました。その際、イブキのイノカミの本拠に留まっていたイソタケルとミヤが、彼の身の回りの世話をする下人の夫婦として、質素な身なりで同行したのです。 ミズヤも、イソタケルとともに襲われて死んだことになっていましたから、オワリに残ってミヤに成り代わったミズヤには、ミヤの髪の毛と、彼女がオワリから持っていった品々が届けられていました。オワリノカミは、娘から、何かあればミズヤを自分の代わりにするように言われて戸惑っていましたが、事情を察して、対外的にはイソタケルと侍女が殺されたと発表し、二人の遺髪を葬った墓をオワリに築きました。ミヤのもくろみどおりミズヤはミヤによく似ていましたし、彼女はミヤから全てを託されて、いろいろなことを教え込まれていましたから、オワリノカミは、彼女をミヤとして後継者に迎えることにしました。しかし、オワリノカミは、ミヤとミズヤの呼び名を間違えて、彼女をミヤズと呼ぶことが多くなり、何時しかミヤではなくミヤズが本名のようになってしまいました。そして、ミヤズになったミズヤは、オワリ一の豪族の息子を夫にしてオワリノカミの後を継いだのです。 ヤマトに残っていたイソタケルの第一妃で、オトヒメの姉のエヒメと二人の王子は、偽りの真相を聞いた後オワリを訪れ、その墓を見て涙を流して嘆き悲しみましたが、ハヤミ国王は、イソタケルの息子である弟王子の孫のミトシを皇太子に指名しました。 続く。画像は、今庭に咲いている秋の花です。シュウメイギク、ヒヨドリソウ、お茶、コスモス、そしてヒガンバナです。
Oct 3, 2019
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10月になったのに、30度近い暑さです。それでも那須は、夜冷えますから快適にはなってきました。さて、続きです。イソタケルがアサヒコに相談すると、彼は、素直に自分がサイとミナカタからイソタケルを監視して報告するよう命じられていたことを白状しました。しかし、ワニが彼を暗殺することは聞いていませんでしたし、彼自身惚れていたオトタチバナが殺されてしまったことには強い衝撃を受け、その後はイソタケルに仕えることを誓っていたのです。そして、ミヤの予想どおりこのまま帰ると、同盟軍のはずのイブキのイノカミの軍勢が襲ってくることになっていることを教えました。そこで、イソタケルはほとほとヤマトが嫌になったので、自分は何者かの襲撃にあって死んだことにして消えることにすると打ち明けると、アサヒコはイブキまで軍を進め、そこで彼が死んだことにすれば、イノカミの顔も立つから、うまく収まるように手配すると申し出ました。 イソタケルがアサヒコと話し合っていた時、ミヤは、夫にどこまでもついていく決心を固めていましたから、遠縁で美女ながらイソタケルと自分の侍女を務めていたミズヤを、寝所に呼びました。「どうされたのですか、ミヤさま。」何事かといぶかるミズヤに、ミヤは単刀直入に命じました。「私は死んだことにして消えるから、ミズヤは、私になってオワリに残って、父に仕えてちょうだい。」本当に死ぬかのような恐ろしい命令だったので、ミズヤは恐れてその場に伏しました。「そのような恐ろしい命令は、たとえミヤさまのお命じになったことでも、お父上のオワリノカミさまのお許しがなくては聞けませぬ。」まあ、そんなものだろうなと思いながら、ミヤは彼女をからかいました。「じゃあ、イソタケルさまの命令ならどうかしら。」ミズヤは更に困って畏まり、頭を床に擦り付けて懇願しました。「困ります。いじめないでくださいませ。」「いじめるつもりはないのよ。そう、もう一つ一緒に頼むわ。」とても聞くことができないような命令に、更に付け加えられてはたまらないと、ミズヤは必死に拒否しました。「私は、今ミヤさまのお命じになったことを承っておりませぬ。それ以上に承ることはとてもできませぬ。」真面目な彼女らしいなと思いながら、ミヤは更に恐ろしいことを命じた。「もう一つの命令はね。」何だろうと顔を上げたミズヤの耳元にミヤはかがんでささやいた。「今夜イソタケルさまに抱かれなさい。」ミズヤはミヤより1歳年下の16歳であり、自分にとてもよく似た美女でありながら、まだ許嫁も恋人もいない処女でしたから、夫に抱かせてしまえば逆らえなくなると、残酷なことを考えたのです。「それもお許しください。」ミズヤは、イソタケルなら抱かれてもいいかなと内心は思いましたが、喜んで受け入れるわけにはいきませんから、更に畏まって額を床にこすりつけました。「あなたが聞いてくれないなら、それでもいいわ。私が夫に頼んで無理矢理犯させるから。」ついあらぬ想像をしてしまったミズヤは、悲鳴をあげました。「ああっ、そんな恐ろしいことを。許してくださいませ。」これは面白いと、ミヤは彼女を後ろから抱きしめ、まさか女のミヤに抱きしめられるとは思ってもいなかったため、呆然として声も出せずにいた彼女を押し倒して腰ひもを解き、手足をしばって、猿ぐつわをかませたのです。縛られてからはっと気付いてもがいたものの、声も出せず、動くこともできないので、ミズヤは涙を流して抗議しました。「うふふ、可愛いわ。そんなあなたを見たら、イソタケルさまも喜んで抱いてくれるわ。」そんな、ひどい,と思いながらも、ミズヤはイソタケルに犯されることを想像すると、感じてしまいました。「うう。」もがいていると、ミヤは彼女を更にいじめたくなったので、衣の袷から手を突っ込んでミズヤの豊かな乳房をもみしだくと、絶叫したものの声にならず、されるがままになってしまった彼女が失神するまで執拗に全身を愛撫しました。 ミズヤを失神させたところで、よしよし、これで準備は整ったから、後は、夫に無理を言ってでも抱かせてしまおうと考えたミヤ、ミズヤにいたずらしているうちに自分も何時になく興奮してしまったので、まずは自分から迫ってイソタケルに抱かれることにしました。ミズヤをいたずらした時に感じた少し後ろめたい快感からか、何時になく乱れたミヤに満足したイソタケルに、ミヤは面白いことをしましょうともちかけて目隠しすると、隣の部屋に縛ったままにしておいたミズヤを裸にして押しつけたのです。ミズヤは、縛られ、裸にされて犯される異常な状況に逆に興奮していて、ミヤにいたずらされたときからおぞましい快感が続いていた上に、隣の部屋の二人の嬌態を感じていましたから、更に快感をかき立てられ、自らイソタケルを受け入れたのです。ミヤと思って抱いたものの、なんだか先ほどとは感じが違うので変だなあと思っていたイソタケル、終わって目隠しを外されたらミズヤだったので驚きました。 しかし、自分と一緒に消える計画を立てたミヤが考えていることは察せられましたから、ミズヤに優しく確かめました。「そなたが、ミヤとしてオワリに残ってもらえぬか。」密かに憧れていたイソタケルに抱かれた上で頼まれたのですから、ミズヤは逆らえませんでした。「イソタケルさまのご命令なら、ミズヤ、喜んで承ります。」ミヤは、苦笑しながらミズヤに確かめた。「男の人に抱かれるのもよいものでしょう。」ミズヤ、ミヤがイソタケルに抱かれて乱れるさまを隣の部屋で感じていたので、彼に犯される前から快感に我を忘れていたのでした。「はい。でも、私は連れて行っていただけないのですね。」ミズヤ、折角抱かれたイソタケルと別れないといけないことは、とても辛く思えました。「私とミヤは、死ぬためにヤマトに向かうのだ。そのためにミヤは、そなたに頼んだのだ。」それは悲しいと思っていると、ミヤも付け加えました。「そうなのよ。だから、うまく行ってミズヤにイソタケルさまの子供ができれば幸いだし、そうでなくても、私の代わりにミヤになれば、あなたはオワリの後継者でイソタケルさまの妃という箔も付きますから、オワリ周辺の豪族の男なら、喜んで求婚するわ。いい男選んで結婚してオワリの後を継いでちょうだい。」「そううまく行くものだろうか。」イソタケルは半信半疑でしたが、ミヤは笑っていました。「あなたは余り知らないかも知れないけど、私には兄弟も姉妹もいないから、オワリじゃ私が父の後継者なのよ。しかも、ヤマト皇太子のあなたの妻ですからね、あなたが死んでも、元皇太子妃の箔も付くの。再婚でも、そんな女と結婚できるのは、オワリの男にとっては、名誉なことだし、父の後継者の座も約束されるから、凄くいい条件なのよ。」イソタケルもそのことは理解していましたが、果たしてすんなりと入れ替われるのか、そちらの方が心配だったのです。「いや、ミヤとミズヤがそう簡単にすり替われるかの方が、私は心配なのだ。」その問題に関しては、二人の方が楽観的でした。「そりゃ大丈夫よ。スルガまで一緒に行ったヤマト軍の人たちを除くと私の顔知ってる人少ないし、ミズヤは、遠縁だからか私に似てるし、むしろ私よりも美人なのよ。ミヤじゃないことがわかるのは、私とミズヤの両親ぐらいのものよ。」ミズヤも、そのことは十分理解していました。「そうなのです。ミヤさまはオワリの後継者ですが、女性ですから人前に余り出ておられませぬ。顔を知っている人はとても少ないのですわ。私も、早くからオワリの家に入っていますし、私の家族も、私が死んだことにしてミヤさまになってしまえば、おそらく顔を見る機会はありません。すり替わるのは簡単なのですわ。」イソタケルは、妻の計画を理解すると、再度ミズヤに頼みました。「それでは、ミヤになってくれ。」ミズヤは、最初で最後と思って、大胆なお願いをすることにしました。「承りました。でも、最後に一つだけ私の頼みを聞いていただけますか。」「何なりと申してみろ。」「もう一度、抱いてくださいませ。」一瞬ミヤの顔を見てしまったイソタケルでしたが、彼女が笑って許したので応じることにしました。「わかった。今度は、ミヤの見ていないところで抱こう。」 続く。画像は、へそ天で寝ているカメ一郎です。生まれた時から我が家に居る猫は、安心していますから、こんな姿が見られます。
Oct 2, 2019
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4日連続半日寝込んだような状態が続きましたが、ようやく脱水症状が改善されてきました。年は取りたくないもの、なんて言っていられませんから、自分の状態を正確にとらえて対処することなのでしょう。私、心身ともに大変鈍感なところがあり、43度の高熱が3日続いても平気だったり、逆に34度まで体温が下がって脈もとれないほどになっても、割と普通で居たりして、医師から、「普通なら脳死になっても不思議はない状態なのに、ちゃんと受け答えができるのが不思議だ。」と言わせたりしたのですが、流石に今おなじことになったら命が危ないでしょう。さて、続きです。ミヤ、エタチバナの件がようやく理解できたので、夫とオトタチバナとの関係がどうだったのかを確かめることにしました。「オトタチバナさまとは、普通に結婚された夫婦だったのですか。」「タチバナ家の姉妹と私たち兄弟は、幼馴染のような関係だったのだ。それで、良家の話し合いで、許嫁となって結婚したから、普通に結婚したと言えばそのとおりだろう。」よくある話なので、納得したミヤだったが、オトタチバナのためにと彼女を東征に伴った理由がわかりませんでした。「亡くなったオトタチバナ様のために、彼女を東征にともなってきたということでしたね。彼女はあなたのお妃さまだったのですよね。わけありのエタチバナさまと違って、彼女とはうまく行っていたのですよね。」話を戻すと、イソタケルは首を傾げた。「そうだなあ。うまく行っていたと言えば行っていたのだが、姉も私の妃になってから、少しぎくしゃくしだしたのも事実だ。その上、彼女も事件に巻き込まれることになってしまった。」イソタケルは更に恐るべき事を話し始めました。「サイは、私がヒュウガに行けば殺されると踏んでいたのだろうが、無事ヒュウガから戻ってきた上、クマ討伐の殊勲者になり、皇太子としての立場を確固たるものとしてしまったので、今度は自分が殺されるのではないかと邪推した。そこで、軍事大臣のミナカタを篭絡して、私を殺させようとしたのだ。ところが、オトタチバナが、サイとミナカタの密談を聞いてしまったのだ。だから、ことを穏便にしたままで彼女を守るために、私は姉のエタチバナと二人の王子たちとともに、オトタチバナをクマに連れて行こうと考えたのだが、思いがけず東国遠征の大将にされてしまったので、オトタチバナだけを同行させることにしたのだ。私を東国征伐に出すようにすすめたのも、サイとミナカタなのだ。」「サイ王妃様は、もしかしたら、あなたがいない間にオトタチバナさまを暗殺する積りだったのでしょうか。」ミヤは、今までの話しから、あり得そうなことと思えたので聞いてみました。「おそらくその計画だったろう。だから、私は彼女を連れて出た。しかし、彼女は殺されてしまったのだ。」オトタチバナは病死したと聞いていたので、イソタケルの言葉は衝撃だった。「えっ、オワリに渡る船中で、病気で亡くなられたのではなかったのですか。」「違ったのだ。同行していたミナカタの部下のワニが、私を暗殺しようとしたのだ。しかし、彼女が彼の刃を私の身代わりに受けて死んだのだ。」怒れば超人的な武勇を発揮する彼のことですから、そのワニを八つ裂きにしたであろうことは知れました。「それで、あなたは犯人のワニを殺してしまったのですね。」「ああ。私は怒ると自分でも信じられないような力を出す。ワニは剣の名人だったが、私が素手でその剣を受け、ねじまげた上に手足を引きちぎったのだから、全て白状した。私は、ワニに全てを話させた後、彼の首をねじ切って殺した。」「誰かそのことを見ていた証人はいないの。」証人がいれば、国王に訴え出られるとミヤは考えました。「今回は、見せしめを兼ねて、軍の上官全員の前で処刑してやったから、皆証人になるだろう。しかし、空しいものだ。私は、守るために連れて行ったオトタチバナ一人守れなかったのだから。」確かに、その後彼は腑抜けになっていて、それで父のオワリノカミが反逆しようかと考えたぐらいだったのですが、ミヤは、自分も同じ状況になれば彼のために命を投げ出すであろうし、逆に彼のために死ぬことができたオトタチバナは、そのことを誇りに思ったであろうと考えました。「いいえ、オトタチバナさまは、イソタケルさまのためにご自身の命を投げ出されたのです。誇りに思われたでしょう。」イソタケルも、そのとおりだと思っていました。「確かにそうだろう。彼女最後に私の手を握って、「あなたのためにこの命を役立てることができました。幸せでした。」と言ってくれた。」イソタケルが涙を落としたので、ミヤもつい涙が出てきましたが、問題が解決したわけではないので、気を引き締めて更に確かめました。「イソタケルさまは、私のことが大切ですか。」ヤマトに残してきたエタチバナは、妹よりも美女であったが、元は弟ハツセの妃であり、彼の子供がお腹にいるにもかかわらず、国王命で、妹とともにイツセの妃にされた当初は、夫を殺した彼を恨んでいました。しかし、事情を知ると、憐みのような情から彼に尽くすようになり、子供ももうけることになったのですが、どこか醒めたところがある彼女でしたから、イソタケルも心底愛することができなかったのです。最愛の妃だったオトタチバナの手前、彼女も大切にはしていたのですが。そのオトタチバナ亡き今、彼の生きがいはミヤ一人であることは偽らざる気持ちで、そのために強引に敵の領地を縦断して圧倒し、手早く講話を結んできたようなものでした。「今は、お前が一番の生きがいだ。」イソタケルが正直に答えると、ミヤは素直に喜びました。「そう言っていただけて、うれしい。でも、私との幸せを望むなら、オトタチバナさまが殺されたことの証人となる者を父上の元に遣わしてくださいませ。それでなければ、サイ様はまたあなたを殺そうとされるでしょうし、エタチバナさまと私が狙われることになるかも知れません。」ミヤの申し出はもっともなものでしたが、イソタケルはそれにも問題があることを見抜いていました。「しかし、その証人が無事に父上の下にたどりつけるだろうか。そちらの方が難しい気はする。」確かにそのとおりであることは、賢明なミヤは理解できましたが、それ以外の対抗措置は考えつきませんでした。「それでは、あなたはどうすればよいとお考えです。いや、どうしたいと。」イソタケルは、予てから考えていたことをミヤに打ち明けました。「私は、殺されたことにして消えてなくなるのだ。お前もついてくるなら一緒にだ。」今や、押しも押されぬヤマトの皇太子なのに、夫は何を考えているのか、と一瞬呆れたミヤでしたが、よく考えてみると、たとえ血のつながりは無いとは言え、亡き弟の恋人だった義母を自ら手にかけるよりは、むしろ自分がどこかに消えてしまうことを選ぶ彼の気持ちも理解できました。「どこに行かれるのです。私は、どこまでもご一緒したいと思いますが。」イソタケルは、ミヤの答えに微笑みました。「ミヤにそう言ってもらえて嬉しいな。しかし、今の私の軍勢の上官の恐らく半分ぐらいの者には、母サイとミナカタの息がかかっているだろう。私は東国遠征の殊勲者ともなっているから、このままヤマトにすんなり戻れるとは思えない。途中で必ず襲われるはずだ。私の暗殺に失敗し、ワニとオトタチバナが死んだことは、既に母上とミナカタには伝わっているはずだからな。私が無事に帰れば、二人は身の破滅なのだ。」「それならば、敵も巻き込んで一芝居打って、私と一緒に消えることにしませんか。」ミヤは、機転を利かせて持ちかけました。「そうできれば、言うことはないが。」イソタケルも、ミヤだけはついてきて欲しかったのです。「あなたは、自分の腹心の中で一番信頼しているのは誰ですか。」「アサヒコだが、彼はサイの従兄弟だ。」アサヒコは、若いながらも有能な将軍であり、今回の遠征でも彼の機転には救われることが多かったから最も信用はしていたのですが、義母サイの従兄弟であり、彼女から何らかの密命を帯びている可能性も高かったのです。「では、彼に私とともに消えようと思っていると打ち明けて見るのです。もし、アサヒコ様が裏切り者なら、悩むでしょうし、本当にあなたの腹心として仕えてくれるつもりなら、止めようとするか、あなたに同調するか、態度が分かれるでしょう。ですから、止めようとするなら、彼とともに軍勢ごとヤマトに帰し、自分は死んだことにしてしまうのです。」「どうやって私が死んだことにするのだ。」イソタケル、それが問題だと考えていました。「それは、オワリの軍勢に命じ、正体不明の敵に襲われる場面を作ります。」ミヤは、いざとなったら父に泣きついてでも偽装させる覚悟でした。「なるほどな。では、アサヒコが裏切り者だったら。」「恐らく、イブキあたりでヤマトのミナカタさまから命ぜられたイノカミの一派が襲撃してくるでしょうから、その直前にそろそろ襲ってくる頃だから、私は敵と話し合ってくると彼に打ち明けるのです。それで彼がどうでるかで考えればよいでしょう。思い直してくれるなら、その敵とうまく和睦してから、ヤマトに帰りたい者だけ帰し、自分たちは襲われて死んだことにしてしまうのです。」「もし、皆一緒に行くと言い出したらどうする。」ヤマトの軍勢一同、サイ王妃とミナカタ大臣の陰謀を知ってしまったわけですから、たとえ彼らの一派だったとしても、二人が健在なら次は真相を知る自分たちが危なくなってしまいます。しかも、ツクバまで一緒に進軍した仲間なのですから、寝返って自分に同調する可能性の方が高いと思われました。「そうなったら、やはりあなたには死んだことになってもらって、あなたが白鳥に姿を変えて飛び去ったので、皆それを追いかけて行ったことにします。」「死者の魂を追って行ったことにするのだな。」死者の魂は、空を飛ぶ鳥になってトコヨノクニに旅立って行くと言う信仰があり、東国のニギハヤヒ及びエミシの間では、白鳥は死者の魂をトコヨノクニに連れて行くために渡ってきて帰っていくと言われていたので、ミヤはそれを利用しようと考えたのです。イソタケルは、ミヤの機転に感心しながら、彼女を抱きしめました。「どうも、一番後の方法を取ることになりそうだが、そうなったらどこに消えることにしようかな。」ミヤは、ヤマトに加担しながらもニギハヤヒ一派とも密かに親交のある父から、ニギハヤヒの首領オオヒコが、夫のことを大変気に入って、ヤマトにもまともな王子がいたと評価していることを聞いていました。「あなたのことは、戦いぶりからニギハヤヒの首領のオオヒコが大層気に入ったと聞いています。むしろ彼を頼ってみては如何でしょう。お父上のハヤミ国王も、あなたが死んだとあっては、ニギハヤヒに直ぐには手を出せないでしょうから。」イソタケル、それは名案だと感心しました。「それはよい。イセの姉上を頼る手もあるが、ヤマト、オワリの双方から近過ぎて正体を隠しにくくなるだろうしな。ヤマトを横切ってクマソのヒュウガまで行くのも大変な冒険だしな。」しかしミヤは、海路が使えるので、それも一つの選択肢であると認めました。「ヒュウガなら、いざとなれば、海づたいに行く手はありますね。」「それは、アサヒコに相談してからに考えることにしよう。」続く。画像は、すっかり我が家の猫軍団に溶け込んだ、カメ、トメコ、カメ一郎です。カメ四郎は他の猫たちとどこかに隠れています。
Sep 30, 2019
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脱水症で不調だったうえ仕事は立て込んでいて多忙でしたので、ブログはしばらくお休みしていました。さて、続きです。イソタケル、ミヤには真実を全て話すことにしました。「父も母も、何故私が弟を殺したか、理解していないのだ。」「何故、強いあなたが、弟を殺したのです。」これは、ミヤにもかねがね疑問だったものの、聞くに聞けなかったことでした。イソタケルは、普段はとても優しく、気が弱いぐらいにさえ思えるのですが、戦いでは勇敢であり、危険を冒してでも自分が先頭に立ち、敵味方とも極力死なないように、相手の一番の勇者だけを倒すことによって威圧して済ませようとしていました。ミヤには、そんな彼が、自分の弟を手にかけたことがどうしても信じられなかったのです。「ハツセは、父と母を殺そうとしていたのだ。」「何故。」ミヤは、更にわけがわからなくなったので、聞き返しました。「父はそれなりに名君だが、権力にこだわる余り、家族は省みなかった。それで、私とハツセの本当の母のイスミは、寂しくて自殺したと言う。」「では、今のお妃様のサイ様は、あなたの母上様ではなかったのですね。」ミヤは、そのことも初めて知りました。「実は、義母のサイは、私よりも年下なのだ。」それでは、自分と大して違わない歳である。「えーっ、それは知らなかった。」「そして、元はエタチバナと同じくハツセの恋人で、エタチバナが弟の正妃となって既に王子も生まれていたのに対し、サイと彼との恋人というよりも愛人としての関係は、ごく少数の者しか知らないことだった。」ミヤには、ハツセノミコが反逆した理由が見えてきました。「それなら、ハツセさまが恋人というよりも愛人だったと思われるサイさまを取り上げたお父上のハヤミ国王を憎む理由はわかります。しかし、何故元恋人のサイさままで殺そうとされたのかがわかりません。」ミヤは、ハヤミ国王が、自分の息子の愛人を寝取ったこともどうかと思ったが、よくあることでもありましたから、ハツセが義母となった元愛人のサイを殺そうとした理由の方が理解できなかった。「サイは、美女で有名だったが、ハツセには既に正式に妃と認められたエタチバナヒメがいたこともあって、彼女は、ミヤの言うように、恋人というよりは愛人だった。そこで、ハツセとの関係が表に出ていないのをいいことに、父が彼女を召し出したのだ。国王命とあっては逆らえなかったし、正妃としてもらえたのだから、ハツセの愛人よりは余程よい待遇でもあった。それでも彼女、ハツセとの仲を裂かれたことの意趣返しなのか何なのか、王妃となった後、筆頭大臣のコジマの大連と浮気していたのだ。ハツセは、余りに純粋過ぎて、実の母に冷たくした父のことも、元恋人で愛人でも、その父を裏切っている母のことも、許すことはできなかった。それで、自分が国王夫妻を殺すから、私が国王になれと勧めたのだ。そのことを持ちかけること自体が身の破滅であることを理解せずに。私は、今の話は聞かなかったことにするから思い止まれと説得したのだが、それなら俺が国王になるから、お前も死ね、と襲ってきた。ハツセは、自分の方が体が大きかったことに加えて、王宮一の剣術の名手との評判を取っていたこともあってか、実は私の方が剣術だけでなく武道全般に秀でていたことを知らなかったのだ。ただ、王宮一と言われただけのことはあって、かなりの腕前だったことが悲劇を招いた。ハツセがもう少し弱ければ、私も手加減できて何とかなったのだろうが、互角に近い強さだったため、本当に殺す気でかかってきた彼をうまくさばくことができず、止む無く手にかけることになってしまったのだった。」理由は理解できましたが、その後の国王の措置が不可解でした。特に、弟を殺した彼が、そのまま皇太子でいられたことが不思議でした。「よくぞお咎めなしにいられましたね。」彼は、寂しそうに笑いました。「それは、大臣のコジマの大連に事実を話し、サイ王妃のことでは身に覚えがある彼を半ば脅して、ハツセが国王暗殺を図っており、反対した私を殺そうとしたから、私に殺されたことを証言させたのだ。それで、父も母サイのことで彼が自分を恨んでいたことは知っていたから納得してくれた。ついでにコジマを母と別れさせたから、母には余計に恨まれることになってしまったが。」一つ謎が解けたところで、ミヤは、最も聞きたかったことを切り出しました。「そうだったのですか。そこでもう一つ、エタチバナさまとのなれそめを教えてください。」エタチバナの二人の王子の弟がイソタケルの子で、兄はハツセの子供らしいことは今までの話で理解できたのですが、どうして彼女を妃に加えることになったのかがわからなかったので、ミヤはずばりと確かめたのです。「エタチバナとは、兄弟で姉妹と結婚していた関係だったから、一番の理由は、ハツセを殺してしまった責任を取って、彼女も妃にしろとの国王命令だった。彼女にしてみれば、夫を殺され、その犯人で、義兄でもある私の妃になれとはとんでもないことだったと思う。さすがに最初は受け入れてくれなかったが、実は彼女、サイとハツセの関係を全く知らなかったのだ。だから、事実を知ったら、むしろとんでもないことに巻き込まれた私への憐みの情からだったような気がするが、受け入れてくれるようになり、子供も産んでくれたのだった。」少々文体に乱れがあり、今回からはですます調にかわっていますが、続きます。画像は、母にまだお乳をねだる子猫2匹と、疲れてぐっすり寝ている母のカメです。
