「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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大泥棒の路地裏
第四章
「九人目の警告」
「ビール、全員分ね!」と注文を受け付けるメイドにマキが言った。
その隣でカズがにやにやしながら体をメイドに向かってかがめる。
「極上オードブル、十人前ね」
「なっ」
「おい」
カンとカズキが同時に立ちあがる。極上オードブルと言えば、この酒場で一番高いメニューで、豪勢で高価な肉や食料を扱っている。値段は一人前でささやかなパーティができるくらいだ。
そんなものを十人前も頼まれたら、今回の依頼の報酬どころか貯金していた金をも削られてしまう。
さらにカズが口を開いて注文しようとするのをみて、すかさずカンが大声を上げた。
「それと――」
「おいって!」
「サシミウオのソテーとヴィネーダさんのスパイッシュサンドと――」
「だから待てって!」
「それから山菜サラダと――」
「カズ!」
だがカズは注文を止める気はなく、最後まで言葉を押し通してメイドに自分の食べたいあらゆる品を伝えた。
全く、だから嫌だったんだ。狩りで一番手柄の少ない奴が夕食をおごる? 誰がいったいそんなことを考えやがった。だいたい、うちは八人もいるんだぞ。そんな数の連中の食費を一食でも面倒みるとなっても、サイフの中身は空っぽになってしまう。
そこまで考えて、この最悪の罰ゲームを提案したのが同じく罰ゲームを受けるカズキだとカンは思い出した。こいつは時たまに、ゲームのように話を持ち出しては何かと罰ゲームなどを決めたがる。長い付き合いだが、これだけは理解できない数少ない例だ。
メイドがさるとあっという間に二人のメイドが四本ずつ両手にビールを持って席までやってきた。器用に八人のテーブルの前に起き、軽い身のこなしで再び他の客の注文を受け付けにいく。
全員が一斉にビールを手に取る。いや、全員、というのは訂正しよう。ほぼ全員だ。
シュウゴとカズキが目の前のビールを凝視している。それ以外のほぼ全員がビールを片手に持ちあげているというのに、この二人は見るだけで手をつけようとしない。
腕を組んでカズキがひきつった顔になった。「誰だよ、ビール全員分頼んだ奴は」
「あたしだけど?」マキがいかにも、な顔をして答えた。
「はい、カズ」とシュウゴは隣のカズにジョッキを渡す。
「はい?」
「いや、飲んでよ」
「自分で飲めばいいじゃん」
「いいからいいから」
「いや、よくないって」カズはシュウゴの前にジョッキを戻した。その目には冷ややかな光をたたえている。「自分のは自分で処理しなくちゃ」
「あんたらはいつまで経っても子供だからねぇ」と言いながら、クレアがシュウゴのジョッキを持ちあげる。片手で持ちあげようとして、一瞬よろめいたが自力で態勢を戻して自分の席まで持っていった。「あたしが飲んであげるよ。お酒、嫌いじゃないし」
すかさずカズキがジョッキを持ちあげる。「クレア、オレのも頼む」
「い~や」
「はっ?」
「三杯はさすがに無理よ」
横でカンが低い声で笑う。「観念して飲めば」
そこで咄嗟にカンは思った。あんまりからかいすぎると、こいつはジョッキの中身を隣の俺のジョッキに注ぎかねない。酒は飲めるが、あまり飲みすぎるとすぐに酔うことを彼は知っていた。ここでもし酔っぱらってしまえば、ありえないかもしれないが――いや、万が一のことがある。とにかく、気がつけば装備すべてが売られてしまい、一文無しなんて状態にはなりたくなかった。
「ま、どうしても飲めないってんだったら俺が飲んでやるよ」
カズキはしばらく黙ってビールを凝視していたが、ちらりとカンの顔を見ると再びビールに目を移した。こちらを見た時のカズキの顔は妙に引きついっていたのを見逃さなかった。その時、カンは優しくほほ笑んだつもりだったが、所詮作り笑顔である。そういった演技には全くといっていいほど自身がない。
