美しき月の夜に

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2006.09.20
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     200×年7月27日 金曜日 午後5時


……どうして、寄りによってこんな嵐の日に、頼まれごとなんか

   しちゃったんだろう。


しかも、携帯電話を事務所に忘れた。佳奈は、公衆電話の前で、ずっと話中の

受話器に向かって、苛立っていた。


……きっと、また社長が、長話しているんだわ。


携帯を取りに戻れば、涼子との待ち合わせの時刻に遅れる。

せめて、携帯が本当に事務所にあるかどうか確認したかった。佳奈が事務所を出た

時点では、木谷は外出していたが、帰ってきたばかりの中澤が、佳奈を見送ってく

れたから、まだ居るはずだった。木谷も、間もなく戻ったのだろう。



衆電話から、事務所に何度も電話を掛けながら、木谷の首を絞めてやりたいと本気

で思った。







事務所の前からタクシーを使って、ここまで来たまでは、良かった。

体育館の門前でタクシーを降りると、この台風では傘なんて、何の役にもたたず、

関係者出入口に辿り着くまでの5分間に、頭からバケツの水を被ったような有り様

だった。ジーンズの下まで通しているのではないかと、思う程びしょ濡れだ。

体育館の守衛にも、同情を通り越し「この天気に物好きだ」と言わんばかりの目で

見られた。

ここ代々木第一体育館では、翌日の人気ロック歌手のコンサートを控え、ゲネプロ

という本番そっくりのリハーサルが行われていたので、追っかけの女の子が、出演

アーティスト会いたさにやって来た、とでも思ったのか。



連絡を取ってくれた。

バスドラムやベースの低音がお腹に響き、時折、派手な旋律のギターやキーボード

の高音と混じって、スネアの音が頭に響く。

しばらくすると、黒いスタッフTシャツを着た、若い男の子が現れた。


「お疲れ様でーす。これ、渡しておきまーす。失礼しまーす。」




通り、封筒を受取ると、さっさと走って行ってしまった。


……なにあれ。本当に失礼だわ。この状態見てあれだけ?


