大泥棒の路地裏

大泥棒の路地裏

第十一章


「朝と僕」

 酒場の忙しさはピークまっただ中で、いつも笑顔で接してくれるメイド達からも疲労の様子がうかがえるほどになってきた。毎日のこととはいえ、彼女達もこの忙しさには慣れることはないらしい。

 それをよそにハンター達は大量の酒と料理を頼み、ひどく酔った者は好みのメイドをくどこうと仕事の邪魔をしている。他のひどい酔い方をしたハンターは喧嘩を始めたりもする。

 荒く、うるさく、不格好な姿を保ち続ける酒場は今夜も活気にあふれていた。その中でもフレイドは明るい活気から離れた一段と暗い隅っこの方で肘をつき、用意されたビールを一口だけ含んでジョッキの底を机に叩きつけた。

「んだよ、クソッ!」

 フレイドの怒鳴り声は酒場のうるさい空気に溶け込み、誰の注目も集めなかった。

 アニスターの事を思い出すと、苛立ってしょうがない。あれほどよくしてやって、それでいて本気でこれから組めるものと思っていた少年に突然ありもしない勘違いで破局になった。

 全く、とんだ相棒様だ。利用しようとしたうんぬんじゃなく、そう勘違いさせてしまった自分にも少なからず苛立ちを覚えた。何をどう間違ってそう思わせたのかはまだわからないが、やっぱり腹立つ。アニスターとフレイド、どっちにもはらわたが煮えくりかえりそうなくらいの苛立ちしか覚えない。

 本来酒に強くないフレイドだが、こういった時は酒で忘れろと教わった為一口だけ飲んでみた。やっぱりまずい。だがそれからアニスターの事を思い出すと、もうどうでもよくなりジョッキの中身を一気に飲み干した。

 炭酸の液体が喉を刺激する。そして次に胃をちくちくと刺激し、最後に舌に苦い味を残した。なんてまずさだ。おまけに、頭がくらくらする。やってられないな。もう飲まない。

 そう思った瞬間、目の前に置かれた空のジョッキが突然宙に浮くと思うと、中身の入った金色の新しいジョッキが代わりに置かれた。見上げると忙しそうにメイドが動きまわり、ジョッキを片づけている。

「おい、俺はおかわりなんて…」

 言い終わる前に、メイドにはもう周りの騒音で声がかき消され、聞こえないところまでいってしまった。

 仕方なくフレイドは目の前のジョッキを見つめる。そしてそれを手に取り、また一気に口に流し込んだ。

 さっきと同じ感覚が喉と胃を刺激する。ああ、だめだ。やっぱまずい。次に骨付き肉にそのままかぶりつく。うむ、やっぱりこれは美味い。まずいものを入れた後の肉は格別だ。

 突然アニスターの言葉が浮かんだ。

『僕を利用していたんだ!』

 フレイドはかぶりついていた肉にさらに深く歯を食いこませ、顎を強くしめた。肉の下に固い骨があったが、フレイドの強い顎と歯はいとも簡単に砕いた。

「ちょっと、何そんなに荒れてるのよ」

 黒いメイド服を着込んだ待受け嬢、ヴィネーダが片手に四本のジョッキを持った状態でフレイドの隣を通り過ぎた。口にはハンターの提出した狩の申請書を唇で咥えている。

 料理とビールをハンター達の机に置き、フレイドに向き直った。その際、口にくわえていた羊皮紙もハンターの席に置いていった。

「アニーはどうしたの?」

 またアニスターだ。アニスターの事を思い出すと腹がたってしょうがない。たとえ名前だけが出たところで、それは変わらない。

「ああ? 知らねえよ」ぷいっとフレイドはヴィネーダの反対側を向いた。その行為が子供染みているのは自分でもわかっている。

「アニーと何かあったわけ?」ヴィネーダが寄る。だがフレイドは顔を合わせなかった。
「だから知らねえっつってんだろ」

 このままやり過ごせるとは思ってはいなかった。なんたって、この女は中々鋭い勘をしているようだし、アニスターのことについては過保護過ぎるところがある。

 彼女は確信めいた顔をしてフレイドを見つめた。

「何かあったのね?」

「あったあった、あったよ。それで、なんか関係あんの、あんたに?」

 とにかくもうこれで話を切り上げて、今日の事を忘れたかった。今はこの苛立ちをどうやって消耗するか、それだけを考えていたい。

「あーあ、こりゃちょっとやそっとの喧嘩じゃないわね」ヴィネーダは腰に手をつき、呆れたような顔をした。「男の子同士だから、喧嘩とかは当たり前だけど。あんた達知り合ってまだ間もないんだし、まだお互いの事わかってないんじゃないの? あの子は初めての事に敏感で臆病だから…」

