「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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大泥棒の路地裏
第十章
「角刈りと僕」
「またいつでもおいでよ、アニー。それから、フレイドも」おばちゃんは優しい声で言い、二人を見送った。
「ああ、ジュース美味かった。また来るよ」
フレイドは心底おばちゃんのサービスしてくれた木の実ジュースが気に入ったようで、あれから何杯もおかわりをした。飲んでおかわりと頼むたびに、アニスターに「これから毎日ここに来ようぜ」というほどの気に入りようだ。今回はサービスだったからいいものを、フレイドが今日飲んだジュースはこの店の中でもかなり高価なほうで、毎日来て今日のように飲んでしまえばたちまち狩で得た収入なんてなくなってしまうだろう。
二人は店を出た。まだ明るい。オレンジ色の太陽が淡く光り、レヴァンを温かい色で包んでいた。結構時間が経ったと思っていたが、それは錯覚だったらしい。この短い間に、いろんなことを考えていたせいだろうか。
「いやー甘いもん口に入れた後はなんかたらふく飯食いたくなるなー」能天気で上機嫌な声でフレイドが言った。
「なんでだよ。普通逆じゃない?」すかさずアニスターが突っ込む。
「お前だって腹減らないのかよ。俺はここから酒場に帰る道のりだけでもう腹減って滅入るよ」
「僕はどっちかっていうと休みたい気分だな。早くベッドで横になりたいよ」
「食うもんは食わないと、体力だって回復しないぞ」
それはそうだけど…あまり無理に物を詰め込むと、疲れて胃がでんぐりかえってしまいそうだ。
フレイドはさっそく帰ったら何を食べるか、ということしか頭にないようで、料理名を口に出してチョイスしていた。その口から出るものは主に肉料理なのだが。
こんなフレイドに呆れつつも、アニスターはあまり油断せず彼を見ていた。彼の言うギルドナイツになる条件では、パートナーが必要で、彼はアニスターをそのパートナーに推薦した。
その行為事態理解が出来なかった。なぜ自分なのだろう。なぜ今頃、そんな話が持ち上がってくるのだろう。フレイドは何かをたくらんでいる。確かな確信なんてこれっぽっちもなかったけど、そう思えてならなかった。
アニスターは自分自身がメラルーの拾ってくる空になった回復薬の容器より価値のない存在だと言う事を認めていた。それを突然、ハンターのなかでもエリート的存在のものにしようとするフレイドの考えが読めない。全く読めない。
「おい」フレイドが少し寄り、疑念のある声で言った。彼を疑っている時に突然声をかけられたので、内心かなりびっくりしていた。
しかしその驚きが今度は怒りに変わる。僕は知ってるぞ。君は僕を利用しようとしているだけなんだ。僕をどう利用するかはわからないけど、そうやってうまい話をもってきて、僕を言いくるめようとしているんだ。君は僕を土台にしようとしているのか?
「…なに?」
「あいつ、まだいるぜ」
フレイドはくいっと親指で背後を示した。アニスターもちらっと後ろをうかがう。
そこには自分達の歩調に合わせて、うまく背景となっている人々にまぎれようと努力しているバア=ギス・レイフォーがいた。そしてアニスターと視線が合うと、すぐに顔を反らして赤の他人を装った。
「いい加減、なんかしつこいな。俺がなんか言ってきてやろうか?」
「いや、いいよ。多分そのうち治まると思う」
一瞬視線があった時の、バースの瞳には微かに怒りが混じっていた。何を怒っているのだろう。でも今は、そんな事はどうでもよく、すぐによそへ置いていった。
酒場への道のりは遠いようで近い。しかしこの帰り道ではその道のりもかなり長く感じた。フレイドの態度は何も変わっていないが、アニスターはフレイドを見ては彼が何を考えているのかを詮索しようと目を光らせていた。だが結局のところ、何もわからない。
もやもやした気持ちがアニスターの胸に渦巻いていた。こんな気分は初めてかもしれない。でもどこか懐かしいような気がした。だからといって不愉快でないことはない。
フレイドという少年は正直わかりにくい存在だ。何を考えているのか、そしてそれを表に出しているのか、まるでつかめなかった。彼とこの短い間一緒にいる期間のなかでも見抜けない。
やがてアニスターは自分でも過剰だと思うほどの疑りをフレイドに持つようになった。そしてそれが強くなるほど、嫌な気分が、胸のもやもやしたものがやがて脳に達し、しめつけるような感覚がじっとりといやらしく濃くなってきた。
もう耐えられない。歩いて何時間たったのだろう。もしかしたら、何日もたったのかもしれない。それほどアニスターにはこの道のりが長く感じた。
「お前もなかなか使えるようになったし、そろそろ次のステップに進む時だな」フレイドはアニスターを見ないでぼやいた。
それでアニスターは爆発したい気持ちを抑えられなくなってきた。君は最低限僕を使えるようにして何をするつもりなの? 僕を利用することで、君はギルドナイツになれるの? それとも、数歩でも近づけるの?