Sep 28, 2019
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3連休って、いいのやら悪いのやら、2週続くと、運動不足もあってか、体調が悪くなったような。さて、ヤマトタケル編続きますが、我ながら不思議な原稿です。ツクバでエミシ・ニギハヤヒ連合軍と講和を結ぶや、ハヤミ国王の指令が届く前にオワリに帰ってきた夫にミヤは呆れたが、敵地のツクバまで奥深く侵攻して無事であっただけでも奇跡であり、自分も寂しかったから、彼の帰還を喜んだ。そして、半ば彼の求めに応じたものの、喜んで裸になって夫を甘えさせ、寝物語に今まで聞けなかったことを確かめてみた。「イソタケル様、あなたは、本当は戦うことがお嫌いなのですか。」彼は、素直に認めた。「私は、戦争は嫌いだ。何故争う必要があるのだ。誰が得をするのだ。その地の人々に多大な迷惑をかけ、場合によっては巻き込んで死傷者も出すような戦争に、何の価値があるのか。何時もそれを疑問に思いながら戦っている。」これは、ミヤにも意外だった。「そんな。あなたは、ヤマト一の勇者ですし、クマ・ヒュウガ一の武勇を誇ったクマノタケルをも倒された方ではないですか。この国一の勇者と言っても過言ではないのではありませぬか。」彼は、それまではイツセ、あるいはイツセノミコと呼ばれていたのだが、ヒュウガからクマに単身乗り込んでいって、クマ一の武勇を誇る首領であったクマノタケルを倒し、彼からタケルの名前を与えられてヤマトのイソタケルと呼ばれるようになっていたのだ。「とにかく、私は無用な戦いは嫌いだ。だから、父に、ヒュウガで狼藉をはたらいているクマを威嚇してこいと命じられた時、本当にクマが悪いのかどうか疑問に思った。そのため、ヤマトの軍勢はヒュウガに残したまま、単身女に化けてクマの本拠に潜入して確かめたのだ。」単身乗り込んだのも凄いが、ミヤには彼が女に化けたのは意外だった。しかし、こうして間近で彼の顔を見つめてみると、端正な顔立ちであったから、それなりに似合ったのかなと思い直した。「クマのことをどう思われました。」ミヤ自身、父がヤマトとエミシ、どちらに付くべきか悩んでいたのを目の当たりにしていたので、彼が自ら確かめようとした行動とその感想に興味を覚えた。「大義名分のあるのはクマであり、悪いのはヤマトの方だ。クマは、元々クマを中心に、ツクシからヒュウガに至る地域を支配していた民族だ。父のアマテラス一族も、元の地盤はヒュウガにあったが、ヤマトに進出して広大な領地を得たわけで、今更我々が彼らを支配すべき理由はない。無条件に従えと命じる方が理不尽だ。父は最初、クマが従ってくれるようなら穏便に済ませようと考えていたようだが、全面的に反抗する素振りを見せだしたので、威圧しようと考えを変えた。それだけだったようで、ヒュウガまで軍勢を進めさせたが、まさか私が一人で本拠のクマに乗り込んでいって、首領のクマノタケルを倒して制圧するとは思っていなかったのだ。今回の件にしても、父も本当は、先にヤマトから東国に移り住み、勢力を拡大しているニギハヤヒ一族や、先住のエミシの方が正当であることを知っている。」「それでは、イソタケル様は、何故クマノタケルを殺したのです。そして、この東征に向かわれたのです。」ミヤは、普段のイソタケルを見ていると、とても単身乗り込んでいって敵の首領を殺すようには思えなかったし、彼と結ばれたのは東征が縁であったとはいえ、喜んで遠征軍の大将を務めるようにも思えなかった。「クマノタケルを殺したのは、単身乗り込んでいって無事生きて帰るための唯一の方法であったのだ。それから、東征軍の大将にされてしまったのは、義母のサイが私を暗殺しようとしていることを知った父の配慮でもあったのだ。」「それだけですか。あなたが、それだけのためにクマノタケルを殺すとは思えませぬ。」ミヤは、スルガでの戦いから、夫は敵の最も強そうな者を選んで戦いを仕掛け、しかも殺すよりも戦意をなくさせることを重視し、効率的かつ効果的に威圧することで勝利を得ようとすることを知っていた。その後も、敵味方とも消耗するような戦闘は、巧妙に避けていたように思えた。だから、偵察の後生きて帰るだけならうまく逃げたであろうし、逆に、敵地の真ん中で首領であるクマノタケルを殺すことは、自殺行為としか思えなかった。「いや。たしかにそれだけの理由ではなかった。クマノタケルは、勇猛果敢ではあったが、傲慢だった。自分よりも強いものがいることを認めなかったのだ。クマの重臣で、シャーマンでもあったヒュウガ・ウガジは、優れた政治家であり、天才的な軍師でもあった。クマの軍が無敵を誇っていたのは、多分にウガジのお陰であったのに、クマノタケルは、自分さえいれば無敵だと思い上がっていた。もしウガジが健在であったなら、彼らを上回る軍勢であたったとしても、彼らに地の利があるヒュウガやクマでの戦いでは、ヤマトに勝ち目はなかっただろう。そしてウガジは、クマノタケルは傲慢なだけでなく、女にだらしないことも見抜いていた。そこで彼に、女か、女の格好をした男に殺されるから、女を遠ざけろとの託宣を下し。もしそれでも近づいてくる見知らぬ女がいれば、ヤマトの間者であるから殺せとまで警告していたのだ。ところが、女好きで自分の武勇を過信していた彼は、ウガジの諫言を聞き入れず、しつこく諫めた彼に腹を立てて殺してしまった。その点ウガジも、適当に引けばよかったのに、自らの地位と能力におぼれていた面はあっただろう。それで私は、武勇ではむしろ尊敬していたクマノタケルを殺す気になった。」夫がどうやって彼を殺したのか、ミヤは気になった。「どうやって殺したのです。女の格好で油断させたのですか。」卑怯だが、賢明な手段だと思ってつい聞いてしまったら、彼は笑いながら首を振った。「いや、クマは、武勇と名誉を重んじる民族だ。私は女の格好はしたが、それはクマノタケルに近づくためだけであり、彼の前でヤマトのイツセノミコと名乗って、講和を持ちかけた。彼は大した人物であり、私の話は聞いてくれたが、ヤマトが一方的に進出してきたのが実態だから、応じるわけにはいかないと断った。そして、彼自身が、大規模な戦闘はよい結果を招かないから、私との決闘で決めようと申し出てくれたのだ。」「色仕掛けではなかったのですね。」聞いた後、逆にそれをしたのは自分かなと思い付いて、ミヤは赤くなった。「そうだ。彼とは正々堂々と戦い、そして勝ったのだ。だからこそ、彼は私のことを自分を凌ぐ勇者と認め、タケルの名前をくれたのだ。それができただけクマノタケルは名君であったし、友として語り合いたかったのだ。しかし、彼は私に倒された時、自分を殺して代わってクマの王タケルとなるよう迫ったのだ。確かに彼のいうとおりで、私が彼の代わりに王になれば、クマは私に従うが、クマノタケルが生きている限りは、ヤマト軍は無事では済まなかったはずだ。」「殺して、空しくはなかったですか。」夫は、敵の中でも最も強いと思われる者に戦闘をしかけて楽しんでいるように見えたものの、できる限り殺さぬようにも配慮していたので、ミヤは、その時の思いを確かめてみた。「空しかったが、少なくともヤマトとの全面戦争になるよりは、両者とも犠牲ははるかに少なかっただろう。そして、クマは面白い民族で、私が首領のクマノタケルに正々堂々と挑戦し、彼を倒し、その名を与えられたことから、自分たちの王となるにふさわしい者であると認め、ヤマトにではなく、私に対して忠誠を誓ってくれたのだ。それで私は命が助かったし、お互いの全面戦争も避けることができた。」イソタケルは大した男だと惚れ直しながら、ミヤは疑問だったことを聞いた。「それだけの功績をあげられたのに、お父上は、何故あなたを東国に遣わされたのですか。」ミヤだけでなく、彼女の父のオワリノカミも、ハヤミ国王は、息子を見殺しにするつもりで派遣したのではないかと疑っていた。「今回の命令は、本当は父の命令ではなかったのだ。私が東国遠征に応じた理由も、戦いを好んだわけではなく、亡き妻オトタチバナのためであり、ひいては東国の人々のためでもあったのだ。」「どう言うことです。何故、今は亡きオトタチバナさまのためだったのです。」夫の今回の戦いぶりや、クマでの話しから、東国の人々のためという理由はわかったが、今は亡きオトタチバナのためとの理由は理解できなかった。「私は、クマを従えてヤマトに帰った時、空しさを感じた。そんな自分を英雄と迎えるヤマトの人々にもだ。もし自分が、クマで殺されるか帰ってこなかったら、人々は何と言っただろう。腰抜けの弱虫だったと悪口を言うだけだったろう。そして父は、私が殺されたことを口実にしてクマを攻め滅ぼしただろう。だから私は、オトタチバナ、エタチバナの二人の妃と王子二人を伴って、クマに戻って暮らしたいと父に申し出たのだ。」「お父上は許さなかったのですか。」「いや、クマにおける私の立場と、私には野心はないことを知っていた父は許したが、義母のサイ妃や側近たちが許さなかったのだ。私は、正当な理由があったとはいえ、弟を殺した罪人である。だから、クマを率いてヤマトに反旗を翻したら厄介だと。」ミヤは、確かに理屈は立つが、母のサイ王妃の彼に対する態度は異常に思えた。「あなたは、何故母上から憎まれているのですか。」「母は、弟ハツセとはわけありの関係だったのだ。そのこともあって、弟を殺した私を恨んでいるのだ。」それは理解できたが、王妃としては失格である。「そんなことはないでしょう。誰でも息子は可愛いものでしょう。私、あなたの子供を早く欲しいわ。」イソタケルには、死んだオトタチバナの姉のエタチバナとの間に既に二人の王子(一人はハツセの子供)がいたのだが、ミヤは、今や彼の最愛の妻である自信があったから、その立場を確固たるものにするためにも、彼の子供を早く欲しかったのだ。続く。画像は、カメ一郎四郎にトメコ、急に涼しくなったので、遠赤外線ヒーターサンラメラの前に集まる猫たちです。
Sep 23, 2019
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那須塩原は良いお天気の連休二日目です。子ネコの一郎四郎とトメコは、私たちの寝室を縦横無尽に走り回っています。さて、第2話です。ヤマト・オワリ連合軍とエミシ・ニギハヤヒ連合軍は、約束どおり、8日目にフジの広大な裾野の平原で対峙した。そして、夜明けにミヤがヤマト・オワリ連合軍の先頭に立って戦勝の祈りを捧げた後、戦いが開始されたのだ。エミシは、本来狩猟民族であり、このような平原よりは、山中での戦いを得意としている。その点は、ニギハヤヒはヤマトと同様、平地での戦いのノウハウも持っていたため、今回の戦いは、エミシの将軍アータルではなく、ニギハヤヒの将軍ガイが戦略を練っていた。ガイは、エミシの優れた弓術を活用するために、エミシの部隊を展開し、狩りの要領でヤマト軍を中央に追い込んで、弓矢で叩こうと考えた。そこで、平原の四方八方から火を放ってヤマトを撹乱しつつ集中させるように仕向けたのだが、イソタケルは逆にその火に向かって各部隊を進撃させたのだ。ガイは、イソタケルの本隊だけが中央に残るような常識破りの戦術に呆れながらも、これはこれで自分たちには有利な戦況であるから、総攻撃を命じた。しかし、ここからがイソタケル本隊の凄いところで、ガイが総攻撃を命じるよりも先に中央突破で突っ込んできたのである。包囲して殲滅してくださいといわんばかりの陣形に、ニギハヤヒ本隊は分散してヤマト軍を包囲にかかったのだが、これもイソタケルの戦術で、開いて包囲してくる前に総帥の彼を先頭に突撃したのだ。人間の心理として、退路を絶たれ、あるいは囲まれることを当然恐れるものなのだが、イソタケルはむしろそれを逆手にとって、相手よりも先に進むことで突破を容易にしたのである。結果として、包囲するよりも先に中央を突破されたエミシ・ニギハヤヒ連合軍は、アータル、ガイの本隊がイソタケル本隊と直接戦うこととなってしまった。そして、実際の戦闘が始まるや、アータルとガイの本隊は、イソタケルだけでなく、ヤマト本隊の勇士たちの強さに舌を巻くことになった。何とイソタケル、軍を分散させた段階で、本来各部隊長となるべき精鋭を自分の隊に戻し、精鋭中の精鋭で本隊を組んで当たったのだった。しかも、分散させたのはミヤを無事にオワリに帰すためのおとりでもあったのだ。本隊の先頭に立ったイソタケル、相手方の主立った勇士を次々と打ち倒して総崩れに陥れた。オオヒコが自信を持って派遣した名将軍ガイも、見事に中央を突破された戦況に打つ手がなく、アータルも、こうなっては既に結果は見えていたため、迫ってきたイソタケルにあっさりと降伏した。しかし、イソタケルは、勝負は決したと追撃せず、その間にエミシ、ニギハヤヒとも全軍を撤退させたため、その後しばらくは、両軍に戦端が開かれることはなかった。ヤマト軍は、サガミ、ムサシと挑発するかのように縦断したが、エミシ軍もフジの会戦で彼らの実力を思い知らされたため、衝突を避けて距離を取って偵察するにとどめていた。イソタケルは、示威行為を行いつつ猛進し、ツクバに至ったところで、エミシ・ニギハヤヒ連合軍に会見を申し入れ、講和を結んだ。父のハヤミ国王は、隙あらば、元は同族であり、ヤマトでの政争に破れて東北に逃れ、今なお大きな勢力を持っているニギハヤヒ一族を滅ぼそうと考えていたため、イソタケルの措置を快くは思わなかったが、重臣たちは、数では圧倒的に不利であったはずのヤマト・オワリ連合軍にとって、この戦果は満足すべきものであり、講和締結を労って呼び戻すべきだと取り成した。ハヤミ自身も、少ない軍勢であり、クマノタケルを倒したイソタケルの名声でスルガまで行けば十分と考えていたため、予想をはるかに上回る満足すべき戦果ではあったから、講和と息子の帰還に同意した。ニギハヤヒ・エミシ連合軍がヤマトと講和を結んだ理由は、同じニギハヤヒ一族の出身であるイソタケルとは戦わないで済ませたいと考えていたこと、イソタケルは、地域の住民に多大な損害を与えるであろう大規模の戦闘を、明らかに避けてくれたように思えたこと、そして何よりも、最初のフジ会戦で、自ら打ち倒したエミシ軍ニギハヤヒ軍の勇士達を敢えて殺さず、捕虜ともせずに戻し、名誉を重んじるような配慮をしてくれたことから、当初徹底抗戦を叫んでいたエミシ族も、彼なら信用できると考え、講和締結に応じたからであった。対するイソタケルが講和に応じた本当の理由は、何とスルガまで同行させたミヤをオワリに帰してから寂しくなり、早く会いたくなったからだったのだ。文章のつながりの都合で、今日は短めで続く。画像は、寝室で走り回っている一郎四郎と、寝転がって見ているトメコです。
Sep 22, 2019
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以前あらすじだけで触れたことのある内容ですが、リクエストがありましたので、元の形に近いものを何回かにわけて掲載してみます。前半をすっ飛ばしてオワリの場面から始まりますが、前半部も後に大分触れることになりますから、その辺はご容赦ください。と言いつつ、実は前半の原稿を見事に無くしたのが真相です。では、お楽しみください。「一体イソタケル殿は、勇敢なのか、臆病なのか、どちらなのか。」ミヤの父でオワリの豪族の長、オワリ・ハヤトは、ヤマトの王子で、娘婿となったイソタケルの本性を計りかねていた。「彼は、どちらでもありますわ。」ミヤは、夫の中には二人の人格があることを見抜いていた。イソタケルは、本名はイツセであったが、弟で武勇の誉れ高かったハツセを殺した後、クマのクマノタケル討伐に派遣され、凱旋後ヤマトの東国遠征軍の長として遣わされていた。彼の遠征には、姉妹で妃となっていた幼馴染のタチバナ家のエヒメ、オトヒメの内妹のオトヒメが付き添って来たのだが、彼女はイセからオワリに向かう船の中で急死してしまったのだ。オワリに着いたイソタケルは、妃の死のショックのためか、彼を迎えたミヤの父で当地の国主であったオワリノカミが驚くほど腑抜けになってしまっていた。彼は、イソタケルを東国のニギハヤヒ一族に引き渡して寝返ろうかと本気で考えたほどだったのだ。しかし、イソタケルの本質を見抜いたミヤは、父に、彼の妻となることを認めてもらえるのなら、立ち直らせて見せると言い張ったのだ。オワリノカミは、娘の言葉には半信半疑であったが、彼には、一人で乗り込んでいってクマのクマソタケルを倒した経歴があり、愛妻を無くしたばかりでもあり、オワリにとっても現在我が国で最大勢力を誇るヤマトの王子である彼に娘を嫁がせることができるなら、もし彼が遠征で戦死したとしても、不利になることはないと思われたので、娘にかけてみることにした。父の許しを得たミヤは、側女の一人に紛れて彼の寝所に潜入すると、裸になって自分から誘惑した。イソタケルは、誘惑に乗ってミヤを抱くと、彼女が驚くぐらい甘えた。恐らく彼は、母の愛に飢えていたのだろうと考えたミヤは、寝所では彼を子供のように、思う存分甘えさせることで、見事に勇者としてよみがえらせたのである。 立ち直ったイソタケルは、これで戦えという方が不思議なぐらい少数、かつ部族も雑多で統制がとれそうにないと思われたヤマト軍の内部分析を始めた。軍の編成には、義母のサイ妃と、彼女と通じているらしいミナカタ大臣の差し金で、各部族の鼻つまみ者が揃っていたのだ。イソタケルは、彼ら、鼻つまみ者ではあったが勇者揃いであり、使いようでは何十人にも匹敵することを見抜いた。そこで、一人ずつ、場合によっては何人かまとめて勝負し、勝って一目置かせ、従わせることから始めた。一通り終わると、素晴らしい勇者集団となったため、彼らを部隊長としてオワリの軍勢を任せ、軍を再編成したのだ。最初は、ヤマトにしてはならず者集団と馬鹿にして、如何に長のハヤトの命でも裏切ろうかと考えていたオワリの軍勢も、イソタケルの元に団結を強めた彼らの実力を評価し、信頼し、喜んで傘下に加わってくれたのだ。東征軍が整ったところで、イソタケルは、何とミヤを戦いの女神として伴って進軍を開始したのだ。 エミシ・ニギハヤヒ連合軍、ヤマトの軍勢がオワリに進んだことを察知し、偵察を兼ねて精鋭部隊を先頭に接触してきた。すると、ヤマト軍からなんと総大将のイソタケル自らが進み出て、会見を申し出たのである。エミシ軍の長エチエルの息子で、武勇の誉れ高いアータルは、彼の態度に感服して部下の将軍3名のみを連れて彼との会見に応じた。開口一番、イソタケルは、スルガより北は本来エミシの領域であることを認め、ヤマトの東征には大義名分はないとして何と頭を下げたのである。ぎょっとしてアータルは、それでは何故東征してきたかと問うと、イソタケルは、父のアマテラス・ハヤミ国王は、ヤマトによる全国統一を目指しており、イソタケル自身が行ったことではあるが、既に西国のヒュウガ、クマを手中に収めてしまった。したがって、自分の東征が失敗すれば、それを口実に何倍もの軍勢を動員して、スルガどころではなく、北のエミシ本国まで蹂躙していくことになってしまうに違いない。だからこそ、自分が引き受けてやってきたのだと説明した。アータルは、イソタケルの真意を測りかね、彼に確かめた。「それでは、侵略しにきただけではないのか。」「いや、単なる侵略では、双方に多大なる犠牲を強いることになる。」「どこがどう違うのだ。」イソタケル、自分がヒュウガとクマで行った方法を説明した。まず、首領であるクマノタケルを倒した彼は、まず彼の軍勢を手中に収めた。その上で、租税としての物納といざという時の軍勢の徴用は要求するが、彼らの風俗習慣を尊重し、かなりの自治は認める方向で進めたのである。するとアータル、実際にヒュウガとクマを従えてイソタケル自身はどう思ったかを聞いた。「何よりも、住民の生活を守ることができたと考えている。そして、お互いの軍勢としても、いたずらに消耗することも避けられた。クマノタケルは失ったものの、彼の精鋭部隊はクマの財産として残ったのだ。」「他にも、ヒュウガとクマにもメリットがあったのではないのか。」アータル、イソタケル調略法には他にもされる側にもメリットがあったに違いないと考えて聞いてみた。「私は、彼の土地の有効活用を提言した。山には木を植え、適当な地には、ヒエやキビ等の穀物も導入して栽培させたのだ。ヤマトに恭順の意を示したことで、暮らしが楽になった、豊かになったと思えるようにしていったのだ。」エミシは、自然との共存を第一に考えてきたため、彼の考えは理解し難かった。「それほどの差が出てくるものなのか。」「以前のクマは、穀物を食べる習慣がなかった。しかし、私が木を植え、かつ穀物を栽培することを教え、その穀物を貯蔵する技術も教えたことで、まず飢饉に対することができるようになったのだ。それまで、飢饉の度に死んでいた子供たちが生き延びることができるようになったのだ。そしてこのことは、私が考えていなかった効果も生んだ。」アータルは、自分たちを無傷で抱き込もうとする危険な思想であることを理解しつつも、興味を持って尋ねた。「一体何が生まれたのだ。」「まず、母親たちが、我が子を失う悲しみから解放してくれたと感謝してきた。」それは、確かにあり得ることだ。「確かに、それは理解できる。」「母の感謝は、子供たち、そして夫たちにも広まって行くものだ。やがて、クマの民全体が私を称えてくれるようになったのだ。統治を円滑化するためには、これは最大の効果があったのだ。」イソタケルと話し、彼の人物に触れることにより、アータルは本当にそうなるものならば、自分たちも彼の傘下に入っても悪くはないと考えるようになった。「そこまで進んだとしたら、大変魅力的な方法だな。しかし、俄かには信じられぬ。」するとイソタケル、クマからきた将軍であるヒコ・タマルを彼らに引き合わせた。ヒコは、イソタケルが進めた統治が、豊かな生活だけでなく、災害も防いでくれたことを話した。アータル、ヒコに意地悪い質問をした。「自分たちがクマの民ではなく、ヤマトの民となったことは、どう考える。」するとヒコ、首を傾げた。「クマは、ヤマトの同盟だが、私はヤマトの民ではない。私は今でもクマの民だ。」「本当にそんなことが可能なのか。あなたは何故、イソタケルとともに我々と戦うことを選んだのだ。」ヒコは少し考えて答えた。「イソタケルは、ヤマトの勇者であり、クマノタケルを倒したことにより、クマの勇者ともなった。