「臆病過ぎるんだよ。そのせいで変な名推理でも披露された日にゃ、もう呆れるしかないね」

「それは、あなたにも原因があったわけじゃないの?」彼女は全てを見通したような声で言った。

「俺に原因なんて……」否定はできない。フレイドは視線をそむけたい気持ちでいっぱいだったが、まっすぐ見つめるヴィネーダから目を離せなかった。「……あるかもしれない」

 ヴィネーダは顔色一つ変えずに身を乗り出してフレイドに顔を近づけた。

「いいこと? あの子はハンターなのに、とっても繊細な心を持っているの。あなたが少しでも揺らせば、簡単にあの子の心は簡単に影響を受けるの。特に、あなたが信頼を考えさせるような言動を取った場合はね」

「……なんだよ、それ」

 ハンターで繊細な心、か。フレイドは持ち合わせていないものだし、女々しいものとも思える。だけど人の心の問題について、他人が何を思っても意味はない。心は人それぞれに備わっているものなのだから。

「……アニーはね」ヴィネーダは視線を落とした。かなり言いづらそうな面持ちだ。そして、つらそうな顔をしている。「あの子は、ここにきてこの二年、まともに人と付き合った事がないの。一度あたしの推薦でハンターチームと一緒に狩をする機会を与えたこともあったけど、それっきり。ほら、あの子は当時も今も子供で、将来は有望そうに見えるけど、なんでも受け止めるでしょ? それに弱気だし、自分に自信を持っていないの。

 だから、アニーの言う“賢い”ハンターはあの子に目をつけて、良いように扱おうとしているの」

「それはあいつが悪いんじゃねえかよ」騙されるハンターが悪い。これは誰もが思っている事だ。そして騙されて生き残れば、それを教訓とすることができる。誰もが一度は味わう、または味わいそうになる事だ。フレイドは哀れに思わなかった。少なくとも、思わないよう必死に努力をした。

 哀しそうな顔をして、彼女はフレイドを見たが、すぐにうつむいた。

「そうね…。あの子は人を疑う事に関しては、誰よりも才能がないと言ってもよかったわ。でも何度も騙され続けている間に、あの子の心は傷つき続けて、今までよりずっと臆病になったの」

 自業自得だ。それが事実。だけどフレイドは、なぜかアニスターを哀れに思うようになってしまった。自分でも思うが、なんて気分転換の早いことだ。

「そこであなたが現れた」ヴィネーダは続けた。「ずっと騙されて、すっかり脅えきったアプトノスの幼竜のようになっていたアニーにあなたが。――アニーはね、このレヴァンにきて、友達を持った事がなかったの。“賢い”ハンターと一時期友達同士だった事はあるけど、やっぱりそれは騙す為で、本当の友達じゃない。でもあなたは、初めてアニーが信頼する目で見つめた、初めての友達。私には、そう見えたわ」

 何を思っていいのかわからず、フレイドも同じくうつむいた。ヴィネーダが過剰な表現をしているとは思えなかったが、そうしていることを願った。

「アニーにとって初めての友達。私、聞いたわ。あなたが命がけでアニーを古龍から守ってくれたことを、ギルドマスターから。今まであの子はそんなことされた事もなかった。だからあの子も、あなたを信頼できる大切な友達と思っていたはずよ」

「じゃあ、なんで変な疑いをもたれるんだよ…」今や自身のない声になったフレイドは、怒りを感じなくなっていた。今の気持ちは、何もない暗闇を見つめているような、心に虚空のできたような気分だ。

「大切で、失いたくないから、よ。あなたにもそういった経験ない? 大切な人ほど、余計に疑ってしまう。あの子の、ハンターに騙されて臆病になった心は、大切なあなたをよりどころとしているけど、反面怖がっているところもあるの。あの子は時折、不安定な思いにかられて、あなたに“賢い”ハンターでないことを祈って、……多分、それが原因になったんだと思う」

 本当にそれだけか? また煮えたぎる怒りが込み上げてきた。しかしその矛先は、アニスターでも、哀れな話をするヴィネーダでもない。うぬぼれた少年、無鉄砲なハンター、フレイドに対してだ。

 本当はそれだけではない。原因はアニスターだけではない。その引き金を引いたのは、原因を作ったのは、フレイドだ。

 なんでもっと彼に打ち明けなかったのだろう。なぜあの口論の時、もっと気のきいた事を言えなかったのだろう。もっと冷静になればわかるはずだ。それに、フレイドはアニスターを信頼していた。自分がギルドナイツを目指していることや、他の事もいっぱい、彼に話しておくべきだったのだ。

 なんだ、悪いのはアニスターだけではない。彼に非がないとは言えないが、フレイドも同じ事だ。

 そんな事を察したのかどうかはわからないが、ヴィネーダは物哀しい、だけどどこかやさしい笑みを浮かべてフレイドの手に細く白い手を添えた。

「悔しいけど、あなたはアニーにとってかけがえのない存在になっている。だから、気持ちを早まらないで。私も、もうあなたがアニーをどうしようと考えているなんて思っていないから。だって――」彼女はフレイドがこれまで見た事もないほど美しい涙を流し、その白い頬を濡らした。「こんなに、あの子のことで悩んでくれているんだもの」