二人はその時、大きな弧を描いて噴き出す噴水の前を歩いていた。市場からも近く、そして酒場にも近い。ここまでくれば、道のりはあと半分くらいだ。
アニスターは立ち止まる。フレイドはそれを見ていないにしても、何かを感じ取ったのか即座に振り返った。
「アニー?」
「フレイド」アニスターはこの言葉が自分から発されているとは思えないほど、冷たいものだと思った。一瞬胸が心臓の喘ぎで膨らんだのではないかと思った。「ちょっと、話があるんだけどさ」
フレイドは噴水の水の流れる音や人々の騒音に微かに交じっていたアニスターの足音が突然消えたのに気づいた。岩に耳を当て、直接大地の音を聞くことでモンスターの位置や大まかな場所を当ててきたフレイドには、そのくらいわけないことだった。
振り返ってみると、その通り、自分でも相変わらず感心するほどだ、アニスターは立ち止まって、表情のない顔をしてフレイドを見ていた。
「アニー?」
どうした? と訊ねる前に、アニスターは口を開いた。その表情の現さない顔から出される言葉は冷たく、とても彼から出た言葉とは思えなかった。
「フレイド。ちょっと、話があるんだけどさ」
「ああ、いいぜ。また狩の質問か?」
アニスターが興味を持つなら、ハンティングの知識なんかなんでも教えるつもりだった。アニスターは飲み込みが早い。あのランポスの時だって、注意すべきところはしっかり学んでいたし、その臆病な性格がなければかなり腕の立つハンターになっているはずだ。
それが埋まってしまっているのは、それを本人が自覚していないことと、無知ゆえだ。だから彼が知りたい、教えてもらいたい知識があるのなら、教えていくつもりだ。
しかしアニスターの口からは、その予想をはるかに外れた質問が出てきた。
「君は僕を利用してるの?」
ほんの短い間時が止まった気がした。だが周りの歩いていく人々はスムーズに動くし、噴水の水音も澄み渡っている。何も止まってはいない。アニスターの言葉に不意を突かれ、言葉を失った。このアニスターは何を言った?
「どういうことだ?」
なんのことかさっぱりわからなかった。アニスターは自分が聞きとった事とは関係ない、違う事を言ったのかもしれない。もしかしたら今度は飛竜の狩り方を教えてほしいとか、回復薬の調合を教えてくれとか、そんな呆れるようなくだらないことなのかもしれない。
「僕を利用しようとしているの?」
まっすぐと、それでいてどこか落ち着きのない彼の震えた目を見て、フレイドは言い間違いでも聞き間違いでもないと悟った。利用した? 利用しようとしている?