彼は我々クマの民に、新しいものを与えた。そして、我々が大切にしてきたものを奪うこともなかったのだ。だから、私は彼のために喜んで戦うことをむしろ名誉と考えている。」「なるほど、よくわかった。ところで、ヤマトとしては、そのような統治方法は危険な面も抱えていると思うが、どうだ。」アータル、旧敵国の国力を高め、かつ積極的な統治を行わない方法では、いざという時に危ないのではないかと考えていた。「ヤマトの王となっているアマテラス一族自身、元々ヤマトに居た民族ではない。侵略して乗っ取ったわけだ。確かに、あなたがいうように、クマはクマ、ヒュウガはヒュウガとして自治権を残す方法は、ヤマトの勢力が衰えたら反乱につながりやすいだろう。しかしながら、武力に頼る統治はその時点で反乱の芽を芽生えさせることになってしまう。地元に自分たちの配下を置いていくにしても、それには多大な人員を要する。地元民を抱きこむにしても、それは地元に反目の種をまくことになる。また、逆に地元民と図って反乱を起こすことも考えられる。いずれも危険があるのだから、むしろヤマトの人員を徒に全国にばらまくよりは、温存しておく方が得策だと私は進言している。」アータルは、彼の深遠な考えに感服した。「流石に、ヒュウガ、クマを一人で従えたイソタケル殿だ。あなたがここまで進んできた理由も理解できた。実は私は、二つの相反する命令を下されてやってきた。一つは父のエチエルからであり、エミシの長の彼は、ヤマトの軍勢を一人たりとも生きて帰すなと命じた。」イソタケル、エミシがニギハヤヒとも同盟であることを知っていた。「では、ニギハヤヒ一族からは、違う命令が下ったのか。」「あなたの母は、ニギハヤヒ一族のイスミだといわれたが、それは本当か。」ニギハヤヒ一族からは、そのような情報を得ていたので、アータルは確かめてみた。確かにイソタケルの母は、ニギハヤヒ一族のイスミであったが、元々はアマテラス一族もニギハヤヒ一族と同族だったのだ。「それは本当だ。しかし、父のハヤミのアマテラス王家も、ニギハヤヒ一族の一派である。ヤマトでの勢力争いに負けたために、ニギハヤヒ本家の方が北に逃げざるを得なくなったのが真実である。今回、私がニギハヤヒと戦うとすれば、同族で争うわけで、悲しいことなのだ。」するとアータル、にっこり笑った。「ニギハヤヒの棟梁オオヒコも、あなたと同じことを考えたのだ。彼は、できればあなたと戦うな、戦っても殺すなと命じたのだ。相反する命令に、私は戸惑ったが、あなたと会って、オオヒコの考えも理解できた。」「私をむしろ取り込もうとの考えですかな。」アータル、ずばりと指摘されて苦笑した。「恐らくそうであろう。オオヒコは、ヒュウガとクマを一人で従えたあなたに興味を持っている。会ってみたいといったとも伝え聞いている。しかし、エミシは、ヤマトに侵略され続けてきたこともあって、ヤマトの風俗を嫌っている。そのためもあって、父エチエルは、あなた方を殲滅しろと命じたのだ。」「あなたは、どうお考えかな。」「どちらの考えも理解できるだけに、苦慮している。あなたの話を聞いて、戦わない方法があることも初めて知っただけに、混乱している。」するとイソタケル、何と妻のミヤをその場に呼んだ。「私は、ヤマトとかクマとかスルガとかを区別しようとは思っていない。たとえスルガにあっても、このミヤと、そして子供たちと、安心して暮らせるような国を築きたいのだ。」不思議な望みだなあと思いながらも、アータルは、ミヤの美貌に見とれ、男としては理解できるように思えた。「なるほど、あなたの望みは理解した。しかし、我々としても、戦わずヤマトに恭順する積りはない。あなたが認めたように、現在ここスルガより北は、本来ならヤマトもだったのだが、我々エミシの国だ。」イソタケルも大きくうなずいた。「そのことは、重々承知している。しかし、今のヤマトの勢力はあなたがたよりも強い。まともに戦って勝つことは難しいだろう。そして、まともに戦っては、この豊穣の大地が荒れ果ててしまう。人々は困窮する。たとえ一時的に勝ったとしても、国力が衰え、やがては侵略されてしまうだろう。」聡明なアータルは、イソタケルの論理を理解はしたが、それではどうするのかまでは思い至らなかった。「あなたのいうことはわかる。しかし、どうすればよいかはわからぬ。あなたがこうして軍勢を率いてやってきた以上、戦わざるを得ないのだ。」イソタケルも、この場で講和を結ぶことは非現実的であることも理解していたので、一つの提案をした。「私も、こうしてやってきた以上、戦わざるを得ないことはあなたと同じなのだ。しかし、まともに戦っては、この地の住民に多大な迷惑をかける。そこでまず、お互いの力を測る上でも、この地の住民に迷惑をかけずに戦うことができる場所を指定してもらいたい。」アータル、地の利を捨てる申し出に首を傾げた。「スルガでの戦いは、我らに地の利がある。その上に、我らが戦いの場を提供するとあっては、自ら不利を承知で戦うというお積りか。」するとイソタケル、ミヤを下がらせてからアータルに向き直って微笑んだ。「あなたがたは、今回大変な勇者を揃えておられることは承知の上である。しかし、我々も各部族を超えた勇者を揃えてきた。元々地の利はそちらにある。我々には、地の利は大した問題ではないと考えている。」恐ろしい自信であり、イソタケルの態度にはそれがはったりではないことも感じられたことから、アータルとしても、甘んじて地の利を得る気にはならなかった。「では、このまま7日間東に進んでくれ。すると、長い峠を越えたところで雪をいただく大いなる山フジが見えるであろう。峠を下りると広大な野となっており、そこは狩りの場ではあるが、住民はいない。狩人たちも、我々が前もって遠ざけておく。あなたのいうとおりの心置きなく戦うことができる場となるであろう。しかも、広大な野であることから、我々にも大した地の利はない。お互いの真の力を測ることができるであろう。」「承知した。では、戦いは8日後の夜明けに始めることとしよう。」イソタケルは、アータルを全面的に信用しており、その間に襲撃してくることはあるまいと安心していた。アータル、イソタケルが余りにもあっさりと信用してくれたようなので、念を押した。「その間は、戦いをしかけることがないことも約束しよう。」「それは、有難い。」しかし、考えようによっては、7日間進軍することは、オワリからの補給の兵站線が大きく伸びることになり、兵士の消耗こそないが、そこで負ければ終わりとなる提案でもあったのだ。エミシの精鋭軍が引き上げた後、イソタケルはまずミヤを呼び、8日後に戦いが始まるが、その戦いの先頭に立ってもらった後、彼女をオワリに帰すと告げた。戦いの結果を見ずに帰ることに難色を示したミヤだったが、イソタケルはまず、結果によっては彼女に危害が及ぶと説得したが、夫と共に死ぬなら本望ときかなかった。そこでイソタケルは、これが本音と、もしかしたらミヤが身ごもっているかもしれない自分の子供を無事に生んで欲しいからだと頼んだので、ミヤも、必ず生きて帰ることを条件に、オワリに帰ることをのんだ。 戦いの場に移動中、イソタケルは、周囲の地勢や状況を詳細に記録させた。彼は、戦いよりも、よりよい統治のためにはその土地をどう活用すればよいかと考えながら進んでいたのである。この彼の態度は、敵地深く侵攻しているとの不安を全く感じさせないものであり、部下は最初いたずらにオワリから遠ざかることに不安を覚えていたが、戦いの後のことを考えているとしか思えない彼の態度に、確実な勝算があるのだろうと安心するようになった。続く。画像は、物語には全く関係がありませんが、我が家で生まれた4匹の子猫の内、2匹残ったカメ一郎とカメ四郎です。仲良く遊んでいます。
Sep 21, 2019
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前世の陰陽師の記憶から、今日の優佳さんを操り人形みたいに動かしたのは、式神の応用だったかと考えた一郎君でしたが、他のことも思いつきました。彼女には失礼ではありましたが、一頃流行ったキョンシーみたいでもあるかなと。もっとも、キョンシーは死体で、その運搬方法として使っただけだったようですから、根本的に違いますし、式神は、働いてもらう対象がいろいろで、死体もありですが、陰陽師の霊力次第ですから、昨日のは、やはり優佳式神と考えた方が正しいとは言わぬまでも近いかなと思い直しました。しかしまあ、自分の恋人の一大事に、客観的に、どこか面白がっているところは、感情に欠陥のあるサヴァンの一郎君なのでしょう。優佳さんと一郎君、それでもその夜はぐっすり眠って、翌朝に臨みました。こう言うと、二人とも1キロも離れていないお互いの下宿に居たかのように思えてしまいますが、実は一郎君、優佳さんと別れた後、車を運転して75キロ離れた京丹波の実家に帰っていたのです。ですから、寝たのは10時半、起きたのは5時で、5時半には家を出て京都に戻ってきたのです。75キロの距離を5分と狂わずに時間厳守で走るのが、運転が得意な一郎君の特技でもあるのですが、一度だけ、聖護院真智さんとの待ち合わせに30分遅れたことがあったのです。時間厳守の彼が何故遅れたかというと、その夜と同じような状況だったのですが、夜中に落雷で京丹波の一角が30分ほど停電となり、何と一郎君の部屋の時計が電気時計だったため、きっちり30分遅れて表示されていて、その分寝過ごしたのです。つまり、どこかで電気時計の表示を見ていたことになるのですが、ボタンを押さないと電光表示にならない時計でしたから、どうやって見ていたのか、少し不思議な出来事でした。その夜は落雷も停電もありませんでしたから、目覚ましの鳴る2分前の4時58分に起きて、5時30分には京丹波を出発、6時55分頃には北白川の下宿に着いていました。そこで一息ついて、8時15分に優佳さんの下宿の前に現れた一郎君だったのです。当然と言うか、優佳さん、一郎君は北白川から出て来たものと思っていました。一郎君、聞かれない限りはそんな話はしませんでしたから、優佳さんは、何時も北白川から来るから約束の時刻に1分と狂わずに現れるものと信じていたのです。一郎君の車の助手席に当然のように乗り込んだ優佳さん、まず、昨日の疑問をぶつけてみました。「あのう、私、どうやって北白川の京大から下宿まで帰ってきたのでしょう。」一郎君、式神のように操ってと答えるわけにはいきませんから、さらっと答えました。「歩いて。」優佳さん、彼の言葉を理解するのに十秒ぐらいかかってしまいました。「ああ、もう。そういう意味じゃなくて、うーん、何と言ったらいいのか。」一郎君、逆に聞いてみました。「覚えていないのかい。」「ええ。農学部の前で転んで、一郎さんに助け起こしてもらったような気はするのですが、その後気づいたら下宿に帰っていました。」一郎君、いたずら心を起こしてからかってみました。「えー、ショックだなあ。あーんなことや、こーんなことや、衝撃の告白まであったりしたのに。」優佳さん焦って叫びました。「えー、私何を告白したんです。」からかうとろくなことになりそうにないので、一郎君、正直に謝りました。「ごめんごめん、何もなかったよ。」「良かった。」優佳さんとしては、ほっとしましたが、一郎君は、それが興味深い反面、心配だったのです。「いや、よくはない。一言も話さなかったし、意識も飛んでるみたいだったし、記憶もないのなら、大きな問題だ。昨日、何度かこけたし、頭を打ったわけではないが、今日、暇があるなら、病院に連れて行くぞ。」優佳さんとしては、心配してくれるのはありがたい反面、病院に連れていかれてしまっては、一昨日の夜のできごとを話さざるを得なくなると思いましたから、慌てて断りました。「いや、大丈夫です。どこも痛くないし、怪我も大したことないし。」一郎君、聞いていないのに、一昨夜怪我したらしいことまで話してくれた優佳さんを、半ば呆れつつも、それを気にする僕ではないと、心を許してくれているんだろうなとほほえましく思うことにしました。「わかった。では、帰りも女子大まで迎えに行こう。」それは、願ったりかなったりでしたから、優佳さん、喜ぶことにしました。「迎えに来てくださるのは嬉しいです。」「何時が良いか。」「今日は、午後は一コマだけだから、2時40分に正門の前にお迎えをお願いします。」「了解。」その後関係のない話をしてしまったので、昨日どうやって帰ったかについては、歩いて帰ったことしかわからなかった優佳さんでしたが、一郎君の顔を見たら、気にすることもなさそうだと安心したのでした。続く。画像は、カメの子供たち、カメ1~4です。しっぽが短い方から1~4と安易に分けてみました。
Aug 2, 2019
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前回の一郎君の特異体質について、一つ補足しておきます。彼、カフェインに対しては、最初の1回だけ効いたのです。父の常和氏が、幼稚園児の彼にコーヒーを飲ませたところ、一晩中騒いだのです。しかし、効いたのは最初のその1回だけでしたから、彼、カフェインにも強かったと言えるでしょう。さて、サヴァンで一番問題となるのは人間関係なのですが、一郎君の場合、小学校1~3年生の担任だった大橋先生に救われました。彼女、一郎君をしばきまくりながらも、彼の対人関係を、許容範囲に近づけることに成功したのです。本人の感想では、「ふーん、他の同級生たちって、そんな風に僕のことを見ているものなんだ。」の一言でしたが、彼、協調性と共感性は皆無でも理解力は大人並ですから、大橋先生の愛情の鞭の連打をともなう文字通りのご鞭撻により、かなり普通に近づいたわけです。それでも、友達なんて全く必要ないことには変わりはありませんから、普通の友達はできませんでした。では、彼なりの人間関係構築はどんな風だったかと言えば、一つは母親の影響により、頭のいい子に対しては、興味を覚えることでした。ですから、上品な知性派の同級生の女の子二人に対しては、普通のお友達に近い関係を築くことができました。もう一つは、後に人を見抜く眼につながるものでしたが、特異な才能を見抜いてそれに興味を覚えることがありましたから、同級生の男の子一人とは仲良くなったのです。その同級生、勉強はできませんでしたが、スポーツはまずまず得意で、絵に対する異才を持っていたのです。ただ、彼の絵、今ならサイケデリックとでもいうのでしょうが、当時は何と表現したらよいのか戸惑ったもので、ほとんどの人はこう言いました。「気味悪い。」しかし、一郎君は、こう言いました。「面白い。素晴らしい絵だ。」また、大多数の人たちは、一郎君にこうアドバイスしました。「君みたいに頭のいい子は、あんな、勉強のできない、気味悪い絵を描く子と付き合わない方がいいよ。」それに対して、彼ははっきりと言い返しました。「絵は気味悪いかもしれないけど、とてもいい子だよ。勉強なんて、どうでもいいし。」確かに彼、勉強の方は、小学生を超越していましたから、他人ができようができなかろうが全然気にならなかったので、その子は、中学卒業までの期間、彼と普通に近い友人関係を保った唯一の男子となりました。そして、スポーツ嫌いだった一郎君、その子と遊ぶことでスポーツにも興味を覚え、中学生の時にはスポーツもそこそこできる男子に変身していました。その期間に、一郎君には大きな変革がありました。10歳の時に、祖父の死がきっかけとなって、本来の一郎君の自我というよりも人格が明確になると、サヴァンの超越的才能の元になっていたと思われる複数の前世人格の影響が薄れることになりました。その結果、絶対音感の一部や、超越的演算能力は失われましたが、どちらもそれほど影響はなく、むしろ自分の心臓の音が気になる絶対音感は、なくなってほっとした彼でした。それでも、人間の心情が理解できないことと、友達を必要としないことの二点は相変わらずでしたが、それを除くと、見かけは普通の小学生に進化(退化?)しました。ただ、突然いい子ちゃんになってしまった面もあり、言動は小学生ばなれした紳士的なものとなり、力持ちでも暴力はふるわないおとなしい小学生となりましたから、女の子たちの人気は高まりました。彼ぐらいいろいろなことを考えることができる人間なら、人格形成をきっかけに、恋愛感情が芽生えても不思議はないのですが、ここは、サヴァンの超越的分析能力が別の方向に発揮されました。一種の未来予知で、彼、周囲の女の子たちを見て、こう感じました。残念だけど、今自分の周りにいる女の子たちには、僕の恋人になる子はいないよ。それが、中学、高校と続きました。実はこの期間、彼にとっては試練の時でもあり、両親のアホとしか思えぬ茶番劇により、祖父の莫大な遺産が失われていくのを目の当たりにすることになり、最終的には、桜やオガタマノキ、モチノキの巨木が並ぶ庭園を含む広大な邸宅が失われることになったのです。不思議なことに、木々や動物たちの悲しみを感じることができる一郎君なのに、自分自身の悲しみは感じませんでしたから、途中から割り切りました。大学卒業までの教育さえきちんと受けさせてもらえば、あとは自分で稼いで財産を作って行こうと。神坂家の財産って、祖父の貴尚氏が一人で築いたものだし、どうなろうが知ったこっちゃない。財産は、自分で築くもので、他人の財産を当てにした段階で失格だし、事実、身に付かないことも両親から学んだわけです。それから、これも彼の未来予知の一つだったのですが、彼、普通の公立高校ではなく、私立の少し変わった進学校に進んだのです。入学時の成績では、1000人中6位、実際に入学したメンバー内では3位でしたから、高校が是非うちに来てくれと言ったほどの好成績でした。如何せん、家庭の方が更にむちゃくちゃになってきた時代でしたから、可哀そうに一郎君は、勉強にも私事にも集中できるような状況ではありませんでした。そんな可哀そうな高校時代でしたが、特筆すべきは、スポーツが良くできるようになったことと、友人を作る気のない彼でしたが、いじめは嫌っていて、いじめられている子を見ると、守ってかばってあげるぐらいの社会性を身につけたことでした。とはいえ、彼、大変冷静に分析しますから、いじめられる側の問題点も把握しており、いじめられっ子をかばうものの、内心自業自得でもあるなと思っていました。そんな彼を、いじめっ子側は、「裏切者」と呼んでいましたが、子供みたいだなあと豪快に笑い飛ばして済ませていました。何せ、当時の彼は、勉強もスポーツもできて、けんかしても強そうだと感じさせるために、祖父譲りの怪力を時々発揮して見せたりしていましたから、誰も手を出せなかったのです。ただ、一郎君、ナポレオンが「我が辞書に不可能という言葉はない。」と言った(きっと彼の辞書は落丁だったのだろう。)と伝えられていますが、彼の辞書には努力という文字がなく、目標を持ってそれに向かって邁進するライフスタイルではなかったのです。その代り、サヴァン由来の未来予測に基づいて、必要最低限の労力をもって、それを実現させていくだけのライフスタイルだったのです。ですから、勉強も、できるのですがやる気はなく、生涯を通じて校内一位になったのは、中学の時に受験した県単位の模擬テストのただ1回だけでした。高校では、最初は凄い成績を上げたのですが、途中から校内の定期テストの順位と、全国的な予備校の模擬テストの県内の順位が大して変わらないという、普通ならあり得ないような成績をとりながら、現役かつ専願で、自分が進学できると予測した京都大学に合格したのです。つまり、彼には京大合格の未来が最初に予測できていましたから、それ以上の努力はせず、予測通りに必要最小限の労力でその未来を実現させたのです。大学に入ってみると、あることに気づきました。京都大学には当時はまだ戦前の建物が多く残っていて、初めて訪れた場所でも、ああ、ここに居たことがあるなと懐かしく思えたのです。これ、サヴァンの未来予知とは感覚が違いますから、母高子の婚約者だった京都帝国大学の学生として、前世で確かにここにいたことを確認できたのです。よし、大学に帰ってくるという前世での願いも実現できたし、息子が京大に入れるように教えてほしいという当時の母との約束も、転生して息子となった私自身が京大に入学することで、形を変えて実現できたぞ、と考えると、自分なりに一つの区切りがつきました。これだけやったのだから、両親のお守りはもういいのではないかとも思いましたが、本当にひどくなったのはむしろその後4年間で、父とはそれで切れましたが、母との面倒は、34年後に彼女が亡くなるまで続きました。続く。
May 11, 2019
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一郎君の母親編続きます。実は高子さん、常和さんと結婚する時、今まで散々縁談を破談にし続けた彼女がついに年貢を納めるのかと面白がった友達数人が、占に連れて行ったのです。最初に占ってもらったよく当たると評判の年配の女占い師には、「この人、結婚しても何度も別れはって、その末に大金持ちにならはるわ。あんたたち、この人といいお友達になっときや。そいでから、初めてのお子さん、何十万人に一人の天才が生まれるわ。」と言われました。友達は大笑いしましたから、笑われてむかっと来た高子は、易者のはしごをしました。その結果は、3人に見てもらって全員同じ結果でしたから、意固地になった彼女、「私は絶対別れない。」と宣言してしまったのです。最初の息子は本当に何十万人に一人の天才でしたから、息子の一郎君が小学生になった時、高子さんが彼にその占の話をしたところ、鋭い突っ込みが返ってきました。「絶対別れないじゃなく、別れないで済む幸せな家庭を築く。と言うべきだったね。」一郎君、両親は夫婦としては最初から失格だと思っていましたから、別れた方がよいと思ってそう返したのですが、高子さん、息子の言葉に最初は怒り狂ったものの、確かに夫婦仲は最悪で、夫はろくに働かなくなっていましたから、本当は別れるべきなのかもと思い直しました。その時に、高子さんは、自分が一郎君を虐待する原因が、息子に夫を重ねていることに気づいておくべきだったのですが、一郎君が突然大人のいい子に変身するまで彼女の虐待は続きました。彼女の虐待、毎晩のように繰り返した殴る蹴るもひどかったのですが、イギギさま効果か超人的に強靭な肉体を得た彼には痣一つつきませんでしたから、誰も気づきませんでした。もっと悪質だったのは、妹と二人で乳母車(当時の乳母車は巨大なカートみたいなものでした)に乗せられていた時、妹だけをおろして、山の上にあった家の前の急な坂の上から走らせたことが二度もあったことです。当然のことですが、猛スピードで坂を駆け下った乳母車は、坂の下で横転しました。それでも壊れなかったところが余程丈夫な乳母車だったのでしょうが、その時の一郎君、空から自分を見下ろしていて、乳母車が横転するタイミングでべたっと伏せたため、一度は無傷、二度目も臨死体験の時のように後頭部に軽い切り傷を負っただけで済みました。まあ、車が走ってきて衝突していたら、如何に超人的に強靭な肉体を持つ一郎君でも、無事では済まなかったと思われますが、当時は茨木はまだまだ田舎で、車は少なかったのです。それから、一郎君と同居していた前世人格たちも、彼が自分の身を守るためには必要だったのだと思われます。前世人格の一つは、戦死(正確には戦病死?)した京都帝国大学の学生だった婚約者のもので、これは勉強の面で役立ったようでしたし、不幸になった高子さんが一郎君に暴力をふるうのも、自分が死んでしまったせいで仕方がないかと諦める理由にもなりました。他にも平安時代の陰陽師や、鎌倉時代の剣士も居て、知らずに怨霊を供養したり、危険を察知して避けたり、自動的に反撃したりする能力を発揮していました。そうして、一郎君は、周囲には全く高子さんの虐待を気付かれることなく無事生き延びたわけですが、祖父の貴尚氏が、義理の息子となった常和さんが、父の名をかたって借金して裁判所から突然差し押さえの執行官がやってきたりした数々の悪行による心労からか、一郎君が10歳の時に膵臓癌で亡くなると、一郎君に付き添っていた前世人格たちが表に出なくなり、一郎君自身の自我が明確になったためか、彼の奇行も止みました。一郎君は、突然、普通の小学生を通り越した大人のような人格を持った品行方正学業優秀な小学生に変身したわけですが、彼自身の感覚では、それまでは間接的に自分を操っているような感覚だったものが、自分自身の自我を持った行動ができるようになったのでした。すると、虐待する理由がなくなった高子さんのDVも止みました。彼女、一代で財産を築いた偉大な父親に甘えていた部分もあったかも知れません。一郎君、まともになった代りに、天才的な能力の一部であった自分の心臓の音まで聞こえた絶対音感と、驚異的な計算能力はなくなりましたが、自分の興味の赴くままに行動していた問題行動も止んだわけです。それでも、人間的な喜怒哀楽の感情は、父親ほどではないにしても、まだまだ欠落したままでしたし、こちらは、日常生活に困らない程度ではありましたが、結局一生普通とは言えないままでした。この変身、祖父亡きあと、自分がまともにならなければ、家庭は崩壊するとの危機感によるものだったのかもしれません。彼の予感は的中し、その後の両親は、やることなすこと裏目に出て、二人して祖父の遺産を食いつぶすだけの人生に終わり、駅から歩いて10分の好位置に3千坪もあった土地と家屋敷も、一郎君が大学生の時に人手に渡ることになりました。続く。
