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カテゴリ: 読書
本章は、中国・朝鮮の一次史料を中心に、徐福と秦氏という二つの「大陸からの渡来者」を掘り下げる。歴史に詳しい読者のために、通常の章では触れなかった史料の原文と詳細な考証を示す。


◆徐福——史実と伝説の間

一次史料における徐福
徐福(じょふく、生没年不詳)は、秦の始皇帝に仕えた方士(道士・呪術師)だ。その存在を記録する最も重要な一次史料が、司馬遷(しばせん)の『史記』だ。
『史記』「秦始皇本紀」の紀元前219年の条には、斉の人・徐市(徐福)が始皇帝に上書し、海中に蓬萊・方丈・瀛洲という三つの神山があり仙人が住んでいるので、身を清め童男童女とともにこれを求めることを願い出たとある(「齊人徐市等上書、言海中有三神山、名曰蓬萊、方丈、瀛洲、仙人居之、請得齋戒、與童男女求之」)。始皇帝はこれを許し、徐市に童男童女数千人を授けて海に入り仙人を求めさせた。




続く紀元前210年の条では、徐市らが莫大な費用を費やしながら薬を得られず、恐れをなして「蓬萊の薬は得られるが、大きな鮫魚に阻まれて到達できない。弓の名手を同行させてほしい」と偽りを述べたことが記される(「方士欲練以求奇藥、徐市等費以巨萬計、終不得藥、徐市恐、因詐曰、蓬萊藥可得、然常為大鮫魚所苦、故不得至、願請善射與俱、見則以連弩射之」)。
この記述で注目すべき点が二つある。第一に、徐福(徐市)は「斉の人」とされている。斉は現在の山東半島を中心とした地域で、古くから海洋文化が発達していた。第二に、最終的に徐福は「帰還せずに定住した」とする記述が、『史記』「淮南衡山列伝」の別の箇所に存在する。そこには「徐福得平原廣澤、止王不來」――徐福は平原と広大な湿地を得て、そこに留まって王となり帰らなかった、と明確に記されている。この「平原廣澤」がどこを指すかが、後世の大きな議論の的となった。


『史記』以外の史料における徐福
後漢時代(1世紀頃)に成立した王充の『論衡』「恢国篇」には、「徐福入海、不返止於倭」――徐福は海に入り、倭に止まって返らなかった、とある。これは「倭(日本列島)」と明確に記している最も古い記録の一つだ。


徐福の出発地と「渡来の経路」
中国側の研究では、徐福の出発地として複数の場所が候補に挙がっている。最も有力とされるのは山東省日照市(赣榆)で、徐福廟が現存し、海岸線の地形も遠征に適している。ほかに始皇帝の巡幸ルートとの関係が指摘される江蘇省連雲港市、「徐福村」の伝承が残る浙江省慈渓市も候補地とされる。いずれも現在の中国東海岸(黄海・東シナ海沿岸)であり、対馬海流に乗れば朝鮮半島南岸を経由して九州北岸に到達できる自然な航路上にある。


渡来経路については、考古学的にも興味深い論点がある。弥生文化の始まりは従来紀元前3世紀頃とされてきたが、近年の炭素14年代測定では紀元前9〜10世紀まで遡る可能性が指摘されている。そうであれば、徐福の第一次遠征(紀元前219年)より前に、すでに弥生文化が始まっていたことになる。つまり徐福以前にも複数の渡来の波があり、徐福は「最初の渡来者」ではなく、最も大規模で記録に残った「渡来の波」の一つだったと考えられる。


出雲口伝における徐福
出雲口伝(富家の証言)では、徐福について独自の解釈が伝えられている。徐福の第一次遠征(紀元前219年)の集団は出雲に上陸・定着し、出雲系と融合して、後の「物部氏の祖」になったのではないかというものだ。

この解釈の根拠として挙げられるのが、物部氏の「神話的祖先」とされるニギハヤヒノミコトの記紀での描写である。ニギハヤヒは「天磐船に乗って天降った」とされ、これは船で海を渡って来た存在を示唆する。「天磐船」を「大型の木造船」と解釈すれば、それは徐福の船団を指すのではないか、という推論が成り立つ。
これは仮説の域を出ないが、物部氏が大陸系(秦系?)の渡来氏族である可能性は、考古学的にも完全に否定されていない。





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Last updated  Jul 28, 2026 09:12:07 AM
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