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監督 中島哲也少しあらすじ中学校の1年B組、終業式後の雑然としたホームルームで、教壇に立つ担任の森口悠子(松たか子)が静かに語り出す。「わたしの娘が死にました。警察は事故死と判断しましたが、娘は事故で死んだのではなくこのクラスの生徒に殺されたのです」教室内は一瞬にして静まりかえる。二人の犯人はすぐにわかる。森口は二人の飲んだ牛乳にエイズ患者の血液を混入させたと告げ、学校を去っていく。感想原作は買ったものの、映画を先に観ようと思い未読。愛娘を殺された女教師の復讐劇である。エイズに対する無知と偏見、熱いだけで頭の悪い教師、秀才の虚栄心などを巧みに使った復讐は見事(変な言い方だが)である。「そこまではしないだろう」という予想を、予想の範囲内で裏切る(変な言い方だな)ような展開もおもしろい。でも、中学生ってそこまでバカじゃないやろ、とか、こんな熱血バカ教師なんておらんやろ、とか思ったら、ついていけなくなるだろう。と思う。もっとも、映像の動的な美しさ、独特な音楽の使い方が異化効果を生んで、そういった少し変なところも展開上の「お約束」として受け入れやすい。(変な言い方かな)基本的には、テーマがどうこうという作品ではなく、物語の展開をおもしろく見せる作品なのだと思う。それはそれで良しとするか、命の問題を扱う以上はもっと別の描き方があるはずだと考えるかによって、好き嫌いが分かれるだろう。私は前者なのだが、展開にややあざとさを感じてしまうのも事実。これは原作の限界なのかも知れない。(読んでないので断定はしないが)松たか子の感情のオン・オフを使い分けた表情が見事。
2010.06.13
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監督 成島出少しあらすじ1989年、ある地方都市。市民病院に赴任した外科医の当麻(堤真一)は次々と困難なオペを成功させる。病院のずさんな医療に失望していた看護師の中村(夏川結衣)は、当麻のオペに参加するうちに、仕事への情熱を取り戻す。しかし大学病院から派遣され、無難に仕事をこなすことしか頭にない医師たちは当麻を嫌う。ある日、市民病院の強化に力を入れていた市長が倒れる。救う方法は肝臓移植しかないという状況で、脳死状態になった息子の臓器を移植に使って欲しいと武井(余貴美子)から懇願される。日本では脳死臓器移植は違法である。当麻は悩んだ末、移植に取り組むことを決意する。感想物語は勧善懲悪で何のひねりもない。当麻は、やや変わった音楽の趣味を除けば、完全無欠の天才外科医であるし、臓器移植の是非も、誰が見ても「止むを得ない」と言える状況での決断である。敵役は、医者でありながらタバコをスパスパ(そう言えば、20年前は嫌煙権なんて言わなかったような気がする)、夜はクラブで酒、などというわかりやすい悪人。しかし、その真っ当なところが実に良い。地方病院のずさんな医療。人格的にも技術的にも優秀な医者の登場。その影響を受けて成長するスタッフ。反発する旧来の勢力・・・云々予想通りの展開なのに泣かされるのである。原作は6巻の長編。読んだわけではないが、当然大幅にカットされているだろうし、その結果の「わかりやすさ」なのだろう。それは成功している。堤真一の抑え気味の演技が作品に説得力を与えている。これが一番のポイント。一方で大きな感情の起伏を表現する夏川結衣も見事。たぶん彼女の代表作になるだろう。仕事への情熱を取り戻していく姿がとても美しい。
2010.06.05
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監督 井筒和幸少しあらすじ漫才のコンテストでしくじり中途半端な日々を送る気弱なユウキ(福徳秀介)の新しいアルバイトは、ヒーローショーの悪役だった。ある日、バイト仲間のノボルが、ユウキの先輩である剛志の彼女を寝とってしまったことから、彼らはショーの最中に激しい殴り合いを繰り広げる。剛志はユウキも含め悪友たちを招集しノボルらを強請ろうとする。一方ノボルたちも、自衛隊上がりの勇気(後藤淳平)を引き入れ報復にでる。次第に彼らの暴走はエスカレートし、ついには決定的な犯罪が起きてしまう。感想面白く見せ、後で考えさせる。そんな作品だった。ユウキが主人公かと思いきや、個性的なキャラクターが次々に現れ、勇気(こちらもユウキではある)とバツイチの彼女が中心になったり、と振り返ってみると結構凝った展開をしている。しかし、観ている最中はそんなことは関係なく、やややり過ぎ感のある(と言うか井筒監督らしい)バイオレンスシーンを含め、まったく淀むところがなく楽しめる。痴話げんかが高じ、ついに殺人事件に至ってしまう愚かさを、ただ冷ややかに笑い飛ばすのでもなく、かといって同調するのでもない。しっかり寄り添いながら、それでも「それはあかんで」と叱る。そんな人間の温かさを感じる。「生き直させてくれよ」というユウキの叫びに、一歩間違えばとんでもない状況に陥る人生の危うさを考えさせられる。
