可愛いに間に合わない(ファッションと猫と通販な日々)

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2017.05.12
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第百三十六段~邂逅~

★☆★☆

第百三十七段

いきなりけたたましく警報音が鳴り響いた。

ホワイトはギクリと椅子から上体を起こしてシアンを見た。

シアンも緊張を全身にみなぎらせ目を丸くしてホワイトを見返した。

『緊急事態発生。緊急事態発生。

これは演習ではない。これは演習ではない。

ただちに各自持ち場につき、次の指示に備えよ。



なおこの警報は

官邸と各私邸、官舎、兵舎にだけアナウンスされている。

外部に内容の一切を漏らさぬこと。

指示があるまで外出は禁止とする。

現在任務以外で外出中の者に関しては、、、』

いつものアンドロイドの機械的な声ではなく

人間の緊迫した声が響き渡った。

そして各部門ごとの指示がコード番号で飛ばされ

警報音を挟みながら何度も同じ内容が繰り返された。

『早いな』

ホワイトは言った。



シアンは頷いた。

その時、ホワイトの肩のホルダーの携帯通信機が鳴った。

『私だ』

ホルダーから外さないまま肩に向かってホワイトは言った。

『閣下。標準時15:05:18に惑星間通信が不通になりました。』



バーン・マッケンジー次官の声だった。

若いと言って良いがホワイトより十歳以上年上の彼は

軍隊時代からのホワイトの右腕だ。

ご老人たちを除けば、シアンもホワイトの次に彼を信頼していた。

ホワイトが多忙の時はバーンがシアンを教育したのだ。


惑星間通信にスクランブルがかけられている。

その意味するところはシアンにだって理解できた。

惑星間通信の設備のある機関は限られている。

とはいえ、少ないわけではない。

大半は官公庁だが、残りのほとんどは大手企業だ。

その中にはマスコミ関係も含まれる。

この状態が長く続けば混乱は避けられない。

それにスクランブルの噂が出ただけでも騒ぎだす連中はいる。

特にテロリストたち。

『先程の私の話しをステーションにも、軍にも伝えてあるな?』

ホワイトは言った。

『はい』

『警察にも』

『はい。閣下の仰せのとおりに準備しておりましたから、すぐに

厳戒体制を敷いています。』

『くれぐれも民間には悟られないようにしろ。』

『はい、閣下。

システム上の問題であるから技術員が早急に対応中と

テロップを出しております。』

『うん。それでよい。

とにかく暴動に備えろ。

誰の問い合わせにも落ち着いて丁寧に対応し

刺激するなと通信技官たちに伝えろ。

上の者を出せという要望には、

ご長老たちに御出座いただけ、

話しは通してある。

それから保安課の動きを注視するように。

何かあったら必ず私に連絡するのだ。

判断は私が下す。

長引くことはあるまいが、もしもの時は私が記者会見をする。

とにもかくにも逐一全てを私に報告してくれ、いいな。』

『了解です、閣下。』

そしてホワイトは急に思い出して言った。

『スティール大使は?』

邸内アナウンスに負けないよう大声を出した。

『移動中です。』

相手もほぼ怒鳴り声になっていた。

『安否を確認しろ。そしてもし大使に

大使館からでも他の誰からでも連絡があったとしても、

内容の如何に拘わらずそれは無視して、

とにかくこちらに向かうようにと言うのだ。

そして護衛官に伝えるのだ。

言うことを聞かないなら、腕づくででもこちらに来て頂けと。

だが決して怪我はさせるな。いいな。』

『了解しました。閣下』


今、地上波以外の世界中の通信が途絶えているはずだ。

船舶間もだ。

ある特定の星々に関しては

地上波にもスクランブルがかけられているに違いない。

何が起きているのか人々が知るのは全てが終わってからだ。

時間はかからないだろう。

長引くようなら、なんらかの混乱がどこかで引き起こされる。

一番危険な状況にあるのは航海中の船だ。

その次はこの星。

まだまだ政情不安定な火星。

だが、大丈夫だろう。"じき"、終わるはず。

その自信があるからこそ陛下は決断したのだ。

おそらく。

『恐ろしい方だ』

ホワイトは呟いた。

以前、シアンが言っていた。彼は今まで手加減してきた、と。

その通りなのだな。

あの男は世界をいつでもひねりつぶせる。

だいいち、この広大な世界の通信を短時間で

