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「ごめんなさい」そう言って彼女がうつむいて俺はそれ以上何も言えなくなる。嫌いや。嫌いなんや、その言葉。「ごめん」って言われたら、それ以上何か言うことは全部お前を責めることになるやろ?「うん、ごめん」だから。それ、やめろって。ごめんて言われたら、俺が何も、言えなくなんねん。ごめん、の代わりにありがとう、って言って。「ありがとう?」そう、ありがとう。こういうときは、ごめんやなくて。ありがとうって言って。いつも迷惑掛けてごめん、じゃなくていつも迷惑掛けてるけど一緒に居て話を聞いてくれてありがとう、って。「うん。ごめ…ありがとう」口癖のように「ごめん」を繰り返す彼女は声が小さくていつも俺の様子をうかがうような彼女。電話の声も小さいから「え、なに?」って聞き返した俺にすぐにごめん、って言ってそれ以上何も言わないから俺はそれをとても歯痒く思ってそして余り好きじゃなかった。バカみたいに声が大きくて体育会系のノリで騒ぐ俺と、みんなが騒いでいるときにいつも後ろの方で静かに笑ってる彼女。春の新歓シーズン。サークルのみんなで新入生を交えて酒を飲んで、朝の3時くらいまで騒いでる中に彼女は居た。ウーロン茶の入ったグラスを両手で持って少し口をつけながら静かに静かに笑ってた彼女の姿が見えて俺は大声で周りの奴らと騒いでた輪を抜けてその隣に座った。「酒、飲まないの?」「ごめんなさい、飲めないんです」「ふーん、ええけどさ。もっとせっかくやからみんなと馴染もうや」「はい、ごめんなさい」「たのしい?」「えっと、はい。すごく。こういう風にみんなが笑ってるのを見るの。好きなんです」「そっか、よかった」「あの」「なに?」「ごめんなさい、あの、わたし。喋るのとか苦手で」「ええよ、無理せんでも。自分が楽しいのが一番や」「はい」そう言って微笑んだ彼女が、すごく自然に微笑んだ彼女の顔が、俺はしばらく頭から離れなくてもっともっとその顔を見たいと思って、酒を飲めないのにいつもサークルの飲み会に顔を出す彼女の隣に、俺はなんとなく座るようになってバカみたいにたくさん喋った。彼女は俺が話す内容にひとつひとつ真剣な目をして聞いて、時々ちょっと目を伏せながらも笑って、声を立てて大声で笑うことは無かったけれど、その唇が少しだけふわりと開いて目が少しだけ細くなる顔を、俺はずっと見ていたくてたまらなくて。「なぁ、彼氏とか好きな人、おるん?」ふだん全然映画なんか興味ないくせに、ちょっと「この映画見たいな」って口にしたのを聞いて俺は彼女を映画に誘った。映画は何かの小説が原作らしくて、彼女はその映画が好きで俺は本を読むと眠くなるからもちろんその小説を読んだことが無くて、映画もそんなに面白いとは思えなかったけど彼女が見たいって映画だからきっと面白いんだって思って必死に見たその帰り。無理矢理感想を言おうとして、でもうまいこと言えなくてちょっと沈黙が続いたときに俺は切り出した。彼女はちょっとうつむいてこっちを見なかった。マズったな、この空気。必死に何かごまかそうと他の言葉を探そうとして、すぐにやめた。遅かれ早かれ、だ。「あんな、俺と、付きあわへん?と、いうか一緒に居てください」その直後に彼女が鼻をすすって、ちょっと泣き出して。完全にマズった、って俺が思ったときに彼女が。「ごめんなさい」って。「や、ごめん。気にせんで。うん…伝えたかっただけやから。俺のただのワガママやな」そう言っても彼女は泣いたまま、もう一度。「ごめんなさい」そう言って。いいよ、そんなに。謝らないでいい。何か、本当に俺が悪いみたいで凹むから、さ。そう言おうとして彼女を見たら彼女はこっちを向いて、「ごめんなさい、嬉しいです。よろしくお願いします」って言うから俺は驚いて、すっかりフラれたって思ってたから、「へっ?」ってマヌケな声を出して。