 彼女は踵を返して――そっと袖で濡れた頬を拭いて――それまで気にならなかったハンター達の騒音の中に消えていった。フレイドはいたたまれない気持ちにさいなまれた。

 ヴィネーダと話すと、毎回こんな感じだ。だけどそれは彼女のせいではない。気がつけば、フレイドはアニスターの事ばかりを考えていた。謝るべきか、そしてなんというべきか。悪い事をしてしまった。この際、アニスターにどう思われてもいい。それだけの報いを自分は受けるべきなのだ。




 完全に沈んだ夕陽に変わり、夜と夕方の中間がやってきた。バースはこの間の呼び方を知らない。風は涼しく、青みのかかったうす暗い空は星をぽつぽつと浮かべ始め、輪郭くらいしか見えなかった月はその輝きを増してきている。

 今やバースは両膝を抱えて座るアニスターの隣で胡坐をかいて話をしていた。

「よお、アニー。久しぶりじゃねえか。元気にしてたか?」

「……うん」元気のない声でアニスターは答えた。

 この元気のない理由をバースは知っていた。いつの間にかアニスターにまとわりついた赤毛で黒い肌の少年――名前はヴィネーダから聞いたが、忘れた――との喧嘩によるものだろう。

「一年半…二年振りかぁ? お前、ちょっと背が伸びたんじゃねえか?」

「そうかなぁ」アニスターは上の空で言った。

「まあ、自分の身長なんて自覚するもんじゃねえからな。ガッハッハ。でもよ、アニー。男なら、背が高いほど女にもてるぜ?」

「そうなんだ…」またアニスターは心ここにあらずの声で相槌をうった。

 ああ、まったく。友達、相棒? なんかと喧嘩したくらいで、ここまで落ち込むなんて、アニスターらしい。バースはそう思った。二年ほど前も同じだ。

 まだ戦争の傷が癒えず、レヴァンご自慢の巨大な城壁の再興も半分までしか終わっていなかった時期だ。アニスターは、彼の言う“賢い”ハンターにカモにされて、泣いていた。厳密にはその小動物を思わせる愛らしい瞳から涙をうるませていたわけではなく、バースが勝手にそう思い込んでいただけなのだが。



 バア=ギス・レイフォー――彼は三年ほど前までは、レヴァンでかなりの実力を誇るハンターの一人であった。しかし彼の性格は傲慢で荒く、人々からはあまり好かれない振る舞いで好き勝手をしてきた。その結果人はおろか、同業者であるモンスターハンターですら彼に近寄らなかった。それでもバア=ギス――通称バースはいいと思っていた。人づきあいなんて、うっとうしいだけだ。周りを取り囲むうるさい連中がいなくなってせいせいしている。

 そう開き直った時である、そこで彼を気にかけたのがアニスターであった。アニスターはまだ街に来たばかりで、レヴァンの酒場がわからず迷っていたらしい。そして、アニスターにより約半年ぶりに人と話をした。そして頼られた。

『あのう…ハンターズギルド経由の酒場ってどこにあるんですかね……』

 自身のない声で少年は言った。当時開き直っていたものの、それでもむかむかして苛立っていたバースはチンピラのようにいかつい声で少年をけん制した。

『ああ!? 何俺に訊いてるんだよ。俺の他にハンターなんてそこらじゅうにいるだろうが! うせろ、小僧!』

 しかし少年は動じず、ちょっと背中を後ろにそらしただけで再び口を開いた。

『あ、いや、その…一番強そうで、頼りになりそうなハンターだと思ったから、なんとなく、訊いてみただけなんですけど……気に障ったなら、ごめんなさい』

 この言葉は鋭い刃となり、バースの至る所に衝撃を与えた。今、この少年はなんといった? 茶色い頭のちんちくりん坊やが、この『イノシシ・バース』、『名前だけは立派』と馬鹿にされている男を、一番頼れそうなハンターだと言ったのか?

 これがアニスターとの出会いであり、バースの復活でもあった。この時バースは涙が止まらなく、道を教えるどころかアニスターの顔を覚えるのも一苦労したものだ。


 それから数カ月、バースはアニスターを気にかけるようになった。アニスターは人がよく、常に弱気だが優しい心の持ち主だった。そんなアニスターと関わっていくことにより、彼に壮絶な好意を抱き、彼を弟分として可愛がる事にした。

 だからアニスターが“賢い”ハンターに騙された時は励ましたし、その賢いハンターが二度とアニスターに顔を見せられないくらいにぼこぼこにした。完膚なきまでに。

 ――それがたたってレヴァン中を追われる身となり、しばらく身を隠す為故郷の山へと帰っていった。あれからずっとアニスターがどうしていたか気になっていたが、なんとか生きているようだ。