May 2, 2019
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今日の熊本県荒尾市は、午前中は晴れ強風、午後曇り、15時から16時の間は、バケツをひっくり返したような大雨、その後は曇りでした。いろいろありつつも、仕事はまずまず無事に終わりました。さて、今日は変な題名です。以前にも触れたこともあるかも知れませんし、前世記憶シリーズのレムリア編の中にも、この命題は繰り返し触れられていると思います。実は、現世の私は、知る人ぞ知るもの凄く強い人間なのだそうです。大学生の頃、二回り年上の元やーさんの不動産社長には、「お前は紳士やが、恐ろしい人間や。」と言われました。別に何をしたわけでもありません。顔に傷があるその人に、「あなたは、本当は優しい人なのですね。」と言っただけです。別のやーさんは、こう言ったそうです。「高学歴でも度胸座ったおもろい奴やから、組長の養子にと思うたが、強すぎる奴はあかん。皆死んでもうても、自分だけ生き残ってしゃあしゃあと堅気に戻るタイプや。」私は、その人とは話したこともないのですが。強いて言えば、当時結構大変な目に遭っていたのですが、何となく未来が見えましたから、「これ以上は何も起こりません。大丈夫ですよ。」と自信を持って答えたぐらいですか。結婚前に母を見た易者は、「あんたの息子は、もの凄い才能と強さを持った人間になるやろう。」と言ったそうですが。でも私、まともに喧嘩をしたことも無ければ、誰かを本当に憎んだこともありません。ただ、漠然とは感じていました。普通の人間にはまず負けることはないと。その自信?が、才能にも直結していましたから、前世記憶とも密接に絡んでいると思います。いくつかの前世で、剣術の達人だったこととも関連しているのでしょう。また陰陽師だった前世では、霊に影響されないだけでなく、逆に使役するほどの霊的な強さを持っていたこととも関係しているかも知れません。その前世記憶から、式あるいは式神を使役する術とは、自分あるいは他者、精霊のようなものも含まれると思います、の霊体を任意に使役することができる術であったように感じています。もう一つ、蛇身の女神ニフツヒメ様から、「事代主」と呼ばれたように、「言霊」を使うことができる才能もあったと思います。直感的に感じたことをつい口に出すと、百発百中的中しましたから。ただ、困ったことは、自分がその内容を選択できないことでした。つまり、実現したら困ること(の方が多かったような気もします。)も、つい口から出てしまうのです。つまり、言霊というよりは、一種の神託、託宣にしかならなかったわけです。そこで、自分と周囲の人間を傷つけないための方法を考えました。余計なことはできる限り考えないようにする。憎しみの感情は持たないようにする。自分で感じたことは、よく考えて、悪いことは話さないようにする。すると、変な言い方をすると、危険や災いは避けて通るような感じになりました。でも、この方法には大きな利点とともに、危険もあったのです。それは、私のことを害する気持ち、よく思わない気持ち、に対して、自動的にその気持ちをそのまま、あるいは時として増幅して送り返す現象が起こったのです。人間、自分自身の貧しい心、邪な心を見せつけられることほど怖いことはないようです。結果として、お友達だった元やーさんも、直接は知らなかった現役やーさん(某組幹部)も、私にというよりは我が家の土地にかかわった事件屋も、手配師も、そして祖母も、恐らくは行方不明になった父も、他にも私のことを故なく非難していた人たち(私は、その事実を当人たちが死んだ後で知りました。)も、数年の内に全員死んでしまいました。つまり、神様は、無意識の防御が最も強力であることを示してくれたのでしょう。ですから、私が、自分の大切な人に対して最もしてはならないことは、無関心なのです。これって、大変便利に思われるかも知れませんが、気にすると精神的な拷問になります。精神的に強いからこそできることでもあるのです。仕方ないから、犠牲者が出たことを知ったら供養しています。なるほど、そのために霊魂を供養する力も持たせてくれたのかなあ、と思いながら。すると、部外者、つまりは浮遊霊のような存在や、時として地縛霊も、私を頼ってくることがあります。直接的な、供養して欲しい、の願いだけでなく、私がここに居ることに気付いて欲しい、私のことを思い出して欲しい、私が存在していたことを知って欲しい…、感覚はいろいろですし、私の命にかかわるような時もありますが、気付けば応えてあげています。「執着は捨てて、次の人生に進んでください。」と呼びかけて供養することで。方法としては、般若心経のようなお経、密教の供養法、神道の祝詞、その時に応じていろいろ使いますが。精神的な強さを得る方法は、メンタルトレーニングや、願望実現のためのトレーニングと共通するものです。まずは、自分によいイメージを持つ。起こって欲しいことをイメージする。願望が実現するまでの過程をイメージする。逆に言えば、これができないと、簡単な願望であっても実現しにくいものです。自分がそうなってみたい人は、試してみてください。ただし、強さを求める結果は、時として人間の悲しみを知ることにつながることを知った上で試されるよう、お願いします。画像は、勝運の寺として知られる勝尾寺の山門です。私がこのお寺と関係が深いのも運なのでしょう。
Apr 30, 2011
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東京は、今週は雨模様です。さて、梅原猛氏の「日本冒険」第2巻に入りました。内容は主に「異界」の話だったのですが、アイヌの伝承のあの世が、私の経験に共通するので興味深いものでした。私は、複数の前世記憶と思われる記憶とともに、並行世界(パラレルワールド)のような記憶も持っています。アイヌは、あの世はこの世に非常に近い世界であるが、時間的、季節的には逆、つまりは地球の裏側の南米あたりの感覚の世界であるとしています。ただ、あの世は暗くはないが太陽がないと言います。そして、現世の死と誕生については、単にあの世との往来であり、その間に審判もなければ、天国も地獄もありません。あの世からこの世への転生は、大体順番で行われ、遅くなる場合も早まる場合もあるが、善人悪人の区別はなく、転生も、人間からは人間、クマからはクマにしかしないとされています。これ、私の経験のパラレルワールドと妙に符合するのです。私が記憶し、かつ感知するパラレルワールドにも、太陽がありません。時間と季節については、現世と厳密には比較できないのでよくわかりませんが、夢で見ると向こうは昼のようでしたし、妙に季節のない世界であるように感じましたから、逆になっているのかもしれません。転生の時の感覚ですが、現世に出てくる時、戦時中に恋人だった母を見て、自分の転生の母に選んだような気がしますから、子供は生まれる場所を選んでいるとの説に賛成です。現世の記憶は、誕生の直前からのものになります。別の体験として、1歳半の頃に臨死体験をしました。その時は、トンネルを抜けたら青い光が満ちた空間(部屋)で、一方にはもっと明るい光がありましたが、「そちらにはまだ行ってはいけない。」と頭の中に呼びかけられて戻ったら生き返っていました。途中には三途の川もなければ、審判も、地獄極楽もなかった感覚です。面白い偶然で、私の息子も6歳の時に臨死体験をしています。目撃していた人の話によると、息子は、自転車で急な坂から降りてきたところで、石に乗り上げたら見事にジャンプし、自転車ごと1回転して道路わきの岩に頭からぶつかったと言うのです。その人は、凄い勢いで頭からまともに岩にぶつかっていたし、絶対に死んだと思ったのに、しばらくしたら起き上がって、頭の軽傷だけで済んでいたのがどうしても信じられないと何度も私に言いました。息子、頭に岩が食い込んだ感覚があったのに、気づいたら薄暗い空間で、目の前に妙に暖かい水が流れている大きな川があったといいます。そして、その大きな川は、心理的にはわたりづらいが、入ってみると濡れることもなく、歩いて渡れるものだったとも言います。しかし彼は、川に入ったところで呼び戻され、しばらく川のほとりの水車小屋のような家の中に居て、何故か自分が欲しいものがいっぱいあるように感じた方向に出て行こうとしたら、私と同様「そちらにはまだ行ってはいけない。」と呼びかけられて戻ってきたとのことでした。当時の息子、好奇心旺盛で手の付けられない悪ガキで、勝手に三途の川を渡ろうして連れ戻されたのが実態らしく、近辺を散策し、疑問に思ったらいろいろ教えてもらえたというのですが、答えてくれたのは姿の見えない存在だったとのことで、審判や地獄極楽のようなものはないと感じたようです。その彼が言うには、私が経験したトンネルを抜けた青い光の空間は、川の向こうにあると聞いたから、お父さんはいわゆる三途の川をわたってしまってから戻ってきたすごく珍しい例なんじゃないかと言います。息子も、戻ってきたら頭に食い込んだはずの岩が取れていて、後頭部が少し切れていただけだったから不思議だと言いました。脱線しましたが、アイヌのあの世の思想が、私の経験には一番適合しています。ただ、審判も地獄も極楽もないからと言って、悪いことをしてもよいという短絡的なことは考えないでください。あの世は、大変現世に近いため、現世でろくなことをしていなければ、そのまま引きずっていく面もあるわけです。また、次の転生先の境遇については、魂の?考え方が貧しければ、それなりの環境にしか行かない傾向があるように思えますから、結局は社会のためになることが、自分のためにもなるわけで、善行は奨励されるべきなのだと思います。
Mar 2, 2011
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今日の東京は、昨日の雨で湿度も補給され、ムシッとした暖かさでした。先日万葉集の話題に触れる機会があり、石見での歌から柿本人麻呂は処刑されたように思うとの私見が梅原猛氏の「水底の歌」と共通することを思い出しました。図書館に行って見たところ、彼の著書「日本冒険」シリーズがあったので、第1巻を借りてきて読んでみました。アイヌと沖縄に関する話題が多く、それぞれの文化についての知識を得られたことが大きな収穫でした。アイヌは蝦夷として日本の先住民であり、北海道だけでなく今の本州にも住んでいたことについては私の前世記憶にも登場しますから明らかだと思います。私は、梅原氏が歌舞伎の脚本「ヤマトタケル」を書いたことは知っていたのですが、内容は全く知りませんでした。ところがこの本に書かれていたあらすじを見ると、私の前世記憶シリーズの一つで、ヤマトタケルのモデルとなったのではないかとしたイツセノミコ(イソタケル)編と大変共通点が多いことがわかりました。兄(私の話では弟)を殺した理由が、父に対する謀反を持ちかけられたこと、妻オトタチバナとその姉でやはり妻となるエタチバナの関係、側近であり継母のサイ王妃のスパイでもあったアサヒコ、蝦夷、熊襲に対する考え方などは、ほぼ同じと考えてよいものなのだと思いました。(原作を読んでいないので、あくまでも「日本冒険」の内容からの推測ですが。)ただ、イツセノミコ編では、彼は、伊吹の主であった有力豪族イノカミの待ち伏せをアサヒコから聞くと、オトタチバナを殺された(入水したのではなく、彼の身代わりに、義母サイ王妃の暗殺者に殺された。)後に妻となった尾張の国造の娘ミヤ(ミヤズのモデル?)とともに、二人ともサイ王妃の手の者に殺されたことにして、歴史から消え去ることを選びます。彼はその後、タンゴから蝦夷と連合していたニギハヤヒ一族の本拠ツガルに行き、ミヤとともに子育てをした後、最後はタンゴのカヤに落ち着いていたアサヒコのところに戻って一生を終えます。何と、加悦の近くの峰山に彼のお墓(古墳)が残っているのです。これ、「ヤマトタケルのモデルになったイツセノミコの本当のお墓は、峰山の近くにあるよ。」と家族に話していたところ、その通りの場所に古墳が発見されたと新聞に掲載されましたから、イツセノミコ編は全てとは言わないまでもかなりの真実が含まれているではないかと考えています。前世記憶って、時々歴史との符合があって楽しいものでもあります。
Feb 25, 2011
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昨夜、名古屋から帰宅しましたが、那須塩原駅を降りたら零下3度で、寒さに驚きました。名古屋も結構寒く感じましたが、絶対的な寒さでは那須とは比べようがありません。さて、今日は何となく続けている描くという行為に着いてです。今の私は、描くというよりは、文章としての表現が中心になっているのですが、過去にはいろいろな方法で表現していたのです。幼少期は、音楽が表現の主体になっていました。最初はヴァイオリンで、次はピアノで。でも、自分自身の表現とは自覚していませんから、前世記憶とつながった方法でもあったかも知れません。幼稚園の頃からは、音楽と並行して絵を描くことも加わりました。これも変なもので、最初は教わったわけでもなく抽象的な変な絵を描いていました。しかし、父の友人の画家は、その絵の方が面白いと評価していました。小学生になると、具象的な絵に転換し、素人受けするようになりましたが、面白くない絵になりました。絵と入れ替わりに、言葉による表現に目覚めました。当時の友人の一人が非常に個性的な絵を描く特技を持っており、私は凄くいい絵だと評価していたのですが、教師も家族も気味が悪い絵を描く変な子だと、私が彼と付き合うことを反対したほどだったのです。私は、それでも彼と付き合いつつ、彼が描く絵に対する物語を語り、それをまた彼が描くという漫画家と原作者のような関係を小学校を卒業するまで続けました。彼は好人物であったと私は信じているのですが、高校以降他人に理解されず、問題を起こして行方不明になってしまいました。高校になると、勉強の方が大事になってきたのですが、ちょこちょこと出来事を日記風に綴ることを始めました。大学に入ると、日記風記録が増えていきました。一頃連載していた大学当時の恋愛小説は、この時の日記が原作です。大学卒業から、就職、結婚まで1年半だったのですが、この頃も大学の延長で日記風に綴っていました。何故か、結婚後は、事実ではない小説も交じってくるようになりましたが、当時はまだ前世記憶シリーズはありませんでした。1995年、選ばれて35日間6か国を巡る海外研修の旅に出ました。その時、不思議な経験が続き、帰国後、パリを舞台にした恋愛小説を書くことになりました。これも、一頃ブログに連載していましたので、興味がある方はお探しください。ところがこの小説、前世記憶が絡んできます。特に、レムリアの前世記憶については、この小説を書いていた時に主人公の前世記憶とつながる形で浮かび上がってきました。同時に、妻も同じ記憶を持っていることがわかってきました。この点でも、レムリアの前世記憶が、前世記憶シリーズの原点になっています。そして、元々の霊感とも結びついて表現の幅も広がっていくことになりました。何時まで続くのかわかりませんが、自分で描いているというよりは、記憶をそのまま表現していたり、誰かの呼びかけを反映しているような形で綴っています。以前に触れましたが、私の著述、全ての登場人物の人格を抱え込んでいく方法で描いています。ですから、ブログが予告なく途切れた時は、個々の人格と自分の人格の統制がうまく取れなくなった時だと考えてください。
Jan 29, 2011
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今日の名古屋は概ね晴れていましたが、夕方歩いていて息が白くなる寒さでした。さて、生命の永続性は、遠大なる命題です。ただ、これも不思議なもので、原始的な宗教下では、輪廻転生による生命の永続性は当然のことと信じられていたようで、キリスト教についても、否定しだしたのは中世以降のことと思われます。まあ、それでもキリスト教会から聖人に列せられ、あるいは幻視者に認定された神父や修道女の多くが、輪廻転生は存在することを認めていますから、否定したこと自体がおかしいのですが。現在、輪廻転生を信じているかについては、国、宗教によって大きな差がありますが、その中では日本はむしろ特異な存在と言えます。日本人は、宗教的に見ると、無神論者ではなく多神教信者なのです。日本人の信仰のベースになっているのは、アニミズム的神道思想で、全てのものに神が宿るとの思想は、大変柔軟に他の宗教をも受け入れます。大体、日本人の宗教観は、冠婚葬祭との結びつきが深く、結婚式は神道が多数派ですが、クリスチャンでもないのに教会で挙げることも多く、子供が生まれればお宮参りも当然、死んだら葬式は仏教が多数派なんて国、他にはありません。日本人、信仰しているのは宗教だけではないのです。科学信仰とも言うべきものもありますから、話がややこしくなるのです。日本人で輪廻転生を信じない理由は、霊魂の存在が科学で証明されていないからと、自分が体験していないかであり、結局は、科学信仰によるものなのです。科学では最先端を行ってそうなアメリカでは、国民の半数以上が神が世界を創造したと信じているのとは大きな違いがあります。そもそも、世界のほとんどの民族では、神の存在イコール自分の存在のアイデンティティーであり、自分自身の存在に対するアイデンティティーを神あるいは宗教に求めない日本人は、特異な存在なのです。私自身は、自らの経験を大変科学的に検証して、霊魂が存在し輪廻転生していると考えるべきとの結果に達したわけで、科学信仰も捨ててはいないわけです。前世があったと考えなくては、特定の人物の視点による過去に実際にあったことの記憶を持っていることはおかしいし、3歳の時に楽にヴァイオリンが弾けたり、今も陰陽道や密教の供養法を操ったりできることの説明もつきません。まあ、話せばめちゃくちゃ長くなりますから、更に詳しく知りたい人は、ブログの前世記憶の書庫をご覧ください。なお、私、宗教は否定しませんが、他人と自分を傷つける行為は否定します。
Jan 26, 2011
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今日の鳥栖は、曇一時雨、仕事は無事終わりました。しかし、テレビで「アマルフィ」を見てまず腹が立ちました。私は4年間国際関係を担当したのですが、海外は、特にイタリアは、安全な国ではありません。目の前でスリにあった人を見たこともありますし、マフィアによる誘拐は、日常茶飯事であり、テロに対しても誘拐に対しても、警察は人質の生命よりも犯人検挙を優先します。軍備増強による平和確保と同じく、それが、結局は誘拐に対する抑止力につながっているわけです。ですから、海外に子供を連れて行って、目を離すなど、非常識としかいいようがないのです。日本人、海外ではいいカモなのですから尚更です。逆に言えば、子供を連れて行って本当に安全な国など、まずないと思った方がよい、何もなくて済んだのは、単なる幸運だったと言うべきかもしれないのです。日本人、もっと日本の常識世界の非常識であることは知るべきです。さて、今日は格闘技編の続きで、剣術についてです。最初に断っておきますが、私、剣術はおろか、剣道もやったことはなく、竹刀を握ったことすらありません。それが何故剣術の話なのか、私にも理解不能のできごとがあったのです。実は私、竹刀は握ったことはありませんが、真剣は何度も握ったことがありますし、幕府の首切り役人が最も斬れる日本刀の一つに選んだ備前長船元重の短刀を所有しています。日本刀を握った時、実は日本刀からのメッセージのようなものを受け取ったのです。不思議な話ですが、それは、私を握るなら、今の剣道のような握り方を、構えをしてくれるなというものだったのです。それではどんなメッセージだったかというと、構えは腰をむしろ引いて、がっちり柄を握って切っ先を突き出すように構えろというものだったのです。そして、人を殺すなら、斬るのではなく突き刺せというものだったのです。しかも、その方法は、自分から突き刺すよりも、相手を刀のある場所に導いて、結果的に突き刺すように持って行けとのものだったのです。これ、自分で日本刀を握ってみた感触としては、逆に合理的に思います。日本刀、決して軽くはありません。余程怪力の巨人でなくては、竹刀のように振り回せるものではないのです。ですから、日本刀の魂が、私に自分の使い方を教えてくれたのだろうと思うことにしました。ちなみに、もし日本刀を振り回そうとするなら、薩摩示現流の構えが正しいように思いますが、あれって、肘から振り回す方式ですから、一撃で相手を斬れなければその分隙ができますから、一撃必殺、外せば自分の命はないという恐ろしい剣術です。これは、日本刀から教わったのではなく、日本刀のメッセージを受け取った後、鹿児島の鹿児島県歴史資料センター「黎明館」で、示現流の演武のビデオを見て理解したことです。それから、日本刀に限らず、剣も刀も刃同士で切り結んだらまず刃こぼれします。そのために相手の刀を受ける際は、刃ではなく棟で受け流すのです。その方法については、レムリアの前世の物語で触れていますが、当時の私、剣術というよりも相手の剣撃の受け流し術の名人だったようです。息子が高校生の時、少し剣道をやったことがありました。試しに息子と木刀で立ち会って、もう一つ思い出したことがありました。彼は超一流の剣術者であり、かつ修行の名のもとに無差別に人を殺していく殺人者だったことを。彼自身は覚えていませんでしたが、彼の太刀筋には、すさまじい殺気がこもっていたのです。思わず私は、木刀をからめて彼を引き寄せ、日本刀に教えられた方法で彼を刺し殺す真似をしてしまいました。前世で殺人者になってしまった彼を、私の息子であり、最高の弟子であり、最高の剣術家でもあった彼を、そうやって殺したように。前世記憶は、便利だと思う人もいるでしょう。しかし、知識と同時に伝わるのは、人間の悲しみであり、苦しみでもあるのです。私が、現世でこの剣術を実際に使うことのないように祈っています。
Jan 3, 2011
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岐阜は寒い一日でした。さて、今日はまずホテルの無線LANが不調でインターネット接続に手間取りました。何のことはない、ホテルの7階の無線LAN自体の不調で、別の階のLANに接続したらちゃんとつながりました。それで、このブログ、一度書きかけたのですが、間違えて全部消えました。そのため、書き直したら全く別のものとなりました。幼少期の私は、前世記憶や白昼夢と同時に、特殊な能力がありました。それは、木と話す能力、木を通じてその土地のことを知る能力だったのです。最初は、庭の桜の巨木に触れたら、どこかが痛いと伝えてきました。見ると、木の根元にクロオオアリの巣があったので、破壊したところ、ついでにアリの巣に共棲していたシジミチョウ(クロシジミ)まで退治することになったのです。今思えば、このクロシジミ、大変貴重なチョウになってしまっていますから、地域的な絶滅に手を貸してしまったことになるのかもしれません。そして、桜の木は、別のことも教えてくれたのです。それは、何時か、祖父母宅を囲んでいた桜の園も、モチノキの巨木の並木も、オガタマノキの巨木も、全て消え去ってしまうビジョンだったのです。そのビジョンは、18年後に現実のものとなり、森も、竹林も、池も、全て消え去って、住宅地に変わってしまいました。思い出すだけで、涙が出ます。百年以上も生きてきたであろう木々を、いとも簡単に葬ってしまった人間の行為に。ただ、私自身には、それらの財産を失ったことはむしろプラスに働いたと思います。我が家が資産家のままだったら、私はおそらく手の付けようのない自信家で、人の気持ちを考えないエリートになっていたでしょう。そんな私は、自分の霊感とその使命を知ることもなく、運命の女性である今の妻と知り合うこともなかったでしょう。だから、木々や、多くの生き物たちの犠牲の上に、私の今の幸せがあるのです。感謝するとともに、彼らの冥福を祈ります。お口直しは、我が家のチンピラ、プラズマテレビの前が好きなケロロです。彼、他の猫に因縁つけて喧嘩を売るのが仕事で、カツアゲもこなす困った奴なのです。
