どう対処したらいいのか考えあぐんでいた最中に、男は、
『いろいろ有難うございました・・・』
と、腰を上げた。
『えっ・・・それで、どうするんですか?』
慌てた僕の声がかすかに上ずる。
『やっぱり・・・ひなびた田舎に行きます』
『というより、とりあえず見てきたらどうですか?
どんなものか・・・それで、もし気に入ったら、
この先どうやって田舎に住むかの道を探ったら・・・』
『・・・・・・・・』
『それで方針が決まったら一度日本に帰って準備したらどうですか?』
そう言った時、男は苦笑した。
その苦笑の裏に、その積もりはないという
意志のようなものが一瞬よぎったように見えたが、男は、
『まあ、取りあえず田舎を見てきて帰ってきたら、
また漁師に寄りますよ』
と言った。
『きっとですよ!』
『ええ、きっと。いろいろ有難うございました』
男は、深々と頭を下げて漁師を出て行った・・・。
それからゆうに一ヶ月が経ったというのに男は現れない・・・。
観光ビザはとっくに切れているはずだ。
田舎を見てきて、漁師に寄らずに日本に帰ったのであれば、
それはそれでよい。
でも、男が当初から言っていたように、
ひなびた田舎でひっそりと消えるように
暮らして生きたいというのを貫いているとしたら、
遅かれ早かれ問題となるはずだ。
とても気懸かりである・・・。
どうか、こういう男を見かけたら御一報頂けると幸いです。
緊急 尋ね人です!
日本人、男性。年齢 55 歳。
身長 170 センチ位、体格はわずかに脂肪がついている感じの中肉中背。眼鏡なし。
僕が出逢った時の風貌は、黒い革靴、灰色のよれよれの夏ズボンに、やはりアイロンの掛かっていないワイシャツを肘まで無造作にまくっていた。
頭髪は五分刈りでよれよれのベージュの帽子を被っていた。
肝心の名前は聞いていないので不明です。
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