 隣に変な付属品をつけた状態で……。

「なあ、アニー。お前、相棒と喧嘩でもしたのか? 浮かない顔してないで、今夜は俺達の再会を祝ってパーッとやろうぜ」

「…………」

 アニスターは何も答えず、黙って半分も見えなくなった夕陽を見つめていた。十分もしないうちにあのオレンジ色の球体も消えてなくなるだろう。そして、星が見えるようになる。星の美しさをバースは知らない。だけどアニスターがそれを見ていたいと思っているのなら、付き合うつもりだ。

 ……だが、今は時が悪い。こうしてアニスターが何も言わず、ただただ落ち込んでいる様を見続けるのは辛いものがある。弟分である彼には、できれば元気にいてほしい。

「なあ、アニー。もしさっきの赤毛の相棒と別れたんだったら、俺と組まねえか? 俺なら、あんなガキよりずっと長くハンターやってるし、いろんなこと教えてやれるぜ?」

「組む……かぁ」アニスターはやっと口を開いた。どうやら、一応話は聞いてくれていたらしい。「フレイドも、最初はそう言ってた…」

 まずい事を思い出させてしまったかな。肝心な所をいつも気にしていないバースは、やはりここはそう思うだけで何とも考えを持っていなかった。

「俺なら、俺となら、きっとお前も力を発揮できるぜ。俺のボウガンの腕は天下一だ。あんなでっかい剣持った奴なんかよりずっと安全にモンスターを相手にできるし、援護だってお手のもんだぜ」

 とはいったものの、あまり組んでの狩を行った経験がないバースはアニスターとちゃんと連携できるかどうかはわからなかった。だが、きっとできると半分強引に思いこんだ。

 だが、今相棒を思い出させる単語はタブーのようだ。アニスターは深いため息をついて、視線を膝に落とした。自分のハンターにしては細い膝を見て何を思っているのだろう。丸太のような足のバースには、細い足のアニスターの気持ちはあまりわからなかった。

 よし、ここは景気のいい、誰でも笑って辛い事を忘れられるような話をしてアニスターを元気づけよう。人を笑わすには、特にそいつが落ち込んでいる場合は、滑稽な話が一番だ。それから、そんな滑稽なところから立ち直った男の勇士を聞いたアニーは、きっとバースに惚れこんで「兄貴」と呼び慕うようになるだろう。

 さて、何を話そう。三年くらい前の悲惨な話の連続を聞かせようか。そしてそれから立ち直ったバースの姿を見せて、アニスターは元気と勇気をもらうのだ。




 アニスターはフレイドの事をほんの少しでも思いだすと、何に対してかわからない罪悪感が芽生える。あの時のフレイドの顔――失望と絶望の入り混じった表情が脳裏に浮かび上がる。

 まるで、大切な物を二度ともとの形に戻せないくらいバラバラに壊されて静かに泣く少女、または少年を見ているような気分になる。自分自身が騙された時のあの虚しさなんか非じゃないくらいの感情が、胸を締め付けるというより、胸に穴を開けたというほうが正しい感覚を作る。

「よし、アニー。俺の昔話でも話そうか」

 先ほどから何かと大声で話かけていたバースが急に穏やかな声になった。とはいえいつもの自信過剰そうな威圧は消えていない。

 バースにはとても世話になった。いろんな事を教えてもらったし、望んでないこととはいえ“賢い”ハンターに渇をいれたことも、アニスターの事を思ってだということで嬉しくは思った。

 最近じゃ考え事など、精神的なもので忙しかったアニスターはその事を隅に置いてほったらかしにしていた。でも今考えれば、“賢い”ハンターに騙されひどく落ち込んでいたところを励ましてくれたのは、確かこの大男だったはず。

 そう、こうやって何かと悩んでいたりしていると、バースは手を貸してくれた。頼れる存在だと思っていた。いろんな励まされ方をしたが、こうして昔話なんて聞かされるのは初めてだ。若干だが、その事についてはアニスターも興味が湧き始めていた。

「昔話…ですか」

「ああ、そうだ。俺だって昔はやんちゃしてたもんだぜ? 今でこそ落ち着いているがなぁ」

 今でも十分暴れまわっていると思う。

「俺ぁとにかくいきのいい若者でなぁ。武勇伝なんていくつも持っていたころよ」

「何年前ですか?」

「ざっと三年前だ」

「……」

 つい最近じゃん、とつい突っ込みたくなる衝動に駆られつつも、アニスターは大人しく聞いておくことにした。

「当時若かった俺は何かとイライラしててなぁ。酒飲まずにはいられずによお、それでいて、さみしい気持ちもあったもんだ」

 寂しい、か。おおよそ似つかないセリフをバースが口にしたので、アニスターはつい笑いを誘われてしまった。

「そんな時よ、一人のうら若い女が通り過ぎたんだよ。丁度このレヴァンのゲストハウスを出たあたりでよ。結構綺麗な女だったんだぜ。寝巻を巻いたまま眠そうに歩いてた所を、俺が声かけてやったわけよ。こう言ってな、