結局、彼女は「こんな自分でいいのか」ってことを気にして「ごめんなさい」と言ったらしく、でもそれを俺が分かるまでにそれから2時間くらいかかった。そのあと近くのファミレスで彼女はずっと泣いてて、途切れ途切れになんでごめんなさいって言って泣いてたのかを、何度も何度も「ごめんなさい」って泣きながら言うから、全部理解するのにすごく時間がかかった。周りから見たら、付き合いたてほやほやの俺たちは別れようとしてるカップルにしか見えなかったと思う。「ん。でも良かった」分かって安心した俺が笑って、やっと彼女も笑って。泣きすぎて腫れた目で笑ったその顔は、やっぱり俺が大好きな顔だった。「ごめんなさい」それからも彼女は何か言う度にその言葉を口にした。「もう、口癖なんだと思う」ちいさく彼女は言って、だから俺は彼女に言った。ごめん、の代わりにありがとう、って言って。ごめんの数が少しずつ減って、ありがとうと彼女が笑いながら僕に言う。それがすごくすごく良くて、「おう」ってぶっきらぼうに言いながら、俺は彼女の頭をくしゃくしゃってして。それから2度目の春を迎えたときに、俺と彼女が終わった。原因は何だろう。いま考えても、はっきりとした理由があったって思い出せない。「なんとなく」そう友達に苦笑い混じりに答えてた。「ありがとう」最後に彼女の部屋を出るときに、すごくはっきりした声で彼女が言った。それはいつも静かで声も小さくて、でも静かに笑う顔がすごく可愛かった彼女が、今までにいちばんはっきりと大きな声で言った言葉。俺は玄関でドアを片手で支えながら彼女の顔を見て、彼女のその唇が少しだけふわりと開いて目が少しだけ細くなる顔を見た。彼女は笑っていてその顔は俺が好きだった笑顔で。「ありがとう、ね。一緒に居てくれて」それを聞いたとき、俺の方が泣きそうで情けない顔をしていたのかも知れない。彼女はすぐ、ごめんなさいと言ってうつむいた。俺はごめんって聞くのが嫌いで、彼女にありがとうって言うんだと言った。最後にとても自然に彼女がありがとうって言って、逆に俺はありがとうって言えなかった。このお話は、「オリゴ糖って言うと、えなりかずきがありがとうって言ってるように聞こえるんだぜ!」と得意げに僕に話してくれた友達の言葉から生まれました。ありがとう。でも全然そうは聞こえないんだ。
2006.01.31
今だったら、どうしたら良かったのかが分かる。僕が出会ったひとの中で、いちばん強くていちばん弱くて、そしていちばんしっかりしていていちばん幼くて、いちばん笑っていちばん泣く年上のひと。そのひとに、僕がどうするべきだったのか今だったら分かる。僕らが出会ったことが偶然だろうと運命だろうと、そんなことを考えることは決してしなかった。彼女は僕にいちばん笑ってくれたから、それだけで僕は彼女の笑顔をもっと見たいと思ったし、彼女は僕の前でいちばん泣いていたから、それだけで僕は彼女のそばに居たいと思っていた。僕は泣いたり笑ったり怒ったりするのがひどく苦手だったから、彼女がいつもくるくると感情を表に出すのが羨ましかったのかも知れないし、憧れに近い感情を持っていたのかも知れない。可愛いものや綺麗なものを見たとき、それが例えどんなに小さなものでも。彼女は(僕から見れば大げさに見えるほど)嬉しそうな顔をして、指をさして僕に見せてきて。ペットボトルについたオマケのストラップ。UFOキャッチャーのぬいぐるみ。車の窓から見える夜景。雑誌に載っているかばん。店先に並ぶ安物のピアス。僕にとっては景色の一部に消えてしまうもので、見えていないもの。それらのひとつひとつに笑顔で僕に見せてくれたから、僕は彼女のとなりでゆっくりと歩くようになっていた。彼女は僕との共通点をひとつひとつ見つけては、大げさに喜んで見せた。「わたしたちって似てるね」と笑って。僕は、彼女が僕にないものをたくさん持っていてすごく遠くに感じることもあったから、そうやって一緒だと言われることがとても嬉しくて、でもその度に胸を痛めたりもした。僕はきっと、不安だったんだと思う。