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今日最後にお届けするのは、アレッサンドロの鍵盤作品の中でもその長大さと演奏技術の高さ、そして一度聞いたら忘れられない表現の力強さにおいて抜きん出た作品、「トッカータ・ペル・チェンバロ・ドオッターバ・ステサ」です。この表題については少々説明が必要です。直訳すれば「拡張されたオクターブのチェンバロのためのトッカータ」となりますが、これでは何のことやら分かりませんね。説明しましょう。当時のチェンバロ には最低音域であまり用いられない半音のキーを省くことで、見かけ上のキーと音名がずれているものがありました。例えばEのキーのように見える 最低音が実際はEより長3度低いCの音であるような鍵盤配列の楽器です。このような最低音域の鍵盤配列法をショート・オクターブと言います。アレッサンドロの曲名の「チェンバロ・ドオッターバ・ステサ」というのは、ショート・オクターブを拡張したすべての半音キーを備えたチェンバロということなので、表題を意訳すると「ショート・オクターブではなく全てのキーを有するチェンバロのためのトッカータ」ということになります。しかし、長いしややこしいですね。ここからは「チェンバロのためのトッカータ」と略すことにします。イェール大学図書館に収められたヒッグス写本には、このトッカータが筆写された年と思われる1723年という年号が記されていますが、いつ作曲されたのかは不明です。曲はニ短調プレストで開始されます。ラプソディックとすら呼びたくなるような アルペジオと音階和音の連打が続いたのち、バッハの半音階 幻想曲とフーガを思わせるようなレシタティブ風のアダージョ となり、ト短調、ハ短調、ヘ短調、変ロ短調と遠隔調への転調が続きます。再びプレストを経て二短調の激しいフーガとなりますが、いつしか主題は消え去り、アダージョではアルペジオから両手が交互に和音を激しく打ち鳴らし、突然の休止を迎えます。そしてフォリアによる変奏となり、第29変奏の後、フォリアの冒頭に回帰してこの長大なトッカータは閉じられます。ではお聞きください。アレッサンドロ・スカルラッティ作曲、チェンバロのためのトッカータ、演奏はチェンバロ、アンドレア・マルコンです。「この親にして息子のドメニコあり」というコメントには亭主も満腔の賛意を表したいと思います。また、藤原センセは「バッハの半音階 幻想曲とフーガを思わせるような」と、バッハの作品を比喩的に使っていますが、バッハがケーテン時代(1717-1723)には既にアレッサンドロの作品を知っていたに違いないと確信している亭主としては、この作品についても同様に知る機会があっただろうと妄想しているところです。
[YouTubeへのリンク]
アレッサンドロ・スカルラッティ作曲、チェンバロのためのトッカータ、演奏はチェンバロ、アンドレア・マルコンででした。この激しい曲を聴くと、まさにこの親にして息子のドメニコあり、と思わざるを得ません。長大な作品への偏愛を示した父親がいたからこそ、超絶技巧を誇る息子は二部形式によるコンパクトな作品を550曲あまりも作曲したのかもしれません。
アレッサンドロ・スカルラッティ(1660–1725)の《Toccata per Cembalo d'Ottava Stesa》(拡張オクターヴのチェンバロのためのトッカータ)は、彼の鍵盤楽曲の中でも最も重要かつ大規模な傑作の一つとして知られています。
この作品について判明している歴史的背景、音楽的特徴、および用語の意味を整理して解説します。
1. 基本情報と歴史的背景
作曲時期: 1723年にナポリで作曲されました。
位置づけ: アレッサンドロはオペラやカンタータの大家として有名ですが、晩年に書かれたこの作品は、息子のドメニコ・スカルラッティの斬新な様式とは異なる、バロック音楽の集大成的な厳格さと情熱を併せ持っています。
名称の由来: タイトルの「Ottava Stesa(オッターヴァ・ステーサ)」は、「拡張されたオクターヴ」を意味します。これは、当時一般的だった「ショート・オクターヴ(低音域の鍵盤配置を省略して音域を稼ぐ手法)」ではなく、低域まで半音階が揃ったフル・キーボードを想定して書かれたことを示しています。
2. 楽曲の構成
この作品は単一の楽曲ではなく、複数のセクションが連なる巨大な変奏曲付きトッカータです。演奏時間は20分〜30分に及ぶこともあります。
Preludio (Primo Tono): 重厚な導入部。
Presto: 急速で技巧的なセクション。
Adagio: 叙情的な緩徐部。
Fuga: 厳格な対位法によるフーガ。
Adagio (Appoggiato): 次の変奏曲への橋渡し。
La Follia (29 Variations): 作品のクライマックス。有名な「ラ・フォリア」の主題に基づく29の変奏曲です。
3. 音楽的特徴
ラ・フォリアの変奏: 終曲のフォリア変奏曲は特に有名です。アルカンジェロ・コレッリの有名な「ラ・フォリア」へのオマージュとも言われ、チェンバロの持てる技巧(アルペッジョ、急速な音階、交差奏法など)がこれでもかと詰め込まれています。
イタリア・バロックの極致: 自由な幻想曲風のトッカータと、数学的なフーガ、そして厳格な低音に基づく変奏曲という、バロック時代のあらゆる形式が1つの作品に凝縮されています。
技巧性: 1723年という日付からもわかる通り、鍵盤楽器の性能向上に合わせて書かれており、演奏者には非常に高い技術と持久力が要求されます。
4. 現代における評価
アレッサンドロの鍵盤作品は、長らく息子ドメニコの影に隠れていましたが、近年、古楽演奏(ピリオド楽器)の普及により、その構成力の高さが再評価されています。 特にこの「オッターヴァ・ステーサ」は、彼のチェンバロ音楽の最高到達点として、イゴール・キプニスやリナルド・アレッサンドリーニといった著名なチェンバロ奏者たちによって録音・演奏されています。
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