『よお、お嬢ちゃん。暇なら俺と遊ばないか』

 ってな」

 ってな、といった辺りで何となく想像はできた。脅えた娘に半分脅しを加える要領で『へっへ、お嬢ちゃん、俺といいことしようぜぇ』というバースの姿が。

 それが彼なのだ。見栄っ張りで強情で、チンピラのような男だ。頼りにしていた時期もあったが、それが倒壊したのは彼の本性を知ったからだ。

「するとよ、その女ぁ…」バースはわなわなと唇を震わせ、怒りの炎を瞳に宿していた。おおかた、大声を上げて逃げられた、とかそういう事だろう。「俺の足を抉りやがったんだよお!」

「……え?」つまり、娘が、という意味だろうか。

「俺が良い所……あ、いや楽しいところに連れて行ってやろうと手を伸ばした瞬間、――ズドン! これが口で言い表せる事ができたらそいつは芸人として一生生きていけるってくらいすげえ音してよお。気が付いたら、俺の脚はあの女の――なぜか鋼鉄の鎧をまとった細い足で踏まれていたのよお。しかも、痛みを感じる前から俺の足はあの固い石の地面に沈むように吸いついていたのよ」

「つまり、女の人が逃げる為にバースさんの足をふんづけたってことですよね?」

「ああ…」思い出すのもつらいのか、苦痛の表情をバースは浮かべた。

「でも鋼鉄の鎧って…」

「ああ。あの女、寝巻でうまく隠していたが、実はハンターだったんだよ。あの女ぁ可愛い顔して、男を寄せてはああして足を踏みまくってるに違いねえ!」

 つまり絡んだ女性がたまたまハンターで、それを知らずにうかうかと近づいたバースは返り討ちに遭ったということなのだろう。

「だがその程度で俺ぁ怒らなかった」

 いや、十分怒っている。

「まあ、そっからまた災難を迎えたわけなんだがよお」

「災難、ですか…」すでにバースの武勇伝でもなんでもなくなっている。

「まあ、朝早いということもあったからよ俺は腹が減っててよ。安上がりですむ酒場まで足を運んだわけなんだよ。そしたらよお、俺にケチ付けるハンターがいてよお…」

「ケチつけるって…たとえば、どんなものなんです?」

「まあ、聞けって。取りあえず、そいつと表で喧嘩する事になったんだよ。店の中だと迷惑だからな」

 また彼の言動に笑いを誘われて、思わずアニスターは身をかがめた。このまま顔を上げてしまえば、とっくに沈んだ空を見るだけで笑いだしそうだ。いつの間にかフレイドとの件について忘れている事にも気づかず、アニスターはバースの話を聞いた。

「それでよ、表で決闘して、買った方が飯をおごることになったんだよ」

 さしずめ、女に足を抉られて腹が立ち、酒場で騒いでいるところを注意されてそこまでこぎつけた、といったところだろうか。アニスターはぼんやりとそう考えた。

「そいつは卑怯な事に、通りすがりの大工から角材を取り上げて丸腰の俺に襲いかかったわけなんだよ。勿論俺も丸腰で奮闘したが、やっぱり武器をもったハンター相手はきつくて、結局やられちまったのさ。卑怯な手で」

 先にナイフか棒きれでも持ち出して、そこを応戦されたところだろう。アニスターは思った。

「俺は気を失い、路上へ捨てられていた。気がついた時には俺の財布の中身はからっぽで、まんまと中身を盗まれたんだ」

 ひ、悲惨だ…。声には出さなかったが、たとえバースが悪いにしても悲惨だと思った。

「お金はどうしたんですか?」

「ああ…俺を負かした…いや、卑怯な手を使って勝ったそいつは勝手に気を失った俺の財布を抜き取り、酒場の連中みんなに大盤振る舞いを披露しやがったのさ。おかげで俺の持ち金はゼロ! まったく、いまいましいぜ」

 見知らぬハンターの女性に足をふんづけられ、見知らぬハンターに打ち負け、見知らぬ人々に大盤振る舞いを見せる。これらすべてが一日で行われていたのなら、人生最大の厄日なのかもしれない。だが、やっぱり悪いのはバースなのだろうという結論をアニスターはだした。

「しかも当時は戦争するちょいと前でな。かなり街も荒れていたもんだ。だから金に飢えたハンター連中が手当たり次第に無関係な民間人をカモに金を稼ごうとしてるのを見て、俺はそいつらをぼっこぼこにしてやったんだぜ。そしたら助けてもらった民間人は俺に感謝していろんなものを貢いでくれて、それから俺は――」

 たまたまカモれそうな金持ちがいたが、それにはすでに先客がいて、怒った彼は先客を打ちのめした、というところだろう。それからバースは自分が遭った悲惨な事件の数々を話し、それから立ちなおった自分の武勇伝とやらを熱く語り始めた。