「利用ってなんだよ、アニー」
「そのままの意味だよ」
アニスターの口調からは、始めた会った時の初々しい可愛さがなくなっていた。さっきまで普通に話していたというのに、いったいどういうことだ。
「おいアニー、どうしたんだよ」
「僕はどうだってしていないよ」アニスターの震える瞳は下を向き、彼は両腕を抱いた。自分でも、なにがなんだかわからないといった風だ。「いや、僕はどうかしたかもしれない…前なら、こんなことなかった、それはつまり……」
さらにアニスターの言いたい事がわからなくなってきた。彼はいま気が動転しているのだろうか。だとしたら、落ち着かせる必要があるというものだ。
「アニー」フレイドは優しくアニスターの両肩を掴んだ。「いったいどうしたんだ? 何かあったのか? まずは落ち着いて……」
すると突然アニスターはフレイドの手を叩き落とし、後ずさった。その目には脅えと当惑が浮かんでいる。
「アニー、どうしたんだよ」さっきからこの言葉しか言っていないというのは自分でも自覚している。
「わからない…」自信ない声でアニスターは言った。「でも、君が僕を利用しようとしているのなら、説明がつくかもしれない。君は僕を踏み台にするために、僕を誘ったんだ」
「おい、なんだよそれ」純粋な怒りが当惑の中からひょっこりと姿を現した。「俺がお前を利用する?」
「最初から変だとは思っていたんだ。君みたいなハンターが、僕みたいな何の価値もないひよっこハンターと行動しようなんて。絶対何かおかしい。でも君は今日、僕にギルドナイツの事を話した。君は自分の夢の為に、他のハンターと同じように僕を…」
その先を言おうとしないのか言えないのか、フレイドは頭にきてその判断ができなくなってきた。気が付いたら、周囲が注目するような大声を上げてしまっていた。
「おいおい! さっきから聞いてりゃなんだよそれ!」
「それしか考えられないよ!」アニスターもフレイドに負けない大声を上げた。「君が僕と組むなんて、それ自体おかしいことなんだよ! 君も他のハンターと同じで、僕を利用することしか考えていないんだ!」
他のハンターと同じで? 利用する? おかしい? アニスターの口から出た言葉全てにフレイドは激情を覚えた。このアニスターは、やっぱり変だ。しかしあまりにも頭に血が昇っていて、アニスターの様子が変だとか、何があったのか、そこまで頭が回らず、言葉に出来る限りのもので反撃をしようという本能しかなくなっていた。
「ふ・ざ・け・ん・な・よ!」フレイドの手はアニスター胴鎧のベルトを掴み、ぐいっと押し寄せた。フレイドの今にも泣きそうな臆病な顔が近づく。だがフレイドはひるまなかった。「俺がわざわざお前なんかを利用することなんてないだろ! お前を利用する対象と選ぶくらいなら、もっとマシな人選を選ぶね! お前はせいぜい、狩の餌くらいしか利用できそうにないからな。それを実行してみせようか、ああ!?」
言葉が悪かった。フレイドは自分でもそう思ったが、後に引き返せなかった。アニスターの今にも泣き出しそうな顔は驚愕に変わり、そこからフレイドと同じように怒りに変わる。
「やっぱりだ」アニスターの声は震えている。「やっぱり君は、僕を利用してたんだ! 僕を何も知らない無知な奴だと思って、僕を土台にしようとしたんだ!」
「いい加減にし…」
フレイドも同じく怒りで震えた声で言いかけた瞬間、アニスターは背を向けて走っていった。
「おい、アニー!」
声は届いていただろうが、アニスターはひるみも振り返るそぶりも見せず、そのままフレイドの前から姿を消していった。フレイドは彼を追いかける気力も失せ、彼に対してのいらだちだけが残った。
