「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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大泥棒の路地裏
第五章 後編
「これが…」くぼんだ壁を覗きこむ。松明の光はちょうどいい角度から射していて、思ったよりも大分見やすかった。
『偉大な戦士、ブルーム』石板にはそう刻まれていた。アニスターの胸が一瞬高鳴る。ブルーム。彼の父の名だ。名前だけは一緒であろうと、この壁画に描かれた人物まで同一であることはないだろう。
アニスターと同じ茶色い頭に、右手にはアニスターのものと全く同じコロナ。盾を持つはずの左手にはつの笛を持ち、背中の武器も防具も所持しない弱き民を先導している図だ。男の横顔は希望の光をたたえ、民はその希望の光に導かれるかのように彼にしたがっている。
この横顔、見覚えがある。決して初めて見たわけではない。この顔は――幼いころから知っているあの顔。いや、幼いときしか覚えていないあの顔だ。
アニスターの父、ブルームは滅多に故郷に帰ってこなかった。最後に父を見たのは、八歳の誕生日の時だ。あの時はまだハンターもよくわかっていないころで、ブルームがこんな危険な仕事をやってきているなんて知らなかった。だからこそ滅多に会えない父に不満を感じていた。最後に見たのは、さみしそうに笑う父の顔だ。
「お父さんなんて知らない!」
それが父にかけた最後の言葉。誕生日の日に、彼はほんの数分家に滞在しただけだ。遊んでもくれず、食卓も一緒にできず、すぐに仕事へいってしまう父の背中に言った言葉。父は振り返り、さみしそうに笑ってこう言ったのを覚えている。
「すまない、アニスター。父さんはすぐに帰ってくる。約束する」
それから父に再会するのは、彼の墓標の前でとなる。
「父さん…」
「そう、お前の父、『綱渡りのブルーム』だ」
「でも、なんで父さんの壁画がここに?」
アニスターの言葉にフレイドはショックを受けたのか、軽く身じろいだ。
「お前、そんなことも知らないのか?」
いや、知っている。僕は何を言っているのだろう。なぜこんなことを訊いたのだろう。
なぜなら父は…。
「お前の父、ブルームは戦争で死んだ。お前なら、そのくらいわかっていたと思ったんだけど」そこでフレイドは言葉を飲み、自分が無神経な事を言ったと思ったのか珍しく表情を曇らせた。「すまん」
「いや、いいんだよ」
「無理させるようなら、すまん。ただ、やっぱりこれだけはお前に見てもらいたくてさ」フレイドはアニスターが見えるように壁画から離れた。「ここを知る人事態少ないんだ。多分、お前も知らないと思ってさ。よかったら、それ読んでくれよ」
彼は石板を指した。アニスターは指定された通りにそこに目を凝らす。石板に刻まれた文字は暗いにも関わらず読みやすかった。
『綱渡りのブルーム』彼は戦争により被害を受けた民を導き、彼らを最後まで守り抜いた英雄。グラベリスとの戦争では民は洞窟にて終わりを待っていた。だが戦争とは悲しいもので、弱き民のいる洞窟はすぐに見つかり、戦争の被害に遭うことになる。弱き民を守ったのは他でもないハンターである彼、ブルーム。
戦争はユーリンドの勝利に収めたのち、民をかばって受けた傷が悪化しその後彼はゲストハウスにて息を引き取る。
読み終わり、フレイドを見上げると彼は一枚の手紙をアニスターに差し出した。便せんなどの加工もしていない、羊皮紙にただ書きなぐられたシンプルな手紙だ。
「これは?」
「お前の父、ブルームが書いたものだ。今じゃなくてもいい、いつか読んでくれ」
手紙を受け取ると、アニスターは読まずにフレイドを見た。
「でも、なんで父さんの手紙を君が?」