2010.05.30
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食のリスク学中西準子「氾濫する『安全・安心』をよみとく視点」という副題がつけられた本書は、環境リスクの専門家、中西準子さんが、リスク評価の考え方から「食」の問題を取り上げたもの。メディアの報道を見る限り食の安全への関心は高まっているという気がする。(一方で、食うのに精一杯で安全云々なんて言っている余裕はない、という現実がじわじわと広がっているのも事実だと思うが)それでは、食の安全とは何か、という話になるとかなり曖昧模糊としたものになる。BSEが国内で発生すると、牛肉が売れなくなるとか、農薬入り餃子事件が起きると、中国製食品すべてが目の敵にされるとか、しかしいずれも時間が経てば忘れられるということが繰り返される。いったい何が、どれだけ危険なのか、という視点がぼやけていると感じてしまう。第1章では「費用と便益」という問題が取り上げられている。現実の生活の中で私たちは常に100%安全な道を選択しているわけではない。費用と便益とリスクを量りにかけながら生きている。「安全」は相対的な概念なのだ、ということである。また1つのリスクを減らそうとすると別のリスクが増える(リスク・トレードオフ)という問題が起きる場合がある。水道の発がん性物質トリハロメタンをゼロにするため、1991年にペルー政府は水道の塩素消毒をやめたことがある。結果は水道水を原因とするコレラが蔓延し80万人が罹患(7000人近くが死亡)することになった、という。第2章は「フードファディズム」という言葉を日本に紹介した群馬大学の高橋久仁子さんとの対談。いわゆる「健康食品」好きな人にこそ読んで欲しい、と思う(そんな人は読まないだろうけど)。高橋先生は「健康食品」は玉石混交という言辞に対して「玉があるのなら教えてください」とけんかを吹っかけるという。第3章は科学ライター松永和紀さんによるインタビュー。第4章は中西さんのサイトからの抜粋で構成されている。食に関するマスメディアの取り上げ方(「あるある」なき後も改善されたとは言い難い)もひどいものだが、行政が発信する情報も必ずしも適切とは限らないと考えた方が良さそうだ。
2010.05.09
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監督 キャスリン・ビグロー少しあらすじ2004年、イラク・バグダッド。駐留米軍のブラボー中隊・爆弾処理班の作業中に爆発が起き、班長のトンプソン軍曹が爆死してしまう。トンプソン軍曹の代わりに派遣されてきたのはジェームズ二等軍曹。彼は高い技術と度胸で次々に爆弾処理を実行するが、その命知らずでチームワークを軽視した行動に部下のサンボーン軍曹とエルドリッジ技術兵は反発する。感想言わずと知れた、アカデミー賞の作品賞と、女性として初の監督賞を受賞した作品。アカデミー賞は単純に質の高い作品が選ばれるというものではないと思う。そこには、「この作品を観て欲しい」というハリウッドの意思が強く働いている。海外での既公開作よりも待機作の方がいくらか有利になると言われるのも、その表れだろう。興行成績で歴史的成功を収めた「アバター」を抑えて本作が主要賞を受賞したというニュースも、その意味では驚くほどのことではないと思っていた。ところが実際に作品を観てみると、アメリカの変化を感じざるを得ない。アカデミー賞受賞は大きな転換(少なくとも「気分」の上では)を象徴する出来事だと言えるかも知れない。爆弾処理の作業中に防爆スーツを脱ぎ捨てたり、無線を外したりと無謀な行動を繰り返すジェームズは、何らかの欠落を抱えた人物に見える。しかし、いくつもの危険をくぐりぬける内に、しだいに人間らしさを見せるようになり、部下のサンボーンやエルドリッジとも打ち解けていく。彼には妻子がある。イラク人の少年とも心を通わせる普通の人間である。しかし実は、彼は戦場にしか自らの存在意義を見出せなくなっている。ラストシーンで爆弾処理に向かう彼の嬉々とした表情に、背筋が寒くなる。言葉の通じないイラクの地。すべてのイラク人が敵に見えてしまう緊張感。死と隣り合わせの緊迫感と不思議な高揚感。そして虚無感。爆弾処理班を象徴として、イラク戦争の呪縛を描く手法は見事。
