「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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大泥棒の路地裏
第十二章
「計画的条約」
ロイモンは油断ならない目でランスロットと名乗る人物を睨み、柄を握る手に力を込めた。
「さっぱり話がわからんぞ、ランスロットとやら。マルチェルダから使者がやってきて、ここを救うだのなんだの言われてもまるで説得力がない。それに見たところ、お前はアーチェルドの人間ではないな?」
見破られた事に驚いてか、ランスロットはほんの少し目を広げて間を置き、再び真っ直ぐ伸びる道の先の光を見るようなまなざしに戻った。
「その通りです。私はユーリンド王国からやってきました。ですが今は、アーチェルドの再興に協力しております」
「ますます信じられんな。ユーリンドとアーチェルドはしばらくなんの連絡も取り合っていなかったようではないか。なぜいまさらこの国にやってくるのだ?」
そもそも、他の国と交流をしている暇など今のアーチェルドにはないはずだ。賊に食料難に紛争。アーチェルドはこれらの危機に見舞われ過ぎている。
「この国の問題を解決し、平和を取り戻す為です」
「面白い事を言うな。ユーリンドはよほど暇な国なのか?」
「いいえ。今にも崩れそうな崖に位置しているからこそ、我々はこうしてアーチェルドへやってきたのです」ランスロットは警戒するロイモンにゆっくり近づいてきた。「同盟国となるアーチェルドを助けずして、なんになるというのです?」
「同盟国だと?」
アーチェルドがユーリンドと同盟を組んだのか? そんな話、聞いた事もない。
「嘘を言うな!」
ロイモンは声を荒げたが、ランスロットは全く動じなかった。
「来るべき日の為に、我々は味方が必要なのです。それは少しでも多い方がいい。たとえ今にも潰れそうな国でも、協力により力を取り戻すならユーリンドは惜しまず協力します。だから私がここへ派遣されました」
真っ直ぐ見てくるランスロットの目は穏やかな流れの川に見える。それがどこか威圧的で、ロイモンは目を反らそうと一瞬思ってしまった。が、プライドがそれを許さず彼は剣の切っ先をランスロットの胸の甲冑に押しつけた。
「では聞こう、ランスロット。アーチェルドと同盟を組みたいのなら王の居るマルチェルダへ行けばいい。なぜベリグへやってきた?」
「アーチェルドの難を解決し、より強力な国にするために――再び四大勢力を一つに戻す為にやってきました」
「なんだと!?」つまり、それは――
「ベリグもネーミヌドも、モネルダもボービードも全て統一するのです。一つの勢力へ」
若者の言葉にロイモンは衝撃を受けた。言葉が直接頭に殴りかかったようだ。それほど衝撃的だった。最初この若者の言葉を聞き間違えたと思おうとしたが、どう聞き間違えたらこうなるのか逆に聞きたい。
「正気か?」
「気は確かです。マルチェルダの王、アイゼル様も承知なさりました。ここが賊による支配を受けているということで、賊の掃討も任されております。私は馬で早くここに着きましたが、時機に私の部下達が到着するでしょう」
「数は?」
「私を含め、二十一名です」
全てを信じたわけではない。だがランスロットがたった今取りだした紋章は確かにアーチェルド王族のものだし、王の刻印もある。賊がマルチェルダを本格的に落としてしまわない限り、この刻印も紋章も健在ということだ。
しかし、ランスロットの言った数を聞いた瞬間、自然に鼻で彼を笑っていた。
「たった二十人か」
