M17星雲の光と影

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2006.08.05
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カテゴリ: 音楽
ブログを始めていくつか感じたことがある。

まず、自分がこんなにもセンチメンタルな人間であったのかということに気づき、あらためて驚いた。職業上、様々な文章を書いているが、それらはすべて論理的なものである。自分でも論理優位の人間と思っていたし、情緒連綿たる文章というのははっきりいって苦手である。

それなのに何の制約もない場所でこうして書いている文章の多くにはセンチメンタリズムの匂いが濃厚に漂う。そのことにわれながら驚く。私はこれほどに情緒的な人間であったのか。

もうひとつ。ブログを始めた当初はずいぶん「嫌いなもの」について書いていたように思う。何かを嫌うということは、自分の考えの方向性を決める「舵」の役割をするものだと考えていた。「嫌いなものがなぜ嫌いであるか」という理由をことばで明確にすることを、この国の多くの人々は避けているように思っていた。なぜもっと嫌いなものを、そしてそれらを嫌う理由をことばにしないのか。ブログを始めた当初、そういうメンタリティを強くもっていたように思う。

でも最近ではなぜか嫌いなものを書くことが少なくなった。どちらかというと好きなもののことばかりを書いているような気がする。

嫌いなものを口にすることは、ある種の「嘔吐」に近い行為だったのだと思う。胸がむかむかするときには、その行為はたしかに必要だ。やむにやまれぬ切迫した気持ちでその行為は選択の余地なく行われる。しかし、それは突発的、衝動的な行為であり、けっして持続的なものではない。異物を吐き出したら、自分の同化可能なものを口にほうばるしかない。そして、それを自分の血肉とするしかない。それは持続的な行為となりうる。

嫌いなことを書かなくなった背景には、そういう生理的事情があるのではないかと思う。

私はいったい何を書こうとしているのか。そう、私はスガシカオの歌詞の世界について語ろうとしていたのである。

スガシカオのことばの世界。それは闇の中にありながら、その闇の向こうに光を見つめようとするやるせない姿勢が紡ぎだすことばの世界である。



現状におけるネガティブ。姿勢におけるポジティブ。結果としてのネガティブ。

これがスガシカオのことばの世界を支配する状況である。ネガティブの向こうにポジティブを見ようとする姿勢。そしてやはりそのポジティブはまだ見えないというネガティブな状況。

それを象徴的に示した歌詞を以下に示す。


夜明け前

風の音が やみそうにない夜は
よけいなことを考えてしまう
世界中で ただぼく一人だけが
ゆるしてもらえないような気分さ

ねぇ 君はあの時電話をしてきて
ねぇ 君は本当はどうしようとした

今テレビの画面で誰かが

風がひどくまた窓をたたいて
セリフがうまく聴き取れないんだ

ねぇ 愛という言葉ですましてきた
ずっと昔から あやふやな感じ

今 夜の闇に向け 撃ち放つ

みえないその壁を 一瞬で突き破ろうとして
街にただ 響いただけ

昔 この両手にかけられた
プラスティック製のオモチャの手錠
ぼくは一人で はずせなくなってしまい
こわそうとして きつくしまった

ねぇ 君が愛してるって聞くたびに
ふっとよぎる このどうしようもない感じ

今 風が吹き抜ける この街で
ぼくは目を凝らした
空のずっと先に 夜明けをみつけようとして
しばらく 闇を見つめた

今 風が吹き抜ける この街で
ぼくは目を凝らした
空のずっと先に 夜明けを みつけようとして
しばらく 闇を見つめた

夜の街に向け 撃ち放つ
ぼくらの銃声は
闇を貫いて 夜明けまで
とどきそうなのに
風がただ 吹きつけるだけ


絶望的な状況。他者からの働きかけ。その意味の不分明。
ポジティブな他者の行動。それを理解しきれない自分の存在。
その両者の間に横たわる「愛」というあいまいなことば。

闇を突き破るポジティブな行動。しかしそれは他者を決定的に損なう銃声を伴わざるをえない。

自らの自由を自ら束縛する逆説的状況。
そこに横たわる「愛」というどうしようもないことば。

今は闇だ。私はその向こうに光を求める。でもその光は見えない。
私はやはり銃を撃つしかない。光は自然に訪れてはこないのだ。
しかしその切ない銃声は風の音に吹き消されてしまう。