「それは今打ち明けることではない、といっておこうかな」それから彼はうつむき、表情を少しだけ明るくしてアニスターに面向いた。「なんてな。実はその手紙も、この資料館の物なんだ。ここで見つけて、息子であるお前に見せなきゃ、と思って連れてきたんだ。お前には本当に悪いことをしたと思ってるよ。だけど、その手紙は多分お前も知らないだろうし、読んでもらいたかったんだ。いつでもいい、覚悟ができたらその手紙を読んでくれ」
父はアニスターのことを何一つ考えていないんだ、ハンターになるまでそう思っていた。だけどハンターになるきっかけを与えてくれたのは父。この武器、コロナを授けたのも父だ。今では、そんなこと思っていない。アニスターはわかっていた。手紙を読まなくても、父がどれだけ自分の事を想っていてくれたか。
「本来なら、そのコロナもここにあるべきだった。だけどお前の父はそうさせず、お前に引き継がせたんだ。その意味をわかってほしい。余計なおせっかいだけど、それだけはわかってほしかったんだ」
「ううん、ありがとう。フレイド」アニスターは気分がなんだか晴れた気がした。最初のころの気持ちを思い出したような。あの情けないとか、誇りだとか考えず、ただただ子供のように突っ走っていたころを。「手紙はいつか読むよ。久しぶりに父さんの顔を見て、なんだか嬉しいよ」
「来てよかったと、そう思ってるか?」
「うん、だからありがとう、っていったんだよ」
フレイドが突然ぎょっとした。理由はわかっている。目頭が熱くなっているのを感じたからだ。それから、頬を伝う涙の感覚も。父さんの気持ち、いままでそんなに考えたことがなかった。ハンターになり、ここへきて、ようやく最初の気持ちを思い出し、父の気持ちがわかった。自分が今故郷の母を想うように、父も自分のことを想ってくれていたのだ。
腰のコロナの異常な熱は、普段は雄飛竜の甲殻などで加工して作った防火素材の鞘に収められているが、それでも温かい熱を発していた。その熱が、昔父の膝に座った時のぬくもりと一緒で、身につけている時だけ安心していた。
「アニー?」
「ううん、ごめん。なんでもないよ」アニスターは涙をぬぐう。フレイドはやはり悪いことをしたと思ったのか、頭を低くして様子を見ている。「大丈夫、ちょっと昔を思い出しただけ。本当に、ここにこれてよかったと思ってるよ」最後にアニスターは鼻が赤いのも気にしないで、今まで忘れていた笑顔を取り戻したような明るい表情になった。「ありがとう、フレイド」
かわいいことにフレイドは少しだけ顔を赤らめて照れ隠しに頭を掻いた。
「まあ…いいってことよ」
「でも、これ本当にもらっていいの? ここのものなんでしょ?」アニスターは手紙を胸の方まで上げてフレイドに見せた。
「いいっていいって、ここの館長のじーさんも、身内がもらっていきたいならそれでいいって言ってたしな。まあ、じーさんとは俺が話をつけておくよ」
「そっか」父の手紙。あとで見てみよう。今まで忘れていた気持ちを思い出させてくれた父の横顔。こうしてハンターになったのも父のおかげだ。父はアニスターの最初ですべてであり、目標であった。
「これからどうする?」
「もうひとつ、お前にみせたいものがあるんだ」そういってフレイドはいつものニヤリとした表情を浮かべた。この時アニスターはフレイドに疑いを何一つ感じていなかった。
驚いたことに、この資料館の部屋の奥にはさらに通路続いてあり、少しだけ先に進むとまた部屋があった。その部屋先ほどの部屋の半分くらいしかなく、奥の方まで見渡せるようになっている。
「すごい、こんなに広かったなんて」
「もっとすげぇもんを見せてやるよ、こっちだ」
言われるままにフレイドについていくアニスター。その間にも、鎧や武器などが壁に立てかけられているのをみかけた。最初の部屋よりそういった展示品は少ないが、年季の入り方が他の武具と比べて尋常じゃないくらい古びていた。というよりも、よく見るとほとんどの武器防具はヒビが走っていたり、折れていたり、とにかく使い物になりそうにないものばかりだ。