Dec 13, 2010
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1週間の我が家滞在も終わって、また出張ロードの開始、今日は岐阜に来ています。それはよいのですが、三島駅で新幹線に飛び込んだアホがいて、東京で1時間足止めを食らいました。でもまあ、警察の現場検証込みで1時間遅れで済んだだけラッキーだったと考えるべきでしょう。しかしまあ、人身事故とはっきり言わないところが面白いところです。「三島駅で、線路に立ち入ったお客様が、のぼりののぞみと接触した事故で、東海道・山陽新幹線は運転を見合わせています。」「ただ今、負傷者を救出しています。」「警察の現場検証が終わるまで、運転を見合わせております。」「警察の現場検証が終わり、間もなく運転を再開できる見込みです。」…とのアナウンスだったのですが、私なら、「三島駅で、のぼりののぞみに飛び込み自殺した人の遺体を片付け、警察の現場検証が行われますから、新幹線の運転を見合わせます。」と言いたいところです。そういえば、一度中央線の人身事故で、「ただ今遺体を収容しています。」と正直にアナウンスされたことがあり、東京駅でぶーたれていた乗客たちが沈黙したことがありました。正確に状況を伝えるのがよいのか、オブラートに包んだように伝えた方がよいのか、どちらがよいと言い切れるものではありませんが。さて、私の体験を続けます。今日は、周囲の思い込みが本人に与える影響について、触れてみます。幼稚園から小学生にかけて、私は破天荒な行動を繰り返しながらも、両親も、周囲も、勉強と音楽については天才だが、その他のことについては、できないもの、特に、運動は全くダメだと思い込んでいたのです。これ、勉強ができる子は、運動ができなくても当然という日本的な思い込みによるものなのですが、本人も期待されていないため、ひどい手抜きをしていて、運動はからきしできないというイメージを周囲にも植え付けてしまったわけです。でも、当時私は、4階建てのアパートの屋上の手すり(つかまるものは何もありませんし、落ちたらまず死んでいたでしょう。)の上を綱渡りのように一周してみたり、平均台の上を平気で走ることができるだけの天性のバランスの良さは持っていたのです。10歳の時、祖父がなくなると、金の切れ目が縁の切れ目で、我が家というか、両親の関係が崩壊に向かい始めました。皮肉なもので、祖父の死と入れ替わりに、私は自身の自我に目覚めました。それまでの、天才と賞賛されながらも周囲を全く気にしない傍若無人な奇人から一挙に普通の小学生に変身したのですが、この時、前世人格が絶妙に共存していた記憶と頭脳から、現在の自分自身の記憶と頭脳への切り替えがうまく行かず、一時的にではあったのですが、天才ではない、全く普通の小学生に戻ったのです。しかし、この時に私はそれまでの自分(全てが現在の自分の記憶に移行されたわけではなかったのですが、今思い出しても信じられないような変な小学生でした。)を反省し、普通の小学生に戻った方が自分は幸せかなと考えるようになりました。そのままうまく移行していれば、また違った人生になったのかなと思いますが、私よりも子供だった両親が、見事に邪魔してくれたのです。父の会社(祖父が、大手商社をくびになった父にお情けで与えてくれた会社だったのです。)も放漫経営で倒産すると、借金取りが押し寄せてきました。その後両親ともまともに働かず、祖父から相続した土地の売り食いで食いつないでいたのですが、売るものが売れなかったらその日食べるものさえ無かったこともありました。これでは、普通の子供には戻れず、両親に助言する変な子供になってしまったわけです。ただ、その後数年間は、それどころじゃなかったのでしょうが、霊たちからも、前世記憶の白昼夢からも遠ざかることができました。続きます。
Dec 12, 2010
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今日は、のんびりと那須の我が家で過ごしましたが、明日からはまた出張続きです。さて、霊的なものと言いつつ、いわゆる霊は出てきていませんが、幼少期の私は、自分自身がはっきりしていなかったのと同時に、霊と生きている人間の区別も曖昧だったのです。そのためか、近所のお寺の墓地で遊んでいても平気でしたし、飼っていた猫のクロが死んでも、しばらく生きているかのようにさまよっていたのを見ていました。また、霊感については生まれつき備わっていたようで、お寺の墓地に向かう石畳の道が不自然に曲がっている個所があり、そこに立つと、昔(恐らく百年以上前)ここで、墓石を積んだ牛車が暴走して転倒し、何人かの犠牲者が出たことを感じたりしました。この感覚は今でも備わっており、何度か触れていますが、さまよえる霊に頼られる体質となっているようです。前世記憶による別人格と、今の自分の人格との折り合いは、最初は自分の人格が適当に消えることで何とかなっていたのですが、現世の肉体の自我がはっきりするに連れて、別人格は薄れていき、今は余程のことがない限りは出て来なくなりました。白昼夢的に見る異世界の光景も、現実に影響しない程度に抑えられるようになりました。ただ、記憶の方は大分残っているため、自分の中での調整が必要となったことと、いまだに見る異世界の光景が、むしろ現実に近づいてきたため、そのことによる混乱を収拾する必要が生じるようになってきました。私は、常人の数倍の思考速度と記憶容量をもっているようなので、その面の調整には苦労しなかったのですが、40歳を過ぎてから記憶容量が減ったことを実感するようになりましたし、50歳を超えてからは、思考速度にも衰えを感じるようになったため、現実と前世記憶や異世界との調整は、その内破たんすることになりそうです。このブログが突然更新されなくなったら、ああ、ついに頭がいかれたんだと思ってください。画像は、猫缶をくわえてよろこんでいる夏目です。彼も我が家に来て半年になりました。去勢したものの、元気いっぱい家中を走り回っています。
Dec 11, 2010
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今朝は、大変寒くて霜が降りた那須でしたが、東京は暖かな一日でした。さて、幼少期のことに触れてきましたが、一面では天才的な才能を発揮しながらも、私自身の生活は、現実感に乏しく、白昼夢の世界としか言いようがないものだったです。特に困ったのは、今自分の目に映っている世界が、現実世界のそれとは限らないことでした。昔の屋敷を見ただけでなく、ぼーっと庭を見ていると、中学生ぐらいにしか見えない若い母(実は、それでも20歳だったらしい。)が見えたり、美しい祖母が座っていたりしました。祖母は当時既に65歳だったのですが、どう見ても40代にしか見えないぐらい美しく、昔宇部小町と呼ばれた大変な美人だったというのもよくわかりました。しかし、更に若く美しい姿だったので、二人の姿から推測するに、私が見ていた光景は、二人がその地に疎開してきた直後の昭和20年、つまり、当時から18年前のものだったようです。自分が見えているものが、現在の光景ではないということは、私には大変危険なことでもありました。現実世界の光景が見えていないのですから、何もないところで転んだり、物を落っことしたり、自分が見ているものの話をすると、嘘つき呼ばわりされたり、母には、注意力散漫とぼろくそに怒られたり、嘘つきだと叱られたりで、DVの一因にもなっていました。上橋菜穂子作の「精霊の守り人」の中で、王子チャグムが異世界を経験する場面は、私には凄く実感のある、うなずけるものでした。そんな変な子供ですから、小学生になっても、おとなしいながらも周囲のことは全く気にしない、傍若無人な子供だったのです。自分が人からどう見えるか全く気にしないのですから、時として口を半開きにして涎をたらしていたり、どう見てもアホにしか見えないような姿のこともありました。それでいて、前世記憶の賜物で、勉強は教わらなくてもできてしまうのですから、周囲にしてみれば大変始末に悪い子供だったのです。その話はまた別の機会にします。
Dec 10, 2010
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今朝は、アラレがぱらついた寒い那須です。不定期に東京に通勤していますと、血圧が急上昇したため、大事を取って今日は休んで病院に行ったところ、何故か普通に近い値でした。東京は何かと相性が悪いようです。さて、続きです。前世記憶と、現在の自分の肉体の意識がどう折り合っていくか。考えてみると大きな問題なのですが、私の場合、一つの肉体で各々勝手に行動していたフシがありました。例えば、ヴァイオリンですが、3歳で習い始めたのですが、教師に教えられたというよりは、こうやってみなさいと言われたことが、当然のようにできて、なんら苦労することなく上達して行きました。いや、上達したというよりは、単純に技術的に高度なものを指示されたら、それが当然のように弾けていた、その繰り返しだけだったように思います。ですから、ろくに練習しなくてもできたわけで、練習しないことに腹を立てて母には殴る蹴るの暴行を受けましたが、当時、練習自体には余り意味はなかったのです。恐らくヴァイオリンの技術に関しては、前世記憶に頼っていたもので、天才が前世記憶に由来することは、往々にしてあるのです。ヴァイオリンを弾いている時は、前世記憶とともに、前世の人格が出現していたとも考えられます。いくら3歳の時とはいえ、他の記憶はかなり鮮明に残っているのに対し、ヴァイオリンを弾いている自分の記憶は、不思議なぐらいないのです。「お前は、海外の凄いヴァイオリニストの前で弾いたこともあるのよ。」とヴァイオリンを1年でやめた後も母に言われたのですが、確かにその証拠写真は残っていたのですが、本人の記憶は全く残っていませんでした。ヴァイオリン、前世記憶と人格に頼っていたためか、自分の人格と記憶が定着してきた後は、全然弾けなくなりました。ヴァイオリンをやめた後、安易にピアノに転向したのですが、ここでも天才的な才能を発揮しました。ただ、ピアノに関しては、特殊な才能があったことは確かですが、自分の記憶にしっかり残っていますから、前世記憶だけではなく、絶対音感のなせる技でもあったと思います。小学1年の時に教えてもらった先生は、音大の教授で、有名な人だったのですが、10万人に一人の音感と才能を持った天才とほめてくれました。音大教授の推薦もあったわけで、恐らくそのまま続けていれば、音楽大学に楽々合格できるレベルまで行ったのだと思いますが、今度は家庭のもめごとで続けられなくなったのです。この頃も、母の私に対するDVは続いていましたが、ピアノを弾いている時は幸福だったのです。そのためか、私がピアノを弾いていると、迷い文鳥が家に入ってきて、私の弾いているピアノの鍵盤の端に止まって、首を傾げて聞き入ったのです。そのままその文鳥は我が家に居ついて、半年後、別の文鳥が同じように私のピアノを聞きに迷い込んできて、居つきました。最初の文鳥はとてもよく慣れて、私のピアノのファンになってくれたのですが、くすんだ色で、見栄えが悪かったため、文鳥が欲しいという母の知人の娘にもらわれていきました。そして、二番目の文鳥は、半年後に飛んで行ってしまいました。思えば、私のピアノの音色にも、家庭のいざこざで曇りが出てきていたのです。でも、あの時私が最初の慣れている文鳥を残して、綺麗な二番目の文鳥をあげてと言っていれば、もしかしたらいろいろなことが変わっていたかも知れなかったのです。文鳥をもらって行った家族は、半年後に交通事故で全員死んでしまったのです。あの文鳥も恐らく…。運命はわかりませんが、もしかしたら変わっていたかもしれない、あの家族は死なないで済んだかもしれない、文鳥も幸せだったかもしれないと思うと、自分に腹が立ちます。画像は、我が家に来てもうすぐ1年のアシメです。
Dec 9, 2010
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出張続きのせいか、休みの日はどっと疲れが出て、今朝は何と起きたら9時でした。猫たち、食事3時間遅れに大ブーイングです。さて、続きです。何やら、自分と言う存在が希薄なまま、私は幼児期を過ごしました。臨死体験の後は、妹が生まれて2年ぐらいまで、両親が家を建てて独立するまでは、祖母に育てられました。しかし、両親が独立(とは言っても家は祖父宅の広大な敷地の端っこでした)すると、また母は毎晩のように私に殴る蹴るを繰り返しました。当時私は、ヴァイオリンの天才少年にもなっていたのですが、特にヴァイオリンの練習の時にはちょっと間違えるだけで殴られましたし、ヴァイオリンで叩かれて、弦で私の顔が切れたことも、ヴァイオリン自体が壊れたこともありました。おや、これで練習から解放されるのかなと思ったら、翌日には別のヴァイオリンが用意されていました。でも母、私を庭に蹴りだしたりするほどひどいDVだったものの、その後すぐに私を抱きしめるのです。まあ、超人的に丈夫だったこともあって、私は殴る蹴るにあっても、それほど痛みは感じなかったのです。そして、妙に冷静に、客観的に自分を捉えていました。子供の私は、何故こんなことをするのかと不思議だったのですが、別の私は、それは、ジキルとハイドの人格のようなもので、どちらも母親なんだよと捉えていました。つまり、今思えば私の中にも前世記憶の持ち主も同居していたわけで、複数の人格があったわけです。続きます。
Dec 7, 2010
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今日は、1週間ぶりに東京の事務所に出勤。いろいろたまっていた仕事を一挙解消、と行きたいところだったのですが、相手のあるものに関しては、そうは行きませんでした。残りは、明後日に持越し。さて、幼少期のお話続きます。何やら、自分自身でない記憶がちょこちょこ出てくるなと思いながら過ごしていた幼少期ですが、その分自分があいまいで、一言でいえば、変な子供でした。幼稚園生になっても、登園の途中で自然観察会に変わり、幼稚園に着いたときは、みんなお帰りの用意をしていた、何てこともありました。当時住んでいたのは、大阪の茨木の、今では高級住宅街になっているあたりなのですが、山あり小川あり、カワウソみたいな生き物やテンを目撃したこともありました。我が家は山の上で、幼稚園までは雑木林の中の小道を下って行って、神社の森の前を通っていくのですが、その神社の近くに、荒れ地になって、湿地や竹林に囲まれた平坦な土地がありました。ある時、その土地の前を通ると、二本の柱が両側にたった奇妙な門と、その奥に建っている洋館風の建物が見えたのです。ありゃ、こんな門も建物もなかったはずなのだが、と思いながら登園し、帰りに確かめたら、元の荒れ地でした。気になったので、その場所に何かあったんじゃないかと母に聞いたら、母自身は戦時の空襲で大阪の港近くにあった家を焼け出されて疎開してきたためよくは知らないがと前置きした後、土地の古老に聞いたところでは、我が家の敷地は、江戸から大正期にかけてはそのあたり一帯を所有していた大地主の豪壮な屋敷の一部だったとのこと。当時、土塀の一部だけが残っていたのですが、それも結構高くて大きなもので、私が見た場所に、洋館風の屋敷と門は実在したものであったことがわかりました。そして、その洋館に住んでいたのは大地主の偏屈な老人で、その老人が若い頃に慰み者にした女中が我が家の敷地の松の木で首をつって死んだとの言い伝えもあったのです。つまり、私が見た光景は、50年ぐらい前の明治期のものだったわけです。ただ、その話を聞いたとき、違うと思ったことがありました。老人は、女中を慰み者にしたわけではなく、彼女が好きだったし、相思相愛だった。それでもやむにやまれぬ事情があって仲を引き裂かれた後、彼女は世をはかなんで自殺したことは事実だったが、場所は屋敷の納屋であり、松の木ではなかった。直感的にそのことが頭の中に浮かんだのですが、その記憶は、当然幼児の私のものではありません。その偏屈な老人のものだったのです。ああ、そんなこともあったなあ、とその時前世記憶を明確に意識しました。続きます。
Dec 6, 2010
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昨日は、車のリコールで宇都宮にでかけたり、いろいろありまして、更新できませんでした。今日は、一昨日の雷雨と雹で栗が見事に落葉し、栗の葉陰になっていたキウイがみえるようになりましたから、収穫ついでに伸びすぎた栗の枝を剪定しました。以前なら枝の上に立って平気でチェーンソーを振り回すこともできたのですが、昨年の屋根から転落した事故以来、大事を取って無理はしないことにしました。さて、幼少期の話なのですが、不思議なことがたくさんありましたから、続けます。2歳前の臨死体験後、私は祖母に預けられたのですが、母も同居していましたから、買い物などには一緒に出掛けていました。2歳にならない頃、近所の市場(本当に昔ながらの市場でした。)にあったお花屋さんで、こんなことがありました。当時まだ珍しかったフォックスフェイス(ツノナス)が、あったので、私は「これなあに。」と女性の店員に聞いたのです。すると、「これ、フォックスフェイスっていうのよ。」と教えてくれたのに対し、私はほとんど無意識に、「へえ、キツネの顔なんだ。確かにそう見えるね。」と答えました。花屋さん、唖然とした顔で、母に聞きました。「お子さん、おいくつなのですか。」その時は、何故自分がフォックスフェイスの意味を知っていたのか、不思議に思わなかったのですが、今と違って幼児の英語教室などない頃ですし、両親から教わったこともなく、当然英語を知っているはずはなかったのです。ただ、母は、戦前神戸にあったインターナショナルスクールに通ったこともあり、父はアメリカ生まれで、外交官だった祖父に教えられたのか、英語、ドイツ語に堪能でしたから、両親の記憶から引用した可能性と、前世記憶から引用した可能性の二つが考えられる事例です。明日は、明らかに前世記憶と思われる事例について触れることにします。今日の画像は、抱え込みのニャチです。彼女、猫缶を他の猫から奪い取って見事に抱え込んで食べます。
Dec 5, 2010
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名古屋での仕事も終わり、帰宅するところです。今日は、早朝大雨、朝から昼過ぎまで快晴、2時から3時ごろまで雨強風、夕方になってまた晴れと、妙な天気でした。さて、続きです。不思議なものなのですが、誕生時の記憶はあるのですが、その後しばらくは、現在の自分の人格の記憶がありません。しかし、ただの幼児ではなかったことは確かで、母が言うには、1歳過ぎからほとんどの言葉は理解していたようだったとのこと。それで、1歳半ぐらいの時に、近くの医院に連れて行ったところ、胃腸の絵を指して、「い。」と言ったとのこと。それで、偶然だと思った医師が、「何のいかな。」と聞いたら、「お腹の中のい。」と答え、その場の人たちを仰天させたとのことでした。ただ、そんな幼児だったためか、両親と夫の板挟みになっていた上に、妹を妊娠してつわりで苦しんでいた母にはものすごいストレスにもなったようで、私は2歳にもならない幼児なのに、毎晩のように殴る蹴るのDVにあっていました。そして、ある時母は、私を当時住んでいた祖父母宅の縁側に向かって突き飛ばしたのです。この時の記憶は、陰画のような情景で残っており、後ろ向きに飛んでいく私に、祖母が手を伸ばしたのですが及ばず、そのまま縁側から転落しました。縁側というと、普通ならその先は庭と相場が決まっていそうですが、祖父母宅、縁側の向こうは高さ数メートルの崖で、ロックガーデンのようにところどころから突き出た岩に、転落した私は、頭からまともにぶつかりました。ぐしゃっと頭が砕けた感覚はあったのですが、奇跡的に後頭部の切り傷だけで済みました。この時のことは、臨死体験として以前書いていますので、興味のある方は探してみてください。青い空間から生還した私は、何故か母のDVの理由を理解できるようになっていました。その後もDVが続いたため、祖父は、私の命が危ないと思い、祖母に預けました。続きは明日。
Dec 3, 2010
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周囲が暑い暑いと大騒ぎの内に熊本県荒尾市での仕事を終え、今は佐賀県鳥栖市に来ています。確かに、暑くないといえば嘘になりますが、私としては、上着まで着ていられたぐらいですから、少なくとも海の日のさいたま市の暑さにくらべれば、屁みたいなものでした。ともあれ、今はホテルの部屋で一服。しかし、このホテル、エアコンの効きは今一つかな。実際は、これぐらいが省エネだし、健康にもよいのだとは思いますが。今回の九州出張、割と時間的に余裕があったため、西鉄ではいつもの特急ではなく急行と普通に、JRでも普通に乗ってみました。すると、見ているようで見ていないものがいろいろあることがわかります。西鉄大善寺駅で、しばらくホームのベンチに座って特急を待ってみるのも、暑いながらも乙なものでしたし、JRの久留米駅が変貌していることには、特急にばかり乗っていて気付きませんでした。九州は、父方が薩摩閥の私のルーツ的に少しは関係あるはずなのですが、その鹿児島には出張で一度行っただけですし、余りぴんと来ないものがあります。逆に、母方の長州と父方のもう一方である土佐の方がなんとなく馴染みがあります。面白いもので、初めて行ったはずの土地でも、どこになにがあるかわかるのは、私の経験から言うと、前世で関係があった場所なのです。私自身の記憶的には、近くは戦時中や江戸明治のころ、遠くは飛鳥時代にまで関係が深かった大阪、京都、奈良がもっとも馴染み深く、息子と壮絶な戦いを繰り広げた悲しい記憶の舞台は鎌倉だったようにも思いますし、ヤマトタケルのモデルの一つと考えられそうなイソタケル(と呼ばれていたように思います。)の前世では、ヤマトから出征して、伊勢、熱田、駿河、筑波から現世の妻の実家である福島の山中あたりまで遠征していたようです。しかも、今の関ヶ原あたりまで戻ってきた後、死んだことにしてエミシの人たちと同化し、今の津軽あたりに長い年月暮らし、最後は丹後のあたりまで戻ってきてそこで死ぬ時、ヤマト時代の親友がその地の長にになっていて、お墓を築いてくれる約束をしていたから、そのお墓が峰山あたりにあるはずだと言ったら、本当に古墳が見つかったこともありました。邪馬台国は九州論者には怒られそうですが、このイソタケルの前世記憶からは、畿内説の方しか浮かんできません。ただ、一つ変な記憶があります。父の記憶なのですが、大学生時代に英語ドイツ語が堪能であったことを買われて徴兵された彼は、最初通信兵として潜水艦に乗り込んだものの撃沈され、唯一に近い生き残りで助かり、次は水雷艇に乗せられてこれまた撃沈され、腹部を銃弾が貫通する重傷を負いながらも奇跡的に生き残り、皮肉なことに学徒動員で徴兵された私の前世と入れ替わりに宮崎に戻ってきたのです。(この時、父と接点があったような気もします。)父は、今の平和台公園の「八紘一宇」の石碑に向かって慟哭しました。八紘一宇とは、世界は一つの家のようなものであり、みな兄弟であるということではないのか。なぜ殺しあわなくてはいけなかったのだ。でも、戦争で殺しあった記憶のためか、父はその後まともではなくなっていました。今ならPTSDと診断されるかもしれませんが、私が知っている父は、人間的な感情に欠けていたのです。喜怒哀楽を示さない人だったのです。私自身も、母のDVで何度も殺されかけたためか、父に似た感情の表現をすることがあり、妻や子を気味悪がらせるとともに、ああ、変なところが似ているなと自分でも思うのですが、幸い、家族に対する責任感だけは人一倍ありましたから、その感情表現が父ほど非人間的にならずに済みました。ですから、私も機会があれば、平和台公園の石碑の前に立ってみるべきかもしれません。そうすれば、父の声をもっと聴くことができるのかも。