2010.05.01
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1Q84 BOOK3 村上春樹発売日には深夜から行列ができたという、文芸書が売れないこの時代にあって、まさに「お化け」という趣の作品である。発売の当日、私は近所の大きくない本屋で最後の1冊を買うことができたのだが、その本屋ではその後ずっと入荷待ち状態になっているようだ。ストーリーがすべてと言ってよいような作品なので、あらすじは書きません。様々な謎を残してBook1.2が終わっているので、「ひょっとしたらあるのでは」と思われていたBook3だが、一方で主人公の一人である青豆が自殺したことの後処理をどうするのかと思ったら、実は死んでなかったということで物語が続いている。「大切なものを取り返す」ことが主題だと読んだ私にとっては、青豆の自殺というのは違和感があったので、これは無難で唯一の正しい(?)展開と言える。Book3は、当然1・2の続きにあるが、時系列上の続きというだけではなく、ある程度のまとめという位置にあるような印象を受ける。脇役の一人だった牛河が3人目の主人公となり、物語を整理する役割を果たしている。最後も、気持ちよくまとまっている。いくつかの謎、そして「ここはどこ?」という謎を残して。やはりBook4があるのだろうか。これも謎ではある。
2010.04.25
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録画しておいたフジ系ドラマ「素直になれなくて」の1・2話を観た。第1話の視聴率(関東地区)が11.9%とコケ気味だったことと、主にツイッター愛好者からの批判が高いということで、久しぶりの北川悦吏子作品にしては前途多難のスタートのようである。私はツイッターに興味がない(というか、そんな暇はない)上に、北川悦吏子についてもあまり関心がない(というか、評判になった作品をほとんど観ていない)ので、ほとんど期待もせずに観た。ツイッターのやりとりが字幕で出ると「電車男」みたいで、目新しさを感じない。このあたりがツイッター愛好者にはもの足りないのかな?無理が感じられるのは渡辺えり演じるセクハラ上司。渡辺えりの演技力を持ってしても、それは無理です。完全なミスキャスト。でも、全体的には悪くない。ネットの匿名性みたいなものも、それだけを取り上げると目新しい題材ではないけれど、現代の労働実態と重ね合わせて描かれているところが良いと思う。あとは、どんどん複雑になってきた人物関係がどのように展開し、結末を迎えるのか。そこが見ものだろう。
2010.04.24
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監督 ペドロ・アルモドバル少しあらすじ視力を失い、名前を変えて生きる脚本家のハリー(ルイス・オマール)。ある日、ハリーは謎めいた若い男から脚本を頼まれる。その男の正体に気づいた時、14年前の記憶がよみがえる。かつて、ハリーは新進気鋭の映画監督だった。ハリーは主演女優のレナ(ペネロペ・クルス)と激しい恋に落ちた。しかしレナには権力のあるパトロン、エルネスト(ホセ・ルイス・ゴメス)がいた。感想「ボルベール(帰郷)」を観てから、ペネロペファンになった私にとって、アルモドバル監督とペネロペの組み合わせは期待無限大である。ところが、地元のシネコンでは1週目が2回上映(しかも夕方と夜)、2週目が6時からの1回上映ということで、全くやる気がないようなプログラム。今日も客の入りは1桁だったが、この時間では当然だろうと思う。ではつまらない作品か、と言えばそんなことはない。ハリーが視力を失ったり名前を変えた理由は、とか、回想に登場する人物が現在につながってくるが、レナはどこへ、とか観客の興味を引きつける脚本は見事。美しい思い出は大切に、でも悲しみは乗り越えていこうというメッセージのこもったラストシーンへの展開も良い。魅かれるとすぐに激しいセックスをして、というラテン系の乗りは好き嫌いがわかれるような気がするが、決して不自然な感じはしない。ペネロペに女優志願の女性という役を当てたのも上手い。時にはオードリーのように、時にはマリリンのように、と見事にペネロペの魅力を引き出している。さすがアルモドバル監督は4回目のコンビである。ペネロペには情熱的なバラ色が似合うなあ。
