
人も茶畑もこの国のすべてが海を見ている
御影石が並ぶ遺跡のような丘陵地の斜面
紅色の彼岸花が揺れるその隙間を浮かぶように歩く
白衣と菅笠の老犬
男に名は無い
深く刻まれた皺の数ほど訪れたが
台場からフェリーで徳島に入るのは今回が初めてだ
ここから順打ちに八十八箇所を巡る
試練の地に入り人の数もぐっと減る
観光バスで数箇所訪れるような人々は大抵道後か讃岐に向かう
その為だけに白衣を着る姿は秋葉原のコスプレと大差ない
寺間も長く道も険しいこの地の巡礼は過酷だ
卒塔婆をスラロームのようにくるくる回る同行者が
金剛杖の鈴の音に首を傾げ後を追う
フェリーにしたのはこの為だ
人知れず生きたいのなら
なるべく人に埋もれていた方が良い
東京にいるのはただそれだけ
家族も無くただ生きながらえこの血を抹消する
記号としてだけのあの日与えられた名は
ただの「0」と「1」に崩れ落ちる
砕ける波、砂の城壁のように
墓標は海を見ている
人も茶畑もこの国のすべてが海を見ている
その墓標に名は無い
同行二人 October 18, 2006
時間と感情のグラフ dot4 October 12, 2006
時間と感情のグラフ dot3 October 6, 2006
Calendar