 大抵は、同じような話だ。ひどい話もある。自分でまいた種で街中を巻き込んだ事件、『輸送品消失事件』に対し、彼は――この時初めてアニスターはこの事件の火種となったのがバースだと知った――開き直って気にしないことにし、ほとぼりが冷めるまでレヴァンを出たという。彼は何を話してアニーに何を思ってもらおうとしているのだろう。

 だが話を聞いているうちに、いつの間にか胸に開いた穴が気にならなくなってきた。というより、胸の開いた穴はとっくに塞がり、なぜか胸騒ぎに似た緊張が走り始めた。

 夜が訪れた今でも熱く語るバースを見て、アニスターはつい柔らかい笑みを浮かべてしまう。

 ああ、この人は駄目な大人なんだ。

 これが道を外した人のなれの果て。

 なんだかさっきまで思い悩んでいた気分が馬鹿らしく感じてきた。アニスターはいつもそうだった。悩んでいる時にはもうすでに結論は決まっているのだ。それを相談しようとどうしようと、考えが変わる事はない。いままでアニスターはそうだった。

 アニスターは重い腰を上げた。バースは話を中断してアニスターを見上げる。

「おう、どうした。飯でも食うか? 酒場にはない、良い店知ってるんだよ、俺」

「ううん」アニスターは首を振ってバースを見た。そして、やっぱりこんな大人になっちゃいけない。後悔する前にやるべきことはやっておかないと。「僕、もう行くね」

「行く? あ、ああ。またこりゃ突然だな」それから彼は少年の顔に張り付いていた雲行きが変わっているのに気づいた。「なんか晴れた表情してるな。どうかしたのかよ」

「どうかな、自分じゃよくわからないや。ありがとう、バースさん」

 アニスターは頭を下げ、踵を返して走っていった。バースの引きとめるような声が聞こえたが、そんなことより早くフレイドのもとに行こうと思い、立ち止まらなかった。

 許してもらえないかもしれない。でも、それでもいい。やっぱり伝えるべき事はすぐ伝えなきゃ。フレイドに、謝らなきゃ。




 バースの話はかなり長い上、本当にどうしようもない話ばかりだった。だから時間が立つ事も忘れていて、気がつけばいつもならアニスターはとっくに床についている時間になっていた。人だかりの多かった市場も、常に賑わいを見せている広場も、今では人影すら見当たらない。街の照明がちらほらとつき、道をうすぐらく照らしていた。

 ずっと固まったように地面に固定されていた足の動きは鈍いが、歩くよりは大分マシな走りを見せていた。息が早くも切れるが、それでも彼は走りつけた。

 そういえば、フレイドはどこにいるのだろう? もうゲストハウスへと戻って眠ってしまったのだろうか。この時間だと、酒場も閉まるころでほとんどのハンターが出て行ってるはずだから、酒場にはいないはず。だとしたらどこへ行くのだろう。

 アニスターは酒場を過ぎ、そのずっと先のゲストハウスまで戻ってきた。フレイドは確か二階のルーム・ナイトにいるはずだ。

「やあ、アニー」眠そうにゲストハウスの管理人が鍵や部屋を管理するカウンター越しでいつもの挨拶をしてきた。

「あ、あの…っ!」激しく走ったせいか、息が切れて言葉がつまり、中々言えなかった。

「おいおい、大丈夫かい? 急いで帰ってきたみたいだけど…」

「フッ、フレイドは…フレイドは、帰って、来ましたか?」

「フレイドってあの、アニーの友達の赤毛の子かい? あの子ならそうさなぁ…一回ここに戻ってきて、荷物を預けてすぐに出ていったよ。それっきりだねぇ」

「あっ、じゃ、じゃあどこに行くか言ってませんでした?」

 管理人のおじさんは顎に手をついた。

「いやぁ、急いでいる様子で、一言声をかけてみたんだけど、そのまま走って出て行ってしまってねぇ」

「そう、ですか…」

「何か伝言でもあるなら、私が受け付けようか?」

「いえ、そうたいしたことじゃないんで…失礼します」

 ここにはいない。でもどこにいったのだろう。ギルドの運営する酒場はとっくに閉まっているし、そこ以外に彼が行きそうな場所と言ったら……。

 ゲストハウスを出た瞬間、フレイドがアニスターを連れて行ったあの石の館を思い出した。確か戦争の博物館だとかいう場所だ。

 そこくらいしか、心当たりはないが行ってみる価値はありそうだ。だけど、ここからだとかなり遠い。足も疲労を訴えてがくがくと震え、息切れにより喉は痛み、何よりもこれ以上の運動をやらなければいけないと思うと、気力が失われていくような気がした。

 アニスターは首を振った。いいや、そんなんじゃだめだ。ちゃんと、今のうちにフレイドに会わないと。会って、謝らないと。

 アニスターは走りだした。




 石の館の入口は硬い木の門で閉ざされ、鎖と錠でしっかりと固定されていた。となると、ここでもない。もしここだとしたら、フレイドは明日の朝まで光の射さない真っ暗で薄気味悪いあの空間にずっと閉じ込められたことになるのだから。