ここ数日で五十と集まった勇敢な兵士が半分以上も減ったというのに、それと同じ程度の人数だけをマルチェルダは寄こしたわけか。
「数にご不満ですか?」
「いいや、援軍なら何人でもありがたい。だがな、ランスロット。これだけははっきりいっておこう。お前も含む、マルチェルダの兵士はここで骨を埋める事になるぞ」
眉をひそめてうかがわしげにランスロットはロイモンを見た。だがいつみても、彼の瞳は誠実さをたたえている。まるで騎士の鏡とでもいうように。
「急いで去るべきだ、ランスロット。部下を連れてな。ここは時機に落ちる」
「戦いもせずに敗北する気ですか?」
「いいや、違う。わしは、ベリグは最後まで奴らと戦う。そして死ぬのだ。もうわしらは完全に連中に包囲されている。勝ち目などないのだ」
この時になって初めてロイモンは事実を認めた。近いうちに戦いは終わる。自分達の敗北で幕は閉じる。わかっていたのだ。だが頭領である意地とプライドがどうしてもそれを否定していた。
結果を認めない子供と一緒だ。それでも戦いを放棄しないのは、アーチェルドの意地だろう。そう、アーチェルドとしての意地だ。戦士の血の通う、最後の抵抗。
「ならば、私もここで戦います」
また若者の口から衝撃的な言葉が発せられ、ロイモンは頭を殴られたような気分になった。
激情に駆られ、彼はランスロットに詰め寄り、ほんの少し前に出ればキスさえすることができるぐらい顔を近づける。
「去れと言っているのだ、ランスロット。お前は知らないだろうが、マルチェルダとベリグはいつ戦争を始めてもおかしくなかった。ベリグはマルチェルダに見捨てられ、隔離されていたのだ。ベリグの民達はマルチェルダを恨んでおる。その理由はわかるか?」
「わかっております」落ち着いた様子でランスロットはロイモンを真っ直ぐ見る。ロイモンはまた目を離したくなってきた。「騎士志願のベリグの者を断った事が発端だったと」
「その通り。ベリグの多くは騎士に憧れていた。その子孫も! 今でも騎士に憧れるベリグの兵士達は、自分達を森の騎士団と称している。だがそれは偽りだ。王の祝福を受けない騎士など、価値もない!」
「また統一すれば、そんな思いをする事は無くなります」
「そうかな?」ランスロットから離れ、ロイモンは剣を鞘に収めた。なぜだか、もうランスロットを警戒する必要はないと感じたのだ。「今でもそういった概念を持っている者は少なくないぞ。マルチェルダと口を開けば悪口ばかりを口にこぼしてばかりだ」
「こちらだってそう変わりません。ルウェン将軍ですら、同じような事を申しております」
「その通り、どこだって一緒だ。そうやってその状態でまた一つになると考えているのは、お前くらいだろうな」
弟の名前が出た事には特に驚かなかった。ルウェンは今じゃ国を代表する騎士といっても過言ではない。彼の功績は確かなものであり、騎士に憧れるベリグの子供達は彼の冒険話を楽しみにしている。
そんな彼と自分が血を分けた兄弟だということは知られていない。知られるつもりもない。なぜなら、弟は念願の騎士となり、自分は堕落した末にベリグの頭領となったのだから。二人は違いすぎる。その違いを子供達に押しつけてどうなる? 誤った解釈をされるのはごめんだし、ルウェンについて質問でもされれば自分を抑える自信がない。
「王も、そして民達も望んでいるからこそ、私はここへ来たのです。あなたもベリグの民を救いたいのなら、それが一番だとわかっているはずです。一緒に民達を救いましょう」
ランスロットの言葉には誠実な真しか感じなかった。彼の真っ直ぐ見る目には偽りも嘘も、やましい気持ちもない。ひたすら一直線、彼の腰にぶら下がっている細長い剣のように真っ直ぐなものだ。