「……んだよ、あいつ。………クソ!」
何に怒っていいのかはわからない。取りあえず、周囲の注目が集まっている中フレイドはその群衆の苛立った目を向け、噴水を蹴った。防具越しでも、硬い石で造られた噴水の縁を蹴った代償は大きく、しばらくじーんという痺れが足に響き渡った。
夕方から酒場は忙しさのピークを迎える。ギルドの作業員は全員出動し、ハンターの頼むビールや料理を運び、依頼を受けるハンターの申請を許可し、さらにたくさんの雑用をこなす事でもう他に気を移す余裕もなくなってくる。
ハンターは狩での話しやビールを流し込んだり料理を口に運ぶことで忙しい。メイドなどの作業員もそれの手伝いという名の雑用をこなすので忙しい。その間、唯一のんびりとした空間を保っているのがギルドマスター周辺である。
ほとんど確認できないくらい閉じた細い目は本当にどこを見ているかわからず、杖をついてカウンターの隣で腰掛ける姿勢は老人そのものだ。数年前まではかなり機敏な動きができていたそうだが――それでもその姿を見る事は滅多にないが――今ではその片鱗も見せず、動きはよろよろのろのろといった感じで、誰がどう見ても歩くのもままならない老人だ。
その上身長は赤子くらいしかないため、彼がカウンターの上に腰かけない限りほとんどのハンターは彼の存在に気づかない。彼が見せていたという圧倒的な存在感は、とうの昔にかすれていった。
ギルドマスターは横目でカウンター越しのヴィネーダを見た。彼女は相変わらず忙しそうに台帳をめくり、ハンターの依頼の申請書に判子を押し、狩に出る許可を与えている。それからハンターの注文を受け、ビールを運び、オーダーをシェフに伝える。それらの行動を同時に強要されることもめずらしくない。
ヴィネーダはギルドマスターの視線に気づいたのか、彼の方を見下ろした。二人の目が合う。
「ヴィネーダ、カウンターまで手を貸してくれんかの」
「はいはい」先ほどまで忙しくて余裕の持てなかった顔は少し緩み、ヴィネーダは穏やかな声で言った。
彼女がギルドマスターの前にかがみ、手を差し伸べるとギルドマスターはのろのろとその手に自分の腕を組み、歩くよりずっと機敏に彼女の肩までよじ登った。
ひょい、とギルドマスターは飛び降り、音も立てずにカウンターに尻をつける。投げ出した短い足は宙に浮き、バランスを崩すとすぐにもカウンターから落ちてしまいそうだ。
老いた竜人族はカウンターにぶっきらぼうに置かれた――散らかったと言った方が妥当だろう――いくつかの羊皮紙を見た。全部依頼書だ。そのうち一枚を手に取り、腕いっぱいに広げてそれを眺めた。
「…うむ」ギルドマスターは実感のない声で言った。「そろそろ、時が満ちたのかもしれんのう」
その哀愁いっぱいの声を聞いて、ヴィネーダは心配そうに見つめていた。
周りを過ぎていく人々の影があまりにも速くて、アニスターはめまいを覚えた。涙いっぱいにたまった目は滲んでよく見えず、怒りで歯がゆい気分は最高潮に達していた。もうどうでもよくなった。とにかく今は走って早くフレイドから遠ざかりたい。
だがいつまでもこうして走り続けていたいという思いとは裏腹に、すぐに体力はつきてしまった。気がつくと、強く地面を蹴っていた足の速度は落ち、やがてのろのろと歩くようになってきた。
息切れで胸が苦しい。後先考えず突っ走った結果だ。疲れてしまうと、先ほどフレイドとの口論がウソみたいにばからしく思えてきた。
何を脅えている? 何を恐れている?