2010.04.11
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ルポ貧困大国アメリカ(2)堤未果市場原理主義が決して人を幸福にするものではない、ということを事実をもって示したのが前作だった。今作はオバマ政権誕生という変化を受けて、アメリカは変わるのかということがもう一つのテーマになっている。第1章は公教育が生み出す借金地獄を描いている。高すぎる学費、公的奨学金を政治力によって凌駕する民間の学資ローン。貧困が学歴の差を生み、次代に連鎖する。それで良いのか。第2章は社会保障の崩壊。そう言えば映画「グラン・トリノ」で、イーストウッド演じる主人公は長年フォードで働いたことを誇りにしている老人だった。たぶん彼はフォードでそれなりの給料をもらうことで家族を養い、老後は企業年金で不自由のない生活を送っている。公的年金が不十分なアメリカでの理想的なライフステージである。それが企業へのロイヤリティを生み、愛国心につながる。しかし企業年金はGMの破綻などに見られるように、実はリスキーなもの。長期的な資金保全が必要な年金と、短期間での業績が求められるアメリカ型経営は矛盾がある。(それを埋めるために考え出されたのが確定拠出年金なのだと合点)第3章は医療改革。アメリカの医療の問題はマイケル・ムーアの映画「シッコ」で描かれていた。オバマ政権誕生で期待された政策の一つが国民皆保険制度。しかしそれは公的な機関が一元的に管理する「単一払い皆保険」という選択肢がはずされたものだと言う。本書が出された後、オバマ政権は「単一払い皆保険」ではない形の皆保険制度を成立させた。公的保険=社会主義(それなら社会主義の方が良いではないか、と私は突っ込む)という偏見が強いアメリカで、曲がりなりにも皆保険を成立させた功績は大きいと思うが、その審判は歴史が下すことになるだろう。第4章は巨大な労働市場と化した刑務所。この章が最も衝撃的だった。時代劇なら悪代官も○○屋もびっくりだろう。非正規労働者よりも途上国へのアウトソーシングよりも安価な労働者がアメリカ国内に存在する。それが刑務所だと言うのである。一頃、アメリカの電話番号案内はインドにつながると言われていたが、今やそれが刑務所につながる。刑務所そのものも民営化が進み、刑務所の施設を扱う投資信託が高騰しているとのこと。受刑者にやりがいのある仕事を提供すること自体は歓迎されるべきことだろう。しかしそれは破格の低賃金(電話交換手の時給が1ドル45セント!)である。組合を結成することもできない受刑者への人権侵害と言えるのではないか。アメリカ型の市場原理主義は国民全般を幸福にするシステムではない。現にそれを取り入れてきた日本でも貧困と格差が拡大している。先ごろ、中国で例の毒入り餃子事件の容疑者が逮捕された。事の真偽はともかく、貧困と労働条件の格差に対する不満が動機ではないかと言われている。貧困と格差が大きなリスクファクターであるとしたら、日本は安全という根拠は崩れていると言わなければならない。
2010.03.28
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監督 ジョン・リー・ハンコック少しあらすじ家族と共に車で帰路に着くリー・アン(サンドラ・ブロック)は、雨に濡れながら夜道を歩くマイケル・オーア(クィントン・アーロン)に目を留める。自宅に連れ帰ったマイケルの境遇を知り、一家に迎え入れることにしたリー・アン。巨体を見込まれアメリカン・フットボールを始めたマイケルは闘争心が希薄なためかなかなかうまくならない。しかしマイケルの性格を知ったリー・アンが、コーチを差し置いてマイケルにアドバイスをするとマイケルの才能は一気に開花する。感想成功した実業家で、典型的なWASPで、おそらくは共和党支持者で、という夫婦がホームレス同然の黒人青年を一家に受け入れ、青年の才能を開花させる、というアメリカンドリームを描いた作品である。その意味ではあまりおもしろくないのだけど、これが実話を下にした作品ということで、ある程度の説得力がある。(エンディングに実写の場面が流れる)サンドラ・ブロックと言えば「スピード」のイメージしかないのだけど、相変わらず気風のいい女性を演じていて、魅力的ではある。