Jul 23, 2010
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大阪は今曇り空、雨は降っていませんが、まだ大雨の危険が続いています。今日ようやく那須の自宅に戻る予定ですが、深夜になりますので、朝のうちに更新しておきます。レムリア編天使との対話はこれでおしまいですが、最後は天使ではないロキとの対話となります。天使たちの最後に、プロセルビナ、ジブリルの異母姉妹が夫のゲンブとともにやってきたが、彼女たちは、ミドの遺伝子とアールマティー、アムルタートの卵子を組み合わせて最初から卵の形で誕生させた二人だったので、余り親子との感覚はなく、二人ともドライだったので、お別れに来ただけだった。むしろ、ゲンブの方が気にして、死ぬことの感慨をミドに尋ねたが、アールマティーに答えたように、次に変化するだけであり、それほど何とも思っていないと答えたので、彼も安心し、3人で別れを告げて帰っていった。「さあ、この肉体最後の務めは、3人の妃たちとのお別れだが、人間にも頼んでおくか。」ミドは、一人で宮殿を出ると、今は引退しているロキの家に向かった。ロキと妻のシギンは喜んで迎えてくれたが、ミドは、シギンを除いてロキ一人だけと話しがしたいと言い、二人で村の裏手の太陽のヤカタに向かった。「国王は、いよいよ死を覚悟されたのですな。」太陽のヤカタの頂上から村を見下ろしながら、ロキは聞いた。「そうです。それで、天使達とお別れをしてきたのですが、3人の妃達と最後のお別れをする前に、人間の代表としてあなたに一つ頼んでおこうと思ったので、シギンさんを除いてわざわざここに来てもらったのですよ。」「それでは、国王は、私の秘密をご存じなのですね。」ロキが尋ねると、ミドは深くうなずいた。「ええ。あなたとアングルさん、それから娘のシュリーさん、いや、ヘルさんの方が実態を表していますかな。ヨルムンガルトとウートガルトの血を引いているとすれば、普通の人間よりも、はるかに長命なのではありませんか。」ロキは、微笑みながらうなずいた。「あなたには隠しようがありませんな。確かに私とアングル、娘のシュリーは、前回の大異変前の失われた一族の生き残りとして、非常に長い寿命を持っているでしょう。」彼らは、数百年単位で生き続けることができたのだ。「ヴァルナ様とオオモノヌシ様も同じですが、実は、娘のアスタルテもそうなのです。」アスタルテは年をとらない異世界マガダに行ったと聞いていたが、それ以降もたまに見かけていたし、容姿が全く変わっていなかったので、ミドの言うとおりだと納得した。「それで、私に頼みとは。」「あなたは、恐らくシギンさんが死ねば、カスリルでアングルさんとヘルさんと暮らす積もりでしょう。」「そこまで、見抜かれていましたか。」ロキは、ミドの洞察に感心した。「あなたのことだから、その前に自分の存在を適当に抹殺するのでしょうが、その後のあなたに頼みがあるのです。」「おやおや、完全に引退するつもりでしたのに。」ロキは、苦笑していた。「いや、私は、レムリアの未来は、あなたの血を引く一族が支えてくれると思っています。」「と言うよりも、私の一族が、レムリアを受け継いだあなたの一族を滅ぼすことになるのではありませんかな。」ロキは、少し意地悪く確かめた。「実態はそうでしょう。でも、それでよいのです。それがレムリアの運命だと私は思っていますから。」「そこまで、お考えでしたか。それなら、あなたの願いは受けるしか無さそうですね。」ロキは、ミドがそこまで知らなければ適当にあしらおうと考えていたが、自分が思っていた以上に知っていそうなので、受けることにした。「陰ながらレムリアを見守り、時が来れば滅ぼして、取って代わってもらいたい。それが私の願いですよ。」「そこまで言われれば、どうにも断れませんな。私は、アングルには、シギンが死んだら一緒に暮らそうと約束しています。スレイヴニルにも、シギンが死んだら私は消えると予告していますから、彼は察しているでしょう。スレイヴニルも、ヤンさんより長生きはするでしょうが、所詮は人間としての長命でしょうから、私のようには行きません。ですから、レムリアを滅亡させるのは、ヘルの子供達か、私とアングルの間に更に産まれる子供達でしょうね。」「まあ、何百年も先のことでしょうから、今の世代の人間は無関係ですよ。」「それでも、敢えて滅ぼせと言われるのですか。」ロキは、念を押した。「そうです。その時は、レムリアも堕落しているでしょうからね。」「ミトラス国王の教えも、そこまでは受け継がれないわけですな。」「そうですよ。私の教えは、大異変の記憶がまだ受け継がれている今だからこそ真剣に受け入れられているのです。大異変が忘れ去られた頃になっては、同様に忘れ去られるでしょう。」「確かに、それが真理でしょうな。あなたは、大神官たちには、大異変の記録を受け継ぐように指示されていましたが、それも続いても数百年というわけですな。」「そんなものですよ。それだけ続けば上等でしょう。」ロキは、ふと気になったので聞いてみた。「その時、あなたは、どこで何をしているのですか。」ミドは、正直に答えた。「見ようと思えば見ることができるのですが、見ないことにしています。テスカスポロのようになっているかも知れませんし、そこらのこそ泥になっているかも知れませんよ。」ロキ、彼の転生を殺すのは気が引けるので尋ねたのだが、それなら気にしないことにした。「じゃあ、私はその時になったら気にせずに決断することにしますよ。」「お願いします。」「ミトラス国王のお願いは、それだけですかな。」「ええ。国王としては、それだけです。」「ミドさま個人としては。」ミドは、しばらく考えて答えた。「アスタルテに会うことがあれば、声でもかけでやってください。」「喜んで承っておきましょう。しかし、あなたからも天使達に一言伝えておいてください。」「ヨルムンガルト、ウートガルト一族を、滅ぼさないようにとですね。」「ええ。目立つ気はありませんが、何せ、古代の生き残りですからね。天使達とは相容れないものがあるかも知れませんからね。」「わかりました。遺言しておきますよ。」「では、ミトラス国王及びミドさまの遺言、しかと承りました。」天使との対話編おわり。
Jul 15, 2010
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今日の大阪は、梅雨にしては強すぎる雨が降るぐずついたお天気でした。しかし、京都や亀岡、実家近くの南丹は大雨洪水警報でしたから、まだ大阪の方はましだったようです。近年、ゲリラ豪雨が頻発していますから、ダムはムダとばかりも言っていられないと思います。大恐慌の後、アメリカがニューディール政策の一つとしてフーバーダムを築いたように、災害対策と建設関係の雇用確保を兼ねて、八ツ場ダムを復活させてもよいのではないかと考えます。さて、続きです。ミドは、ルキフェルにも同じ能力があり、彼なら平気だろうと思っていた。「ルキフェルは、その永遠をも凌げるだろう。だから、何千年の時を越えることも容易いはずだ。お前達は、それとなく見守ってやってくれ。」「何故私たちなの。」アスタルテは、少し疑問に思った。「お前は、人間でもルキフェルの姉だ。彼が一番信頼している相手でもある。」「そうかしら。極普通よ。姉と弟って感じより、ただの友人って感じ。」彼女の言葉に、ミドとイスラフェルが顔を見合わせて笑い出した。「何故笑うのよ。」「ルキフェルが普通に話せる相手が、この世の中に何人いるか考えてごらん。」夫に言われると、アスタルテも思い当たった。「あっ、そうか。生みの親のスザクさんと、父さんと、私だけかな。」「そう。だから頼んだのだ。」「わかったわ、任せて。私にとっても、一応可愛い弟だから。本当に、彼のどこにそんな力があるのか、私にはわからないし。」イスラフェルは、ミドに最後に確かめたいことがあった。「父上、最後に聞いておきたかったのですが、父上は私たちが子供の頃はいろいろと指示してくれましたし、他の人々にもいろいろな知識を与え、啓蒙していました。それがここ数年は、全て人任せにするようになったのは何故だったのですか。」ミドは、息子の言葉ににっこり微笑んだ。「流石に気付いたか。」「そりゃあ、気付きますよ。以前の父上は、むしろ教え好きでしたが、途端に突き放すようになったのですから。」「そう言われれば、あなたの言うとおりね。今じゃ、完全にサクヤ母さんとマルドゥーク任せだもんね。」この数年のミドは、外交とレムリア武闘会のような面白そうな企画には首を突っ込んだものの、他のことは政治は内大臣サクヤ王妃と摂政であるマルドゥーク皇太子に、宗教はトゥーラ王妃兼巫女頭に、民衆の意見聴取はツィンツン王妃やリン皇太子妃に任せていた。「結局人間は、自分で気付いて努力したこと以外身に付かないことを悟ったのだ。だから、口は出さないことにした。」「大神官としての職務も、放棄されたのですか。」ミドは、大異変に国王に即位した直後、天使に愛された神に近い人間としての自分を民衆にアピールすることによって、国民の信頼を勝ち得ていた。しかし、復興が進むに連れて宗教色を薄れさせていき、最近では大神官としての立場は有名無実と化していたのだ。「そうだ。宗教なんてものは、確かに支配するには都合のよい道具になる。だから、天使たちも巻き込んで利用させてもらったのだが、所詮それだけでは、人々は何かにすがるだけで、自分の力を知ろうとしない。ひいては、自発的な努力もしなくなってしまう。だから、適当なところで、名前だけ残して引退させてもらったのだ。」イスラフェルには、父の考えがよくわかった。「確かに、人間の進歩のためには無い方がよいでしょうね。宗教は、結局は制約であり、人々を縛り付けることにつながりますからね。」「じゃあ、トゥーラお母様の立場は。」トゥーラは、巫女頭のままだった。「トゥーラは、シャーマンの親玉でいいのだ。女神にはならない程度で機能しているから。」サクヤ内大臣の知恵でもあったが、ミドと同じくトゥーラも以前の国家宗教の女神のような立場から一段降りて、ミドの言うようにシャーマンとしての巫女の代表格になっていたから、政治色は薄らいでおり、サクヤと衝突しないで済んでいた。「父上のお考えよくわかりました。では、アスタルテは私にお任せください。」「任せたぞ。」イスラフェルと抱き合って別れを告げた後、ミドは、アスタルテを抱き締めた。「永遠に元気でいろ。」彼女は、流石に感極まって涙をこぼした。「わかったわ、お父様。他の皆との別れは、お葬式の時にすることにするわ。じゃあ、さようなら。」軽く手を振った後、アスタルテはイスラフェルと手をつなぎ、姿を消した。続く。画像は、道頓堀のシンボル?グリコの看板です。私が知っている看板とは別物で、大変ハイカラになっていました。
Jul 14, 2010
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今日の近畿地方は、曇り時々雨ながらも、蒸し暑い一日でした。仕事が終わって、中津のホテルから、妹の住んでいる天神橋5丁目まで歩いてみましたが、意外に近く、20分少々で着きました。天神橋筋の商店街、活気があふれていて、ほっとします。さて、レムリア編の続きです。アスタルテは、チーチェンの言葉を思い出した。「そう。チーチェンさんが、天使の有志を集めて『天使のミトラス教団』って集団を作って、人間社会を陰で導きたいって言ってたわ。」元は人間ながら、スザクの体を得て不死になり、夫のヤシャとマガダで暮らす彼女は、アスタルテの先輩といえたが、ミドの死後は天使の痕跡を消し去り、陰から人間世界を見守って行きたいと考えており、アールマティーも賛成していた。「じゃあ、お前達の子供は適任だな。」「ううん、本当はチーチェンさん、父さんとセイシさんの息子のルキフェルをその代表にしたがっているのよ。でも彼、逃げ回っていてマガダに帰ってこないのよ。」天使たちも、高次元の女神セイシの血を引き、思考の物質化能力を持つルキフェルに一目置いていたのだが、彼は全く居所を知らせずに世界中を回っているため、その所在をつかめないでいた。「ルキフェルは、お前と同じで、マガダでは異質の存在なのだ。いや、彼の場合はもっと深刻で、この世界でも異質の存在なのだ。」「スザクさんもでしょう。」彼女もセイシの体を受け継いだため、思考の物質化能力をもっていたが、コントロールできないので、アシューラたちが何とか封印していた。「彼女は、一応能力を封印したし、四神は元々天使たちに近い立場にあったからまだ融和しやすかったのだ。しかし、ルキフェルに関しては、アシューラも、どう分析してもただの人間としか言い様がない時と、天使すら超越したセイシ様譲りの力を発揮する時があるのだから、存在自体が人間でも天使でもなく、不可解としか言い様が無いと言っている。だから、本人は悩んでいるのだ。」二人もそのことは十分知っていた。ルキフェルがマガダに居着かないのは、異質な存在であることもあったが、ゲンブとプロセルビナの娘のリリスが、ヤシマ風の美男子の彼に迫ったことがあり、情熱的な彼女をうるさく思って拒絶したところ、手も触れていなかったのにリリスは跳ね飛ばされ、何とマガダ宮殿の柱に体がめり込んだのだ。体中の骨が砕けており、慌ててルキフェルが柱から引き剥がした時には死んでいたと言うのだが、彼が手当てしたところ、不思議に生き返り、体も元に戻ったのだ。そして、その時ルキフェルは一時的に銀色に輝く巨人に変身したという。両親もルキフェルも、マガダ宮殿の柱にくっきり彼女の体のままの凹みができたから心配してたんだけど、リリスは、怖がるどころか懲りずにまたルキフェルの銀色に輝く姿が見たいと迫ったため、ルキフェルの方が逃げ出したのだ。その時マガダを逐電した彼は、最初に父のミドを訪ね、どうして自分のような異端者が生まれてきたのかと問うた。ミドは、誰もが意味を持って生まれてくるのであり、お前のように強大な力を持つものほどその使命は重い。その使命を自分で突き止めねばならないと答えた。「彼は、本当に面白い存在ですね。一見他の天使と違って全く普通の人間です。」「そうだな。絶世の美女の母に似てイュン風の美男子だが、確かに誰も彼が天使よりも上の存在とは思わないだろう。」「父上は、彼の変身を見たことはありますか。」「いや。本人とリリスから聞いたことはあるが、見たことはない。」ルキフェルは、リリスを手当てした時に変身したと言うのだが、本人とリリス以外実際に見た者はいなかった。「リリスが生き返った時、普段と全く違うルキフェルの姿がそこにあったが、彼女『あの姿を見ることができただけで死んでもいいと思った。』と言います。だから、その後もルキフェルを追いかけているんですよ。」「そうか。私が本人から聞いた話では、身長が2メートル以上に伸び、全身が銀色に輝いたとのことだが、その言葉だけで想像すると、ある天使に近いな。」イスラフェルも、ミドが誰を指しているかわかった。「クシャスラですね。」「そうだ。彼、顔は私によく似ていたが、銀に輝く白い肌、銀髪の天使だった。」イスラフェルは、母の言葉を思い出した。「最初の6天使は、アシャはスサノオおじい様、クシャスラは父上、ウォフ・マナフはテスカスポロ、ハルワタートはサクヤ母上、アムルタートはトゥーラ母上、アールマティーはツィンツン母上に似ていたそうですね。でも、アールマティー母上は、これは決して偶然ではないと言います。」話が難しくなってきたので、アスタルテは抗議した。「もう、何難しいこと言ってるのよ。」「この世界の話だよ。」「どこがどうつながるのよ、父さん。」「天使は、元は6人だった。そして、それぞれの担当とも言うべきものがあった。イュンの四神はもっと直接的で、北、東、南、西の方角と、地、水、火、風が彼らの性質となっていた。十二神将は、それを更に3人ずつに分けている。つまり、6人も4人も12人もそれぞれこの世界を表しているのだよ。」アスタルテは、サクヤがスザクの体を乗っ取って倒したセイリュウも、誰かに転生したのか興味を覚えた。「四神が一人欠けたままになってるけど、転生したのかしら。」ミドも、そのことを考えたことがあった。「特定するのは難しいが、一番資格がありそうなのは、スザク、メタトロン夫妻の息子のゼルエルかな。」するとイスラフェルが笑った。「うん。確かに彼は、両親に似合わず乱暴者だ。」アスタルテは、ゼルエルを非難した。「私、あの子嫌い。」「何故だ。」「私を口説いたんだもん。」「おや、それは尚更ぴったりだな。セイリュウは、人間の女が好きで、時々口説いたり襲ったりしていたと言うからな。」セイリュウは、セイシの命令でレムリアの宮廷に密通者を作ろうと後にマルドゥークの妃になったメイ・リンを脅したのだが、彼女が応じなかったので陵辱した。それがきっかけとなって、彼女を大切にしていたサクヤが切れて邪眼を最大限に使って仲間のスザクの体を乗っ取り、仲間と思って油断した彼の顔を、スザクの火の能力を使って焼いたところを、サハーラが刺し殺したのだ。「でも彼、リリスが好きなのよ。で、リリスは今でもルキフェルにご執心だから、二人ともまだ相手なしなのよ。」「ゼルエル、異父兄とも言えるルキフェルに手を出さないか。」ミドはそれが心配になった。普段の彼は人間そのものだから。「一度出したんですよ。マガダに帰ってきたところを待ち伏せして。私は、いざとなったら止めに入ろうと見ていたのです。ところがルキフェル、彼がなぐりかかった拳を左手の人差し指一本で受け止めてにっこり微笑んだんです。そして、『命は粗末にしないことだ。前世で懲りただろう。』と言ったんですよ。」それなら、尚更セイリュウなのではないか。「ゼルエルはどうした。」「彼、立ったまま失神していましたよ。後で聞いたら失禁もしていたらしいんですが。それで、あんなに怖い思いをしたことはないと今でも言いますよ。でも、それ以来大分落ち着いてきましたね。アスタルテにもちょっかい出さなくなりましたし、リリスにも優しく接するようになりましたから。」「そうよね。兄だけど、あんなに危ない奴はいないから、俺の妻になれって一生懸命リリスを大事にしてるわ。でもリリス、『あの怖さと美しさが一緒になった姿がたまらないのよ。危ないのはあんたの方よ。』ってなかなかなびかないの。」「ルキフェルは、全くその気は無いのか。」ミドが再度確かめると、アスタルテは笑った。「彼、リリスから逃げ回ってるわ。」「どうしてだい。」「今度は本当に殺しかねないからって。」「世の中面白いものだな。」「何が。」「彼ら3人は、ぐるっと回った関係だ。」「それもそうかしら。でも、ルキフェルってずっと独身でいるつもりかしら。」「何千年かすれば、気が変わるだろう。」「気が長い話ね。」「永遠に比べれば、一瞬だ。」「そう言えば父さん、ロキさんと戦った時、永遠の時を使ったって聞いたけど、どんな感覚だったの。」イスラフェルも、父が使ったとされている永遠には興味があった。「試して見るか。言葉で説明してもわからないだろうから。」「大丈夫ですか。そんなことして。」イスラフェルは、心配になった。「いや、ロキさんですらおかしくなったのだから、恐らく普通の人間は発狂するだろう。アムルタートさんに頼んでからの方がいいな。」父にさらっと言われて、アスタルテは慌てて断った。「それならいいわ。やめとく。時間はたっぷりあるから。」「そうだ。無理をするな。」イスラフェルも、妻にすすめた。「まあ、その方が無難かな。私がロキさんに使った永遠は、本当に何も起こらない時間だったからな。」「考えただけで発狂しそうですよ。」「うん。そんな感じね。」続く。画像は、丹波の家の池の上にかかった木の枝に産み付けられた、モリアオガエルの卵塊です。
Jul 13, 2010
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今日は、博多から広島県の福山市に移動しました。午前中博多で、福岡市美術館に行ってみたら、シアトル美術館所蔵の日本・東洋美術名品展が開催されていました。これ、意外と言っては失礼ですが、素晴らしい名品ぞろいで、私としては珍しく1時間以上をかけて見て回りました。特に面白かったのは、烏図屏風で、一見真っ黒なのですが、よく見たら黒いなか、目も羽も一枚一枚ちゃんと描かれていたのです。ただし、このために昼食は中州でラーメンの予定が狂って、新幹線の中でパンをかじることになりました。福山、広島県第二の都市で、古くからの瀬戸内交通の要衝であり、宮崎アニメ、「崖の上のポヨ」の舞台のモデルにされたといわれる観光地鞆の浦を含む海でも有名なのですが、現在は、産業的にはJFEスチール元の日本鋼管の企業城下町であり、近年の不況で影響を受けており、駅近くの繁華街が少しさびれつつあるのが気になりました。さて、続きです。では、自分はどうなのだろうか。「じゃあ、生き続ける私はどうなるの。」「お前は、運命の、魂の相手がイスラフェルだったのだ。だから、生き続ける選択をすべきなのだ。」そう言われると理解できた。「うん。確かに私にはイスラフェルしかいないと思う。でも、父さんたち転生したら、その相手を見つけるのに苦労しないかしら。相手がどこに生まれ変わるかわからないでしょう。」確かにそのとおりなのだが、ミドは、心配はしていなかった。「大丈夫だ。心を開いていれば、どんなに離れていても結ばれるものだ。」「そんなものかしら。」「神様も、大抵は身近に転生させてくれる。」「それって手抜きじゃないの。」これにはミドもイスラフェルも大笑いした。「手抜きかも知れないが、魂の友人であるソウルメイトは、言って見れば同じ学校の生徒みたいなものだから、共に学ばせようとするんだろう。」「ふーん。じゃあ、父さんと母さんは、同級生なの。」「そんな感じかな。でも、本当のソウルメイトは、トゥーラ一人だけかも知れない。」「サクヤお母様も言ってたわ。」「何と。」イスラフェルが聞くと、アスタルテは笑いながら答えた。「父さんとトゥーラお母様は、末代まで続く腐れ縁だって。」うなずくミドに、イスラフェルが尋ねた。「それほどまで学ぶべきことがあるのでしょうか。」「同じ魂同士でも、本当にわかりあい、許しあえるようになることは、それだけ難しいのだよ。」アスタルテは、ふと思いついた。「と言うことは、現世ではトゥーラ母さんとは十分にはわかりあえなかったってことかしら。」「そうだな。」ミドがあっさり認めると、イスラフェルが驚いた。「本当ですか。とても信じられませんね。」イスラフェルは、ミドとトゥーラは、他の二人の妃とは違う特別な関係であり、その間にわかりあえないものなどないように思えていたから。「私も信じられないわ。一体、どこが、わかりあえなかったの。」「そうだな。お前達はまだまだこれからだから、話しておこう。」「是非聞かせてください。私は、父上とトゥーラ母上の関係が一つの理想だと考えていましたから。」「そうよ。ツィンツン母さんも、一つの理想だって言ってたもん。」ミドは苦笑していた。「ツィンツンが言った、一つの理想との考えも間違いだとは思わないが、それは少々欠陥があった方が人間臭いとまで考えた上でのことだ。だから、まだまだ向上の余地はあったのだ。」「どんな点がですか。」「少々、一方通行の点があったことだ。」「どこがなの、父さん。母さんはテレパスだから、みんな心で伝わってしまうでしょう。父さん、十分にやってたと思うけど。」「私も同感ですが。」二人は、ミドはトゥーラを十分に理解していたと思っていた。「逆なんだよ。」「何がよ。」「トゥーラはテレパスだから、私の心の中を覗ける。」「そうよね。だからこそわかりあえるんじゃないの。父さんは、母さんのこと十分理解していたと思うし。」「そう思っていましたが。」「恐らく、通常の人間のレベルで言えば十分だったろうが、二人ができたであろうことを考えるとそうとは言い切れなかったのだ。むしろ、私は理解したであろうし、許すこともできたろう。」「じゃあ、母さんは十分じゃなかったの。」「そうだ。」そう言われると、イスラフェルにも思い当たることはあった。トゥーラはともするとミドに感情的に当り散らすことが多く、物事を十分理解しているとは言い難い面はあったから。「父上がそう言われるなら、確かにそのとおりでしょうね。トゥーラ母上は、父上に常に感情的に接していたようにも思われますから。」アスタルテも、夫の言うとおりであることは理解した。「確かにそうね。世界広しと言えども、レムリア国王ミトラスの顔をぶんなぐったのは、トゥーラ王妃だけね。」すると、イスラフェルが苦笑しながら付け加えた。「アスタルテの今の言葉、父上の名前を私に変えて、トゥーラ王妃をアスタルテに変えてもあてはまるな。」「あっ、そうね。似たもの親子かしら。」「いや、お前の方が凄い。」「何故。私は母さんほど手出さないわよ。」「トゥーラは私と同じ人間だ。しかし、イスラフェルは天使だ。人間で天使に手を上げるとは、凄いとしかいいようがあるまい。」アスタルテは、夫の言葉に苦笑した。「そう言われれば、そうかしら。でも、イスラフェルは、私にとっては天使でも何でもないわ。」「じゃあ、私はなんだい。」「私の一部かしら。生まれたときから一緒だし。離れられない感じ。」ミドはふと、イスラフェルが言った言葉を思い出した。彼にとってアスタルテは、妻であり、娘であり、自分の分身でもあるとのことを。「却ってお前たちの方が理解しあっているのかもしれないな。」「そうかしら。でも、まだまだよ。私、母さんみたいには行かないもの。」「そうだな。お前達には一杯時間がある。」「じゃあ、もう一度。」また腕に噛み付いたアスタルテに、イスラフェルは苦笑していた。「そうだな。人間と天使が理解しあうためには、永遠に近い時間があった方がいい。」「ちょっと長過ぎないかな。」アスタルテの実感だった。「その点は、我々にもわからない問題でもあるかな。最近と言うか、父上と戦うまでは、天使も、四神も、十二神将も、お互いが結び付くなんて考えてもいなかった。まして、子孫を残すことなど想像だにしなかった。ところが、今や、名前が直ぐには出てこないほど増えてしまった。この先どうするかは、我々が考えなくてはならない問題だ。」「ビャッコさんは、78人以上にはならないようだと話してくれたが、お前達に子供ができないのも同じかな。」イスラフェルは、アスタルテと顔を見合わせ、彼女が答えた。「ううん、それはどうにでもなるのよ。確かに、マガダではこれ以上増えないようだけど、外に出ていればいいだけなんだから。私、父さん母さんが生きている間は、自分が子供でいたかったから、マガダの中でしかセックスしなかったの。」「そうだな。お前達は、急ぐことは無いから、今は父さん母さんに甘えることだな。」アスタルテは、夫の腕の中から飛び降りて父に抱き付いた。「もう少し子供でいさせてね。」「わかったよ。」ミドは、娘を優しく抱き締めた。「お前達の子供はきっと不死だ。人間の、いやこの世界の行く末を見守ってくれるだろう。」続く。画像は、チャトラの上でくつろぐ夏目です。すくすく育っていきます。