「…だがどうするというのだ。ベリグはマルチェルダを嫌悪している。それに今ここにきているとあれば、わしの兵士達は賊と一緒に倒そうといいかねん」
と、その時背後の茂みから人影が跳び出し、ロイモンとランスロットは振り返った。茂みから飛び出したのは、ロイモンの部下ハビーであった。
素早くランスロットは木々に身をひそめる。あまりにすばやくて、ロイモンは彼が隠れた事に気がつかなかった。
「ハビー! いったいどうした、そんなに慌てて」
「大変です、大隊長!」ハビーは息を荒げて言った。「森に侵入者です! 一団を見たところ、マルチェルダの兵士だということです!」
「なに、本当か?」といいつつ、ロイモンはそれがランスロットの部下だと知っていたし、大して驚かなかった。だが、ここは何も知らないふりをしているのが賢明だと思った。「数は?」
「ざっと二十人くらいです」
一度聞いた事だが、ロイモンはその言葉に笑わずにはいられなかった。ランスロットという若者は、本当に二十人しか連れてきていないようだ。このベリグの現状を知っておきながら無知が過ぎる。
「兵達は言っています。ついに奴らが攻めてきた。賊同様にベリグを扱っているマルチェルダが、賊ごと俺達を討伐しにきたんだって!」
「落ち着け、ハビー。ハビー? それにしては、数が少なすぎるのではないか? きっと分け合ってここへ来たのだ。わしが指示を出すまで、何もするなよ? 兵達にもそれを伝えるのだ」
「え、ええ…」ハビーは振り返り、ロイモンに言われた通りの事を実行しようとして、ふと何を思ったのか再び振り返って彼を見た。「大隊長はどうなされるのです?」
「あぁ…いや、その、あれだ、丁度ここで用を足そうと思っていたんだ。すぐに向かうから、血気盛んな兵達に先に伝えておいてくれ」
「了解!」
ハビーは走って行ってしまった。彼が見えなくなるころにランスロットが木々から姿を現し、ロイモンの前にたった。
「お心遣い、感謝します」
「お前がここで見られたら、ハビーはお前を殺していたかもしれんな。わしが思っているよりも、ベリグの民はマルチェルダを嫌っているようだ」
「そのようですね。まずはそれを解決しなければなりません」
「できるのか、お前に?」半笑いでランスロットを見る。別に馬鹿にしているつもりはないが、彼はどこか本当に実行しそうでおかしかった。それほどのまじめさを彼から感じ取ったのだ。
「やってみましょう。ですがそれには、ロイモンどの、あなたの協力が必要です」
「わしが?」ロイモンは眉を吊り上げた。「わしが連中を説得したところで、多分無意味だろうな。わしとお前で二人揃って兵達の説得か? 大の男二人が血の気の荒いあの連中にどう説得するのだ?」
「ロイモンどの」相変わらずランスロットの声は落ち着いている。不思議なくらいだ。「まずはあなたの意思を証明してもらいたい。あなたはベリグとマルチェルダの統一について、どう考えております? 統一するには、あなたの賛成の意見が必要です。ベリグの頭領である、あなたの意見が」
しばらくロイモンは黙って考えた。マルチェルダと統一することになれば、どうなることだろうか。このアーチェルドは広く、人口の密度が非常に低い。輸送も大変だし、それがある意味食糧難を招いたといえる。
マルチェルダとベリグが一つになる。つまり、近くなるということだ。お互いが協力すればその分作物は育つだろうし、強力になる。なるほど、そこを考えていたのか。
「確かにいい話だ」ロイモンは頷いて、笑って見せた。「それで、どうするのだ?」
二時間後には青い空の下、ベリグの森にランスロットの部下達が到着をしていた。その先にはベリグの兵士二十名が待機し、全員が武器を構えている。