こうして、ずぶ濡れになった割りには、あっさりと用事は済んだ。


「だいたい出演者じゃないんだったら、本人が受け取りに来て、

 労いの言葉ぐらい、言うべきでしょう?」


木谷の彼女が、ここでどんな仕事をしているのか知らないが、こんなに苦労して

やって来たにも関わらず、当の本人に直接会えないことが、妙に腹立たしかった。







ゲネプロが終わったのか、ロックの音が止むと、体育館の分厚いガラス張りの扉に

突き刺すような勢いで降る、激しい横殴りの雨音がよくわかる。

事務所への電話は諦め、携帯に掛けてみたが、3コールで留守電に切り替わった。

自分が、そう設定しているのだから無理もない。

佳奈は、溜息をついた。

扉の向こう側には、またバケツの水が何杯も待っているかと思うと、ものすごく

憂鬱だった。涼子の番号さえ、携帯がないとわからない。

今日はこのまま渋谷駅で涼子を拾い、恵比寿の佳奈のマンションまでタクシーで

直行しようと考えていたが、扉から見える門の向こうは、タクシーがそう簡単には

捉らないと、小学生でもわかりそうだ。

渋谷駅までは、普通なら歩いて行ったって、15分程度の距離だ。

だが、今日はこの嵐が、それを躊躇させる。

しばらく佳奈は雨の様子を伺っていたが、ここは覚悟を決めて行くしかないと、重い

足を引きずって扉に手を掛けた。


「どこまで行くの?」


よく響き渡る声に振り向くと、黒いTシャツとジーンズに、白い麻のジャケットを

羽織った男が、佳奈の方に向かって、歩いて来た。

見たことがあるような気がするが、うっすらと無精に見えるよう丹念に気を遣って

いそうな髭にも、黒いサングラスの奥の眼差しにも、心当たりがなかった。


「KIYAプロの井上さんでしょ。木谷さんから、ほら、受け取ったから」


男はそう言うと、確かに先程、佳奈が若い失礼な男の子に渡した「あゆちゃん」

宛ての水色の封筒を、肩の高さで揺らして見せた。


「終わったからさ、送るよ」

「あの、あゆちゃんて……」

「ああ、俺、俺」

「てっきり女性だと……」

「よくね、間違われるんだよ。この業界、人の名前に

 なんでも”ちゃん”つけるから」


そう言えば、木谷は佳奈のことも「いのちゃん」と呼ぶ。


……神様っているもんよね。


この際、それが本当に木谷の彼女であれ、彼氏であれ、佳奈にはどうでもよかった。

とにかく、この台風の中、タクシーが捉るまで外で待つか、渋谷まで歩くか、という

究極の選択から、間逃れることが出来たのだ。


「助かります。渋谷までお願いしてもいいですか?」

「悪いけどさ、これケツに敷いてくれる?」


あゆちゃんは、手に持っていた黒いタオルを投げた。


「……?」

「シートが汚れるから」


佳奈があっけに取られていると、あゆちゃんは踵を返し、体育館の地下駐車場に

向かって、歩いて行った。

30代だろうか。この男も先程の10代の男の子に負けないくらい、失礼なヤツだ

と佳奈は思いながら、その男の後に続いた。


「出来れば、渋谷でひとり拾って恵比寿まで行って欲しいんですけど」

「別にいいよ、このあと暇だから。そんなんじゃ、電車に乗れないか」


佳奈は、笑う無精髭を見て「神様と思うのは、辞めよう」と心に誓った。










     同日、同時刻、KIYAプロ


中澤は、佳奈の携帯を前に、腕を組んで考え込んでいた。

佳奈が出掛けて、しばらくすると「宝田優美の姉の佐々木」という人から半狂乱で

事務所に「宝田優美はいますか」と電話が入り、なんでもお嬢さんが大怪我をして

救急車で運ばれたとかで、大至急、連絡を取りたいと言う。

「宝田優美?」

中澤は不信に思い、事情を聞くと佳奈の友人で、今日はこの事務所にいるはずだと

言う。優美本人の携帯が繋がらず、わざわざ104で調べて、この電話に掛けて来

たと、もう、半ベソ状態だ。

「自分は留守番だから、よくわからない」と、とっさに大人の対応をしてみた。

聞かれるがまま、佳奈の携帯の電話番号を教え、腑に落ちないまま受話器を置いた。


……よくわかんないけど、これって、なんだかヤバクナイ?


あまり深く考えるのは辞めて、佳奈の携帯に電話を掛けようとすると、今度は、肝心

の佳奈の携帯が、ちらかった机の上で雑誌に埋もれて、何度も鳴った。

中澤は、佳奈が代々木体育館に行って、そのまま涼子と会うと、この間、言っていた

ことを思い出した。

が、涼子の連絡先は知らない。

が、目の前にある、佳奈の携帯電話には、涼子の連絡先が入っているはずだった。


……いくらなんでも、人の携帯見ちゃ、ヤバクナイ?


じりじりと時間だけが過ぎていく。このまま佳奈が涼子に会ってどこか、携帯の繋が

らない地下の店にでも入ったら、アウトだ。

こんなことなら、この間、涼子に会った時に携帯の番号を聞いておくのだったと、舌打

ちしたが、後の祭りだ。


……だけど、それ以上に、この状況、もっとヤバクナイ?


中澤は散々悩んだ末、佳奈の携帯を手にアドレス帳を検索し始めた。





…… See you next time!







無事、旦那の両親の接待は完了(^-^)
そのお話は後日、ブレイクタイムで報告しますね♪
まずはこちらが先ですよね~(^ ^;)

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Last updated  2006.09.21 03:41:17
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