彼女があまりにも眩しすぎて、そしていつか、消えてしまうことを思って。僕は彼女に「好きだ」と言って彼女は僕に「好き」と言って。でも僕はお互いに触れ合うことを怖がっていた。触れ合えばもっと彼女が欲しくなることを知っていたから。僕は不安を振り払いたかった。いつか消えてしまうものを手に入れるのが恐くて、そしてそれよりも彼女自身がいますぐ僕の目の前から消えてしまうことの方がもっと恐くて。僕は近付くことも遠ざけることも出来なくてそれでも彼女と一緒に居ようとしていた。「もう、会えません。ごめん。ごめんなさい」メールが僕の携帯に入ってきたのは、冬がもうすぐ終わってしまうころで、少し前に風邪をひいた彼女がその直後に風邪をひいた僕をちょっと心配しながらも「また一緒だね」とメールしてきてから1週間後だった。メールには彼女が不安だったこと、その不安に耐えきれなくなったこと、それから最後に僕が本当に幸せになれることを祈っていますと書かれていた。メールを読んで、僕は胸の中にいつもとどめておくしかできなかった感情が、一気に溢れ出しそうになるのを感じて、それはすぐに形となって。僕の頬へと溢れていった。僕が見ていた彼女はいつも感情をストレートに表に出していたはずだったのに。耐えきれないほどの不安をいつも僕と居るときに感じていて。そしてそのことに、一瞬でも気付くことは出来なかった。その時の僕は不安の意味もそのつらさも、分かりすぎるくらい分かっていて、「わたしたちって似てるね」そう言った彼女の言葉の本当の意味を知った。僕らは本当は同じで、手に入れたいのに失ったときの悲しさを知っているから近付くことを恐れて、失いたくないから遠ざけることも出来ずに居た。そして僕の方が弱かったから。何も出来ずに居ただけで。彼女が僕にメールを送ったときのことを考えると、ずっとずっと胸が痛んだ。きっとすごく恐くて苦しくて悩んで迷って、その中でメールの文字をひとつひとつ打ったことを考えると、口から漏れ出す嗚咽を抑えることが出来なかった。そのメールの文字をひとつひとつ、何度も読み返しても僕はそれに対する返事を持っていなかった。悔いて謝ることも言い訳をすることも怒って怒鳴ることも全部意味を成さないと思えたし、その時ほど言葉や文字が全て本当の意味を伝える手段としては、とてもとても弱すぎると思ったことはなかった。携帯の画面にぽたぽたといくつも涙だか鼻水だか分からないものが流れても、国道をバイクで飛ばして会いに行くことも、リダイアルの一番上にあるはずの電話番号にかけることも、メールのただ一文字も打つことも出来ずに僕は何度もそのメールを読んだ。それから、メール画面を閉じて電話帳から彼女の番号とアドレスと、彼女の名前を消した。今だったら、どうしたら良かったのかが分かる。僕が出会ったひとの中で、いちばん強くていちばん弱くて、そしていちばんしっかりしていていちばん幼くて、いちばん笑っていちばん泣く年上のひと。そのひとに、僕がどうするべきだったのか今だったら分かる。きっともっと簡単で単純で、でも僕には恐くて難しくて出来なかったこと。彼女を抱きしめること、手を繋ぐこと、笑っていること。「好きだ」って言った後に「ずっと側にいる」って言うこと。僕が欲しかった「安心」を手に入れるためにはそういうことをすれば良かった。彼女に「安心」をあげることが出来れば良かった。今だったら分かる。今だったら。そうして戻らないものを時間を笑顔を声をあの人の全てを、取り戻したくてもやり直したくてもどうにも出来ないことを、繰り返し繰り返し思い出す度に胸の辺りを締め付けるけれど。僕が彼女に出来ることはもう無いって思って、だからその分彼女が誰かと凄く幸せになって笑っていて欲しい、その誰かに「安心」をもらって笑っていて欲しいって。電車で綺麗な女のひとを見ると、その人相手にそんな妄想をよくしてる。
2006.01.30
書き物をしています。Bookmarkにもありますが、お暇な方はどうぞ。⇒Plastic World
2006.01.28