彼の目にはどううつったのかは知らないが、不快感を与えてしまったらしい。こんな顔した奴に情けをかけてもらうなんて。口に出してはいないが、そうぶつぶつと呟いてきそうであった。
「やっぱいい」というと、カズキはまだ乾杯の合図も出さずにジョッキに口をつけ、一気に飲み干してしまった。周りの団員がそれを見て「おー」と声を上げるが、カズキはジョッキの底を机に叩きつけると、あと一歩遅ければおかわりを次来ていたであろう、給士のメイドを睨んで首を振った。
給士は何も言わずに自分の位置に戻っていった。
「いい飲みっぷりじゃない」と笑いながらマキが言った。それから彼女はカズキと同じようにジョッキに口をつけ、またたく間に飲み干してしまった。「なんなら、あんたもやる、このあと」
「何を?」
「あたしとシーマでの飲み比べに、よ」
彼女の隣で、シーマががっしりとした腕を組んで無言で頷く。カズキは再び立ち上がった。
「飲み比べ!?」
「そうよ。今日という今日は、決着をつけようと思ってね」
「いいぞいいぞー」と腕と声を上げるカズをカズキは一瞥する。だが今はそこが問題でないと思ったのか、すぐに二人に視線を戻した。
「正気か?」
「あーによ、大丈夫」
「いや、お前らの心配はしていない。今注文したものを見ただろ? 殺す気か。だいたいがだな…」そこまで言いかけて、カズキは口をつぐんで座った。彼がこの後何を言おうとしているのか、カンにはなんとなくわかった気がした。けど、ここでそれを言うと一気に空気が悪くなり、こうしてみんなで団らんと夕食なんて気分じゃなくなってしまうだろう。
飲み比べは気に入らなかったが、この際無視することを決意したのか、カズキは何も言わないまま運ばれてきた料理に手を伸ばしていった。
カンも何も言わないことにした。ここでグチグチ言っても、多分結果は同じだ。いや、ますます悪くなるのが落ちだろう。ならば、ここはここで自分達らしく満喫していく必要がある。それに、こういうのも悪くない。
二時間後には泣きそうになった。もういっそ泣きたい。マキとシーマは飲み比べを始めるし、その他は無尽蔵に料理を頬張っている。全部の合計金額を計算していたわけではないが、自分の財布がすでに空になるくらい使っているのは目に見えている。
どうなっても知らない。そんな気分でカンは飲み比べに参加するような勢いで酒を浴びるように飲んだ。
真夜中に突入するころには、酒場の中は人がほとんどいなくなっていた。ハンターのほとんどはゲストハウスへ戻り、寝床へ着く。この時間帯は酒場の従業員も少なくなり、メイドのほとんどは内部の掃除を始めている。
酒場は二十四時間閉まる事がないが、この時間から夜明けまでは比較的人は少なくなる。ゲストハウスの門限が関係しているからだろう。
真夜中突撃団の面々はそれを心配する必要がない。なぜなら彼らは本当に帰る家があるからだ。あの小汚い石造りの家。つめたそうだが、中はなかなか温かくて快適な場所。いつの間にか、みんなから『アジト』と言われるようになったそれに門限なんかはない。
今酒場には掃除をするメイド二人と真夜中突撃団、そしてギルドマスターしかいない。マキとシーマは顔は先ほどまで顔を真っ赤にしていたのだが、いつの間に酔いが冷めたのやらもう平気な顔をして談笑している。一番食べたクレアとカズも先ほどまで苦しそうにしていたのだが、今ではもう消化しきって帰りの準備を整えている。カンはというと、中盤から突然ヤケ酒に浸って、今ではうつむいて唸っているだけになった。
「さあ、そろそろ帰ろうぜ」
最初の馬鹿騒ぎしていた盛り上がりも今ではすっかり冷め、全員気だるそうだ。早々に帰って次の日から受ける依頼について相談しようと考えたカズキは手を叩きながらそう言った。
「うぃ~」
と返ってきたのはカンを除いてだが、彼は返事をするかわりに血走った目でカズキを見上げた。
どういうことかはわかっている。支払いする額はきっと相当なものだ。こいつらは自分が払わなくてもいい、と思ったらいくらでも無茶な注文をする。いままで注文したこともない高そうな料理や酒を次々と頼んでは、ポリバケツに押し込むようにどんどん食らいつくしてしまった。
