型をこよなく重んじるも、嵌ることをめっぽう嫌がる作曲家の日記

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2019.10.03
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カテゴリ: 作曲家

10月1日に調布FMのドリームワークスの番組の最後に、
1994年に作曲した「新多様式空間」の冒頭がかけられました。
この曲は10分以上かかる曲で冒頭から徐々に音楽様式が変わっていきます。
音楽様式とは時代様式が変わり全く異なる音楽に変わるということです。
この音楽の関係性を繋ぎとめているものはラ-シ♭-ソ-ファ♯という、
調性でも無調でも使えるショスタコーヴィチの引用とも言える断片ひとつです。



この曲は同じ断片がさまざまな時代をタイムマシーンで回游する、そんな音楽です。
曲の構成が極めてシンプルなのは、何よりも自分の主義を出すことにありました。

このような音楽は現在でこそ普通にたくさんありますが、
当時は無調が最後に調性になる程度の新ロマン主義がありましたが、
まだまだ長三和音をそのまま出すことを嫌う風潮がありました。

また、提唱している新しい多様式とは、
例えば邦楽器とオーケストラが協調したり、クラシックとジャズが融合したりというものではなく、
異なる時代様式が出会うことによる違和感や超現実感を出すことで夢のできごとを音楽にする、
日本で言われている「シュール」と似た体感を表出することが目的です。

意識下に「エモーショナルな感覚」を呼び起こさせる意図があります。

この「エモーショナルな感覚」とは意外性や驚きといった具体的な事象です。
収録で「芸術は驚きだ!」ということを話しました。
さまざまな現代音楽のシーンで音素材やアイデアで驚くことはもちろんあります。
ただ音素材は芸術や音楽史的な意味づけより技術やメディアが先にいっている点、
また全体な作風が既存の作風を再度利用し多様化を図るものが多く、
個人的な価値観のレヴェルに留まることが殆どであろうと思われます。

「驚き」いうことは現代で言う「サプライズ」と同じことで、
そのくらいシンプルで意図的でいいと思います。

今では当然のこととして認知されている事柄ながら、
音楽史的な意味合いとは別に知られている事実があります。
そこには必ず「サプライズ」があり作曲者はそれを狙っていました。

ハイドンの交響曲は106曲(番号がついているものは104曲)あり、
もちろん「交響曲の父」としてのハイドンの音楽的内容は偉大なものですが、
本当のハイドンマニア以外がハイドンの交響曲をどれほど知っているでしょうか。
94番ト長調「驚愕」100番ト長調「軍隊」101番ニ長調「時計」104番「ロンドン」
などが有名ですが、どんな曲と訊かれるとなかなか思い出せなかったりします。
しかし、第94番「驚愕」の第2楽章だけはすぐに想いだせます。
それは、極めてシンプルな旋律に明確に聴衆を驚かせる意図があったからです。
しかもそれは寝ている聴衆を驚かせるためという極めて 浮薄な理由でした。




そしてモーツァルト、名曲が多くさまざまな曲が演奏されていますが、
やはり当時の作曲家の力量を揶揄する「音楽の冗談」というディヴェルティメントがあります。

わざと音を外したかのような複調による演出など文字どおりのジョークです。
その150年後に現れた新古典主義によって今日では違和感なく聴けたりするどころか、
ジョークと思わなければかなりの名曲でもあるのです。



その後はベートーヴェンの「運命」もそれまでなかった作曲法をとり、
「第九」の構成や合唱付きであったことは驚きだったことと思われます。

和声学のルールをまったく無視した曲を作ったことも凄いできごとだと思います。
その兆候はロマン派ですでにあったわけですが音楽構造の根幹を覆したのです。

またロマン派ではチャイコフスキー、近代ではプロコフィエフは、
奇をてらった曲の冒頭を絶えず考えたと思われます。
そこには聴衆をアッと言わせるアイディアに満ちていたと思います。

このような傾向はストラヴィンスキーの「火の鳥」「ぺトルーシュカ」「春の祭典」、
ダリウス・ミヨーの複調、バルトークの語法、ジョリヴェ の呪術性*、
メシアンの語法など独創的な音楽が驚きと共に出現、
伝統を重んじるパリで初演されれば激しいブーイングに晒されたわけです。
1900年代後半では新たな方法論として提示された音楽が増えましたが、
それ以前の驚きとは異質なもので論理的な事柄が優先していたかもしれません。
若い頃にはポーランド楽派のトーン・クラスターや群列書法はたくさん勉強しました。
そしてミニマル・ミュージックや偶然性の音楽など、
聴いて何かを感じるか感じないかは作曲家の作り方次第になりました。

そんな中でハイドンやモーツァルトのような意図をもって、
具体的な驚きやハプニングといった作風を持つ作曲家、
そこにアルフレート・シュニトケがいたことはこれまでも述べてきました。
オーケストラのための「真夏の夜の夢」では、
冒頭ヴァイオリンソナタの1節かと思えば、フルートが入り、
伴奏がピアノからチェンバロに変わります。
そのうち、双方が伴奏も含めてカノンになり、オーケストラが入ってくる、
そして時差(リヴァーブ)を故意に演出したような不思議な空間が発生します。
世にも珍しい世界を体現できるのです。
また、全曲を通じてモチーフが変わらない点では「新多様式空間」と同じです。



ハプニングの作曲家として挙げられるのは、
アルゼンチン生まれのマウリシオ・カーゲルです。
カーゲルの音楽はなかなかわからないことが多くなんとも言えない点が多いのですが、
そのハプニング性が高いことは誰しもが認めるところです。
約20分のティンパニ協奏曲ではさまざまな作曲法が駆使されているものの、
最後のティンパニに頭を突っ込む姿だけが独り歩きしているのです。
この動画はティンパニソロ部分を抜粋したものです。




「芸術は驚きだ!」を考えてずっときましたが、
今の時代は真に新しい音楽は受け入れられにくい、
しかし今の時代だからこそできることがあると思っています。

*このブログを書くにあたって「アンドレ・ジョリヴェ」を検索したところ、
2018年掲載された自分の論文が2番目に出てくることがわかりました。
ジョリヴェを勉強する人の何かの足しになれば嬉しい限りです。





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最終更新日  2019.10.03 15:52:07
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