ワースト主演女優賞に選ばれたラジー賞の授賞式に堂々と出席したというエピソードからも、サンドラ・ブロックは弱ぶって見せることができない、あるいは弱みを見せることが似合わないと自覚しているのだろう思う。この作品でも「私きれいでしょ」「スタイル良くてそそるでしょ」と言わんばかりのショットが続く。夫婦の金持ちぶりもあきれるほどである。それがちょっと癇に障る。たぶんそれは承知の上でやっているのだろうけど。貧しさゆえに才能を埋もれさせて良いのか、という問題提起はよくわかる。効率の悪い役所にブッシュ大統領の肖像を掲げたり、マイケルの家庭教師が民主党員だったり、という小技も何となくおもしろい。それだけに、前述のちょっと癇に障る部分が残念。
2010.03.27
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監督 ロブ・マーシャル少しあらすじ1964年のイタリア。映画監督グイド・コンティーニ(ダニエル・デイ=ルイス)は極度のスランプに陥っていた。撮影開始まで数日という段階になっても脚本は書き出しさえも決まらない。妻のルイザ(マリオン・コティヤール)だけが心のよりどころのグイドだったが、愛人カルラ(ペネロペ・クルス)や主演女優のクローディア(ニコール・キッドマン)など美しい女たちとの関係も断ち切れず、しだいに幻想の世界へ陥っていく。感想主人公のグイドという名前でピンとくる人もいる通り、フェリーニ作品を下敷きにしたミュージカルの映画化。何となく、かの名作「オール・ザット・ジャズ」のような作品を期待させる題材だが、完全な期待はずれだった。創作のスランプに陥って、色恋に逃避する映画監督というモチーフは、今の時代には受けないのかも知れない。フェリーニ作品には自らをパロディ化したシニカルなおもしろさがあるが、この作品にはそれがない。妻と愛人との板挟みに対しても「勝手にすれば」と言いたくなってしまう。主演のダニエル・デイ=ルイスをはじめ良い役者がそろっている。楽曲も悪くない。それでこれだけ退屈な作品にできるなんて、逆にすごいかも知れない。豪華キャストにそれぞれ見せ場を作ろうとしたせいか、作品としてのまとまりがないのが致命的。まあペネロペ・クルスがいつにも増して色っぽかったのが救いか。
2010.03.20
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録画しておいたフジ系ドラマ「不毛地帯」を見終わった。役者がそろっている(特に遠藤憲一の印象が強い)し、それなりにおもしろかった。ただ大長編の原作(未読)のストーリーを忠実に追ったために、半年間(19話)という枠には無理があるのか、異常に展開が早く、薄っぺらな印象を持った。不毛地帯というタイトルは壱岐正が11年間の抑留を受けたシベリアと、商社マンとして最後の仕事になった石油開発の舞台イランのサルベスタンを示しているはずだが、シベリアのシーンはともかく、サルベスタンのシーンは深刻さがあまり伝わってこなかった。必ずしも集中して観られることを前提とできないテレビドラマの限界でもあるかも知れない。また、現代にも続く問題として描ける「白い巨頭」や「華麗なる一族」と違って、今「不毛地帯」を映像化する意味は何か、という明確な意図が見えないことが最大の弱点だと思う。原作を読んでみよう、という気にもならなかった。「不毛地帯(第1巻)」
2010.03.14
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監督 金田敬倉敷芸文館で上映会。初めに金田監督の舞台挨拶があった。(小中高と倉敷に住んでおられたとのこと)少しあらすじ藪崎千華(新妻聖子)は、母親の強い希望で幼い頃から音楽の道を歩むが、大学生の時に登校できなくなり中退する。大学中退後も職場での人間関係がうまく作れず、仕事を転々とする生活を繰り返し続け、とうとう一日中家に閉じこもるようになる。ある日、彼女を心配して迎えに来たアルバイト先の社長の車から逃げ出した千華は、千葉県で「誰か私を助けてください。」と書いた紙切れをペットボトルに詰め、水田に置いてくる。暫くして、ペットボトルを拾った広瀬晋平(筧利夫)から手紙が届く。その手紙の内容は真剣に千華のSOSに応えようとしていた。千華は、自分はどのような人間か、どうして他人と会うのが怖いのか、長い長い手紙を晋平に送った。こうして千華と晋平の交流が始まる。感想原作を読んでいるので、無意識のうちに比較してしまう。