僕が生まれて初めてキスをしたのはすごく寒い季節の公園で、その公園は周りに高い木がいっぱい生えている神社の横の公園で、夕方の5時になると、その季節では本当に真っ暗で、辺りに人の姿はほとんど無くなるから、誕生日を迎えたばかりの付き合いだして1ヶ月の年下の彼女に、街の情報誌の配達のバイトで貯めたお金で買った、小さなシルバーの星が付いたネックレスをあげて、彼女に誕生日プレゼントを買ったのは初めてだったから、それだけで十分かどうかよく分からなくてちょっと不安で、少しだけ背伸びをしたかった僕はカッコイイと思ってた演出をしようと、「もう一つプレゼントがあるんだ」って言って鞄を開ける振りをして、「ちょっと目をつぶってて」って言って目をつぶらせて、その隙に彼女の唇に自分の唇をす、っと近づけて、それを僕の頭の中ではスマートに自然にやるつもりだったんだけど、何せ初めてだから唇までの距離とか、首の傾け方とか、キスするときの自分の唇の形とか、自分も目をつぶるんだろうかとか、そんないろいろなことを考えてたから、なんだか唇の端の方に少し触れるだけみたいなキスになって、あー、かっこわりいな、俺。って思ってるときに、ちょっとビックリした顔で彼女が目を開けて、それから笑ったものだから僕はすごく恥ずかしくなって、「何笑ってんだよ」って言ったら、「唇が、がさがさ」って彼女が言って、僕は冬になるとすごく唇ががさがさになってしまうから、そしてその時はきっと緊張もしてたから余計にがさがさで、「はい」って彼女がメンタームのリップクリームを出して、でも僕はリップクリームを塗った後のベタベタする感じが嫌いで、「いや、いいよ」って言ったけど、彼女はリップの蓋を取って僕に押し付けてくるものだから、僕は仕方なくリップクリームを塗って、ああ気持ちわりいな、って、そう思ってたら、彼女がリップクリームをしまってもう一回目をつぶったものだから、今度はしっかりと、唇のまんなかにキスをした。ファーストキスの味なんか無いって、そんなこと言うヤツはいるけれど。僕の中では少しベタベタして、メンソールのスッとした味が、間違いなく、そしてハッキリと残るファーストキスの味で。今でも冬が来ると僕の唇はガサガサで、でもリップクリームはベタベタして嫌いだから塗ることは無くて。それでも、あのころよりずっと自然に、それからうまくキスできるようになった。だから僕にはもうリップクリームは必要無いんだってそう言い聞かせて、ガサガサのタバコをくわえて火を点けて、ふう、って煙を吐き出した。たぶん、リップクリームの味のする、スッとしたキスをすることはもう無い。タバコのフィルターに切れた唇の血がついてた。
2006.01.26
「雪はきらいです」ほう、っとため息をついて彼女は言った。僕が住む街に雪が降るのは本当に珍しくて、でも僕が生まれた街には、毎年毎年たくさんの雪が降って積もった。彼女の生まれた街がどうだったのかは知らない。僕は彼女が生まれた街がどこだか聞いたことがない。「ずっと、ずうっと小さい街です。でもわたしは好き」いつだったか彼女が僕に話してくれたその街は、きっとここからは遠いところにあるんだろうと想像した。その小さな街では、彼女は家族や友達と、何も無くても笑っていられる、そんな街なんだろうと想像した。彼女が生まれた街のことを話していたその時は、とても穏やかな笑顔で話していたから。僕と彼女は、あたたかいお店の中であたたかいコーヒーとミルクティーを飲んだ。はしの方がが曇っている窓の外には、ひらひら雪が降っていた。とても静かに、でもとぎれなく降っていた。「雪を見るのは好き。 でも、生まれた街にはたくさんの雪が降りすぎて、 雪かきをしなきゃ、家から出ることも出来なくなる。 だから、雪が降ると、ちょっと憂鬱になる。 でもここにいれば、この街にいればそんなに雪は積もらないからね。 そうやって憂鬱になることもない。 だから、ここにいるうちは雪は好きかな」僕は窓の外見ながらそう言って彼女を見た。