マルチェルダの兵士達は最初何かの手違いだと思っていた。ギモリを連れたランスロット隊長が先に森へ入り、この森の頭領と話をつけているころだ、と。
しかし実際に入ってみれば、待っていたのは武装したベリグの兵士二十名が武器を構えて罵倒の言葉を自分達に浴びせているばかりだ。
「帰れ、泣き崩れ軍団!」
「何しにやってきた!」
「マルチェルダの犬! 消えろ!」
罵倒に耐えきれず、ついに痺れを切らして怒りをあらわにしたのは赤髪のモールドだった。
「もうたくさんだ! 来るなり用件も聞かずにあれだぜ! レンメール隊長、どうします!」彼の口調は訪ねているものではなく、今すぐにでも応戦してやりたいという逸りの気持ちがあらわになっていた。
「うむ」レンメールは確かにこんな事態は聞いていなかった。先に交渉をしているということでランスロット隊長を行かせたものの、いまさらになって本当に彼一人でよかったのかと疑問に思うようになってきたのだ。
なんといっても、ここは北の森のベリグ。山賊の館なのだから。
「うちの隊長はどこへやった!」グリヲが叫ぶ。
それでもベリグの兵士は変わらず罵声を吐き出し、マルチェルダの兵達に浴びせている。その中の誰としても、ランスロット隊長について反応する素振りはみせなかった。
「レンメール隊長、やつらランスロット隊長を人質に取っているんじゃ?」声を荒げてモールドが振り返る。
レンメールは首を振った。
「もしそうなら、連中はここにランスロット隊長を連れてきているはずだ。それに今のところあの集団の中に、ロイモンの姿は見えない。きっと今頃交渉中なのだろう」
そうだといいのだが。レンメールは自分の言った推測が正しくあれと思った。彼がいなくては、この交渉はなりたたないのだから。
「心配をかけたようですまない」
まるで風に吹かれたようにランスロットが兵士達のすぐ後ろに現れ、声を出すまで誰ひとりとして気がつかなかった。
「隊長! ご無事でしたか!」モールドがいち早く駈けつける。
ランスロットの体には外傷とよべるものもなければ、焦りも見えない。それにこの落ち着きようは、交渉が成立したと思わせている。
「どうでしたか、隊長?」だが結果を聞かずにはいられなかった。レンメールは矢継ぎ早にそう問うた。
残念そうにランスロットが首を振り、レンメールは肩をすくめた。
「では交渉は成立ならず、ですな。さて、厄介な事になったものですな」
「ああ、とても厄介なことだ」ランスロットは言った。「交渉はまだ続いている。それが大問題だ。今私達は、賊達に囲まれている」
「本当ですか?」
「ああ。詳しくは後で話そう。まずは、交渉を続行せねばなるまい」
ランスロットが言い終わる頃に、ベリグの兵達の集団がざわめきを抑え始め、その中心から一人の人物が姿を見せ、前に跳び出した。
「マルチェルダの者達よ! 北の森ベリグへ何用で参った!」それはベリグの頭領、ロイモンの声で言った。
丸刈りした頭、屈強そうな顔の顎には輪郭が隠れるか隠れないかくらいの黒い髭が生えている。体は後ろの兵達よりもがっしりとしていて、筋肉質だ。毛皮の短いコートはいかにも堅そうで、剣も通さない鎧のように見えた。
「ロイモンです、隊長」デグが口添えするように言った。
「そのようだな」落ち着きを払ってランスロットも前に出て、マルチェルダの兵とベリグの兵が囲む小さな広場の中心に歩き始めた。
ロイモンもその場にいる。
「お前が指導者だな?」ロイモンは威厳のある声で言った。だがどこか声は荒げており、野蛮な風貌がある。
「ランスロットです。お初にお見えになります、ロイモン頭領」