不通にできるのだ。

この恒星系の生命すべてを消滅させることすら容易かろう。

考えてみれば、あの男の持つ軍隊は、

全員が洗脳されたロボット兵士たちだ。

なんの躊躇いも疑いもなく、ただ王の命令のままに動くように

造られている。

しかも最強の軍備。

宙域戦だけではない、地上戦においても

つまりジョンのような

諜報も工作も殺しも得手の男が山のように居て、

生命を惜しまず、重いアーマー装着をものともせずに、

最新式で殺傷能力最大の火器を抱え

雪崩打って襲いかかってくる。


ふう。

千人のジョン。


それを想像しただけでホワイトはうんざりし、

そして同時に激しい怒りにかられた。

畜生。

俺たちは確かにウジ虫かハエにすぎない。

あの男の掌の上で踊らされていただけなのだ。

いったい何時から?

総帥の座についてから、いったいどれくらいの期間で

あの男は世界を掌握したのだろうか?

あの男の意のままに、俺たちは殺し合いを続けていたのだ。

あの男が暇つぶしに楽しむゲームのひとつに過ぎなかった。

ああ、畜生、畜生。

ジョッシュ、なんてことだ。

あの男は本当に悪魔だ。

『ほとんどをご存知だったのですよ、陛下は。』

ホワイトは憤りを隠せないまま言った。

『殿下のおっしゃった通りでした。

あの方はいつでもこの件に取りかかれるように

準備できていたのです。

私が殿下のヴィジョンのことを話し、

私たちが掻き集めた証拠の目録のデータを送った時

あの方は笑いながらこうおっしゃったのです。

丁度よい頃あいだ、と。』

シアンはホワイトの怖気を振るった表情を悲しい目で見つめた。

『うん。君の言わんとしていることは分かる。父はそういう人だ。』

と言うなり、シアンの目つきが妙な具合に虚ろになった。

そして眼球振盪。

彼は硬直し身体にかすかな震えに似た痙攣が始まった。

いつもより激しい。

ホワイトは緊張した。

ヴィジョン。

彼はシアンが分化途中であることを思い出した。

ドクターを呼ぶべきだろうか。

ホワイトは立って大慌てで歩き、どきどきしながら彼の横に座った。

彼に触れたが反応はなく、震えは続いている。

シアンはホワイトに腕を掴まれたまましばらくの後

誰に向かってか、『吉凶が分からない』と叫んだ。

それから次第に震えが収まり、目の動きが止んだ。

その直後、目の前のホワイトを認めると、

殴られたように彼は衝撃を受けて声を張り上げた。

『どうか父を殺さないでくれ』

その声は切実で顔は真剣そのものだった。

ホワイトは目をパチクリとさせた。

『そんな。。いったい何をご覧になったのです?』

彼は絶句した。

『そんなことはいたしませんよ。殿下の大切な方です。』

そしてやっとでそれだけを言った。

どんなヴィジョンをシアンは見たのだろうか?

アレクを殺す?俺がか?

ホワイトは今はじめてその可能性について考えた。

今まで思いもしなかった。

シアンを安心させるため肩を掴み引き寄せようとしたが

シアンは踏ん張ってそれに逆らいホワイトを凝視し続けた。

『誓いますよ。そんなことにはなりません。』

ホワイトは言った。

シアンの顔が引きつった。

『僕はひどいことを言ってる。君に死ぬなと言いながら、

父を殺すなと。

いったい全体、君はどうやって自分を守ればいいんだ。』

シアンは両手で髪の毛を掻きむしるようにした。

ホワイトはその彼を無理矢理強く抱きしめた。

悪いヴィジョンを見てショックを受けたシアンを

今までも必ずそうして来たように。

心を込めて抱き締めた。

ローブの前がはだけて、顔から続く花の模様がのぞいていた。

シアンは唇を噛み締めていた。

噛み切ってしまいそうなほど強く。

今にも血が滲みそうだ。

ホワイトは耳元で優しく囁いた。

『大丈夫ですよ。

私は死なないし、陛下を殺めたりもしません。

上手く行きます。まかせて下さい。』

胸を叩かんばかりに言ったが、全くその自信は無かった。

その時『総員、警戒態勢を維持せよ』と何度か繰り返した後

ピタリと警報音とともに放送が止んだ。

『ドクターを呼びますか?』ホワイトは訊ねた。

シアンは首を振った。

彼の目には涙が溜まっていた。

それを見てホワイトの胸に硬いしこりが上がって来た。

シアンが苦しむのを見るのはつらい。



彼は思った。

アレクの御世である限りは、ドブ鼠のようにこそこそと

皆で命を繋いで行く、そのことしか考えていなかった。

宮廷で何が待ち受けているのだろうか?

