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aki@ Re:被災地支援(01/07) この様な書込大変失礼致します。日本も当…

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2007.04.04
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カテゴリ: いろいろメガネ
塀と花


前に アトムおじさん の紹介にあった山本譲司著の『累犯障害者』を読んでの問題意識に触発されて、同じく同氏の『獄窓記』を読んだ。
刑務所に収監された山本氏の回想録とでもいうものだ。
模範囚として、他の収容者の世話をするための囚人ながら「指導補助」という役割を与えられた山本氏が、様々な障害をもった囚人たちの世話をする様子が、眈々としかも衝撃的な内容とともに書かれている。
自分が何を犯したのかも理解していない囚人の、糞尿まみれの身体を拭き清めたり、時には痔疾囚人の大便を指でぬぐい薬を塗ってあげる。
汚れた床を裸足で歩いたために、爪の間から雑菌が入り蜂か織炎という病気で歩行困難になり、障害囚人たちから労られるような事態にさえなっている。
釈放を目前にし、互いに社会での再起を誓った収容者の突然の死。
そのような過酷な刑務所内の生活のなかで、ひとつのホッとさせられるエピソードを書いている。僕は読みながら思わず落涙してしまった。
全体を読んでこその内容で、その一部分だけではいかほども伝わらないかも知れないが、皆さんも『獄窓記』を読むきっかけになればと、紹介したい。

 寮内工場には、ふたりの聾唖者がいた。 私は、寮内工場に配役されて以来、妻が差し入れしてくれた「手話辞典」を参考にしながら、少しずつ、手話の勉強を続けていたが、彼らふたりは、そんな私にとって、この上もない教師役となった。 特に、Sという名前の聾唖者は、筆談を交えながら、熱心に手話表現の要領を教えてくれた。
 Sの年齢は、二十九歳で、寮内工場の中では、最も若い収容者だった。物怖じしているのか、他の収容者と交わることは、ほとんどない。 彼には、半年前に、初めての子供が誕生していた。 私の子供とほぼ同時期に生まれているのだ。 お互いに同じくらいの子供がいることが、私とSとの手話による会話を弾ませる要因となっていた。
 Sの子供は、私と同じく男の子らしいが、まだ、一度も会ったことがないそうだ。それどころか、奥さんからの手紙がぱったりと途絶えてしまい、現在の子供の様子は、まったくわからないという。 Sは、私の子供の近況について、さかんに質問してきた。
 私の場合は、幸いにして、ほぼ毎日のように、妻からの手紙が届いていた。 手紙には、息子の成長の様子が事細かく書かれている。
 私は、できる限り、その内容をSに教えるようにしていた。
 ――私の息子は、前歯が二本生えてきました。ビスケットを食べるようにもなりました。 親の支えがなくても上手に座れるようになったようです。 さらに、最近では、寝返りを打つようにして、ごろごろと回転しながら、部屋中を移動するようになったそうです。 きっと、Sさんのお子さんも、今頃、同じようなことをやっているのではないかと思います。
 私がつたない手話で話しかけると、Sは、ひとつひとつの言葉に大きく領いて応えてくれた。 そして、話が終わると、陶然とした表情になる。 私の子供と自分の子供の姿を重ね合わせているのだろう。
 しかし、Sには、我が子に対する大きな不安があった。
 ――山本さんのお子さんは、親が健常者ですから、問題はないと思います。 でも、私の子供は違います。 親が聾唖者です。 私の母は、やはり、聾唖者でした。 そして、私の妻も聾唖者です。 ですから、子供の場合も、同じように、聾唖者になる可能性が高いと思います。 私は、そのことを非常に心配しています。
 Sは、そう話った後、右手の指を顎にあて、すぐにその手を前に突き出した。「不幸」という意味の手話表現である。
 彼の心配事は、子供の件だけではなかった。
 ――妻からの手紙が来なくなったのは、彼女が、私との離婚を考えているからだと思います。 妻は、定職にも就かずに不安定な生活を送っている私のことを、不満に思っていました。 私は、いつも、彼女に、怒られていました。 そこにきて、今回の服役です。 私たち夫婦は、もう駄目かもしれません。どうしたらいいでしょうか。
 私は、すぐに質問を返した。
   当然、Sさんは、離婚はしたくないんですね。
 ――もちろんです。
 ――では、どうやって家族を食べさせていこうと考えているんですか。
 Sは、何も答えずに、考え込んでしまった。
 ――これから、Sさんがやろうと思っていることはなんですか。
 やはり、この質問にも、Sは答えない。
 ――やろうと思っていることがなければ、好きなことでも結構です。 何かありませんか。
 ――好きなことと言えば、料理をつくることです。 テキ屋の屋台で、お好み焼きづくりを手伝ったこともあります。
 ――それでは、飲食店で働くというのはどうですか。
 ――まともな店で、私なんかを雇ってくれるところはありません。
 ――自分で飲食店を経営したらどうですか。
 Sは、一瞬、驚いた顔をして、自分を指差す。
 ――私が経営者になるのですか。
 ――そうです。今の時代、かなり大変なことかもしれませんが、いずれにしても、何か目標を持つことが必要だと思います。 目標を持って一生懸命にやれば、きっと、奥さんも協力してくれると思います。
 この会話以来、Sは、図書目録の中から、調理師資格を取得するための参考書や料理関係の本を選び出し、手当たり次第に借りるようになった。 人が変わったようだった。 私も、そのひたむきな態度に触発され、彼への協力を借しまなかった。 店舗を構える際の融資制度や障害者への助成金制度などについて種々調べては、逐一、その内容をSに知らせた。
 そんなある日のことだった。
 Sが喜色満面の笑みを浮かべ、私に近づいてきた。 そして、手話で話しかけてくる。
 ――妻からの手紙が届きました。イタリア料理の本も一緒に届きました。実は、先日、本の差し入れをお願いする手紙を書いて、妻に送ったのです。
 Sが話したいことは、それだけではなかった。
 ――妻の手紙に書いてありましたが、息子の耳は、正常に機能しているそうです。 検査の結果、わかったようです。
 Sの目には、涙が溢れていた。
 ――本当に、よかったですね。
 そう伝えると、私は、自分の目頭を押さえた。
 その日を境に、同因に接するSの態度が一変した。 自ら進んで、同囚たちに筆談を持ちかけるようになったのだ。 また、運動や入浴などで、工場から移動する時は、隣に座る全盲者の手を引くようにもなった。
 全盲者も、Sの好意に応えた。 彼は、看守の号令や休憩を告げるチャイムが聞こえてくると、Sの肩を叩き、そのことを知らせるようになった。
 聾者と盲者が、お互いのハンディキャップを補い合っているのだ。 私は、そんなふたりの姿を目にするたびに、心が洗われるような思いがした。
 こうしたこともあり、仕事に対する満足感や遣り甲斐は、日が経つにつれて、私の中で増大していった。 休の動きも、軽やかになってきた。
 ところが、九月の中頃、私の体は、突然のアクシデントに見舞われた。