これから交渉を行うのだろうか。レンメールがそう考えた時、突然ロイモンは右手でこぶしを作り、口の前に当てて咳払いをし始めた。しかもその咳払いがやけに長い。そして、うるさい。
「あ~、あ~」ロイモンは腕を広げて喉太い声を上げ始めた。まるで街へ街へと繰り出して歌いながら旅を続ける芸人が、ショーの前に声の調整をするかのように。
「お~そなたが、かの伝説の騎士ランスロットと申すかー!」
歌でも歌うような調子の声でロイモンは大声を上げる。そして大げさに腕を広げてランスロットの方へ向くその身ぶりは、本当に芸人のようであった。
彼はこれから何かのショーを始めるつもりなのだろうか。ランスロットは相変わらず落ち着いてる。引く様子もない。むしろ、それに乗るかのように身構えているように見える。
いったい、ランスロット隊長は何をお考えなのだろう。
一同が注目する中、ロイモンは恥ずかしげもなく大げさな動きをしてランスロットに向かって歌声とはほど遠い大声を上げていた。
「ではーそなたはこう申すというかー? そなたのマルチェルダと統合することによりー新たな政が始まるようになりー我々も晴れて騎士として認められる権利がもたれるとー!」
ランスロットはロイモンほどではないが、大声を上げて彼に交渉と条件を唱えていた。まるでベリグの兵達にも聞かせるかのように。だが条件の中にはいくつか、マルチェルダの者達が初めて聞くようなものが含まれている。
「その通り! 志持つ者ならば、偉大たるアーチェルドの騎士として王より祝福を受けるであろう!」
ロイモンのように大げさに身ぶりをしているランスロットは、なんだか滑稽に見えた。本当に彼らは、ここでショーを繰り広げているのだ。
だが唖然として見ているマルチェルダの兵士とは打って変わって、ベリグの兵士はその光景を真面目な顔をして凝視している。中には涙を流して見ている者もいる。また中には希望に顔を輝かせている者がいる。
ランスロットの言った言葉を理解できないマルチェルダ勢は首をかしげている。ランスロットの統合の条件の『統合したあかつきにはベリグの者でもアーチェルドの騎士として認める』や『森ではなく都へ住まいを手配する』などという項目は、聞いた覚えがないからだ。
「その条件であればー我々ベリグもマルチェルダに加担する理由となるであろうー! しかーし! 頭領であるわしがー馬の骨とも知らん若者の説得に応じるようではーその名もすたるー!」ロイモンはまた大げさな身ぶりで辺りを一周して、最後にランスロットを見た。
「望むのであれば、馬の骨以上のものをお見せいたしましょう!」ランスロットも負けずの大声を張り上げる。
「では、ランスロットよー! ……」ぴたりとロイモンの動きが止まった。彼の目は問題から逃れるかのように泳いでおり、口は軽く開いている。
ランスロットが少しだけ近寄り、何かを一言二言ささやいていた。
「あーわしと勝負せよーランスロット―!」思い出したようにロイモンは言う。
「お受けいたしましょう!」そしてランスロットはそれに応じた。
二人は同時に見合い、同時に剣を抜く。ロイモンは腰の少々太めの剣を鞘から抜いて両手で構え、ランスロットは腰に挿した二本のスティレットのうち一本だけを引き抜いた。
「剣を交える事によってー…あー…」またロイモンは動きを止めて目を泳がせる。
すかさずランスロットが近づこうとした瞬間、ロイモンは手を突き出してそれを止め、やがて閃いたとでも言うように口を開けて顔を輝かせた。
「お互いの度量がわかるというもの! ランスロット、勝負だー!」
突然ベリグ勢が剣を抜き始め、油断していたマルチェルダ勢は少し遅れて戸惑って剣を引き抜いた。彼らの言う勝負とは一騎打ちではなく、その場で戦争でもおこすということなのか?
