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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2013/04/30
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カテゴリ: うふふ日記
  ゴールデンウィーク。
 このことばを耳にすると、反射的に足が踏ん張るかたちになる。どうやら、ふだん通りでいようという踏ん張りらしい。この説明だと、足のせいのように聞こえそうだが、足はただ、わたしというひとを代表して踏ん張るのだ。
 ひねくれ者にありそうなことだし、そしてたしかにそれはわたしのことなのだけれど、踏ん張らせるものはひねくれだけではない。わたしは、「ふだん」の道から逸れたあと、もとにもどる手間を惜しんでいるのである。
 「ふだん」の道から逸れることを、仮に「旅」と名づけよう。
 「旅」からもどったあとの始末や、留守宅のあれやこれやの手間。それは、まあ、いい。大洗濯くらい、からっぽになった冷蔵庫(たいてい旅の前には、冷蔵庫をからっぽにする)の補充くらい、たまった郵便の整理やメールの返信くらい、四の五の云わずにしようじゃないか、と思う。
 いちばんの手間はそういうことではなくて、気分の立て直しなのだもの。

  家を空けるとなると、それがたった1日でも、それなりに仕舞いの支度をしなくてはならない。そっと、無事にまたここへもどってこられますようにと祈りながら、もどったときの自分たちを想像しながらせっせと働く。
 ところが。ひとたび家を出ると、出るなりこころは旅仕様になって飛ぶ。ふわり。
 この場面転換の大きさには、いつもわれながら驚かされる。

 そんなふうなわけで、もどってきたって、ふわりの気分はなかなかもとにもどらない。しばらく、何とはなしにふわり、ふわりだ。ふわりは、「そんなこと、もうどうでもいいや」という気分に近いものがある。仕事や用事にとりかかるにふさわしい気分とは、とても云えない。

 ほんとうは、たまにふわりとするのなんかは、精神衛生上よさそうだという考えも浮かぶ。ふだんのなか、いつしか縮こまった神経をのばす働きもするだろう。それがわかっていても、このふわりを相手に「ふだん」にもどる手間を想像すると……、しんどいこともある(のよ)。

 そしてことしもゴールデンウィークがやってきた。
 「もうじきゴールデンウィークです」というラジオの声も聞かなかったことにし、「ゴールデンウィーク」という新聞の見出しも見なかったことにするという踏ん張り具合だ。 
  きょう、その第一日め。
 わたしはふだん通りだ。
 晴天だったので、いつもの洗濯のほかに、朝、マフラーと手袋の洗濯をする。庭いっぱいにマフラーと手袋を干すと、満艦飾の冬の旗だ。
 急ぎ、徒(かち)にて市内の◯□中学校へ向かい、公開授業参観をする。
 最初に入った理科室で「古生代・中生代・新生代」の授業が行われている(中2)。学生たちがグループに分かれて「化石を割る」場面を夢中になって覗き、さらには男子学生が割った石からカゲロウの幼虫とおぼしきかたちが、常緑樹の葉っぱらしきものが出てくるや、またまた夢中になって、はっと気がついたときには30分以上が経過していた。
 ———まんべんなくたくさんの授業を見るつもりだったのに。まったく、わたしったらさ。

 晩ごはんに、二女が焼飯と、残り野菜を使ったスープとサラダをつくってくれた。焼飯はこのひとの十八番(おはこ)。少しずつ得意料理をふやしていっておくれね、と思いながら(こういうことは、ことばにしないのにかぎる)、食べる。

 二女が晩ごはんをつくってくれているあいだ、ふと飴がほしくなった。夫が大事にしている黒砂糖の飴を失敬し、包みを解いて口に入れた。
 ———さ、練習だ。
 という気持ちになっている。
 こういうものを口に入れると、わたしはすぐとガリガリと噛み砕いて、あっという間に喉から胃方面へ送りこんでしまうからだ。きょうというきょうは、ゆっくりゆっくり、最後のかけらが舌の上で自然に溶けてゆく、そんなふうになだらかになめよう。練習だ、練習だ。はじめのはうまくゆかなくて、ついカリッとやってしまった。2個めはいいところまでいったのに、また噛んだ。3個め、やっとうまくいった。  

 そう思うと、胸がいっぱいになる。

 休む前、友だちにはがきを書く。
「ゴールデンウィークがはじまりましたね。わたしは飴をなめる練習をしました」



ブログ金柑酒.jpg

その前に……、
瓶のなかに陣取っていた梅酒を漬けたあとの梅の実で、
ジャムをつくりました(二女製)。
わたしの「ふだん」には、こんないいこともあるんです。
これだって手間にはちがいないけれど、
こういう手間をわたしは愛しています。





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最終更新日  2013/04/30 09:53:44 AM
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