映画には時間的な制約があるので、どうしても展開が早く軽い感じになってしまうのは仕方ないだろうと思う。それでも、親の言動に切れるシーンでの新妻聖子の表情は鬼気迫るものがあるし、原作の持つ言葉の力を生かした説得力のある作品になっている。原作では手紙の交換を通して、しだいに千華と晋平の実像が明らかになっていくというのが序盤の読ませどころなのだが、映画では初めから映像で示されてしまう、という具合に小説と映画では手法的にも別物にならざるを得ない。そのため映画には映画の見せ所が必要になるのだが、田園風景や農作業のシーンなど、見せ所が随所にある。ラストシーンは原作の「ちょっとあり得ない」設定を映像化している。このシーンは、その「あり得なさ」がむしろ感動的。稲の実った田んぼに「カノン」が見事に調和している。エンドロールで新妻聖子が歌を披露する。蛇足だけど上手いなあ、と思ったら、もともとミュージカル女優なんですね。
2010.02.28
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ディア・ドクター(通常版)(DVD) ◆20%OFF!監督 西川美和09年度キネ旬ベスト10作品から数作を再映するという企画を岡山のシネマクレールさんが行っている。話題作を見逃すことの多い私にはありがたい。ということで「ディア・ドクター」を鑑賞。感想現実というのは多義的なもの。という基調は西川監督の作品に一貫しているのだろう。善と悪を二分して、わかりやすい作品にしてしまうハリウッド的ドラマツルギーとは対局と言える。こういう作り方は一つ間違えば、とんでもなく退屈な作品を生んでしまう恐れがある。しかし本作は役者の魅力をうまく引き出すことで成功している。笑福亭鶴瓶の起用が大成功だろう。年寄りに優しい医者のようでもあり、高収入目当ての詐欺師のようでもあり、でも根からの悪人ではなさそう。そんなキャラを見事に表現している。今まで、世間の評判ほどには、この人の演技を良いと思わなかったが、これは主演男優賞に値する。余貴美子演じる看護師も、医師の嘘に気がついているのか、いないのかわからない微妙な立ち位置を、微妙な表情で表わしていて見事だ。香川照之は何をやっても「はまり役」に見えてしまうけど、医薬品プロパーの虚実をないまぜにした言動は、やはり「はまっている」と思わせる。瑛太や松重豊も良い。井川遥を見るのは久しぶりだな(ファンなんです)。そろそろきれいなお姉さんから脱却できるだろうか。資格の詐称と現実に人を救うということ、延命治療と安らかな死を迎えさせること、現実には善なのか悪なのか割り切れないことが多い。映画がそのことに結論を示す必要はないと思う。
2010.02.27
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サウスバウンド スペシャル・エディション / 豊川悦司/天海祐希監督 森田芳光テレビ放映を録画で鑑賞少しあらすじ浅草に住む小学6年生の上原二郎は、疑問に感じたことには猛然と盾つく元学生活動家の父親(豊川悦司)を恥ずかしく思っていた。ある日、母親(天海祐希)の発案で、一家は父の故郷である沖縄の西表島に引っ越すことに。島民に温かく迎えられる上原家だが、そこでもまた一郎は観光開発業者を相手に闘うはめになる。感想何だか中途半端な作品と感じた。全共闘へのノスタルジーなのか。茶化しているのか。たぶん、子どもと元活動家の親という特異な設定を通して、家族(特に親と子)一般にありがちな意識のすれ違いや、切っても切れない関係を描こうとしたのだろう。その意味では決して悪い作品ではないと思う。あるいは、物わかりが良くなってしまった大人へ、もっと正直に生きろというメッセージと受け取ることもできる。疑問に思ったら「ナンセンス!」と言おうぜ、と。その意味でも悪い作品ではないだろう。しかし父親の描き方が漫画チックだったり、母親のキャラが分かりにくかったりで、どうも入り込めないのである。ラストシーンもイマイチよくわからなかった。
2010.02.24