人間の文明は、闇と沈黙への恐怖から始まった。そう私は思う。
闇と沈黙は「死」の属性である。
それをなんとか追いやろうとして、人間は自分の世界を煌々とした人工的な明かりで照らし、様々な騒音で満たすことで、死への恐怖を紛らわそうとした。

それが人間の文明の根源的衝動だった。

しかし、人工的な虚ろな光はその向こうにある漆黒の闇の深さを浮かび上がらせる役目しか果たすことができなかった。
虚ろな騒音は、死者の沈黙の無気味さから注意をそらすための黄色いスポンジ状の耳栓にすぎないものであった。

スガシカオのことばは、そういう今に生きる人間の状況を背景にもつ。
闇のなかで光を探すけれども光はまだ見えない。
沈黙のなかで音のうねりを作り出すけれども根源的な沈黙の恐怖を拭い去ることはできない。

ネガティブな状況。それを克服しようとするポジティブな衝動。その衝動の空しさを痛感させるネガティブな諦観。

しかし、そこに残るのは、闇に打ち勝とうとし、結局は闇に敗れ去るしかない、一人の男の視線だけである。その目ははっきりと未来に向かって、訪れるべき幻の光を受けとめるべく闇の中で大きく見開かれている。

彼のことばが多くの若者(そして例外的に少数の若くない人々)の共感を得ることができるのはそのためである。

そして、その共感を支えるのは彼のセンチメンタリズムである。私は次に挙げる彼のことばを愛する。理由は?とくにない。この歌詞は過去の追想であり、未来への予感であり、同時に現実である。一つの歌詞が、追想であり、現実であり、同時に予言でもあるということがはたしてありうるだろうか。

もしも以下の歌詞を読んで、追想と現実と予言の共存を感じとることのできる方がおられたとしたら、その方は私の同志である。その方々に一言申し上げたい。「同志よ、過去は闇であり、現実も闇である。おそらくは未来も闇であろう。しかし、現実と未来との間にかすかなスペースをこじ開けて、そこに光を注ぎ込もう。それがたとえやくたいもないむだな抵抗にすぎないとしても、闇の向こうに光を探し求めようとする姿勢を私たちはなくすことはできないし、なくすべきでもない。そのようなネガティブな状況下でのポジティブな決意宣言を行うことがおそらくは私たちにできる唯一の抵抗なのだから。」


ふたりのかげ


街灯がうつしだした ふたりのかげはゆっくりと
君の家のほうへ のびて ほどなく消えた

明日には いいことが ふたりにあるかなぁ

時々すべてはこわれかけて 君は言葉をなくしてしまう
ぼくでは涙を うまくぬぐえない
帰りの道 かげはひとつだけ

最終の地下鉄は 誰かの事故で混んでいて
人波に押されて ぼんやり時計を見ていた

明日まで あと少し なにかが変わるかなぁ

ぼくらが生まれて消えるあいだ どれだけ人を救えるだろう
汚れた窓には何もうつらない
君はもう眠ってしまったんだろうか

明日には いいことが たくさんあるかなぁ

十字路を曲がるまで振りつづけた その手は君に見えただろうか
信じるだけでは 何も変わらない
そうして今日は過ぎていくんだ





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Last updated  2006.08.05 21:54:22
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和久希世@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) >「彼はこう言いました。「それもそうだ…
kuro@ Re:「チャンドラーのある」人生(08/18) 新しいお話をお待ちしております。
あああ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 非常に面白かったです。 背筋がぞわぞわし…
クロキ@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光2(03/03) 良いお話しをありがとうございます。 泣き…
М17星雲の光と影@ Re[1]:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) まずしい感想をありがとうございました。 …
映画見直してみると@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 伊集院がトイレでは拳銃を腰にさして準備…
いい話ですね@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) 最近たまたま伊丹作品の「マルタイの女」…
山下陽光@ Re:大江健三郎v.s.伊集院光1(03/03) ブログを読んで、 ワクワクがたまらなくな…
ににに@ Re:非ジャーナリスト宣言 朝日新聞(02/01) 文句を言うだけの人っているもんですね ま…
tanabotaturisan@ Re:WILL YOU STILL LOVE ME TOMORROW(07/01) キャロルキングの訳詩ありがとうございま…

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