Jul 10, 2010
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今日の熊本はいいお天気でした。仕事は無事終わって、今は博多のホテルにいます。レムリア編続きます。イスラフェルが扉の方を見ると、アスタルテが駆け込んできてミドに抱き付いた。「お父さん。本当に死んでしまうの。」彼女は涙目だった。「人間、誰しも死ぬものだ。それをどうこうしようとしてはいけない。全ては、あるがままにあるのが正しいのだ。」「じゃあ、私が悲しいと思う心は。」「それも自然なものだ。出会いと別れを繰り返すのも人生だ。」安らかな笑顔の父に、アスタルテも少し落ち着いてきた。「それで今日は、マガダの人たちとのお別れの日にしたのね。」ミドは苦笑した。「そんなつもりはなかったのだが、アールマティーさんが会いに来たからそうなってしまった。アスタルテも、パレンケに来るのは久しぶりだろう。母さんとは会ったか。」意外にも、彼女はいたずらっぽく笑って首を振った。「ううん、こっそり隠れて近づいて驚かそうとしたんだけど、何だか父さんが死ぬことを忘れようと必死になっているみたいで変だったから、出て行けなくなっちゃった。」「そうか。でも、イスラフェルも一緒に会ってから帰るんだぞ。」「うん。それは彼にも言われてるの。」アスタルテは、夫と腕を組んで彼の頭を見上げると、彼も笑顔で妻の顔を見て微笑みあった。「父さんは、まだ3人の妻とはお別れしていないんでしょう。」「それは最後だ。お前以外の子供達は、察している。」「何か言った。」「いや、逆にお互い何を言ってよいかわからないでいる。」アスタルテは、大きくうなずいた。「うん、わかるわ。そんなものよ。でも、きっとマルドゥークは、サクヤお母様の言いつけで、父さん亡き後のレムリアのことを考えているでしょ。タケルは、ヒミコさんのことかな。彼女、父さんが死ぬことも全部見抜いているし、ニニギ国王の後のヤシマのことは、女帝の彼女が考える立場にあるし。ヒンダスのニンリルは、今ラーマおじい様と父さんとどっちが先に死ぬかのところだから、それどころじゃなさそうだわ。でも、あの子はツィンツン母さんとサクヤ母さんの強いところを取ったような子だから、二人が死んでもきっとあっけらかんとしてるでしょう。ウズメは、ジダとスメルの復興のことで奔走してるから、父さんのことはころっと忘れてる。ニヌルタは、ラーガといまだにべったりで、子供たちが呆れているような変な夫婦。ラーフは、キョンニャンに尻に敷かれて、子供達だけでなく、コウ、ミリ夫妻のことまで面倒見させられてる。」さらっと流した言葉だったが、真実を突いていたからミドは大笑いした。「そのとおりだろうな。ところで、お前はどうだ。」父に聞かれたアスタルテは、答えに詰まった。「うーん、よくわからない。でも、私はイスラフェルとマガダに居て幸せだし、父さんの顔を見たら、父さんはそれで良かったと思える。世の中に対する執着は、全て断ち切った、そんな感じだし。」「アールマティーさんとも話し合ったのだが、結局この世は幻のようなもので、人間の生死などちっぽけなものなのだと悟ったのだ。」「そうよね、そんな感じがしたわ。でも、父さん人生は大切だと言ったじゃない。」彼は、子供達には常々人生を大切にするように話していた。「この人生で生きている時は、その生を大切にすべきだが、それは何が何でも生にしがみつくわけではない。死ぬべき時には死ぬべきなのだ。ビャッコさんにも言われただろう。」アスタルテは、怪訝そうな顔をした。「何か言われたかしら。」「私を機械人形にしてなら、100年でも生き続けさせてあげると。」彼女は、思い出すと真っ赤になった。「あーっ、アシューラに迫った時ね。イスラフェルばらしたのね。」彼は平然と言い返した。「そう。お前のセックスはすばらしいこともね。」「きゃーっ。」叫ぶと彼女はその場に座り込んだ。ミドは、立ち上がらせようとしたが、イスラフェルは押し止めた。「今触ると大変なので、私に任せてください。」彼はそう言うやアスタルテをさっと抱き上げ、長い長いキスをした。キスされたときは悲鳴を上げたアスタルテだったが、終わるころにはとろんとした目つきになっていた。「もう、人のことおもちゃにしないでよ。あなたのキスはとってもいいけど。」ミドは、娘のそんな姿を初めて見たので感心していた。「お前も、トゥーラ母さんそっくりで、とても魅力的だな。」「もう。恥ずかしいわ。父さんに見られてしまった。」すると、イスラフェルは追い討ちをかけた。「続きは夜のお楽しみ。」「ぎゃっ。」彼女は、夫にしがみついて全身を痙攣させた。「もう。父さんの前で感じさせないでよ。お別れも何もなくなっちゃうじゃないの。」恨みがましい目で見上げると、イスラフェルはさらっと答えた。「父上も言っただろう。人の生死は幻のようなものだと。お前は、マガダに居続ける限り、それをずっと見守って行かねばならない。父上、母上だけでなく、兄弟もその子供もやがては死ぬ。それを見続けるのが、お前の運命だ。」アスタルテは大きくうなずいた。「そうだったわね。マガダに迎えられる時、アールマティーさんに言われたんだわ。」「永遠の時を生きるお前たちには、時はあってないようなもの。しかし、私たち人間にとっても、魂は永遠であり、単にまとっている肉体が変わるだけなのだよ。」アスタルテは、父に言われて不安になった。「わかってるつもりだけど、父さん私のこと忘れちゃうでしょう。」「いや、完全に忘れるわけではない。魂同士では覚えているものだ。」「うーん、悲しくはなくなったけど、変な感じ。」「大変なのは、アスタルテ、お前の方だろう。私はもうすぐ死ぬし、トゥーラ母さんも、10年後には死んでしまうだろう。レムリアも、しばらくは栄えているだろうが、これも何百年かすれば滅ぶだろう。」アスタルテは、また悲しくなってきた。「父さん、私を慰める気なの、落ち込ませる気なの。」「私は、真実を告げただけだよ。私もトゥーラも、姿を変える。レムリアもそうだ。無くなってしまうものはない。全ては変容していくのだ。」「私は変わらないのに。」「そうだ。お前は天使たちと見守り続けるのだ。」「その使命、何と考えればいいのかしら。」「神に与えられし素晴らしい特権だと考えればよい。」アスタルテは、ふと別のことを思いついた。「ねえイスラフェル、何千年もの間のできごとって、覚えていられるものかしら。」すると、彼はさらっと答えた。「覚えるのは誰にでもできる。」「本当。」「しかし、思い出せるかどうかは別だ。」「思い出せなきゃ、覚えてるって言えるの。」アスタルテが怒ってイスラフェルの胸を両手で叩くと、ミドが聞いた。「アスタルテは、記憶はどこに蓄えられると思うかい。」「頭の中じゃないの。確か、チューリ先生が、よくわからないがそうだろうって言ってたわ。」アストラン出身のチューリ博士は、人間の思考には脳が関与していることを突き止め、記憶も同様に脳が管理していると結論づけていた。「イスラフェルは、この疑問、どう答える。」「うーん。父上もご存知のアカシックリコードがありますね。」全世界の原初から終末までを記録した、アカシックリコードの存在については、天使たちも認めていた。「そうだな。しかし、そこには無限のバリエーションもある。」ミドは、パレンケの予言や妻トゥーラの予知と自分が選択した人生が違っていたことから、そのように感じていた。「そうだとしたら、その無限のバリエーションの中から、自分が選択した状況に一致するものだけを体験できるとの考え方ができるのではないでしょうか。」夫の答えが、アスタルテには理解できなかったのでふくれっ面でいたが、二人は納得したようでうなずきあっていた。「何よ。それじゃあ、記憶もアカシックリコードにあるわけ。じゃあ、全てがリコードの中の仮想みたいじゃないの。現実ってなあに。」「全ては幻で、頭脳がアカシックリコードから読み出して見るようなものだよ。」夫イスラフェルにからかわれたので、彼女は夫の腕に噛み付いた。「痛い。」「これも夢なのね。」ミドは、笑いながら説明した。「この夢は、元でつながっているのだよ。だから、アスタルテがイスラフェルに噛み付くと、イスラフェルがアスタルテに噛み付かれたことが一致する。」「じゃあ、何故無限のバリエーションがあるの。」「そりゃあ、皆が勝手な夢を見るからだよ。」「それがつながるのは何故。」「皆の夢が、根底でつながって、この次元を構成しているからだよ。」「もう。わかんなくなっちゃうじゃないの。」「そうだな。アカシックリコードは本のようなもので、皆で自分の選択の文字を書き込み、それが集まって一冊の本になるから、全ての文字がお互いに影響を与え合うってところかな。」「じゃあ、記憶は頭の中にはないの。」「一時的なものはあるだろうが、真実については、脳からアカシックリコードの中の記録を呼び出すと考えた方がよいのではないかな。だから、だれもが覚えているが思い出せるとは限らないと言える。そんなところではないかな。どうだ、イスラフェル。」ミドが振ると、彼もうなずいた。「人間には理解しづらい、いや、定義しづらいと言うべきでしょうか。でも、真理とはそんなものです。」「アスタルテ、幸いお前はその真理に触れることができるのだ。喜ぶべきだろう。」アスタルテは、ぽかんとしていた。「何だかよくわからないけど、アールマティーさんと話したり、アシューラの研究室に入り浸ったりしてると、確かにそんな気はするわ。でも、それが果たして喜ぶべきなのかどうかはわからないけど。」「私にはうらやましいぞ。」「じゃあ、父さんもずっとマガダに来ていればいいじゃないの。」「私は、それよりもトゥーラや他の人々と共に転生することを選択するのだ。」「そっちの方がいいの。」「どちらがいい悪いではなく、それが運命だと思うからだ。私の今生での選択はそちらである。それだけだ。肉体は変わっても、トゥーラや他の人々、いや魂とのつながりは続いて行く。そちらが人間としてあるべき姿なのだ。」続く。画像は、雲のお城です。
Jul 9, 2010
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金沢から帰って、休日2日もバーディーの埋葬と梅の収穫、漬け込みで終わり、今は熊本県の荒尾市にいます。この後、広島、大阪で仕事をして、帰宅は15日深夜の予定です。さて、レムリア編に戻ってみます。ビャッコとアシューラが消えると、イスラフェルが現れた。「お別れに参りました、父上。」「アスタルテは、一緒じゃなかったのか。」一人だけだったので確かめると、イスラフェルは小さく笑った。「妻は、私に泣き顔を見られたくないのですよ。とんでもない意地っ張りですからね。先にトゥーラ母上のところで泣きまくってから来ると思いますよ。」しかし、まずは彼だけの方が好都合だった。「その方が好都合だ。お前にはアスタルテのことを最後にもう一度頼もうと思っていたからな。」イスラフェルは、小さく笑った。「わかっていますよ。アスタルテは、人間でも私と同じく不老不死だからでしょう。」「知っていたか。」少し驚きながら言うと、イスラフェルは笑った。「わかりますよ。彼女、マガダでおとなしくしているような女じゃありませんからね。マガダは異次元で、確かに時の流れがおかしい世界ですが、外に出るときに、その分の時間が襲いかかって来ます。それなのに彼女、私と同じで、25歳ぐらいのままです。わからない方がおかしいですよ。」「知らぬは本人ばかりか。」「そうですよ。老化するといやだから、極力マガダから出ないの、と言いつつ結構外出していますからね。」ミドは、イスラフェルには本当のことを話しておくことにした。「実は、アスタルテは、本当は私の娘ではない。」イスラフェルは、また笑った。「それもわかっていますよ。私は、クシャスラでもあるのですよ。彼女は、私にとって妻であり娘です。」ミドは、彼が知っていたことに拍子抜けするとともに安心した。「知っていればよい。ただ、本人とトゥーラには言うなよ。アールマティーさんにごまかしてくれるよう頼んであるから。」「はい。それはいいのですが、どうやってごまかすのでしょう。考えればわかりそうなものですが。」彼には、そっちの方が疑問だった。「大丈夫だ。子供達はトゥーラとクシャスラのことは知らないし、アスタルテは、どう見ても私とトゥーラの娘だからな。だから、人間でもヴァルナ様やオオモノヌシ様のような人間もいるから、偶然そうなったと突っぱねればよい。」「そうですね。母上もきっとそう答えるでしょう。」イスラフェルも、母アールマティーはそう答えると思っていた。「それから、お前達とはこの肉体は滅びてもずっと一緒だ。お別れとは考えなくて良いし、悲しむこともない。」「そうでしたね。ミチュエラ・カンヘルの肉体が変わるだけで、魂は不滅でしたね。私は平気ですが、アスタルテはトゥーラ母上のところで大泣きしてきた後でも、父上の顔を見れば恐らく大泣きしますよ。覚悟しておいてください。」ミドも、そうなると思っていた。「あの子は、母親の激情をそのまま受け継いでいるからな。マガダでも大変だろう。」イスラフェルは、その言葉に苦笑した。「ええ。父上のことだって、何故不老不死にしないんだとアシューラに詰め寄った挙句、何をしたと思います。」「殺すぞ、と脅迫でもしたか。」ミドは、アスタルテならそれぐらいは平気でしそうに思えた。「いいえ。その代わりに色仕掛けで迫ったんですよ。」これは驚きだった。少なくとも人間界に居た時のアスタルテは、他の男をからかうことはあっても、結局はイスラフェルしかいないことを悟って、色仕掛けで他人に迫ることは無かったから。「お前と言う夫がありながらか。」「そうなんです。しかも、ビャッコさんもいる前でですよ。」「さっき会ったが、その話は聞かなかったな。迷惑かけると言ったら笑っていたが。」「でも、ビャッコさんの方が上手でした。」彼女なら負けないだろうなと思いながら、ミドは確かめた。「どう返したんだ。」「機械の体にしてもいいなら、何百年でも生かしておいてあげるわ。その代わり、アスタルテには私の愛人になってもらうわ。あなたとっても感じやすそうだから、死ぬほど可愛がってあげるわ、と返したんです。」「それで、アスタルテはどうした。」「彼女、本当に凄く感じやすいんですよ。」「母のトゥーラと同じだな。」彼女の母のトゥーラは、清楚な気品ある見かけとは裏腹に、3人の妃の中でも一番感じやすく、セックスに没入するタイプだった。「母上のことは知りませんが、それでアスタルテ、ビャッコさんに抱きつかれたら、感じてしまって悲鳴を上げてその場に座り込んでしまったんですよ。それで、私がビャッコさんに呼び出されて、ベッドに運んで可愛がりなさいって言われたんです。」「それで。」「ベッドに運んだら、押し倒されて、アスタルテは自分が失神するまでセックスしましたよ。」「その辺も母のトゥーラ似なんだな。」ミドは、我が娘ながら、その面は疎かった。「まあ、確かに魅力的なんですが、外界に出て月経の時になると大変ですよ。」人間でもあるアスタルテは、マガダから出ると月の周期に従って月経が訪れていた。「実は、トゥーラもそうなんだ。」トゥーラは、月経の時になると情緒不安定を通り越して劇情に走るようになるため、その期間は巫女から外していたが、ともすると夫にあたり散らし、手を上げることもしばしばだったのだ。「アスタルテの場合、何を仕出かすかわからないんですよ。だから、外出して彼女が月経になったとわかると、マガダ中に警告して、皆で危険なものを隠すようにしています。」ミドは、思わず笑ってしまった。「何だそれは。アスタルテ警報というわけか。」「彼女、自分より上は、アールマティー母上と、アムルタートさんと、ヤシャさん、サハーラさん、アシューラさんと、イュンの三神、十二神将、それからチーチェンさんだけでしょう。だから威張ってるし、その上無邪気なところもありますからね。皆頼まれると嫌と言えないんですよ。だから、危ないものは隠すことにしたんです。特にアシューラさんの研究室では、アスタルテの現在位置まで把握してますよ。」「超危険人物と言うわけか。」ミドは笑っていたが、イスラフェルは真面目な顔だった。「そうなんです。ビャッコさんが、イュンの怪物と伝えられてきたシユウの元の姿を再現したレプリカを作ったんです。」「ありゃ、今イュンにある巨大な戦車のような機械は、オリジナルじゃないんだ。」イュンは、アガルトとの国境紛争の際、そのシユウを持ち出してアガルト軍を蹴散らしていた。「見かけは似ていますが、本当のオリジナルは、大分小さいもののはるかに精巧にできていて、その破壊力は、一機でアガルトを滅ぼすことも可能な兵器だったのです。それで、彼女が再現して小さなレプリカを作ってみたんです。でも、小さくても破壊力は凄まじいものだったので、安全のためにコントローラーに注意書きを付け、リセットスイッチまで付けていたんですが、生理中のアスタルテが侵入してそのコントローラーを持ち出し、ご丁寧に彼女が危険だからこうするなと書いておいたとおりの操作を実行したんです。」「どうなった。」「ミニシユウが暴走してマガダ宮殿の1階部分の壁を破壊し、外に逃走したんです。流石にビャッコさんも怒って、アスタルテにお仕置きしました。」「何をしたんだ。」ミドは、ビャッコのお仕置きに興味を覚えた。「私は見せてもらえませんでしたが、裸にして縛って全身を愛撫したらしいんです。」「それ、お仕置きになったのか。」ミドは、疑問に思った。「彼女、わがままですが、無類の恥ずかしがりでもあるんですよ。だから、そのお仕置きは余程こたえたらしく、それからは、ビャッコさんの言うことは素直に聞くようになりました。」「それは良かった。」ミドは、彼女なら娘をうまく抑えてくれると安心した。「しかし、代わりに十二神将たちがおもちゃにされていますよ。」「彼らの方がはるかに年上なのに。」彼ら12名は、セイシが創造した四神の部下で、男女6名ずつだったが、背が低く、それぞれ個性的な顔をしており、性格的にも優しかったので、アスタルテに強く出られなかったのだ。「ええ。でも、小さくて純朴ですから、いいカモにされてます。」十二神将には気の毒だが、ミドは他のことが気になった。「ところで、お前達には子供はできないのか。」二人には子供がいなかったのだ。「アスタルテは、子供を産むのが怖いようですから、まだ作っていません。母とアールマティーさんは、父上とトゥーラ母上が死んでしまったら欲しくなるだろうと言ってますが。」ミドも、それはわかる気がした。トゥーラもそうだが、アスタルテのわがままは、結局甘えであり、自分とトゥーラが生きている限りは甘える方でいたいと考えているのだろう。「アスタルテ、甘えていたいのだろう。マガダでは誰に甘えているんだ。」「母と私にでしょうか。後、ビャッコさんとスザクさんにも、結局は甘えていますね。」「そんなものだろう、とにかく、私亡き後はよろしく頼んだぞ。」イスラフェルはにっこり微笑んでいた。「わかっています。彼女と私は、一心同体なのです。この世界が続く限り一緒です。では、アスタルテとも会ってください。」続く。今日の画像は、猫タワーでくつろぐ夏目です。可愛い盛りで走り回っています。
Jul 8, 2010
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私が妻と巡り会ったのは、東京に就職し、入社式の日でした。新入社員としてあいさつ回りしようとした時、当時20歳の彼女が常勤アルバイトとして来ていて出会ったのですが、彼女の顔を見た瞬間、あっ、昔一緒だったな、きっとこの子と結婚すると直観的に思いました。ただ、その昔が問題で、彼女は福島のど田舎出身、私は大阪出身ですから、現世では接点は全くなかったのです。何時会ったのかなあと、自分の前世記憶をたどっていくと、結構いろいろな時代に出会っていることを思い出しました。近くでは、江戸から明治の頃で、身分違いで結ばれず、彼女は自殺してしまったのです。平安時代の腕利き陰陽師の前世では、彼女は妻でしたが、私が彼女に殺されてしまいます。もっともっと古い時代までさかのぼって、ようやく相思相愛の前世を見つけてほっとしました。でも、ソウルメイトでも、結ばれるタイミングがあります。絶対彼女と結婚すると思いつつ、今はまだその時ではないと、私は別の女性とシンデレラエクスプレスのデートをしていたのですが(全くのプラトニックラブというやつで、キスさえせず)、シンクロニシティーは抜群で、絶対に会うはずのない場所で出会ったり、彼女の大胆なイメチェン(失恋による)を一目で見破ったり(彼女であることを気づいたの何と私ただ一人)、まあ、縁とはそんなものなのでしょう。彼女にしても、自分の理想、頭がいい、堅実、タバコ吸わない、酒癖悪くない、を満たす相手でしたし、最初に出会った時、顔を見て意味ありげににっこり微笑まれたことがずっと気になっていたといいます。しかし、私がいわゆる最高学府と言われる大学卒で、彼女は田舎の高卒だったもので、他の女性たちには、彼はエリートだから、あんたとなんか付き合ってくれるわけがないとぼろくそに言われて半ば諦めていました。半年後、宴会の席で冗談半分ひっつけられた二人は、周囲は超一流大卒の私と、高卒の彼女だし、絶対結ばれるはずはないと踏んでいたのですが、手紙のやり取り1回で、結婚前提の交際がスタートし、3か月後には双方の家と行き来して事実上婚約を整え、1年後には結婚しました。問題はここからで、夫婦仲自体は決して悪くはなかったのですが、私の母が、息子には釣り合わない田舎娘だから、その分金を出せとばかりに、非常識に金をせびったのです。金で解決と私は金を渡して母を遠ざけたわけですが、彼女には世の中にこんな理不尽な母親がいることは信じられなかったようです。それでも、3人の子供にも恵まれ、母に事実上仕送りして苦しいながらも、家も建て、車もベンツに乗れる生活まで手に入れました。しかし、この時になって妻は、自分の人生果たしてこれでよかったのかと迷い、私は、何か置いてきたものがあるような感じを抱くとともに、出世することにも迷いが出始めました。幸い妻は、自分の相手は私しかいないと悟るとともに、普段は温厚な癖に、ひっかかると議論で相手を徹底的に罵倒するところがある夫を下手に出世させると、とんでもない偏屈爺になって老後が地獄になりかねないと思い、「頼むから出世しないで。」と普通の妻ならまずしないお願いをしてきました。しかも、その時になって、「お前たちの世話になんか死んでもならない。」と公言していた母が呆けて転がり込んできたのです。その試練は大変でしたが、夫婦とは、助けあうとともに、お互いを高め合わなくてはならないことを知るよい機会にもなりました。今年で結婚30年になります。のろけは、死ぬときにすればよいことです。ああ、お前と一緒になれて本当によかった。ありがとう。最後にこう言えることが最高ののろけでしょう。画像は、ニャチのしっぽにじゃれる夏目です。すっかり我が家の猫集団に溶け込みました。この猫たちも、夫婦円満の秘訣です。会話のよいたねになりますから。