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監督 ナンシー・マイヤーズ少しあらすじ大人気のベーカリーを経営するジェーン(メリル・ストリープ)は、10年前に敏腕弁護士ジェイク(アレック・ボールドウィン)と別れて以来、3人の子どもを育てながらシングルライフを謳歌(おうか)していた。ある日、ジェーンは息子の大学卒業式に出席するため滞在したホテルでジェイクと出会い、酔った勢いでベッドを共にしてしまう。感想ポスターのメリル・ストリープが魅力的だったので観ることに。成功した実業家の女と敏腕弁護士の男という設定から想像できるように、生活感がない、お気楽なラブコメディーである。でも、元夫は若い女と再婚していて、その女の連れ子であるわがままな息子に煩わされている。元妻は家の増築を請け負った建築家アダム(スティーヴ・マーティン )に好意を抱いている。そして二人の離婚を間近で見てきた子どもたちがいる。大人の恋愛は複雑だ。そう言えばこの作品の原題は"It's Complicated"(それは複雑)である。決してパン屋さんの物語ではない。当然、すっきりとは終わらないが、後味は悪くない。主人公は二人の男との関係に悩むジェーンである。でも、彼女と撚りを戻そうとし、アダムに大人げない嫉妬をするジェイクのスケベ心に共感してしまう中年男性が多いのではないだろうか。(私も)ジェーンが女友だちと展開するガールズ(?)トークに笑ったが、冷静に考えたら恐ろしい会話かも。シリアスなものもコメディーも演じられるメリル・ストリープはさすがに安心して見ていられる。長女の婚約者を演じたジョン・クラシンスキーが爽やかで好印象。アレック・ボールドウィンは楽しそうにスケベ男を演じていてなかなか良い。スティーヴ・マーティンは誠実な建築家という役どころが窮屈そうな感じ。
2010.02.21
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フィッシュストーリー伊坂幸太郎ある小説の一節が結ぶ出来事がめぐりめぐって人類の危機を救う表題作。動物園のエンジンと呼ばれる、いつも夜の動物園で寝そべっている男は市長殺害の犯人なのか?というライトミステリー「動物園のエンジン」私立探偵の黒澤がある男を探してたどりついた、こもり様という不思議な風習を持つ村の物語「サクリファイス」監督との折り合いが悪く控えに甘んじているプロ野球選手尾崎の部屋に空き巣に入った今村。まったく違う人生を生きてきた尾崎と今村だが、実は同じ日に同じ病院で生まれていた、というお話「ポテチ」。の中編4作感想4話とも、いかにも伊坂幸太郎という作品。期待通り、と言えばその通りなのだけど、期待を超えることもない、と言ったら厳しすぎるだろうか。表題作「フィッシュストーリー」は4つの物語で構成されている。一つ一つの物語はおもしろい。特にハイジャックの件と売れないロックバンドの件は引きつけられる。それはそれとして楽しめば良いのだけど、4つの物語を結び付けるのに無理が感じられる。伊坂作品は、仙台周辺という限られた空間で展開することが多い関係で、個々の作品が登場人物でつながっている。その縮図のような構成とも言える。この中で「ポテチ」だけが単行本のための書き下ろし、つまりは発刊当時(2007年)の最新作ということになる。ちなみに、一番早く発表されたのが「動物園のエンジン」で2001年、「サクリファイス」が2004年、「フィッシュストーリー」が2005年。「ポテチ」は物語として特におもしろいとは思わないけど、視点人物である大西、主人公(?)今村、そして毎度おなじみの黒澤といった登場人物がとても魅力的で楽しめる。この人物造形のうまさは年とともに深化してきたということかも知れない。
2010.02.11
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監督 クリント・イーストウッド少しあらすじ1994年、マンデラ(モーガン・フリーマン)はついに南アフリカ共和国初の黒人大統領となる。いまだにアパルトヘイトによる人種差別や経済格差の残る国をまとめるため、彼はラグビーチームの再建を図る。南アフリカではラグビーは白人のものであり、代表チーム・スプリングボクスは旧体制の象徴でもあった。1995年に自国で開催するラグビー・ワールド・カップを前に、マンデラはチームキャプテンのピナール(マット・デイモン)を官邸に招待する。感想私的昨年のベスト作品「グラントリノ」のイーストウッドが監督で主演が名優モーガン・フリーマンとくれば、当然期待も大きいし、ハードルもグンと上がる。それでも満足させるのだから、やはりイーストウッドはすごいと思う。ただ、淡々と事実を追ったような展開なので、アパルトヘイトやネルソン・マンデラに関する予備知識がないまま観ると、やや物足りないかも知れない。この作品を支えているものは歴史的(と言ってもたかだか20年足らず前の話)な事実の重みであるから、脚本はことさらの誇張を避けたのだと感じた。