「カズキカズキ」カズキが立ちあがり、支払いを先に済まそうとカウンターの方へ向かう時だ。シュウゴが後ろから呼び止めてきた。
「ああ?」
「これ」
と言ってシュウゴは一枚の紙切れを渡してきた。何やら数字が書いてある。聞かなくてもわかるが、…というより、聞きたくない。
「一応、計算してみたんだ。それが合計した料金ね」
紙切れに目を通すと、おぞましい数字が記されていた。自分の顔が引きつったのをカンが見て、血走った目に不安そうな光が浮かぶ。
「み、見せてくれ、カズキ」
「駄目」
「なんで!?」
カズキは紙切れを腰の道具入れのポーチに無理やり突っ込み、ついでに財布を取り出した。
「お前も早く出せよ」
「いくらだよ。金だけ出すよ」
「いいから、全部出せ」
それからカンは何も言わなくなり、諦めたように財布を差し出した。きっと察したのだろう。カズキとカンの財布を足した所で、足りないことくらい。
「それじゃあぱぱーっと払ってくるかーっ」
みんなに察されないように意気込んでカウンターに向かう。みんなは気づいているのか気づいていないのかさっぱりわからないが、次々と酒場を出ていった。その間、妙に重い足をなんとか動かしてのろのろとカウンターへ歩く。後ろのカンの視線が痛い。カウンターでは、メイドが一人立って待っており、緩慢な動きで近づいてくるカズキをじっと見据えている。
やっとカウンターの前に到着するころには、全身が脈打っているのがわかった。他の連中は「ごちそうさまでした~」とのんきな声を上げて出ていったが、今のカズキにはそれを気にかける余裕なんてものはない。
「さあ、支払いを済ませにきたぜ」強気に声を張ってみたが、どうにも不安はかき消されてくれない。シュウゴに渡された明細通りだとしたらと思うとぞっとする。
次に、今まで聞いたこともないほど猟奇的な数字がメイドの口から吐き出されるのを聞いて、カズキは顔をひきつらせた。片方の頬が妙に力んでひくひくしているのがわかる。シュウゴが計算した数字とぴったりだ。
シュウゴはしっかりしている方だが、たまにうっかりしている部分も見かける。今回はその数少ない『うっかり』が出てきてくれたらよかったものを。
最初に自分の財布を見てみる。今回は依頼の報酬もあって割と入っているほうだが、足りない。それから、カンの財布を除く。足りない。メイドは催促するように静かに見つめてくる。自分一人だけ緊張の世界に取り残されたような気分だ。
どうする? どうなる? 金が足りない。払えない。ギルド怖い。
単純な計算でも恐怖がほとばしる。これからどうなるのだろう。
カズキは滅多な事じゃ不安や心配ごとを表には出さない。いつでもなるべく余裕ぶって、他の団員を安心させようと努力している。それが団長として唯一できる事なんだと思っている。だが、今回はそのことについて考えている余裕はない。
とにかく汗が出てくる。ちまちまとコインを出してはカウンターに置き、いい加減一気にださないカズキを不審に思ったのかメイドは首をかしげた。
最後のコインを出し終わり、サイフに手を突っ込んで動きが止まる。弾切れだ。ガンナーならもうモンスターになすすべがないように、カズキにももうどうすることもできなかった。振り返り、後ろのテーブルでこちらを見上げているカンに今の顔を見せてやりたい。きっと同じ顔を返してきただろうに。
「はい」
というちょっと甲高い声が背後から聞こえたが、カズキは振り返らなかった。だが声の主はわかった。ビスケだ。
腰の方に組んでいた手に滑らかな皮の素材を使った袋のようなものが置かれる。カズキはそれを握り、中身に何が入っているか把握した。
ちょっと握るだけでジャラッ、という音を立て、硬くなじみのある感触が指に残る。これは多分、ビスケのサイフだ。
「ほい」
それからシュウゴの声がして、また手に袋のような物が重なった。それもまた、ジャラッという音を立てる。
それが何を意味しているのかわかっているが、今一つ自身がなくメイドと目を合わせたまま固まる。