さっきまで感じていた激しい感情は自分自身への怒りであった。その理由も、油断したらすうっと消えて忘れてしまいそうなものだった。
胸を焦がすように熱く滾り、自分自身を罵倒する怒りは他人から受ける罵声より応える者がある。そうだ、自分は臆病だ。歩きながらアニスターは思った。僕は昔よりずっと臆病だ。
フレイドはギルドナイツになりたい。そしてそのギルドナイツになるためには、一人の相棒がいる。その相棒として、彼はアニスターを選んだ。なんのとりえもない自分を選んだフレイドの考えている事なんてわかりもしないが、アニスターはそれを全部悪い方向に考え過ぎていた。
彼は自分を利用する気だ。踏み台にするつもりだ。フレイドは冷徹な悪魔だ。狩の時にその本性を現すのだ、と。実際は違った。アニスターはもの凄い剣幕で怒鳴るフレイドを見て、そしてそれの姿を今思い出して初めて気づいた。
心にもない言葉を発した自分に対して思いやりと怒りを持って接していた。それは使い捨てのものが突然自分の役目を放棄した事に悪態をつくようなものでもなく、裏切られ落胆したようなものに近い。心底信頼したものに裏切られた自分を鏡で見ているようだった。
そうか、彼は本当にアニスターを心配していたのだ。
気づいた今でも遅かった。そして馬鹿な自分が本当に憎たらしくなっていた。なんでもっと早く気づかなかったのだろう。
『またな、リスハンターちゃん』
いじわるっぽいハンターの声が突然頭の中で響いた。
『楽な狩だった』
やめてくれ。アニスターは頭を抱えたい気持ちでいっぱいだった。が、周囲の人目を気にする余裕は持っていたため、早足で人気のないところまで向かった。
『モンスターを相手にするよりずっと――』
アニスターは路地を抜け、何もない殺風景な広場に出た。低く草が茂り、どこにでもある木々がぽつぽつと生えた場所だ。そこは解体もなにもされていない場所で、自然の土地そのままが残っている。地面はでこぼこで、アニスターはその唯一へこんだ場所に足を引っ掛け、大胆に転げ回った。
おかげで、先ほどまで聞こえてきた声が消えた。そして、実感をした。
そう、自分は騙された。何度も、無知なこの自分を恥じた事か。そして、繰り返した。すがりたいものが、すがるべきものでないことを確信した時――すがる事が許されない事だと悟った時、アニスターはさらに臆病になっていた。臆病は特権? ハンターには必要なことだ?
いろんなアドバイスをしてくれたハンター達は間違った事を言わないと思っていた。だけどそこに、唯一間違っている事がある。アニスターは思った。あなた達のおかげで、僕は友達を一人失った。
アニスターは両膝を抱えて座り、やがて沈みゆく夕陽を眺めていた。反対の空からは月がうっすらと輪郭を見せ始めている。流れる雲は次第に淡い闇に飲まれていった。その中で、アニスターはため息をついた。
「はぁ…」
深く、そして短いため息だ。これだけで気分が晴れるわけでもなく、悶々とした気持ちはさらに濃くなってきた。
「僕はなんであんな事を言ったんだろう」アニスターは呟いた。この広場には滅多に人がやってくることはない。独り言を聞かれる心配をする必要はなかった。「フレイドに、なんてことを言ったんだ……」
今思えば失望させてしまったのは自分のほうだ。アニスターの目には怒りだけでなく落胆などの、自分が裏切られた時のものと同じものがあった。アニスターを今まではめてきたハンターは、あんな目を見てまだ続けているのだろうか? 罪悪感も芽生えないのだろうか。
今すぐフレイドに会って話したい。そして、謝りたい。勝手な勘違いをして、怒らせてしまって本当に申し訳ないと思っている。だけど、なんて言えばいいのか言葉が見つからない。
今こうして座って、それも落ち着いて考えているというのに思いつかない。となると、会ってフレイドと正面を向いて話そうとしても、きっと何もでないだろう。
こんな時、僕はいつもどうしてたんだろう。駄目なアニスター。情けないアニー…。
この自分で作ったフレーズを思い出すのも何年振りだろう。約二年くらい。アニスターがレヴァンにやってきたばかりのころだ。あの時から、アニスターは賢いハンターにはめられ、痛い目を見てきた。そして浮かんだ。
駄目なアニスター。情けないアニー。君はそうやって臆病になっていくの?
情けなくて、フレイドに申し訳なくて、泣きたくなった。自分の膝にうずくまって、そのまま消えてなくなりたいとさえ思っていた。こんな時、二年前同じような気持ちになったあの時、どうやって立ち直ったのだろう。
「よお、アニー。久しぶりじゃねえか」
荒っぽい声が背後から聞こえ、アニスターは振り返った。そこにはそう――二年前と同じように、夕日で妙に目立った輝き方をするバア=ギス・レイフォーの角刈りがあった。
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