美しき月の夜に

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2006.10.02
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台風は、それが通り過ぎてみないと、被害の大きさは判らない。

その、     深刻さも。

関東地方の太平洋側をすり抜け、宮城沖で熱帯低気圧となった、台風1号の場合

は、どうであろうか。

家屋の浸水、農作物への被害、積んであった荷物が水浸しになって、二度と利用

することが出来ないなど、今夜の台風がもたらした影響は、各方面にて、これから

調査され、明らかになるだろう。

幸いにも、死者や行方不明者が出た、といったニュースは、今のところ聞かない。

少なくとも、中澤の車のラジオから流れるニュースでは、そんな報道はなかった。


……里奈ちゃんの事故は、災害事故?

   それとも、人災って呼ぶのかなぁ。


中澤から、佳奈と共に、佳奈の恵比寿のマンションに送り届けられた涼子は、

貰ってきた薬を佳奈に与え、タオルを探しながら、そんなことを考えていた。

中澤は、佳奈と涼子を車から降ろすと、佳奈の22階の部屋の前までは、一緒

に来てくれたが、当然のように帰って行った。

中澤は病院を出てから、車の中でも、今夜のことは、一切口にしなかった。


……あんな光景を目の当たりにして、中澤君は、一体どう思っただろう。


佳奈は、家に着くとホッとしたのか、具合の悪さを隠さなかった。


「ごめん、涼子。横にならせてもらうね。適当にくつろいで......」


涼子にそう断ると、湿った服からパジャマに着替え、すぐにベッドに入った。

今夜は元々、佳奈の家に泊まる約束だったが、当の佳奈の具合が悪い時に、

そんな問いかけをする訳にもいかない。ある意味、佳奈こそ、今回の台風の、

一番の被害者なのかもしれない。

涼子は、氷枕を買ってくれば良かったと後悔しながら、冷凍庫から保冷剤を

見つけ、探し出したタオルで包むと、佳奈の頭を抱え、氷枕代わりに枕へ置

いた。

佳奈は、熱のせいか、薬が効いたのか、あっという間に眠りに就いていた。


……かわいそうに。佳奈が寝込むなんて何年ぶりだろう。

   もっと早く     、せめて、待ち合わせをしていた喫茶店で、

   最初に疲れた表情を見た時、気付いてあげれば良かった。


だけど、今思えば、あの時は、それどころではなかったのだ。

涼子は、佳奈に申し訳なく思いながらも、こんな日に、誰とも話せないことを

苦痛に思った。


……なんだったんだろう。


夕方5時から、ほんの1、2時間の間に目まぐるしく、いろんなことがあり過ぎた。

今、やっと落ち着いてみると、全て絵空事のようだ。

あの宝田さんが、優美を殴るなんて信じられなかった。いつも静かに微笑んで

いて、大人で。マスコミ等で取り上げられていても、浮かれてる様子はないし、

理知的で、もっと穏やかな人だと思っていた。

少なくとも感情任せに暴力を振るうような人では、絶対にないと思っていた。

宝田さんに直接会うのは、2年ぶり位だが、優美は、理想的な結婚生活を送り

幸せなんだとばかり思っていたのに。


……いくら理想的な結婚をしても、幸せになるとは、限らないのね。

優美に一番最近会ったのは、ゴールデンウィーク明けの週だった。

里奈ちゃんの教室の合間に、涼子の会社の近くでランチを共にした。

以前より会って話す頻度は減ったが、優美は連休中に家族でハワイに行って

来たとかで、お土産を持って、わざわざ会社の近くまで足を運んでくれたのだ。

昔に比べて、男がらみの話題こそ無くなったが、それでも、涼子の恋愛観や

結婚観など、もう、結婚している優美にはあまり関係ないかもしれない話を

親身になってアドバイスしてくれるし、コスメの話に至っては、OLの涼子や、

会社の同僚なんかより、数倍詳しかった。

さすがに、社長婦人だけあって、エステやネイルサロンなんかにも、よく行く

らしく、女っぷりが上がったように感じた。外見だけではなく、幸せな結婚が

より優美を輝かせているのだろうと、その時も思ったのだ。

どんな事情があって、今日、里奈ちゃんをお義姉さんに預けたのかは、わから

なかったが、佳奈の事務所に行くと嘘を言うのは、決して好ましいことではない。

家族に嘘を言わなければならない、環境は決して幸せだとは思えなかった。


……やっぱり、里奈ちゃんの事故は、人災なのよ。


