二宮宏之・樺山紘一・福井憲彦編『叢書・歴史を拓く―『アナール』論文選2 家の歴史社会学(新版)』
~藤原書店、 2010 年~
以前紹介した 『魔女とシャリバリ』 に続く、『アナール』論文選第2巻です。
本書の構成は次のとおりです。
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新版刊行に寄せて(福井憲彦)
解説 歴史の中の「家」(二宮宏之)
I.家族と世帯への歴史的アプローチ(ピーター・ラスレット、林田伸一訳)
II .18世紀オート=プロヴァンスにおける核家族と拡大家族(アラン・コロン、福井憲彦訳)
III .人口動態分析と社会階層―アンシャン・レジーム期農村人口の自動調整システム解明の鍵―(ベルナール・ドルゥエ、林田伸一訳)
IV .慣習法の体系―16世紀フランスにおける家族構造と相続慣行―(エマニュエル・ル=ロワ=ラデュリ、木下賢一訳)
V.マコネー地方における12世紀の家系・貴族身分・騎士身分―再論(ジョルジュ・デュビー、下野義朗訳)
VI .フランスにおける結婚儀礼―教会の慣習と民衆の慣習(16~18世紀)―(アンドレ・ビュルギエール、長谷川輝夫訳)
VII .結婚の民衆儀礼における婚礼業説の象徴機能(ニコル・ベルモン、長谷川輝夫訳)
コメント 江戸時代の歴史民勢学から(速水融)
文献目録
地図、
扉図版出典一覧
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二宮宏之先生の「解説」は、本書のテーマに関する研究史を「歴史人口学」のアプローチと「歴史人類学」のアプローチの大きく二つの観点から整理するとともに、本書所収の7論文をそうした研究史の中に位置づけながら簡潔に説明しており、非常に優れた解説となっています。
第一論文は、家族史研究のための方法論を提示します。核家族、多核世帯、共住集団など、多様な世帯の構造を分類表で整理している点で有用です。
第二論文は、核家族と拡大家族、両親との同居といった状況について、父親が死亡している場合の比率を示すなどしながら、生活形態の選択にあたって、経済的動機よりも社会心理学的な動機が重要であったことを示します。
第三論文は、人口変動について、ラブルウル(富農)とジュルナリエ(貧農)の間に差があったことを、丹念に分析します。
第四論文は、遺産相続の方法について、A.先取権(子供の一人が遺産分割の前にあらかじめ自分のために先取しておく)、B.平等主義(相続以前に特権を子供に与えていた場合であっても遺産相続の際に特権をいったん持ち戻し平等に分割する)、C.中間的方法(生前に特権を与えた子からは相続権を除外、又は特権を持ったままにするか遺産相続の際に持ち戻すかを選択できる)の3種類の慣習法を分類し、それぞれの性格があてはまる地域の社会的状況を分析し、地域ごとの特性とそれぞれの慣習法がうまくあっていたことを説得的に示しています。これは、特に興味深く読んだ論文の一つです。
第五論文は、 10-11
世紀の貴族家系の家系図を出来る限り復元し、彼らの「貴族」意識と「騎士」意識や、相続慣行のあり方を分析します。
第六論文、第七論文は、結婚儀礼の具体的な様相を分析しています。
以上、簡単なメモとなりましたが、このあたりで。
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