2015 12 月ドイツ出張備忘録 その 4. Domaine Alice Hartmann
シャトー・パークから次の訪問先であるアリス・ハートマン醸造所 Domaine Alice Hartmann までは車で 10 分足らず。隣村のヴォーメルダンジュにある。アポを取るときは間に 1 時間あけておいたので、どこかで昼食をとるつもりが、例によってそれどころではなく、万が一に備えてと思って朝出発するときに買っておいたサンドイッチを大急ぎでたいらげ、少し遅刻して醸造所の前に着いた。
そこは二階建ての洒落た長屋のような案配の建物で、少し離れたところにある
2014
年に完成したという醸造棟には、最新設備が完備されていた。冷却装置つきの圧搾機が
2
台あり、うち一台はスパークリングワイン--ルクセンブルクではクレマンと呼ぶ--専用で、収穫時もクレマン専門チームと、ノーマルなワイン用の葡萄を収穫するチームの二つに分かれるという。バリック樽が並ぶセラーは川に面しており、しかも全面ガラス張りで、とても明るい。夏場はブラインドを下ろして空調を入れるそうだ。生産の半分以上をクレマンが占めて、その他にリースリング、シャルドネ、ピノ・ノワールのスティルワインを造っている。が、醸造所の成功はクレマンによるので、シャンパーニュでいうところのレコルタン・マニュピュランに近い。
栽培面積は
12ha
で、ルクセンブルクだけでなく、モーゼルのトリッテンハイマー・アポテーケとシャルツホーフベルクにも区画を所有している。そして醸造責任者もドイツ人で、モーゼル川を挟んで対岸のニッテル村の、ベフォート醸造所
Weingut Befort
でもワインを造っているハンス
=
ヨルグ・ベフォート氏だ。彼がニッテルで造るエルプリング、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリなど試飲させてもらったが、こちらはストレートで素直で力強い。高校性が直球をど真ん中めがけて全力投球してくるような印象。一方、彼がアリス・ハートマンで造るリースリングは大人の味で、繊細でまろやかな酸味にニュアンス感があった。ヴォーメルダンジュ・ケップヒェンという貝殻石灰質土壌で斜度
55%
の畑で、樹齢
60
~
80
年の棒仕立てだという。さらにハートマンのシャルツホーフベルクの
2012
リースリング・シュペートレーゼ・ファインヘルブは、ワイン法の制限のためザールのフォン・ヘーフェル醸造所に委託して醸造したというが、繊細でほっそりとしてミネラル感があって辛口気味で、心なしかドイツワインとはひと味違うような気がした。
ベフォート氏がニッテルで造るワインとアリス・ハートマンで造るワインとは、スタイルが異なるのには訳がある。その一つが顧客層の違いだ。ニッテルではもっぱら地元の人々が日常的に楽しむ為のワインを造っていて、小売価格も
5
~
8Euro
がメインだ。一方アリス・ハートマンのクレマンはスタンダードな
Brut
で
16.5Euro
、フラッグシップのハートマン・グランド・キュベは
59Euro
。スティルワインはほぼ完売状態だったが、
15
~
19.50Euro
と高価で、レストランや都市部のワインショップで愛好家向けに、あるいはルクセンブルクの裕福な常連の顧客に販売され、相応の設備投資と手間暇をかけて造っている。
ちなみに、ベフォート氏の実家の醸造所は、
1969
年にハンス
=
ヨルグの両親が醸造所直売を始めたことに端を発する。そしてアリス・ハートマンは
1988
年に亡くなっているが、生前から有名だった醸造所を、航空業界で成功したピエール・ウェスナーとジャン・ゴダードが
1996
年に購入して設備投資し、今日の評価を築き上げてきた。アリス・ハートマンのクレマンのセパージュはリースリング
40%
、シャルドネ
50%
とピノ・ノワール
10%
。リースリングはステンレスタンク、シャルドネとピノ・ノワールはバリック樽で醸造し、伝統的瓶内二次発酵を
12
ヶ月行う。明確で繊細で複雑な香りに、奥行きのある果実味の印象的なスパークリングだった。
(つづく)
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