 かなり長い距離を走ってきたのに、その苦労が報われずアニスターはがっかりした。気力がかなり削られ、疲れ切った体は睡眠を求めて抗議に震えている。アニスターは自分の足を抑え、震えを止めようとした。だが、その震えが足から手に伝わり、この行動に意味はない事を告げた。

 もう行く場所がない。フレイドとの付き合いは本当に短いもので、まだ二週間も経っていないのだ。彼の事をあまり知らないし、彼とこのレヴァンのそこらじゅうを探った記憶もない。

 本当に最後に当てはまるものは……。

「あっ」

 果物店・プライドをアニスターは思いだした。そう、今日の夕方一緒にジュースを飲みに行った店だ。そこにいる可能性は限りなく低いが、ゼロではない。

 ここからまたプライドへは……それなりに遠い。が、行けない距離ではない。アニスターはよろよろと走りだした。もう足は痛いというよりどこか筋肉に直で冷たいものをあてられたような感覚が残っていた。




 フレイドは夜更けた路上を見てため息を吐いた。正直、かなりまいっている。アニスターを探し始めてどれくらいの時間が過ぎただろう。アニスターの行き場もわからなければ、誰に聞けばいいのかもわからない。

 念のためにゲストハウスのアニスターの部屋に書置きを残しておいたが、彼は見てくれただろうか。もし見たとしたら、今フレイドの行っている行動は無意味となる。自分自身でも、滑稽だと思う。彼が行きそうな、または逆に行きそうになさそうな場所を巡り巡って結局こんな時間になってしまった。

 もうとっくに彼はゲストハウスに戻って、フレイドの『悪かった』という手紙に目を通して――もしかしたら、怒って手紙をくしゃくしゃに丸めて捨ててしまったかもしれない――ベッドで横になっているかもしれない。だとしたら、やっぱりフレイドは滑稽だ。

 しかしゲストハウスまで戻って、わざわざアニスターの寝顔を盗み見ようなんて思わなかった。そして自分も部屋に戻っていきたくなかった。アニスターが見つかるまで、部屋に戻る気はしなかった。もしアニスターが戻っていなかったとすると…そう思うと、やっぱり見つかるまで、せめて朝まで探さなければいけないという気持ちに駆られてしまうのだ。

 だから結局恐ろしいほどの時間が過ぎ、今に至るわけだ。

「どこにいるんだよ、アニー……」

 誰もいないほぼ暗闇となった路地を眺めながらフレイドは無力っぽい声で言った。

 狭い道はいろんな建物や屋台に囲まれて、人の多い昼間はさぞ歩きにくいことだろう。石畳の床も硬く、無情な冷たさを持っている。この道は、夜になると別の顔を現す。それはさびしく、誰にも頼るの事の許されない現実を突き付ける残酷な場所に見えた。

 周りの建物から光は消えている。真っ暗な闇を表せるいい表現方法となっている。その中で、唯一闇に抵抗するものがあった。

 明かりだ。柔らかいオレンジ色の光が闇の中敵意のない抗いを見せていた。その周辺は道という道をはっきりとみせ、暗闇をさえぎっている。朝日に似たその光は、どこか立ちよってみたいという衝動を作りだした。

「いいや、だめだ」フレイドは首を振った。アニスターを見つけるまで、休むことなんてできない。

 だけどよく見ると、この道は見覚えがある。アニスターを探しまわって、同じ道を行ったり来たりしたことは何度もあったが、ここはそれとは違う、以前から知っている場所だ。

 光が漏れている、あの擦り切れてぼろぼろの天幕…あれは、確か夕方に行った果物店・プライドだ。この場所だけ、明かりがついている。

 いつのまにはフレイドはプライドの天幕の前で立って、その漏れる光を見ていた。そういえば、ここは立ちよらなかった。ここが一番、アニスターがいる可能性が高い場所だというのに。

 フレイドは天幕に手をかけようとして、すんでの所で手を止めた。この先にアニスターがいたとして、なんて言えばいい? 手紙に書いたとおり、悪かった、の一言だけでいいのだろうか? 話声は聞こえてこない。

 …………。

 …………。

 いきなり、この天幕を開けて中にいるアニスターに顔を合わす勇気を失ってしまった。アニスターに会うのが、なぜか怖くなってきた。そして、彼と目を合わせて言葉を出せるかどうか不安になってきた。

 フレイドの手が天幕から離れると同時に、天幕は内側から突然開いた。ぎょっとしてフレイドは一歩後ずさる。天幕からはプライドの店主、おばちゃんがぬるっと顔を出してきた。