ベリグの兵士達は剣を高らかに上げて雄叫びを上げた。マルチェルダの兵士達も負けずに鬨の声を上げる。
「ではーランスロットよー! 剣を交えようぞー!」
その声に応じてベリグの兵士が雄叫びを上げる。しかしその声にも彼らの目にも敵意はない。どうやら、一騎打ちの儀式かなんかのようだ。同じ国の住人でありながら、文化はこうも違うものなのか。
ランスロットもロイモンも武器を構えてお互いを見合った。ベリグの雄叫びも止み、静寂が生じる。真剣な一騎打ちだ。頭領ロイモンと、オレンジの騎士ランスロット。レンメールはランスロットの実力を知り得ないが、オレンジの騎士と称される何かはあるはずだと思った。
茶番だと気づいている。だが、ランスロットの剣の腕には少々興味があった。
少しひやひやしたが、ここまで計画通りだ。ランスロットはふとそう思った。ロイモンは思ったより乗り気で、提案した自分が逆に後れを取っているような気がしていた。
かと思うと、ロイモンがセリフを忘れていたせいでかなり内心ドギマギしていたものだ。だが、やっぱり計画通りだ。
現にロイモンの言った通り“こういう展開”が大好きなベリグの民は食いつき、自分達のショーを真剣に見ていた。あらかじめロイモンが一騎打ちの時の習慣である彼らの雄叫びについて教えてくれなければ、驚いてショーどころではなかったかもしれないが。
ベリグの民は常に騎士に憧れていたと聞いた。それを利用すれば、彼らを引きこむことができるのではないかとランスロットは考えていた。
そしてそれは見事に成立していた。その通りなもので、ロイモンを含むベリグの戦士達は騎士に憧れ、それゆえにマルチェルダと批難していたのだ。だが統合することによりベリグの民もアーチェルドの正式な騎士としていられる権利を授ける事により、それが終わるのではないかと思っていた。
効果は覿面。もともとこういうショー混じりの、まるで子供に偉大な話を聞かせるようなものにベリグは強く引きこまれるのだと言う。ロイモンはそれを演じ切り、こうしてベリグの注目を集めている。
このまま軽く剣で手合わせをし、ランスロットの剣が落ちる事により幕は閉じる。そしてロイモンはランスロットと剣で交える事によりその真を見る事ができ、同時にランスロット自身の強さにも引かれてこの条約に賛成する。
ベリグの民は歓喜。祖先が果たせなかった騎士入りへの道へ歩む事が出来るようになる。
そう、そこまでは簡単なはずであった。
しかし剣を構えた瞬間、大きな雄叫びが森のそこらじゅうから響き渡るようになり、全員が全員一騎打ちどころでなく森じゅうを見渡すようになった。
いったい何が起きたのだ? 疑問を口に出す前に、雄叫びがぴたりと止むと思うと、油断したところを見計らうように賊が何人も森から飛び出し、あっというまに兵士たち全員を囲んでしまった。
奇襲だ! これが一番厄介なことだったのだ! ロイモンから賊に囲まれ今にも迫ってきていると言われ、それだけを考えてきた。このながったらしいショーを演じている間、彼らが来ない事だけを祈っていた。
しかし彼らは来た。よりにもよってあと少し、ほんの二、三回剣を交えて終わるはずのショーの終焉間近で。なんと間の悪い。神がいるなら、もう少し、数秒でも与えてくれてもよかったのではないか。
ショーが終わるのを賊が待つはずもなく、囲まれた兵士めがけて賊達は進軍を始めた。ベリグの兵士もマルチェルダの民も情景が掴めず戸惑ったが応戦を始める。
しかし彼らには二種類の敵がいるのだ。条約も結んでいない今、ベリグにとってはマルチェルダも敵であり、マルチェルダにとってはベリグも敵なのだ。
お互いがお互い剣を交えていいものか混乱し、戸惑いが生じる中、ランスロットとロイモンは再び向き合い剣を構えた。
ランスロットがのろのろと剣を振りロイモンはそれを剣でのろのろと弾く。ランスロットの剣はあっさり手から離れて地面に落ち、鋭い金属音を鳴らした。