「今回は理不尽な感じだったし、まあ貸しってことで」と小声でシュウゴ。
「返すのはいつでもいいから。頑張ってね、だんちょー」と同じく小声でビスケ。
カズキは心の底からほっとして、緊張がゆるんでいくのを感じた。オレはなんていい団員に恵まれた奴なんだ。
「わりぃわりぃ」気を取り直して声を明るくして、カズキは頭を掻いた。「財布入れてたポーチがわかんなくなってさ、ほら、これで足りるだろ?」
メイドは表情一つ変えず金を受け取り、カウンターの棚の中の明細になにやら書き込むと、金を子袋の中に入れた。このやり取りの間にも、このメイドは一切表情を変えることがなかった。
ヴィネーダ自身もそうだが、彼女の部下のメイド達は影響を受けてかリアクションも表情も薄い。カンなら悲鳴を上げるだろう金額をこのメイドは名簿帳を読むようにすらすらと口に出してきた。なんともまあ、恐ろしい女どもだ。
酒場から出ていくと、待っていた団員達が笑顔で迎えてくれた。
「今日はごっつぁんでした~」と腹をさすりながらカズが笑った。その態度は満足が満ちている。
それにいらつきを感じながらも、カズキは「おう」と答え歩き出した。シーマはマキの隣で勝ち誇ったような態度で腕を組んで、彼の肩までしかない身長のマキを見下ろした。
「フッフッフ」
「なによ?」
「一杯半で俺の勝ちだったね」
「一杯半ん?」マキは睨むように強い視線をシーマに浴びせた後、その瞳はすぐにカズに向けられた。「カズッ」
急にカズの姿勢がびくんと正される。「は、はい!」
「あんたの計算した集計だと、あたしとシーマの飲んだビールの差ってどうなってたんだっけ?」
「えっと…マキさんが十六杯、シーマが十六杯と半分だったような」
十六杯と十六杯半、こいつら化け物だ。そりゃあんだけの料金にもなるはずだ。今度から、こいつらは別料金として計算させてもらおう。いや、もう二度とこんな罰ゲームは考えないつもりだが。
「ほうら」シーマの眉毛がぴくりと動くのをマキは見逃さず、彼を見上げた。「あんたはたった半分の差であたしを追い抜いただけにすぎないのよ。それを何一杯分さば読みしてるわけ?」
「変わらないだろ。一杯も二杯も」
「十分変わるわよ!」
「でも勝ちは勝ちだから」
「そんなことより、あんたの間違いの方が問題ねっ」
「なーにを言っても負け犬の喚き立てにしか聞こえないもんねー」
「はぁ!?」
これはさすがにまずいと思い、カズキが急いで間に入った。「はいはい、ストップストップ。今日はいい気分で帰ろうぜ、な?」
すると二人は睨みあうのをやめて、歩き出した。別にカズキが注意したからやめたわけではなく、このまま気分や空気をぶち壊したくないと思ったからだろう。
最近、いい依頼が少なく突撃団は金が貯まらず、生活的な面でぎくしゃくしていた。今回はそれなりにいい報酬の依頼が見つかり、それに乗じてこういった景気のいい罰ゲームを考えついたのだ。確かに金額的にかなり痛いものとなったが、前のように依頼を探すためにギラギラした空気も色を見られない。これはこれで、少しはやる価値があったのかもしれない。もちろん、二度とごめんだが。
彼らもその空気を読んでくれたのだ。
みんなも歩き出し、帰路に着く。帰る途中、クレアが後ろからひそひそと話しかけてきた。
「ねえ、お金足りた?」彼女の緑色の長い髪は顔の右半分を隠し、残りは渦巻きのほうで留めているという印象的な髪形をしている。大人しい瞳は緑っぽい黒色で、突撃団の中では一番年下だというのに、一番落ち着いた印象を残している。
カズキは振り返った。「ああ、大丈夫だったよ。まあ、もう二度とごめんだけどな」
同意するようにカンが頷く。というか、お前いつの間にいたんだ。
「ふうん、そうなんだ」
ビスケとシュウゴから金を借りたなんて、言うことはできないな。そう思いつつ、カズキはクレアに気づかれないようビスケとシュウゴに振り向き、軽く頭を下げた。
いいよいいよ、というようにビスケは微笑を浮かべて手を振り、シュウゴはしかたがない、と呆れた様子の表情で頷いた。