部屋の奥に進むと、そこだけ防具や武器のない小ざっぱりした空間に出られた。壁にはいままでのように武器がたくさん立てかけてあるわけでもなく、大きな鉄の板のようなものが立てかけてあるだけだ。
否、これは板ではない。よく見ると柄があり、刃がある。アニスターの身長ほどある大剣だ。大剣用に一メートル近くある柄は上を向いており、左右のツバの役目を果たす斧のように扇状をかたどった刃から伸びる刀身。その先はまた扇状に広がる鉈のような形をした刃がある。大分古い物なのか、もともとは光を灯していたのであろう鋼鉄の刀身は鈍い光をぼんやりとしか宿していない。まるで岩のようだ。
間違いない。これはモンスターハンターの武器だ。それもかなり“時代遅れ”なものだ。恐らく純鉄製なのだろう。これだけの大きさなら、重さはかなりものになるはずだ。
大剣の一番の強みは、その重量を乗せた一撃だ。この大剣は見事に条件にあっている。時代遅れとみなされている理由は、それだけだという点だ。今の時代、大剣であろうと大きな威力を持つ武器であろうと、何かしらモンスターに有効な付加属性がついているものである。
フレイドのドラゴンキラーも竜に絶対的な威力を誇る龍属性を持ち合わせているし、アニスターのコロナも同じように強力な炎の属性を宿している。だがこの大剣はフレイドのドラゴンキラーよりも切れ味がいいわけでも、付加属性を秘めているわけでもない。
ただ重いだけの、なんの変哲もない時代遅れの武器だ。見方を変えれば、鋼鉄の板にしかみえない。
辺りを見渡しても、その空間以外他に何もないことから、アニスターはフレイドが見せたがっていたのはこれだと察した。
「フレイド、これって?」
ここにある以上、戦争にかかわる代物なのだろう。それにこの扱いだ、きっと何かがある。
「これは<センチネル>っていう大剣だ。素材はマカライト鉱石と鉄鉱石だけのシンプルなものだ。この広い刀身で、モンスターの攻撃を受け止める防護面に特化してるんだ」
確かに刀身の幅は広い。フレイドのドラゴンキラーよりも1,5倍はある。だが、切れ味も見たところ鋭いわけでもないし、重量だけに物を言わせている大剣としては物足りなさすぎる気がする。
「このセンチネルも戦争での備品?」
「ああ、そういうことになるな」
「でも、なんでこれを見せたかったの? 確かに年季が入ってて、昔のハンターはこういった装備をしてたってことで何となく感心はするけど」
「俺はお前のことを知っている。結構な」フレイドは肩をすくめた。「だけど、お前は俺のことをあんまり知らない。これから組む上で、お互いちゃんと知っておくべきことを知っておかないとな」
言い分はわかる。だけど、これを見せたところで彼の何がわかるというのだろう。
よく見てみると、壁に打ち込まれたセンチネルと呼ばれる鋼鉄の板のすぐ隣に、何かの壁画が見えた。アニスターの父、ブルームの壁画と同じ大きさ、形をしたものだ。だが絵自体は全く違うものだった。
その絵を見て、アニスターは一瞬悲鳴を上げかけた。すぐに口を押さえてなんとか声を抑えるも、意思とは反対に目はしっかり絵をとらえている。
絵には人が描かれていた。だが、初見では人に見えなかった。たとえるなら…そう、悪魔や、なにか恐ろしいモンスターのようなものだ。
男の絵だ。頭は真っ赤、フレイドのようだ。眼は鋭く、瞳はまるでこの鋼鉄の板のように光をほとんど受け付けていない。よく見ると顔は普通の人間だが、一目見るだけではモンスターのそれとは変わりない異様な雰囲気をまとっている。防具はハンターのもので、察するにフレイドのリオレウスシリーズの防具をさらに強化したものだとわかった。