Jul 5, 2010
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金沢は、昨日のお昼から雨、一時強く降っていましたが、今日も昼ごろまで雨の見込みです。さて、レムリア編の続きです。女神のセイシさまは、人間滅ぼしても、この世界自体が無くなっても、大した影響はないと言ったが、当の人間としてはそうも言ってられないことは確かだった。「それでも、この世界で生きている限りは、この世界が全てだから、大したことは無いとは言えないな。確かに真理なのだろうが。」アシューラは、父は既にそんなことは超越しているであろうことも知っていた。「父上は、そのことが理解できるでしょう。そんな人間にとっては、この世は幻のようなものであり、たとえセイシ様に滅ぼされても、安穏としてと言っては変ですが、大したことではないのでしょう。」「そのとおりだ。執着がなければ、何があっても平和だ。」父のその言葉を聞いて、アシューラは微笑んだ。「その言葉を聞くことができるなら、もうお別れしても良いのでしょう。では、一番問題になりそうな相手と交代しましょう。」「アスタルテか。」「そのとおり。」アシューラ夫妻は笑い出した。「迷惑かけそうだな。下手したら永遠に。」「そうですね。彼女は面白い遺伝子を持っていますから、人間でありながら老化しません。確かに永遠でしょう。」ミドは、二人がアスタルテの遺伝子のことを知っていたので、出生の秘密も知っているのかと心配したが、二人ともそんなことは全く気にもしていないようだった。そして、何千年も生き続けているだけあって、ビャッコの見方は違った。「アスタルテは、今はまだミド父上もトゥーラ母上も生きているからいいのですが、皆死んでしまったら恐らく寂しがるでしょう。兄であり夫でもあるイスラフェルが、影の如く寄り添っているから心配はないでしょうけど、人間でありながら永遠を生き続けることは、大変なことだと思いますわ。」彼女の夫イスラフェルは、アムルタートとミドの息子であり、彼女はミドとトゥーラの娘だから、異母兄妹婚となる。「本人は、まだ不老不死には気付いていないのだろう。」ミドが確かめると、ビャッコが笑いながら答えた。「ええ。おめでたいことにまだ、異次元マガダの魔力だと信じていますが、その内気付くでしょうね。」「その時は、アールマティーさんに任せてくれ。」ミドが頼むと、二人は顔を見合わせた。「そうか、その手があったか。」「それは名案ですわ。彼女に聞かれたとき、人間でありながらの不老不死をどう説明しようかと、アシューラと心配していたのです。」ミドは、娘の不老不死の本当の理由には触れず、二人に頼んだ。「とにかく、チーチェンさんと違ってアスタルテはまだ人間できていないから、大変迷惑をかけることは保証できる。よろしく頼む。それだけだ。」アシューラは少し渋い顔をしていたが、年長のビャッコは笑っていた。「わかりました。適当に突き放して面倒見させていただきます。」「そう。それが良い。下手に甘やかすと後が大変だ。まあ、その内落ち着かざるを得なくなるだろうが。」ビャッコは笑いながら答えた。「そうですわ。何百年もばかなことはやっていられません。何なら飽きるまで放っておく手もありますから、大丈夫ですわ。」ミドは、ビャッコの割り切りようにうなった。「なるほど、ものは考え様だな。」すると彼女、いたずらっぽく笑った。「我々四神も、天使たちと同じくらい昔から生き続けています。私とゲンブは、どちらかと言えば、最初から賢明に振舞っていました。」「スザクさんは。」「中間的でしたね。その点では、彼女がもっとも人間の思考を理解していました。ですから、自信を持って言っていました。」「何と。」アシューラも興味を持って聞いた。「何千年も馬鹿なことやるのは、大変な忍耐が必要だと。」ミドは大笑いしたが、アシューラは今ひとつ理解できないようだった。「そんなものか。」「ええ。だから、セイリュウが一番忍耐強かったと。」「どんな風に。」ビャッコは夫に説明を始めた。「生物にとって、生きて行くのに最低限必要な行為以外のことを無限に繰り返すことは、ある意味大変な苦痛なのです。だから、永遠に近い時間人間がやるような悪事に耽っていたセイリュウは、大変忍耐強かったとも言えるわけです。大体生物は、いや生命と言うべきかも知れませんが、本能的にある方向に進むことを望みます。」すると、アシューラが笑った。「進歩と言わないところがいいな。」「進んでいる方向が、必ずしも良いとは限らないからよ。」ビャッコも言い返した後笑った。「確かにそうだな。現在の人間のレベルでは、滅亡したアストランが目指したような、徹底した科学化の方向を進歩と呼ぶかもしれないが、突き詰めて行くと、それは決して生物としての人間自身の進歩とは言えない。それだからか。」ミドの言葉に、ビャッコはうなずいた。「そうですわ。ミドお父様の現世の姿が、人間の精神面では最高に進化した姿でしょうし、生物としての能力面で言えば、ヤシマのスサノオおじいさまとツィンツンさんが最高の姿でしょう。ミドお父様のようになれば、生に対する執着もなくなります。全ては神の意志であり、全ては一つである。そのことを知ることができたのですから。」ミドは、気になったことを聞いて見た。「では、天使やあなたたちの使命は何だと考えていますか。」ビャッコは、アシューラと顔を見合わせ、アシューラが答えた。「我々の生命には、人間のレベルで言う時間においては、寿命に制限がないのです。だから、生き続けていくこと、それが最大の使命だと考えています。」ミドは、息子の答えににっこり微笑んだ。「はるかに年上のビャッコさんに言うのも変だが、アシューラとあなたは、私の息子であり、娘である。人間は、恐らくあまり賢明になることはないだろう。だから、放っておいて絶滅するならそれはそれで仕方が無いと考えている。ただ、アスタルテのことだけはしっかり監視してもらいたい。彼女が気紛れから人類を滅ぼすことがないように。」二人はうなずいた。「わかりましたわ。」「わかりました父上。でも、一番の適任者にも頼んでおいてください。」ミドも理解していた。「イスラフェルだろう。どうせ、お前達の次に彼が来るのだろう。」「ご名答です。では、我々は消えることにします。また別の人生で会いましょう。」「ミドお父様、さようなら。」続く。今日の画像は、昨夕死んだバーディーです。享年15歳でした。弟分のチョビが今年の1月13日に死んだ時は、彼がしばらく添い寝していたのですが、彼には添い寝してくれる相手がいないのも少し悲しいことです。
Jul 4, 2010
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今日は、まずまずのお天気の金沢で、仕事は無事終わりました。明日また1日暇になるので、行ったことがない輪島に行くか、白山に行くか、思案中です。さて、レムリア編の続きです。アールマティーに続いて、アムルタートが現れた。「お別れに来たわ。」永遠の美少女のような彼女は、18歳の頃のトゥーラに似た顔と光り輝く金髪、そして一点の曇りも無い抜けるように白い肌に紫から金色まで変化する瞳を持っていたが、ミドとは愛人同士のような関係であった。しかし、彼女は男よりも女の方が好きで、同じ趣味を持っているミドの妃の一人サクヤとも愛人の関係にあり、むしろ彼女との方が親密な関係にあった。そして、彼女は自分以外の生物の生命をある程度操る力があり、祝福と呼んでいたが、手をかざすことで、その対象の生命力を高めたり年齢をコントロールすることができたのだ。「もう祝福は結構ですよ。」先んじて言うと、彼女は寂しげに笑った。「そうね。あなたの場合は、もうしても無駄でしょう。アールマティーに聞いたけど、素直に死を受け入れるのね。」「ええ。この体にはもう執着はありません。」「変な人。じゃあ、何に執着があるの。」「何も無いと言いたいところですが、今は転生して学びつづけることでしょうか。」アムルタートはにっこり微笑んだ。「そうね、あなたらしいわ。でも、死んじゃうと寂しいわね。」ミドは、彼女の真意は別のところにあることを見抜いていた。「私にではなく、サクヤに会えなくなるからでしょう。」ミドは、自分の死後は天使と人間の関係を一切断つように要請し、アールマティーもそうすることを約束していたのだ。「ばれちゃった。私、女の方が好きだし、彼女以上の人間の女はいないから、ちょっと寂しいのよ。」「じゃあ、私ではなく、サクヤとお別れしてきてください。」ミドが勧めると、彼女は素直に従った。「うん。そうするわ。サクヤさん借りるわね。それから、さよならね。また何時か。そう、次の大異変の前に会いましょう。」余り有り難い申し出ではなかったが、アールマティーも言っていたし、そうなることは確かなのだろう。「はい。できれば会わないで済ませたいところですが、そうは行かないのでしょうね。楽しみにしておきます。さようなら。」アムルタートは、少女のようなあどけない笑顔を見せて彼の部屋を出て行った。次に現れたのはアールマティーとミドの息子の天使アシューラで、妻になったイュンの四神の一人であるビャッコを伴っていた。「父上、やはり人間は死すべきものなのですね。」深刻な顔をしながらの最初の一言がそれだったから、ミドは笑い出した。「そう。それが真理なのだ。まあ、ヴァルナ様と、オオモノヌシ様のような、果たして人間と呼んでいいのかどうかわからない存在もいるが。」ヴァルナとオオモノヌシの二人は双子の兄弟なのだが、見かけはヴァルナはヒンダス系の老人、オオモノヌシはイュン系の若者であり、少なくとも千年はそのままの容姿を保って生き続けていた。「いや、人間の生命のプログラムとも言うべき遺伝子情報を解読して見ましたが、寿命と繁殖機能は相反する関係にあります。」ミドは、それが自然だと思った。「当然であり、自然の摂理でもあるだろうな。不死の存在が繁殖しなくてはならない理由はない。そして、不死の存在が増えては、自然が混乱する。」ミドの言葉にビャッコも付け加えた。「そうですね。うまくしたもので、不死の天使の中でも、最近は新たな生命は誕生しておりませんわ。」細身ながら長身で、イュン系の顔立ちながら、眉の代わりに黒くて丸い点が二つあり、その名のとおり白い虎を思わせる不思議な顔のビャッコだったが、全体的な印象は美女であったし、イュンの四神の中では一番科学的な思考を持っていたので、天使の科学大臣とも言うべきアシューラを夫に選び、大変仲のよい夫婦になっていた。「ビャッコさん、あなたとアシューラにもですか。」二人には双子の男女である息子のフッキと娘ジョカがいたが、その後はできていないようだったので確かめて見た。「そうですわ。でも、アシューラと私で分析して見て、面白い結論に達しました。」「ほう、どんな結論ですか。」「天使の数は、現在の78人になってから変わっていないのです。限界になっているとも言えます。それで分析してみたのですが、マガダ周辺の異世界の面積、そこで生産できる食糧の量、還元できる廃棄物の量、一人あたりの占有面積等を総合して得た最適数値がその78人なのです。これも、異世界マガダを創造した神々の意志なのかも知れません。」「神々は、そこまで考えていたのだろうな。」ミドは、神々の配慮だと考えたが、アシューラの意見は少し違った。「いや、この地球と言う星自体が一つの生物なのです。父上には以前にも同じことを言いましたが。」「そうだったな。アールマティーさんも同じことを言っていたよ。そして、我々全体が、神々の一部であり、全てでもあると。」ビャッコは、二人の会話ににっこり微笑んだ。「生態系とはそんなものですわ。天使の一団は、マガダと言う閉鎖された生態系に暮らしています。その中では、一が全である。つまりは、生態系全部が一であり、全であるのです。この世界を創造した神は、全てのものの中に自分を反映させています。個が全体であり、全体もまた一つの個なのです。」ミドは、ビャッコの言葉に感心していた。「全ての存在が、今のビャッコさんの言葉を理解できれば、世の中から争い事はなくなるだろうに。」すると、彼女は小さく笑った。「でも、我々は全て、そのことを知るために存在しているのではありませんか、ミドお父様。全ての人間が理解できるようになれば、転生の必要もなくなると思いますわ。」「そうだな。確かにそのとおりだ。」ミドは、それもまた真理と納得した。「セイシ様は、恐らくそのことを知っていたと思います。でも、自分で創造したものと一緒に遊んで見たかったのでしょう。時々言ってました。この世は幻のようなもので、神の作品の一つであり、私がそれを滅ぼしても大した影響はないと。」イュンの四神や十二神将の主人であった女神セイシは、思考を物質化することができるこの世界の存在にとっては全知全能の女神であり、本来は意識体であったが、人間にもわかるようにと絶世の美女の肉体を持っていた。そして彼女は、面白がって人間の英雄たちを口説いて回るなど結構人間的な面もあり、時々癇癪を起こして四神や十二神将を困らせたり、人間社会を混乱に陥れたりしていた。そして、スサノオ、ミド父子と戦いになりかけたのだが、ミドが、自分が創造した永遠の次元を見せると、これは地球の原型だから自分なりに天地創造をやり直して見よう、2万年後にまた会おうと言って、本体である意識体だけでその次元に移住してしまっていた。そのため、彼女の絶世の美女の肉体が残されたので、それを四神の一人のスザクが受け継ぎ、スザクの肉体を人間のチーチェンが受け継いで、チーチェンは不死の存在の仲間入りをしていた。セイシと話し合ったこともあり、実際に天地創造の最初を見せられていたミドには、ビャッコの言葉が理解できた。続く。今日の画像は、兼六園らしい兼六園の写真です。昨日のへそまがり画像とは、角度が違うだけなのですが。
Jul 2, 2010
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那須の自宅に戻ってきました。岩手県奥州市は、昨夕から雨で、今朝は、6時3分にゆらゆら揺れて目が覚めました。地震だろうなと思ってテレビを付けると、北海道が震源で大したことのない地震でした。那須の自宅に戻ったのも束の間、金曜には金沢で仕事です。さて、レムリア編続きです。「レムリア人が滅亡して、我々が創造されたのですか。」ミドは、神が皮肉な結果の末自分たちを創造したと考えていた。「その答えは、はいともいいえとも言えるわね。」「と言いますと。」「神が創造したのは、人類よりも優秀な存在だった。今いわゆる神と呼ばれているのが彼らね。」「我々は、その神々が産み出したものなのですね。」「そうよ。我々天使は、その通称神々よりも上の存在でしょうけど、この次元に住んでいると言うレベルでは、決定的な差は個体の寿命の限定が無いことぐらいで、それほど大きなものではないわ。」「セイシ様は、例外ですね。」ミドも、彼女だけは本当の神々の一員であると確信していた。「そうよ。ありゃあ、一種の掟破りなのよ。前にも言ったけど、彼女は次元のレベルが違う存在なのよ。」彼女は、元々は意識体であり、高次元の存在だったのだ。「そうでしたね。では、他の星の存在はどうですか。」ミドは、自分で会ったことは無かったが、当然他の星にも同じ様な存在がいるはずだと思っていた。「まあ、人間よりは上の存在も多いけど、やはり、同じ次元の存在だから、似たり寄ったりよ。地球に住み着いた存在もいるし。」「ジョーカの人々ですか。」「他にもいるけど、あなたは見たことないわね。でも、混血することでもわかるでしょうけど、見かけが大分違うだけで、人間の仲間と考えていいものよ。」「でも、ジョーカのように、気象まで制御したとは凄い文明もあるのですね。」すると、アールマティーは笑い出した。「じゃあ、何故そのジョーカが住んでいた星は滅びたのかしらね。」「旧レムリア人と同じですか。」失敗したと聞いていたから、そんなものだろうとミドは想像していた。「もっと皮肉な運命だったわよ。」「と言いますと。」「彼らは自然全てを制御し、一つの星全体を機械化し、全てを人工環境化した。」「それでは、何の不安もないはずですよね。制御に失敗したのではなかったのですか。」「いいえ、彼らの制御は完璧だったわ。」「じゃあ、何故滅びたのです。」聞けば聞くほど変な話である。「ジョーカも、旧レムリア人と同じく心でつながっていた。ところが、ある日一人が疑問を持った。このような制御が正しいのだろうか。そして同時に不安になった。この制御は失敗するのではなかろうかと。すると、彼の疑問と不安は瞬く間に星中に広がった。そして、その不安のレベルが過半数に達した途端、制御装置が狂って星が爆発してしまったわけ。」確かに皮肉な運命である。「何だか呆気ない終わり方ですね。結局自分自身の制御に失敗したんですね。」「真実なんて、そんなものなのよ。でも、ジョーカの中にも余り技術に頼るべきではないと考えた一派がいて、その人々が地球に移住してきて助かったのよ。」「それなら何故、地球で同じ愚を繰り返したのでしょう。」ジョーカは地球で気象制御を行い、それが原因で周囲の国と戦争になって滅亡しかかったのである。「そうね。これも皮肉なもので、土着の人間に迷惑をかけないようにと彼らが住み着いた場所の環境が余りに悪かったものだから、周辺防衛を兼ねてやったところ、周囲に甚大な影響を与えたってわけ。ジョーカにしてみれば、元の星ほど大々的にやったわけではないから、大した影響を及ぼすとは思っていなかったのね。その上、他民族はサルみたいなもので野蛮だと考えていたところもあったから、余計ね。」「それを聞くと、余り感心できませんね。」ミドの強者の思想は、見かけだけで差別することを認めなかった。「そうよ。そして、ヒンダスがまさか強大な兵器を持っているとは思っていなかったのよ。」「でも、まんまと逃げおおせたのでしょう。」彼らは、ヒンダスが核兵器を使うことを察知するや、長大な地下道を掘って逃げ出した。そして、ヒンダスの核兵器は元のジョーカ領域を焼き尽くしただけでなく周辺地域にまで重大な環境汚染を引き起こし、却って使った側の一員で隣接地域を領有していたアガルトが現在の大陸北辺の位置まで大移動せざるを得なくなったのだ。「そうよ。それで反省したのか、余計に地球人は野蛮人だと思ったかわからないけど、狭いけど、外敵が侵入できない自分達だけの隠れ里を確保しているわ。」「血の問題は起きませんか。」ミドの一族は、神の一族として代々超能力を発揮してきたが、血が濃くなった代償として6人の兄と姉は、力の発現と同時に狂死していた。「そうでもないのよ。ジョーカは異星人のせいか、遺伝的には非常に純度が高く、近親交配による障害がとても少ないの。だから、その心配は無さそうなの。それに、大異変の時にほんの少し違う血も入ったから、当分心配無さそうだわ。」「へえ、ジョーカも外部と交流したのですか。」彼らは大変排他的だと聞いていたから、それは意外だった。「ミド、あなたにも関係があるのよ。」「えっ、ジョーカには知人はいませんが。」「外から計5人がジョーカに加わったんだけど、イュンから加わった一人は、アシューラが作った例の半魚人が助けて連れて行ったのよ。」「ああ、例のオアンネスですか。」彼とアールマティーの息子でもある天使アシューラは、水の中でも生きられるオアンネスと言う半魚人を創造し、大異変後の世界を偵察して回っていたのだ。「そうなの。イュンのホータンの王女で、15歳の女の子だったのよ。地下水脈に落ちて溺れ死ぬところを、オアンネスが助けてイュンの隠れ里に置いてきたの。」「それは良かったですね。でも、私と関係は無さそうですが。」「そうでもないのよ。後の4人は、アガルトから行った一家だったの。」ますます関係無さそうに思えてきた。「関係無さそうに思えますが、アガルト人で知り合いと言えば、ロキ夫妻と、トールさんとヘンディさんと、ダナーン国王とモリガン王妃ぐらいですから。」「そうだろうけど、名前を聞いたら驚くかもよ。」「はて、それ以外は知りませんが。」「親子の母親の名が、ウルト・アースガルトよ。」「もしかして、ベルダンディーの姉ですか。」ミド、名前だけは聞いた覚えがあったが、アガルトの内戦の時に行方不明になっていたから、死んだものと思っていたのだ。「そうよ。あなたとは血のつながりはないけど、従姉妹になるのよね。」「行方不明と聞いていましたが、生きていたのですね。良かった。」「そうなの。恋人のニヨルズ・ヴァンと二人で逃げ出して無事だったの。それで、もっと関係があるのは、ジダの母親に大異変が起きることを教えたのはウルトよ。だから、ジダが生きているのは、彼女のお陰なの。」ジダは、今やスメル国王で、ミドの娘ウズメの夫であったから、大変な縁である。「それは、凄い縁ですね。」「ウルトの夫ニヨルズ・ヴァンも、ロキの剣術の練習相手で、フェンリルと互角と言われた剣術の名手だったのよ。しかも、シギンの従兄弟でもあるわ。」「へえ、それは知らなかった。世の中狭いものですね。」「そうよ。そして、世の中偶然は無いのよ。」「そう思えば楽しいものですね。」数日後に死ぬミドが喜んでいるのを見ると、アールマティーは悲しくなった。「悲しそうな顔をしないでくださいよ。いずれまた会えるでしょうから。この世界が続く限り、魂は永遠です。」「そうだったわね。時なんて一瞬だもんね。悲しいと思うことはないのよね。」「そうです。素晴らしい世界、素晴らしい人生ですよ。私は本当に幸せでした。あなたたち天使に愛してもらえましたし、3人の素晴らしい妃と一緒になることができました。子供達にも恵まれました。もう望むことはありません。」アールマティーは少し意地悪を言って見た。「でも、あなたが築き上げたこのレムリアも、この地球も、いずれは滅びるのよ。それは気にならないの。」「そうですね。永遠に続いて欲しくないかと言われると、その願いは確かにありますが、全ては輪廻するのです。滅びる時は滅びる。それでいいのです。いずれは私自身の手で人類をほぼ淘汰してしまうことになるのかもしれません。でも、執着を捨て去れば、どうと言うことはありません。全ては、輪廻の一こまに過ぎません。」ミドは、安らかな笑顔を見せた。「その顔を見たら、他には何も言うことはないわ。じゃあ、さよならね。」「はい。また別のミドで会いましょう。」アールマティーは、帰る前に振り返った。「私だけずるいって言われそうだから、他の天使たちもよこすわ。お別れの挨拶でもしてちょうだい。」「はい。わかりました。」アールマティーは、微笑んだかと思うと姿を消した。続く。画像は、夏目が来て、心穏やかでないアシメです。
Jun 28, 2010
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