里奈の怪我も心配だが、宝田と優美の夫婦関係もいくら、突飛な事故とは言え、

あの様子だと、何やら雲行きが怪しい。結婚したら、したで、抱える悩みを優美

は、誰にも言えずにいたのかもしれない。

そう言えば、優美には、たまにしか会わないのに、最近は一方的に結婚式につ

いての相談ばかりしていたように思う。優美は既婚者でもあり、母親でもある。

片や、これから結婚を控えている身だ。涼子はそれを当然のことのように思って

いたが、それだけに、今夜のことは、とても衝撃的だった。

……あの時、あんな言い方しちゃったけど、

   もっと、優美の身になってあげなきゃ、いけなかったのかな。 

里奈の様子も気になるし、落ち着いたらお見舞い方々、今日のことを謝り、

「優美の話も聞いてあげなくちゃ」と、佳奈の寝顔を見つつ、涼子は心に決めた。


佳奈のおでこに手を当てると、病院で倒れた時に比べて、ずいぶん熱が下がった

ように思う。涼子は、体温計がないだろうかと思い立つと、また家捜しを始めた。

友達とはいえ、こんな風に家捜しするのは、プライベートな部分を、覗き見るようで

気が引けたが、今夜はやむを得ないと思った。

佳奈は、男っぽい性格の割りに、几帳面で、引き出しの中など、きちんと整理が

行き届いていた。涼子は、改めて「佳奈を見習わなくちゃ」と思った。


……常に整理整頓は、しておくものなのよね。


こんな時に関心する自分も妙だと失笑したが、人間、いつ何が起きるか、わから

ないのだから。

いつ何が起きるか、わからないと言えば、今夜、特筆すべきは、やはり啓太との

突然の再会だった。


……一体、どんな偶然だって、言うのよ。


あれほど、啓太のことで悩んでいて、会いたくて仕方ない時には現れず、結婚が

決まり、ほんのちょっとだけ不安を感じ、戸惑い始めたその隙に、現れた。

ついこの間、"ボイス"での「リハビリ」が済んだばかりだという、このタイミングで

会うことになるとは、夢にも思わなかった。

再会することがあるとしたら、それは自分が幸せな時じゃなければ、嫌だった。

幸せになったら、逆に、こちらから幸せ自慢をしがてら、様子を伺いに行ってや

るぐらいに、以前はよく思ったものだ。最近はそんなこと、考えもしなかった。

涼子は、体温計を見つけると、佳奈の脇にそっと挟んだ。

今夜、佳奈の診察が終わると、中澤が「僕が送りますよ」と言ってくれたので、

啓太は「じゃあね」と姿を消した。

何か、引き止めたいような、ホッとしたようなこれもまた、涼子にはとても複雑

な思いだったが、却って良かったのかもしれない。二人にされたら、それこそ、

何をどう切り出していいのか、わからない。

4年という歳月は、思い出話をするには近過ぎるし、近況報告をし合うには、少

し遠い時間だった。


……37度8分。平熱とは言えないけど、徹夜で看病する程でもないか。


佳奈の熱は、下がりつつあった。明日は休みだが、このままここに居ても仕方

ないように思え、保冷剤を差し替えると、涼子は佳奈の部屋を出た。


涼子がタクシーから降りると、80メートル先の、自宅マンションの入り口付近に、

見覚えのある、紺色のゴルフが止まっていた。

……まさか。 

少し歩くと、その車の運転席側のドアが開き、白いジャケットの男が近寄ってくる。

……やっぱり、啓太。

涼子は一瞬、足を止めた。啓太はあの後ここまで来て、いつ帰宅するかも、わから

ない、私を待っていたというのか。予定通り、佳奈の家に泊まっていたとすれば、

今夜は帰らないはずだった。とにかく、まさか、ここに啓太が来るとは、思いもよらな

かった。

軽く溜息をつき、啓太に歩み寄る。


「やらせてよ」

「……」

……はぁ?

涼子は、耳を疑った。

これが、4年ぶりにまともに顔を合わせた、元恋人に対しての、啓太の挨拶なの?

昨日の今日、会う恋人同士じゃあるまいし、今時、痴漢だって、もう少し、マシな

言い方をするだろう。

台風の被害、それは、何も、目に見えるものだけとは限らない。

気が付くと、思わぬところに、爪後が残っていることも、ある。
















...... See you next time!





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Last updated  2006.10.02 10:43:11
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