「おや、フレイドじゃないかい! どうしたんだい、こんな時間に?」

「あ…いや、やあ。別になんでもないさ…」

 おばちゃんが天幕から顔を出すほんのすこしの隙間から部屋の中を見た。中の果物は相変わらず綺麗に並べられ、白いシーツが上にかぶせてあった。それ以外は特に店の中は変わらず、誰かがいた様子もなかった。ここにアニスターはいないようだ。

「…邪魔したな。ただ、たまたま通りかかっただけだからさ、気にしないでくれよ」そう言ってフレイドは早々に立ち去ろうと言葉を切った。

 おばちゃんは何か言いたげに眉をしかめたが、次にそのしかめた眉はつりあがり、視線はフレイドの背後へ向けられた。

「アニー…」

 フレイドは慌てておばちゃんの視線を追い、振り返った。そこには息を切らして汗と泥まみれになったアニスターが背中を丸めて立っていた。

「フレイ、ド……」

「…アニー」

 二人は目が合い、一時そのまま硬直していた。フレイドはこの空気がなんだか居心地悪いものと感じ、思わず視線を反らして無意識のうちに頭をかいていた。

「ぼ、ぼく…」アニスターは息切れした状態で口を開く。

 フレイドとしてはこのままアニスターが言葉を終えるまで待っていたかったのだが、視線を反らした先がおばちゃんで、そのおばちゃんの目がなぜか強い使命感を与えるような義務的目を向けているような気がして、思わず口を開いてしまった。

「アニー、その…」フレイドは視線を反らして頭を掻いたまま、今のうちに言える言葉を口に出した。「ごめん」

 こんどはアニスターが言葉に詰まる番だ。彼は面食らった表情で唖然とすると思うと、口をわなわなと開いて言葉を出せずにいた。先ほどフレイドが悩んでいた時のような色が見えた。だが、立ち直りはフレイドよりはるかに早かった。

「フレイド、僕…その、僕の方こそ、ごめん…」

 二人はおろか、おばちゃんまでもがその場の空気にのまれ、静かになった。三人は言葉を交わすことなくただお互いを見ていた。

 不意に、フレイドは笑いだした。なぜか我慢が出来なくなり、今まで笑いをこらえていた事にも気づかず、それが爆発してようやく気がついた。

 つられてか、それともフレイドと同じだったのか、アニスターも噴き出して笑いだす。

 間のおばちゃんはなにがなんだかわからないようすで、取りあえず爆笑する二人を見て笑みを浮かべていた。

 フレイドはこのおかしい気持ちになるのは、安堵がこみ上げてきているからだということを知った。安心したのだ。この相棒は自分を許してくれたのだ。そして、同じ事を思っている。

 アニスターには、これからまだ話していない事をいっぱい話してやろう。フレイドはアニスターが気に入っていた。友達だと思っていた。だからこそ、なおさら仲直りできたことを嬉しく思った。

 見上げると、空は青みがかかった黒に変わり、明るみがましていた。星も薄らいで、見えなかった雲がはっきり見えるくらいまでになっていた。なんということだろう。もう朝が近くなっている。

 あと二時間ほどで、この周辺の店も準備で人が賑わうことになるだろう。レヴァンの朝は早い。これからプライドを含む市場の商店はまた活気を作り出すのだろう。

 朝の前の夜風が心地よかった。笑いが治まり、二人は一瞬見合って頷きあった。

「ああ、いたいた!」

 まるでそれを合図にするように、女性の甲高い声が聞こえてきた。それがおばちゃんの声でない事は、アニスターもフレイドも重々承知のうえだった。もっと澄んでいて、若い声だ。

 声のする方へ振り返ると、暗闇に溶け込む黒いメイド服に、唯一溶け込まない白いレースと肌を見せるヴィネーダがこちらへ走ってきているのが見えた。

「あれ、ヴィネーダさん」

 彼女が二人の前に到着すると、フレイドとアニスターと同じようにへとへとになった様子で背中を丸めていた。そういえば、彼女も一応ハンターズの一員であるが狩に行く要員ではない。酒場を取り仕切るというだけで、体力は酒場のなかでの仕事にしか向いていない。酒場からここまで走ってきているのなら、これは仕方ない事なのだろう。

「あなたよ」ヴィネーダはフレイドを指して見上げた。

「俺?」フレイドも自分を指さす。「なんのことだよ」

「ギルドマスターがあなたを呼んでいるのよ。……まったく、あたしがどれほどあんたを探した事か」

 汗をだらだら流した彼女は不機嫌そうな声で言った。

 それからフレイドとアニスターを交互に見て、その疲れきった顔に少し笑みを浮かべていた。

「あら、あなた達、どうやら喧嘩は済んだ様ね」

「ええ、あ、うん」アニスターはあいまいに答えた。だけど、これだけは言える。「これからも、フレイドとやっていきたいと思ってるよ」

 フレイドは頷いた。「ああ、相棒。頼むぜ」

 そんな二人を見つめ、ヴィネーダはどこか寂しそうに笑った。


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: