Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2005/07/09
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カテゴリ: BAR
 60年代は、日本でウイスキーというものが大衆化した時代だった。高度成長期の入り口に差しかかった頃、S社のトリス・バー展開の効果もあって、サラリーマンが会社帰りに、BARという場所に立ち寄り、ハイボールや水割りなるものをよく口にするようになった。KIMURA

 それでも、サラリーマンが飲んでいたのは、S社の角瓶や白札(ホワイト)、トリスなどが主だった。日本国内では「舶来もん」のスコッチ・ウイスキーは高嶺の花。普通のBARで見かけることはほとんどなかった。

 当時、比較的よく流通していたのは、ジョニー・ウォーカーの赤・黒、シーバス・リーガル、オールド・パー、バランタイン、ホワイトラベル、J&Bくらい。しかもジョニ赤で7千円前後、黒に至っては1万円以上した時代だった。モルト・ウイスキーに至っては、BARではグレンフィディックか、グレンリベット、マッカランくらいしか置いていなかっただろう(個人的には、当時、「フィディック」しか見たことがなかった)。Guide Book on Scotch Whisky

 そんな60年代の初め(62年)、大阪キタに、「Stag Bar Kimura」という1軒のBARがオープンした( 写真左上 =「Kimura」の玄関プレート。いつも美しく磨きあげられて金色に輝いている)。

 スコッチ・ウイスキーに魅せられたマスターのKさんは、ほとんどの日本人が国産ウイスキーしか飲まなかった時代に、わざわざ個人でスコットランドまで行き、珍しいウイスキーを直接買い付けたりしてきたパイオニアだ。自ら写真も撮って、「洋酒ガイド」を自費出版( 写真右上 =60~70年代の懐かしい、珍しいボトルが数多く紹介されている)するほど、ウイスキーを愛してやまなかった。Stag Bar Kimura

 Kさんのそんな志向を知ってか、輸入しても売れないモルト・ウイスキーの在庫を抱えて困っていた酒の代理店は、Kさんに泣きついて、在庫を引き取ってもらったりすることも多かった。気のいいKさんは断れずに、しばしば商売度外視で買い取ったという。

 「Kimura」の自慢は、10m近い長~いカウンターと、その正面、約500本ものボトルが、4段のひな棚に並ぶ圧巻のバック・バーだ( 写真左中 Vintage Whisky of Bar Kimura

 昔、泣く泣く買わされたモルト・ウイスキーの数々は店の「財産」になり、歳月を経て、店の「顔」(ウリ)にもなった。気が向けば時々、モルト好きの常連のために封を切ってきた。

 そんな「財産」も今ではだいぶん残り少なくなってきた。でも、本人は気にしている様子もない。「酒なんて、飲んでなんぼですから…」と( 写真右下 =カウンターの背中側のキャビネットには、オールド・ボトルが並ぶが、一応非売品です)。

 実は、Kさんの苗字は「Kimura」ではない。このBARはもともと東証1部にも上場している「木村化工機」という会社の、役員専用の会員制BARだった。そのBARが廃止になることが決まり、Kさんが買い受けたのがオープンのきっかけ。

 しかし、KさんはBARの名前は変えずに、そのままにした。「長年親しまれた名前だし、そのままにしていた方が、前のオーナー会社の関係者もまた飲みに来てくれかもしれないと思って…」( 写真左下 =Stag Bar Kimura玄関へのアプローチ。赤レンガタイルの壁、アーチ形の天井が素敵だ)。Entrance of Bar Kimura

 誰が付けたか知らないが、関西のBAR業界では、Kさんは敬意を込めて、「ウイスキー博士」と呼ばれる。普段は口数少なく、静かなKさんだが、ウイスキーの話になると、突然、目が輝いて話は止まらなくなる。客の初歩的な質問にも何でも優しく答えてくれるので、嬉しい限り。

 ちなみに。「Stag Bar」とは「野郎たちのためのBar」という意味の俗語(前の会社の会員制時代から「Stag Bar」という言葉が頭に付いていたのかは聞き忘れたが…)。もちろん、今も昔も、「ウイスキー好きの女性も大歓迎です」とKさん。

 今年で44年目になるという「Kimura」には、一時のはやりに流されない、時間と空間がある。時代とともに「変わるもの」もあっていい。しかし、頑固に「変わらぬもの」もあってほしい。何もないシンプルなカウンターで、ウイスキーを煤(すす)っていると、改めてそう感じる。

【Stag Bar KIMURA】 大阪市北区曽根崎新地1-6-21 イトヤビルB1F 電話06-6345-3650 5時~11時 日・祝休(新地にしては、とてもリーズナブル、良心的なお値段です)。





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Last updated  2005/07/09 01:45:05 PM コメント(7) | コメントを書く


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うらんかんろ

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Comments

汪(ワン) @ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。 ▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。
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