M17星雲の光と影

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2006.01.15
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カテゴリ: その他




一時期、日本酒に凝っていたことがある。今でも飲むのは好きだが、その頃は図書館から日本酒関係の本を借り出して、かたっぱしから読んでいた。なぜそんなことをしたのかはよくわからない。おいしい酒の銘柄を探すというよりも、日本酒そのものがどのようにして作られ、その味を左右する条件は何かということに興味の中心があった。

考えてみれば「日本酒」というのは悲しい呼称だ。「酒」でいきましょうね、「酒」で。「洋酒」などという意味不明の名前から派生したような哀れな名前をつけられては酒がかわいそうだ。第一、アフリカのアルコール類は「洋酒」っていうのかな。よくわからない。

その酒の味を規定する要素を思い切り大胆に単純化して整理すると、それは「コク」と「キレ」ということになる。宣伝上手のビール業界にすっかりもっていかれたことばではあるが、本来は純然たる酒の世界のことばである。

「コク」はわかりやすい。味の深み、複雑にして精妙な味の複合体のもたらす得もいわれぬずっしりとした存在感といえばいいだろうか。年季、経験、奥行き、幅、広がりそういうことばとなじみの深い味の一側面である。

これに対して「キレ」とはなにか。これはきわめて日本的な表現である。酒を口中に含む、繊細微妙な味と香りが立ち上り、ふくよかな余韻が口から喉へとゆったりと移動していく。その瞬間、すっとその味わいがいさぎよく消える。この消え方の鮮やかさを表現することばが「キレ」である。

「コク」は存在感そのもの、「キレ」はその存在の消し方のあざやかさといえばいいだろうか。そして、いい酒はこの二つの条件をともに満たすものであるとされている。

深い味わいをもちながら、それが一瞬にして消え去る。ここに至高の酒体験が存在するという美学である。

これは別に酒に限ったことではない。人間にもそのまま当てはまる。人間性が豊かで、独創性に富み、会話は洒脱で、機知に富む。実にすばらしい美質である。しかし、ここにもうひとつの要素が加われば、大きな龍の絵には睛(ひとみ)が入れられ、完成される。



出会った時の新鮮なよろこびを逆向きに投影して、別れることをも新たなよろこびに変えること。次にくる新しい味への期待を抱かせ、未来への扉を開くためには、過去の味の扉を音もなく、すっと閉じる必要がある。

コクとキレの共存。人間の生き方として追究するにはむずかしい課題だが、挑みがいのあるテーマではある。







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Last updated  2006.01.15 10:48:22 コメントを書く


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和久希世@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) >「彼はこう言いました。「それもそうだ…
kuro@ Re:「チャンドラーのある」人生(08/18) 新しいお話をお待ちしております。
あああ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 非常に面白かったです。 背筋がぞわぞわし…
クロキ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 良いお話しをありがとうございます。 泣き…
М17星雲の光と影@ Re[1]:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) まずしい感想をありがとうございました。 …
映画見直してみると@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 伊集院がトイレでは拳銃を腰にさして準備…
いい話ですね@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 最近たまたま伊丹作品の「マルタイの女」…
山下陽光@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) ブログを読んで、 ワクワクがたまらなくな…
ににに@ Re:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) 文句を言うだけの人っているもんですね ま…
tanabotaturisan@ Re:WILL YOU STILL LOVE ME TOMORROW(07/01) キャロルキングの訳詩ありがとうございま…

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