M17星雲の光と影

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2006.01.15
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カテゴリ: その他

「空が泣いたら 雨になる
 山が泣くときゃ 水が出る
 俺が泣いても なんにも出ない
 意地が涙を 泣いて泣いて泣いてたまるかよ
 夢がある」

小学校の頃テレビで見た「泣いてたまるか」というドラマの主題歌である。(最後の一節だけ、ちょっと書き換えてある。こちらの方が私は好きなので)
主演は青島幸男、渥美清。隔週でそれぞれが一話完結のドラマの主役を演じていた。今考えると、かなり斬新な企画である。
定期的に見ていた記憶はないのだが、何かの機会に見て、印象に残っている回がある。

主演は渥美清だった。彼は平凡な勤め人である。ある日、彼は自分が癌であることを宣告され、余命がいくばくもないことを知らされる。その日から、平凡な日々が一変する。自分はまもなく死ぬ。でも、いったいそれを知ったからといって、何をすればいいんだろう。彼は煩悶する。ここからの記憶はきわめてあいまいなのだが、自分の創作を含めて脚色すれば、彼はある公園で小学生くらいの少女と知り合いになる。彼が途方に暮れてベンチに座り込んでいる時に、その少女が話しかけてくれたのである。その少女とのたわいもない会話が彼にとって唯一の救いとなった。



彼は半ば燃え落ちかかっている家をみつめる。そして、一歩一歩その家へ向かって歩を進める。「あぶないよ、あんた」。静止しようとする消防団員の手を振り払い、彼は駆け出す。その炎の中に向かって。叫ぶ母親、静止しようとする消防団員。炎に向かって走る渥美清。

彼の姿は紅蓮の炎の中に消え、しばらくすると、突き飛ばされるように少女が炎の中から外に向かって投げだされる。彼女の服は半ば焦げ、顔は煤で真っ黒になっている。母親は娘を両手でしっかりと抱き締める。その直後、彼女たちの背後で炎上する家が轟音とともに崩れ落ちる。

遠い記憶を手探りでたどると、おおよそそういった筋であったように記憶している。

私はそれから何日間か、その映像が頭に焼き付いて離れなかった。細い眼をしばたたかせて、炎の中に向かって歩を進める渥美清の表情が忘れられなかった。小学校2年か3年頃の記憶だったと思う。私はおさなごころにすごい役者だと思った。「死線をくぐる」ということを体験した人間でなければ表現できない何かがそこにはあったように思われた。

たぶん、そのシリーズが終わってから、しばらくして同じ時間帯で「男はつらいよ」というテレビシリーズが始まったのではないだろうか。でも、そこにいる渥美清は、あの時、私の見た鬼気迫る渥美清ではなかった。その後、そのシリーズが好評を博し、映画化されても、私は見に行こうとは思わなかった。あのドラマの彼が、あまりにも強く印象に残っていたからである。

今から思えば、あれは黒澤の「生きる」の焼き直しのような作品だったと思う。おそらくは、その映画を見てインスパイアされたとおぼしき作品を手塚治虫も描いており、私はその漫画を見たような記憶もある。

でもそんなことはどうでもいい。二番煎じであろうが、フェイクであろうが、人と作品との出会いは一回きりのものであり、「実はあれはね」と後で耳打ちされたからといって、その一回きりの経験の質が変わるというものではないのだ。

私はその後、そのストーリーすらあらかた忘れてしまった。でも、苦しい時、もうだめだと思った時、これで終わりだと思った時、頭の中であの曲が聞こえてくる。それは、そう、今でも同じように聞こえてくるのだ、渥美清のあの特徴的な節回しをともなって。

「空が泣いたら 雨になる
 山が泣くときゃ 水が出る
 俺が泣いても なんにも出ない

 泣いて 泣いて 泣いてたまるかよ 夢がある」
(ないって ないって ないってたまるかよ~おおおっ ゆーめーがあーるー)


良い唄であり、良い歌詞である。










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Last updated  2006.01.15 15:58:04
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Re:泣いてたまるか(01/15)  
arr さん
偶然出くわして、楽しみに読ませていただいています。

渥美清は「男はつらいよ」とめぐり合ったのが良かったのか悪かったのか、難しいところですね。
でも、映画は少しあざとくなったようで好きではありませんでしたが、「男はつらいよ」もテレビでやっていた頃はとても面白かったと思います。東野栄次郎演ずる病気中の先生の「近くの池でとれたウナギが食べたい」との無理な望みを、不肖の教え子の寅吉がかなえてやろうとする回と、最終回の奄美大島だったかにハブ取りに行って死んでしまう回が印象に残っています。
無理をせずに長く続けてください。それでは。 (2006.01.15 21:37:20)

コメントありがとうございます。  
arrさん

いやあ、いいかげんに書きなぐったブログに感想をいただいて、ちょっと恥ずかしいです。歌詞はその通り、「通せんぼ」ですね。「夢がある」は三番のラストです。でも、私はあの最後がとても好きで、頭の中では最後の所だけ、三番の歌詞をくっつけて唄ってしまうんですよ。いい唄ですよね。私は渥美清は人間の影の部分を十分表現できる役者だったと思うので、ちょっと最期のあたりは同情していました。では、アドバイスを参考にペース配分に気をつけて今後もやっていきたいと思います。
(2006.01.15 22:00:15)

Re:泣いてたまるか(01/15)  
で部長 さん
私も泣いてたまるかは大好きです。そのドラマの中で修業した渥美清が、映画の中でも頑張っています。ぜひ映画の「男はつらいよ」をダメ作品として封印せずに、1作でも2作でも見てください。М17星雲の光と影さんと喜びを共有できるような気がします。 (2008.09.30 01:23:19)

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