「私は。私は雪はきらいです」彼女は外の雪を見ずに、ティーカップに目を落として答えた。僕はどうしてだか、聞くことが出来なかった。それ以上、何かを聞いても、彼女は答えない気がした。それもどうしてだかは分からないけれど。陳腐な、言い古された言葉かも知れないけれど、彼女の肌は雪のように白くて、透き通っていて、そして。触れただけで溶けそうに見えた。その時の顔が、表情が余計にそう思わせたのかも知れない。「春になれば。雪は、溶けて消えてしまいます」「そうだね」「消えてしまうものを好きになれば、消えたときに寂しいだけです」僕は彼女の恋を知っていたから。そうして、その恋の行方も全部知っていたから。彼女のことばのひとつひとつは僕の胸の辺りに静かに積もっていった。窓の外では、同じように雪がアスファルトの上に白を積み重ねていった。「また、冬になれば雪は降る。そして、冬は毎年ぜったいにやってくる」窓の外を見たまま、僕は話した。彼女の目を見なかった。分かってる。僕の言っていることは。ただの詭弁だ。気休めだ。終わった恋に胸を痛める者に、第三者が掛ける気休めほど無意味で、そして、時に傷つけるものだって僕は知っていた筈だった。話しながら僕は正しいことを言ってる気がしなかった。だから彼女の目を見ることが恐かった。恐かったんだと思う。「そう、ですね。同じ雪じゃないけれど。雪はまた降りますね」僕が思っていたよりも、彼女は強かった。でもそれは僕が思っただけで、実際の彼女は強かったのかも知れないし、ずっと弱かったのかも知れない。少なくともその時の彼女は真っ直ぐと窓の外を見ていた。その言葉に少し驚いて顔を横に向けた僕の目にうつった彼女はきらいだと言っていた雪を見ていた。お店を出る頃になっても雪は止む気配はなかった。僕は傘を持っていなかったけれど、彼女は柄の長い薄い水色の傘を持っていた。それを開いた後に、僕の方に差し出したけれど、「雪の日は、傘をささないんだ」そう言って僕は断った。「じゃあ、私もさしません」そう言って彼女は笑った。そうして、僕らは肩に雪を積もらせながら駅に向かって歩いた。さくさくとアスファルトの上の白を踏みしめて歩いた。春が来なくても、この街では雪はすぐに消えてしまう。彼女のきらいな雪はそうやって、すぐに姿を消してしまって。肩の上に積もった雪も、駅に入ればすぐに溶けるだろうし、僕と彼女が歩いた後に残った足跡も、明日になれば消えてしまう。彼女はすぐに消えてしまうから雪を怖がってきらいと言い、僕はすぐに消えてしまうから雪を好きだと思った。例えば、僕の隣を歩く彼女のように。もうすぐ、僕の前から消えてしまう彼女のように。*****雪は、好きですか?きらいですか?僕は、今の僕は。微妙です。(休日出勤しているときに雪が降るとスノボに行きたくなって悔しいからです)
2006.01.21
写真の中の彼女は、これでもかってくらいに幸せそうな顔をしていた。ベッドの中、僕は仰向けになり小さなフォトアルバムを一枚ずつめくる。「ね。ナナ。すっごく幸せそうな顔してるでしょ」ベッドの隣から聞こえた声に、僕は頷きもせずにアルバムをめくる。シルバーのドレスを着たナナの顔は、全部の写真で同じ顔をしてる訳じゃない。けれど、そのパーティーのどの写真からだって、「幸せ」ってことばがこれほど見事に当てはまるものは無いって思った。そのナナの隣にいる男性は、僕が一度もあったことの無い男性は、写真だけでも「いい人」なのが分かり過ぎるくらい分かった。きっと、僕がどれだけかかってもナナが見せないであろうその顔を、いとも簡単に作ることが出来たような気さえした。「ナナ、あんたに会いたがってた。呼べば良かったかな、って」「俺が。どんな顔して行けばいいのさ」そこでやっと。僕はとなりにいるトモの顔を見る。「そのままの、顔でいいんじゃない?」トモの指が僕の頬をつたう。「ナナ、ね。好きだったんだよ。それくらい分かってたでしょ」「・・・」「ふたりとも、変に不器用で。周りから見たらイライラしてた」「今は。