美しき月の夜に

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2006.10.23
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中澤は、何でこんなことやっているんだろうと思いつつ、床に腹ばいになって、

新商品の携帯電話を、等間隔に並べていた。

今秋発売予定の、薄型携帯電話の新商品のポスターに、1000台の携帯電話を

ドミノ倒しのピースに見立て「犬の尻尾が触れて、倒れ始める」というコンテが

上がって来たと聞いた時から、ちょっとどころか、かなり嫌な予感はしていたが、

案の定、自分がこのピースを、並べるという作業を手伝う羽目になった。


「そこ、もうちょっと右向き!」


佳奈が、カメラの向こうで指示を出す。


「先輩、そこじゃ、わかんないっすよ」




見ると15台位前に置いた、クリーム色の携帯の向きが、ほんの5ミリ程ズレている。

それを置き直せば、また、その後に並べた分も、やり直さなければならない。


「先輩、ファンダーばっか、覗いてないで、手伝って下さいよぉ!」


メーカーも、この新商品には力を入れてるらしく、2世帯同居の家族が全員で持てる

よう、カラーもライトな色合いで10種類と豊富だし、綺麗にグラデーションしている。

確かに、商品の軽さと薄さ、そして発色の美しさを強調するには、いいアイデアだとは

思う。だが、言うは安しだ。中澤と佳奈は、夕方から何度も、この携帯電話を並べては

確認して、犬の機嫌をとり、撮影という、気が遠くなるような作業を、行っていた。

午前中に撮影を開始した頃は、携帯電話を並べるアルバイトが何人もいて、中澤も

他の現場で別の仕事をしていた。

アルバイトの拘束時間が過ぎ、ディレクターや、スポンサーなどの見物人も帰って行く



スタジオにやってくると、佳奈が一人で、携帯電話を並べては、レンズで確認するとい

う一連の動作を、飽きずに繰り返していた。


……ドミノ倒しと、犬と、井上先輩だぞ。すんなり終わる訳、ないじゃん。








皮のリードで繋がれ腹ばいになっている、ゴールデンレトリバーのマロンは、退屈

そうに、カメラの前から離れた佳奈に、目を向けた。





佳奈が財布から、千円札を数枚テーブルに置き、コーヒーメーカーの方に歩いて行く。

マロンは、そんな佳奈の行動を目で追っていた。


「そんなことやってたら、12時回っちゃいますよ。 並べるの、

 あと50個位だから、それだけでも、やっちゃいましょうよ」


中澤は、そのマロンと同じような姿勢で、佳奈に答えた。


「もう、今日中には終わらないわ。休憩しよう」


中澤は、ドミノに触れないよう、そおっと立ち上がると、佳奈の方に歩み寄る。


「でも先輩、病み上がりだし……」

「仕事だもん、大丈夫よ。あ、この子にも、何か買ってきてあげて」


佳奈は、マロンの頭を撫でながら、テーブルの椅子に座った。撫でられたマロンは

起き上がると、嬉しそうに尻尾を振っていた。


「おまえ、今みたいに、もう少しタイミング良く、尻尾振ってくれよ」


中澤が軽くマロンの頭を押さえると、低い声でワンと唸ったので中澤は一瞬、

後ずさりした。


「なんだ、こいつぅ」

「やだ、この子、今日始めて吠えた」


マロンが中澤に向かってリードいっぱいに、歩み寄り喉を鳴らし始めた。

どうやら相性が悪いらしい。


「ムカツクゥ!こんなに、苦労してやってるのに、恩知らずめ」


中澤がマロンに向かって言うと、今度は大きな声で吠えた。


「犬って、自分のこと嫌いな人が、わかるって言うじゃない」


佳奈が笑いながら「マロン」と呼ぶと、マロンは、得意気に大きく尻尾を一振りし

佳奈の足元まで数歩、歩いて行き、お座りをした。


「おまえの分、買って来ないぞぉ」

「お、やってるね」


と、いつの間にか、木谷が明治屋の紙袋を抱え、携帯電話で描かれた壮大な

ドミノを見渡していた。


「社長、来てくれたんですか?」


思わず、中澤と佳奈はニヤリと視線を合わせた。


「先輩、いい助っ人が、ひとり増えましたよ」







マロンは、品定めでもするように鼻を動かしながら、木谷の動きをじっと見つめ

ている。


「いやあ、やっと開放されたよぉ。今日のクライアントは、しつこかったなぁ」


木谷が「凄いなぁ」などと感心しつつ、ふらふらとドミノに近付く。


「社長!気をつけて下さいよ!それ、2時間は掛かるんですから!」

「わかってますよぉだ」


毒付く中澤に、木谷は、何だか調子がいい。こちらに歩いてくると、佳奈が感じ

るより、マロンが吠える方が早かった。しかも3連呼で。


「社長、もしかして……」

「あ、酒くせぇ」


中澤も、ようやく木谷のそれに気付いた。


「なんだよ、折角差し入れに来たのに、中澤には、やらないぞぉ」


木谷は、そう言うとテーブルの上に、カップ焼きそばと、魚肉ソーセージ、紙皿に、

シュークリームに、チョコレートという脈略のない代物を並べ出した。

さすがは、酔っ払いだ。


「これ、探すのに苦労したんだよ」


そう言うと、マロンのリードを外し、ドックフードの缶を開け紙皿に移してマロンに

差し出す。マロンは、先程までの警戒が嘘のように「角切りビーフ」と書かれた

ご馳走に、一瞬にして虜になっていた。


「ああ、いのちゃん、あゆちゃんとは長いつき合いなんだって?

 さっき、バッタリ会ってさぁ」


木谷は、椅子に座り、魚肉ソーセージの封を口で器用に裂きながら、言い出した。

ポットの「沸騰」というボタンを押すと、佳奈は苦笑した。


「ああ、長いつき合いって言うか……」


……そうそう、アイツ、先輩と、どういう関係?


「何?結婚とかするつもり?」


……うわ、いきなり核心?!


中澤は、慌ててカップ焼きそばのパッケージを開け始めた。


「まさか!そんな訳ないじゃないですか!友達の……」

「あ!」


木谷の魚肉ソーセージが床に落ち、マロンがそれに気付いて咄嗟に咥えた。


「こらっ!それ、俺んだぞぉ」


木谷が椅子をテーブルの足にぶつけながら派手に立ち上がると、マロンは殺気を

感じたのか、一目散に非難した。


「あっ!」


が、佳奈が声を上げる。

中澤は、するどい反射神経でマロンを追いかける。


「セーフ!」


と、マロンを取り押さえた反動で中澤が倒れ、仰向けになった。やっと、遊んで

くれる思ったのか、マロンは中澤の顔を、大きな舌でベロリと舐める。


「わあっ、辞めろよぉ!」


中澤が、身を交わしていると、背面で、携帯ドミノがパタパタと音を立て、綺麗に

ラインを描きながら、あっと言う間に倒れて行く。中澤の手が触れてしまったのだ。

佳奈の悲鳴より、「あーあ。畜生!」と、ぼやく中澤の声の方が大きい。


    ドミノのピースは、果たして携帯電話だけ……かな?!















...... See you next time! ......





いつも読んでいただいてありがとう♪
重い話が続きました。
今回は軽~く、流して下さい(笑)


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Last updated  2009.08.28 13:53:22
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