もちろん、この後もさまざまな出来事が続いてゆくのだが、それはご自分で読んで戴きたい。『累犯障害者』とともに、この本も自分の知らなかった世界、そしてあるいは誰もが何らかのきっかけで体験することもあり得るかも知れない世界が描かれていて、蕭然たる気分になる。
社会のなかにあるさまざまなひずみの縮図がここには現れていて暗澹たる気持ちになるのだが、そのなかにどうすべきかのヒントもたくさん隠されていると僕は、そんな気持ちにさせられた。



ほん










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Last updated  2007.04.04 11:46:57
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Re:『獄窓記』より(04/04)  
69’n roll  さん
こんにちは。私も以前、『累犯障害者』を読みましたが、うっかり、このエピソードは忘れていました。思い出すことができて良かった。ありがとうございます。希望こそ生きる力になり、具体的な目標があってこそ足を踏み出せるのですね。これは私の専門であるキャリア教育の教材に使えそうです。もっとも、犯罪者をモデルにするなんて!と怒る人もいるかもしれませんが。サクセスストーリーというとなんだか薄っぺらですが、人間はやはり、希望に向かって進んでいくストーリーを描きたいものですね。 (2007.04.04 10:50:56)

Re[1]:『獄窓記』より(04/04)  
msk222  さん
69’n rollさん


このエピソードは『獄窓記』に載っていますから、忘れていて当然です。
暗澹たるエピソードばかりのなかで、救われる話しとして紹介しました。

>希望こそ生きる力になり、具体的な目標があってこそ足を踏み出せるのですね。これは私の専門であるキャリア教育の教材に使えそうです。もっとも、犯罪者をモデルにするなんて!と怒る人もいるかもしれませんが。サクセスストーリーというとなんだか薄っぺらですが、人間はやはり、希望に向かって進んでいくストーリーを描きたいものですね。
-----
69’n rollさんのようなプロにも、十分説得力をもって耐える内容だと思います。
“希望をもてる社会”これこそ、日本はもちろん、世界にとって何より必要なことですね。
(2007.04.04 11:37:03)

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