そして驚くことに、右手にはあの鋼鉄の板を持ち、振り上げている。まるで獲物に襲いかからんばかりの剣幕で、今にも鋼鉄の板を振り下ろしてきそうだ。左手はドス黒く塗りつぶされている。全身血だらけで、背景は死んだ――おそらく殺された――戦士の骸でいっぱいだった。鋼鉄の板にはおぞましいほどたくさんの血が浴びせられている。
「こ、これは…フレイド?」
フレイドに目をやり、またアニスターは悲鳴をあげそうになった。一瞬フレイドが、あの壁画の人物とそっくりに見えたからだ。いや、よく見るとどこか似ている。顔も身長も違うはずなのに、どこか…そう、この赤毛と鋭い目だ。
だがフレイドは別に取って食おうなんて考えを持っているわけでもなく、いつも通り微笑を浮かべている。
「この人は、このセンチネルの所有者さ」
絵を見ればわかる。だけど、こんな凄まじい絵を残させる人物をアニスターは知らなかった。
「『片腕のフレイ』この名前くらい、聞いたことはないか?」
「片腕の、フレイ…?」繰り返して言ってみたが、まるで覚えがない。いったい誰なのだろう。そして、どんな偉大なハンターなのだろうか。少なくとも、今のレヴァンにはこんな人物を見かけたことがない。アニスターは首を横に振った。
「片腕のフレイ、かつてグラベリス軍の総司令官で、軍を率いてレヴァンと戦った英雄さ」
「グ、グラベリス軍の!?」
「ああ、そうさ。不思議はないだろう? なんたって、ここはあの戦争の資料館。敵側の武器や鎧があっても不思議じゃないさ」
言いえて妙だ。
絵の下には石板があり、文字が刻まれている。だがそれを読む必要はなかった。なぜなら、フレイドが勝手に饒舌ぶって説明しだしたからだ。
「片腕のフレイ――もともと、グラベリスにはハンターというものが存在しなかったんだ。なぜかっていうと…まあこれは省こう、面倒だしな。とにかく、ハンターの存在を許されない国だったんだよ。だけど、その中で唯一ハンターとして認められたのがこのフレイなんだ。別名、赤毛の悪魔、とかも言われているけどな。とにかく、軍をたった一人でまとめあげ、いろんな国を滅ぼしてきた人だ」
「き、危険な人なんだ…」
「ああ、司令官としてもかなり有能だったが、それ以上に彼の戦いは凄まじかったそうだ。彼がなぜ『片腕のフレイ』と言われているかわかるか?」
アニスターは首を横に振った。
「彼はこのモンスターハンターの武器、センチネルを右手だけで扱い、数々の戦場を駆け抜けていったそうだ」
「えぇ! そ、そんなことができるものなの!?」
「そりゃあ、俺にだって無理さ」フレイドは笑った。「でも、いつかなってみせるさ」
フレイドの目はセンチネルから背中にドラゴンキラーの柄に向けられた。その目はどこか遠いところをみているような、そんな気がした。
「まさか、フレイド…君って」自然に自分の顔が引きつるのをアニスターは感じた。これから自分の口にする言葉がなんだか子供じみているような気がしたからだ。「もしかして、それが君の目標ってこと?」
ひきつった顔からだんだん笑みに変わってくるのも感じた。
フレイドはまだ説明を続けようと口を開いたが、不意を突かれたのか言葉を出せずに天井を見上げた。天井も石造りで、松明の光を映し出している。冷たい光をたたえていて、それだけで表面は凍りそうなほど冷たいのがわかった。
「そうだけど?」自分でも馬鹿馬鹿しいと思っているのか、フレイドは強気に答えた。
「へぇ」
「なんだよ」
「なんでも」
「なんなんだよ、文句あるか?」
「文句なんてないよ」もうこの時点でアニスターは笑みを抑えるのをやめ、フレイドの肩を軽く叩いて小さく笑っていた。「がんばってよ、片腕のフレイドさん」それから彼は絵を見上げた。背筋に悪寒が走る。多分、これからもずっとこの絵には慣れることもないのだろう、そう思えた。「でも、本当にこんな人がいたの? …いや、フレイドを疑うわけじゃないけど、でもこんな重たいものを片手で扱うなんて、なんか考えられないな」