アレクとサシで戦うということか?

ホワイトは腕に自信がないわけではない。

手にする武器によってはアレクを殺せるかもしれない。

それはあくまでもサシという条件であればこそだ。


そして、悩ましくもさらに考えた。

自分が死ぬのは良いとして

ドールの主であるアレクが死ぬなら、

シアンはどうなってしまうのか?

シアンのプログラムはどうなっているのだろうか?

他のドールの話しで、そいつは狂ったという噂は

聞いたことがある。

"機能停止"だったかもしれない。

そしてそのドールは回収されたのだ。

もしシアンが同じようになるとして

それはアレクの本意ではあるまい。

アレクはシアンに皇帝の座を譲位するつもりだからだ。

ドールは脆い。王子はその上さらにバグだらけ。

ホワイトは強い後悔の念に襲われた。

シアンをもっと知るべきだった。

可能な限り精査すべきだったのだ。

彼が人造人間である事実に直面するのは嫌だった。

不敬に思われた。

だがそれは間違いだったのか。

『何をご覧になったのですか?』

ホワイトは訊ねた。

『お差し支えなければ教えていただけますか?』

シアンは頷いた。

『もちろんだ。

ただ僕の能力はもう狂い始めているのかもしれない。

分化を迎えたネクストは皆狂った。

僕の見るヴィジョンは正しくないのかもしれない。

今までとずいぶん違うものを見た。

見え方が違った、というべきか。

解釈に苦しんでいるんだ。』

『それでも構いませんから』とホワイトは言って、

すぐに思い直した。

『いや、止そう。もういい。いいのです、王子。

私の腹は決まっている。

殿下のヴィジョンが何であれ。

どのみちシミュレーションを繰り返す時間はない。』

『ニール!』

シアンはホワイトに抱き着いた。

『ニール、駄目だよ!』

ホワイトは頬に当たるシアンの雪色の髪の感触と、彼の体温と

甘やかな匂いとを心に刻もうと思った。

もういいのじゃないかな?

今の彼にはジョンがいる。

それにさっきシアンが言ったではないか

定められた特別な何かがあるような気がする、と。

それが運命という名であるならば、俺ごときにどれほどの力がある?

これは神仏の領域だ。

ホワイトはシアンを離した。

そして彼の乱れた衣を整えてやりながら言った。

『殿下。私は自分の気持ちが一層はっきりとしました。

私は行くべきです。

今まで私のしてきたことは卑怯者のすること。

袞竜(こんりょう)の袖に隠れて好き放題やってきた。

そろそろ男らしさを見せるべき時です。』

『卑怯だなんて、、、。誰が言ったの?』

ホワイトは肩をすくめた。

『父か、、、。あの人の言うことは聞かないで。

ずっと君は立派だった。もう二度とそんなこと言わせない。

君は僕のヴィジョンにただ従ってくれただけだ』

『ありがとうございます。

でも殿下にとってはそうでも、私自身にとっては自分が

このままではあまりに情けない。

だからヴィジョンは知らずに行こう。』

ホワイトはシアンを優しい目で見つめた。

『大丈夫。陛下も死なない。私も死なない。

ちゃんと殿下と大尉が正式に結婚できるように

取り計らってきます。私を信じて。いいですね?

そして無事戻ってきてから殿下の今のヴィジョンを

聞かせてください。』




つづく







↓次回です♪
第百三十八段~秘め事~







『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表


からどうぞ♪




ウィリアム・フォン、馮紹峰、フォン・シャオフォン、ペン・シャオペン William Feng 以上全部同じ人(笑)

『三蔵、妊娠したってよ』シリーズ早見表ってことでヨロシク♪

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Last updated  2017.09.17 18:05:24


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