俺は今は違うよ」「嘘がつけないところは、一緒。かわってない」「嘘だって、つけるようになった」「ううん。だって、さっきから一度もわたしの目を見ない。してる時だって」僕はもう一度、アルバムの中のナナを見る。来月には、母親になる。そう聞いても、幼い笑顔や声を思い出すと、すんなりと信じられなかった。当たり前だけど、僕の知らないところでナナは僕の知らない顔をして、僕の知らない人生を歩いていった。トモだって、そう。僕が街を離れてから、10年弱が経ってる。こうして、たまに帰って来たときに会う顔は、全く変わっていないって思っても。いま、こうしてトモと関係したことだって、あの頃の僕には想像もつかなかったことなのに。ナナが結婚したことを聞かされて、僕の知らないうちに結婚した事を聞かされて。少し酒が入り過ぎただけで、簡単に僕はトモと関係を持った。変わったのは僕もかも知れない。だけど、トモは。僕を、変わってないって、言う。アルバムを閉じて、枕元に置いた。それから、ベッドから降りてシャツを羽織る。「写真、持っていってもいいよ」後ろから、トモの声が聞こえる。「いや、いいよ。じゅうぶん。たくさん見たから、もう胸に焼き付いてる」僕は、嘘をついた。胸に焼き付いてなんかいない。それどころか、僕はナナのあの顔を憶えているのが、辛いと思った。僕が知っているナナの顔だけでじゅうぶんで。それはずっと変わらないと思っていたかった。僕の知らない顔のナナから、僕は逃げようとした。自分でも、それは情けない話だと分かるけど。「嘘、でしょ。やっぱり嘘つけないね。すぐ分かっちゃう」トモが笑っている。でも、それは馬鹿にした笑い方じゃなくて、ずっとずっと寂しい笑顔だった。その顔のトモも、僕の知らないトモの顔で、僕は。「人は、変わるけど。変わらないことだってあるから」俺も、そう信じたいよ。でも、それをトモには言わなかった。何も言わないままベッドに腰掛けて煙草に火を点けた。トモも隣に座って僕の煙草に火を点けた。二人とも、何も言わなかった。でも、煙をじっと見ながら。きっとトモもあの頃のことを思っているんだろうと、僕は勝手に思い込んでおいた。*****今年の同窓会も、そんなようなことはありませんでした。
2006.01.19
日記のようなものを始めました。じゃあ、このブログは何なんだと聞かれれば、曖昧な苦笑いを返すだけですが。
2006.01.13
言いたい言葉がある。それはどうしても遅すぎる言葉になってしまうかも知れないけれど。それでも。言わなければ前に進めない気がしていた。このままじゃいけない、って。そんな思いだけがどんどん自分の中で大きくなっていくのを感じる。昼間の街が、普段と比べ物にならないくらい賑やかになっているのに、夜は驚くほど静かで。静か過ぎて車も人も居ない道を歩いて。雪が凍ってしまった道を、轍の跡に凍ってしまった道を。その歩き難くなってしまった道を。僕は歩いた。言いたい言葉。それでも、伝えることが出来ない言葉。何度も何度も飲み込んで。ここでひとりでつぶやいても、聞こえることの無い声を。伝えることが出来る頃には、すっかり遅くなってしまうであろう言葉を。何度も胸の中で繰り返して、僕は生まれてそして育った街を歩きながら。いま。その言葉を伝えたい。それはどうしても遅すぎる言葉になってしまうかも知れないけれど。それでも。聞いてくれますか。そして、届くでしょうか。何を今更とあなたは笑うでしょうか。それなら、どうか、笑って。僕が見たいのは、その笑顔なのだから。ありふれた言葉を言うのは嫌いだけれど、それでも僕はどうしても言いたくて。そんなありふれた言葉を。僕の、僕のままの言葉で。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。(久々にパソコンに触りました)
2006.01.05
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