それから二人はそそくさと手を取り合い、取りあった手を高らかに上げて皆に方へ向いた。
「みなのもの! この者は信頼に足る人物だ! 我々は今、条約を結んだぞ!」
ロイモンのこの言葉にベリグの兵士は歓声を上げた。マルチェルダの兵士も同じように声を上げる。賊の手が止まり、突然起きた完成に戸惑い始めた。
そして再び静寂が訪れる。賊も兵士達も、全員が手を握り合うランスロットとロイモンを見ている。
握っていた手を投げるように話して、ロイモンは叫んだ。
「何をやっている! 我々は同士になったのだ! 協力して戦え!」
言葉を合図に賊との戦いが再び始まる。
囲まれたアーチェルド勢は若干不利な状況であった。数ではまとまったこちらが多いはずだが、賊の連中は上手い事囲んでおり、逃げ場を塞いでいる。連中はこのまま一気にたたみかけるつもりだ。
「隊長、どうします!」レンメールに向かってグリヲが言った。
しかしレンメールにはまだこの状況をどうすべきか決められずにいた。ベリグの兵士達とは協力することができ、それなりに有利な状況になると思っていたが、囲まれているとなると問題は数ではない。
さて、どうする? レンメールはランスロットを見た。一本のスティレットを巧みに扱い、賊の斧を避けたと思うと次の瞬間には喉を貫いている。
その背中で戦うロイモンも豪傑な戦いを見せている。太い一本の剣を豪快に振り、一振りで二人は叩き斬っていた。
二人とも、申し分ない強さを誇っている。
だがそれだけではだめなのだ。
後方にいるレンメール達はベリグ勢に囲まれており、前に出る事ができない。そしてそのベリグ勢も賊に囲まれて前に出る事ができない。兵力の半分も、ここでは出しきれないのだ。
「ランスロット隊長!」レンメールはランスロットに向かって叫んだ。
「一気に抜けるぞ! こっちだ!」ランスロットの代わりにロイモンが叫んで答えた。
彼の言葉を合図に、全員がロイモンを目指す。ランスロットとロイモンは並んで走り出し、正面で壁となる賊を蹴散らし始めた。
二人は鬼神のような働きを見せている。賊の壁を軽々と打ち砕き、兵達の活路を開いた。
「この方向へ突っ切った先に何があるのです!?」ランスロットはロイモンの言動が気になり、正面の賊の喉にスティレットの切っ先を素早くうずくめて言った。
ロイモンも剣を振り、賊の頭をたたき割ってから答える。「敵の本拠地と思われる場所だ!」
ふいに背後から賊が迫る。振り返る頃には賊は斧を振っており、ランスロットは紙一重でなんとかその一撃を避け、反撃に転じた。
「あなたに同じような事を言われた気がしますが…」二回スティレットを振る。切っ先が賊の腕の腱を切断し、次に喉を引き裂いた。「正気ですか!?」
「わしだって考えがないわけではない!」
二人の切り開いた活路へ兵達が吸い込まれるようになだれ込む。賊は二人の動きを止められず、苦戦しつつも隊形を維持できていなかった。
「賊を追い追われの戦いはもうたくさんだ! 敵が近く、集められるだけ集めた兵を今すぐに奴にぶつけずにいられん! 今が好機なのだ!」
「あなたはそう考えているかもしれませんが、私はまず体勢を整えるべきだと…」
「今しかない! 今以外に奴が油断する時はないのだ!」
敵はロイモンを討つ為に最大限の賊を投入しているということだ。つまりそれは、敵の大将が今一番の隙を生んでいるということなのだ。
「勝機はあるのですか?」
「わからん」ロイモンはルウェンそっくりの声で言った。「だが、これで勝てなければ、もとよりベリグに勝ち目はない!」
「では急ぎましょう。ロイモンどの、あなたが先導してください! ――殿は私が務めます」
「ちょっと、まて、殿を務めるだと…?」