今回はなんとかなったが、これからがまた大変だ。自分達はあまり贅沢をしていられるほど余裕ぶった生活はしていられないのだ。ほとんどの団員が気づいていることだが、楽観視している。まじめに受け取っているのは、多分シュウゴとビスケくらいだろう。
自分達は今、ギルドに借金をしている。それも尋常じゃないくらいの額だ。みんなにはその金額を教えてはいないが、かなりの額であることは理解していたはずだ。
これはかなり深刻だ。原因がどうかなんてどうだっていい。とにかく、今はギルドに目をつけられないよう――もう遅いが――慎重に行動し、着実にギルドに金を返して行く必要がある。
カズキ以外の団員は皆、レヴァンの大浴場へ行った。狩の後の汗や泥を落とすにはもってこいの場所だ。ゲストハウスなら、そのくらいの設備は用意されているが、彼らが住んでいる場所はただの建物、アジトだ。アジトに風呂場なんて洒落たものはない。
カズキはアジトに着替えの衣類を忘れたため、取りにきたのだ。帰ってすぐ迎えてくれたのは、この屋根から垂れさがる古く長いツルだ。それから扉代わりに内側から掛けた紺色の布を潜ると、明かりのついてない暗い居間が続く。月明かりでぼんやりと部屋の内部は見えるため、明かりはそのままにしておいた。真ん中に大きく長い机が設置されていて、奥には寝室に続く二つの扉がある。
着替えは男子用寝室に置いている。人数の割に狭い部屋だが、なかなか快適だ。寝室に入り、『カズキ』とぶっきらぼうな字で書かれたタンスの戸棚を開けて自分の衣類を取り出す。いつも狩りの日以外で愛用しいるやつだ。
着替えの一セットを取り出し、カバンに詰めようとしたその時だ。棚から服を取り出したと同時に、何か紙切れのようなものが服の間からひらひらと落ちていったのだ。
なんだろう、と拾い上げて手に取る。だがさすがに月明かりだけの暗い部屋で何が書いているかわからず、カズキはしぶしぶろうそくの火をつけた。
手紙だ。それも、自分宛ての。今日アジトに狩から帰ってきたときにはなかった。ということは、自分達が酒場で食事をしている時に置かれたものだとわかる。
紙切れ一枚で便せんもしていない手紙で、比較的新しい綺麗な色とつやを残している。恐らくここで書かれたものだろう。なぜかカズキはそう直感した。彼には、この差出人だってわかっている。自分達がよく――いや、よくは知らないが、とにかく知っている人物だ。
『Mr.カズキ』
手紙の最初はその言葉で始まっていた。これのMr.と書いて、ミスターと読んでくる人物は、彼の知る限り一人しかいない。
『急を要することなので、突然戻ってきましたがあなた方はいないようなので手紙を残しておく事にします。私も用事を終える必要がありますので、簡潔にお伝えします。
何者かが、あなた方を監視しているようです。誰が、といは言うわけにはいきませんが、とにかく周りの注意を怠らず、気をつけてください。お願いします。
みんなのアイドル紳士より』
最後の一文を読んで、確実にカズキは確信した。こいつの正体を。自然に顔が引きつる。こいつはいつもこうだ。こういうやつなのだ。
しかし問題はそこではない。注目すべくはこの警告だ。誰かが自分達を監視している? いったい誰が、なんのために。今まで似たようなことはいくつもあった。功績を上げている割に若い自分達は、他のハンター達の目にすぐに止まった。
実際に狩場で、とった素材をよこせと強要されることもあったし、何か貴重なものが隠してあると踏んだ愚かなハンターが何人もこのアジトを突き止め、泥棒のようなマネをしたものだ。もちろんそんな輩はうちの気性の荒い連中から洗礼をうけ、たとえアジトを突き止めて物を取ろうとたくらんでも、何もなくてがっかりして帰って行くことだろう。
だがこの警告、いつもとは何かが違うようだ。今までとは違う、もっと用心すべき相手がいるということだろう。
この警告は受け止めておくことにしよう。今まで似たようなことがあったんだ。警戒しておくにこしたことはないだろう。
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