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最近「マイ・ブーム」という和製英語?を聞かなくなりましたが、亭主のこのところのマイ・ブームはベルダーによるD.スカルラッティ・ソナタの全曲録音CDです。
ロスの録音に比べてベルダーのそれが持つ特徴は多々ありますが、その中でも目につく点として演奏に用いた楽器の多彩さがあります。ロスの演奏が三種類程度の楽器(主にイタリアンとフレンチ)を使って行われ たのに対し、ベルダーは全部で十二台の楽器を用いており、中でも特筆すべき点の一つとして三十曲程度についてはフォルテピアノを用いてい ます。なお、最も多く用いられたのは二台のイタリアン・モデル(ジウスチ=17世紀後半ルッカの製作者)で全体の半分弱を占め、その次にフレミッシュ(リュッカース)とジャーマン(ミートケ)がそれぞれ二割程度、残りをフレンチ、スパニッシュのハープシコードおよびフォルテピアノ(フェリーニ)で録音しています。
ところで、スカルラッティのソナタを演奏する際に問題になることとして、楽器の持つ音域があります。そもそもピアノと違って、ハープシコードには世界標準というものがなく(そのようなものが出来る前にアンシャン・レジームとともに一旦絶滅しました)、イタリアン、フレミッシュ、ジャーマン等々、17-18世紀にヨーロッパ各地で作られていた楽器がほぼそのまま複製されて演奏に供されることが多いのですが、オリジナルの楽器はほとんどが4オクターブから4オクターブ半程度の音域しかなく、多少音域を拡張するにしても5オクターブを超えることはまずありません。(ちなみに、この事情は18世紀のフォルテピアノについても同じようです。)ところが、スカルラッティのソナタ、特にカークパトリック番号で後ろの方のそれはフルに5オクターブ、最大でFF-g 3 (5オク ターブ+1=62[or 63]音、K. 485)という広い音域を必要するので、こういった楽器では演奏不能(あるいは演奏に際して一部曲に手を加えて音域を狭める)ということになります。(実際、このK. 485というソナタは数ある名曲の一つでもあり、この問題は小さくありません。)亭主の見るところ、スカルラッティのソナタがあまり演奏会で取り上げられない理由の一つにこの音域問題があるのではないか、とにらんでいるほどです。
ベルダーの録音では、この最大音域をカバーする楽器としてイタリアン・モデル(ジウスチ)が用いられています。それも、通常なら精々5オクターブまでの拡張モデル (FF-f 3 )しかないところを、多分この録音用に特別 にg 3 まで届くような楽器をあつらえたのではないかと想像されます。
ただ、この選択は亭主にはやや不満が残るところで、どうせなら「スパニッシュ・モデル」で最大音域をカバーする楽器を用意して欲しかったナァ、と思います。というのもカークパトリックによれば、バルバラ王妃が持っていた十二台のうち、61鍵の音域を持っていた三台はいずれもスペイン製の楽器であることが分かっているからで、K. 485をはじめとした多数のソナタがこのような楽器を念頭において作曲されたと思われるからです。ちなみに、ベルダーの録音で用いられている「after Iberian examples」とある楽器は独特の明るい音色を持っていて、亭主のお気に入りです。けれども、それにも増して素晴らしいのがリュッカースの音色。これは亭主が今まで聴いたハープシコード の中でも最高の音色といってよいでしょう。(あー、こういう楽器を毎日弾いてみたい!)とはいえ、スカルラッティやバルバラ王妃が実際に弾いていた楽器がどんな音色だったのかは永遠の謎で、勝手に想像するしかないのでしょう...
というわけで、スコット・ロスの全曲録音をお持ちの方も、このベルダーの録音は必聴モノです。
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