ロイモンが言い終わる前にランスロットは軽々と跳びあがり、賊の一人の肩を蹴った。体に甲冑をつけているとは思えないほど彼は高らかに跳び、空で宙返りをうって走る兵達の隙間へ着地し、立ち止まった。
兵の最期の一人がランスロットの横を過ぎ、後から正面と左右から十何人という賊が一斉に襲いかかってきた。
――ランスロットは静かにもう一本のスティレットを引き抜いた。
先頭一人でも、ロイモンは己の力を生ぬるい賊達に思い知らせる事が出来た。誰もが老いたロイモンだと思っているのだろうが、彼の腕は一向に衰えてはいない。
衰えを知らぬ力強い腕は並の剣の五倍もの重さを誇る重剣を片手で軽々と振る事ができ、目は敵の動きをまともにとらえている。
頭領ロイモン、ベリグの大将。民を導く、ベリグの支配者。それは決して、称されるだけのものではない。ベリグでは真に強い者が上へと登るのだ。
「ぬうぅん!」
剣を一振り。風を凪ぐ音が賊を震え上がらせ、血が敵にも味方にも降りかかる。
ベリグの兵士だけでなく、いつの間にかマルチェルダの兵も彼を追うようになった。彼の進む道を頼りに、彼の進むままに。
ロイモンはこの時、全兵の指揮を握っていた。
ロイモン達は森を突っ切り、賊の追手を巻いて一つの集落へと到着した。集落と呼ぶべきか否かの議論は置いておき、二年前まではここも人々の活気あふれる場所であった。
今では賊の本拠地となっている。誰も近づかない、害虫の巣だ。
「ロイモン頭領」背後からマルチェルダからやってきた兵士の一人が話しかけてきた。「この部隊の隊長のレンメールです。ここはいったいどこなのでしょう?」
部隊の二人いる隊長の一人、か。ロイモンは何も考えず頷いた。
「ここはこのベリグに救う虫どもの巣だ」
「では我々は自ら敵地に飛び込んだと?」
「何を言う」ロイモンは笑った。「お前達が最初に踏み込んだ場所からが敵地だったのだよ」
「ランスロット隊長はまだ来ていないようです」レンメールは振り返り、隊の最後尾を見渡した。
「奴なら心配いらん。剣を交えて、奴の実力を見きった。あの程度の賊どもに倒されるような男ではない」
不可解そうにレンメールが眉をしかめる。
「ですが、あなたがたの交わしたのはただの演技では?」
「いいや、そうではない。わしと奴は一時でも共闘をした。そして奴の強さを見たのだよ」内心少しだけ驚いていた。まさか見破られていたとは。だが、ベリグには効果てきめんだったため大事にはいたらないだろう。
「隊長の動きは俊敏でした。目にもとまらぬとは、あの動きを言うのでしょうな」
「その通りだ」
「おぃおぃ、どうなってんだぁ?」
突然ロイモン達の前に一人の男が現れ、長い茶髪から覗く眉間が険しくひそめられ、獣を思わす瞳が一同を捉えた。
その場にいる全員が動かず静かになり、一人の男に注目する。
男はロイモンより一回り小さい程度の大男で、体中を鎧のように覆う筋肉はロイモンよりはるかに扱った。背中にかけられた二本の短い斧がぶらぶらと揺れて、大きな背中から無骨な刃が見え隠れしている。
茶色い髭からうっすら見える口が訪問者を拒むようにへの字に曲がる。
「なんでお前らがここにくる。なぁ、ロイモン?」
一同の視線がロイモンに注がれる。見た事もない怪しい風貌の人物に名指されたとなれば、次はロイモンの反応を待つしかあるまい。
「……コルテックス!」言葉をハンマーにしてぶつける様に、ロイモンは怒りを込めて言った。
「それだけの人数で攻め込んできたのかぁ?」彼が言い終わると同時に、ロイモン達の背後から圧倒的数の賊が姿を現し、左右へ散らばり完全に兵士全員を囲んだ。最初の時の何倍もある厚い壁が絶望的なほど大きく広がる。「今までお前は何と戦ってきたんだぁ?」
ベリグの頭領ロイモン、ベリグの賊頭コルテックス。二人がこうして正面から会い見えるのはこれで二度目となる。
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