「それについては、いろんな説が上がっている」
「説?」
「ああ。だいたい、彼が赴いたという戦場はみんなグラベリスの圧勝だったそうだ。兵士全員捕虜になる間も与えないほどの激戦をな。つまり、ほとんど彼を見かけた者がいないんだ」
「それって、どういうこと?」
「今回のこの戦争でも、彼らしき人物を見かけたという証言はいくつもあったが、実際に彼と戦ったり話したり、直面した者はいない。伝説が正しければ、彼は不敗の戦士。挑んだ者をことごとく殺していったそうだ。だから、彼を知る者はいないとされている。これもまた、彼を目撃する人がいない原因の一つだ。
それで疑い深い連中は彼は本当はいなかったのではないか、って考えだしたんだ」
「確かに、そのフレイって人がみんな殺していったのなら、彼を見かける人はいないことになるからね」
「そう。つまり彼は、グラベリスに実在した人物ではなく、グラベリスが作り出した架空の人物ではないか、って言われてるんだ。他の国を脅かすためにたてたでっち上げか、もしくは軍神として祭っていた、とかな」
それなら、まだ信じられる。アニスターはそっち寄りの考えを持っていた。その考えに同意しようと思った瞬間、フレイドの瞳の光は明らかにそれを拒否していた。
「彼はいるね、絶対」
「なんでそう言い切れるの?」
「いるからさ。彼は俺の憧れで、目標だ。お前が綱渡りのブルームを目標にしているように、な」
「目標、か。…あっ」
「ん、どうした?」
「あっ、いや…」そこで彼は初めて気づいた。フレイドは純粋に片腕のフレイという人物を目標にしている。だからこそ、こんな純粋に自分に打ち明けたのだ。彼はアニスターと一緒だ。目標に向かって突き進む一人のハンターだ。そう思うと、突然罪悪感がこみ上げてきた。「その、ごめん」
「ん?」フレイドは不思議そうにうつむいたアニスターの顔を覗き込む。
「いや、なんか馬鹿にしてごめん」
「ああ、そんなことか。いいって、気にするなよ。俺のこの目標を聞いて、笑わないほうがおかしいよ」それから見せたいものを見せて満足したのか、フレイドは上機嫌な態度で踵を返して部屋の出口へ向かっていった。「行こうぜ、アニー。これでお互い、簡単な自己紹介は済んだ。だから、これからよろしく頼むぜ」
フレイドから伸ばされた手をアニスターは見た。よく見ると、自分の手とあまり変わり映えのない手だ。防具に覆われて全く別物に見えるけど、それでもアニスターには自分とまったく一緒のものだと思えた。
「うん、よろしく」彼の手を取る。彼は力を込めて握り返してきた。手がしびれた。
それから部屋を出ていく瞬間、あのセンチネルのあった空間にまた別の物が立てかけられてるのが見えた。それも大剣と言えるもので、同じく鉄製のものだ。反った形の刃は少し先でぱっくりと折れており、恐らくその片割れであろう刀身がその大剣の真下に立てかけられていた。
「あれ、なんだろう」
ぼんやりとアニスターがそう呟くと、フレイドは振り返ってその大剣を見た。
「さあ、確かその戦争の後見つかったセンチネルのすぐ隣で転がっていたそうだ。折れた状態でな。多分、彼と戦って負けた奴のじゃないか。すぐに叩きおられそうな奴だしな。斬破刀っていうらしいぜ。それなりにいい武器だが、しょせん彼にはかなわなかったってことさ。武器がすべてじゃないんだよ、アニー」
「へぇ…」
適当にそう促して、アニスターはもう一度振り返って折れた斬破刀を見た。松明の光を鈍く反射した刀身は、まだ強く輝こうとしているようにも見えた。
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