27年ぶりにマンデラが保釈され、黒人社会は湧き上がる。そして民族対立が激化し内戦に発展しそうになった時、マンデラは大群衆を前に、すべての武器を捨てるように呼び掛ける。大統領となったマンデラは、官邸から退避しようとする白人職員に、新国家建設に力を貸してほしいと話し、身辺警護に、かつての自らを弾圧した白人の元公安職員を任命する。「過去は過去」として、今向かうべき未来はどこにあるのか、を指し示すマンデラの姿勢を象徴するシーンが描かれる。そして白人支配の象徴でもあったラグビー代表チーム、スプリングボクスを、人種を超えた団結の象徴へと変えていく。スプリングボクスを見る国民の目が変わってくることによって、選手の意識も変化していく。そしてワールドカップでは世界中の予想を覆しての快進撃を演じる、というまるで作り話のような物語が展開するのだが、これが事実なのだから泣かせる。ラグビーの試合終了は「ノーサイド」とコールされる。つまり、どんなに激しく戦っても試合が終われば「敵味方(サイド)なし」ということ。アパルトヘイトが撤廃された南アフリカでラグビーのワールドカップが開催されたということは実に象徴的な出来事だったのだと思う。
2010.02.07
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監督 中村義洋伊坂幸太郎の原作は未読少しあらすじ首相の凱旋パレードが行われている仙台で、ラジコンヘリ爆弾を使った首相暗殺事件が起きる。そのすぐ近くで旧友・森田と再会を果たしていた青柳は、突然警官から発砲される。そして青柳は首相暗殺の犯人として指名手配される。感想まさに伊坂ワールド全開という感じでおもしろかった。原作は読んでないけれど、たぶん原作に忠実に作っているのではないだろうかと思える。伏線の巧みさと魅力あふれる登場人物で、伊坂作品を読んでいる気分そのままに物語が展開するのである。首相暗殺から和製オズワルド事件へ、というあたりから、何らかの意味を読み取ることもできるかも知れない。またマスメディアの暴力性を告発しているという見方もできるだろう。でも、そんなことは抜きにしてもおもしろい。仙台から逃げ出す手段もないまま、警察とマスメディアに包囲され、絶体絶命状態の青柳(堺雅人)を助けようとするかつての恋人晴子(竹内結子)、謎の通り魔キルオ、花火職人の轟、仕事の同僚岩崎、「裏稼業の人間」保土ヶ谷、それぞれに魅力的だが、一番は青柳の父親(伊東四郎)だろう。ネタばれになるので詳しくはふれないが、心から人を信頼することは素晴らしい、と感じた。大森南朋がチョイ役(でも流石の存在感)なのがもったいないと感じたが、堺雅人は見事なはまり役だし、竹内結子をはじめ魅力的なキャラクターを演じた役者がみんな良いので不満はない。
2010.01.31
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監督 山田洋次少しあらすじ夫を亡くした吟子(吉永小百合)は、東京のある商店街にある薬局を女手一つで切り盛りしながら娘の小春(蒼井優)を育て、義母の絹代(加藤治子)と3人で暮らしていた。やがて、小春の結婚が決まり、結婚式当日を迎えるが、吟子の弟・鉄郎(笑福亭鶴瓶)が紋付はかまで大阪から現われ、披露宴を酔っ払って台なしにしてしまう。感想吉永小百合が好きだ。でもスターのオーラがありすぎるのか、何だか現実離れして見えてしまう。時代劇ならそんなに感じないかも知れないけれど・・・そう言えば海坂藩ものが続いた山田洋次にとって10年ぶりの現代劇である。鉄郎の存在も現代では現実離れして見える。寅さんの時代だったら、とは思う。ひょっとしてこの作品は渥美清へのレクイエムなのだろうか。鉄郎が暴れそうになった時、なぜ兄姉が止めないのかとか、どうも披露宴の場面がうまく描けていない感じがして、その違和感をずっと引きずってしまった。吟子がなぜあそこまで弟を甘やかすのか、という疑問が終盤になってようやくとける。そこが泣かせどころである。でもイマイチすっきりしないのである。笹野高史、森本レオ、小日向文世らの脇役が良い存在感を出している。蒼井優と加瀬亮がとても良い。吉永小百合や鶴瓶と比べると、やはり現代的で現実的である。作品そのものも、この二人のサイドストーリーに救われている。
2010.01.30
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間宮兄弟(通常版)(DVD) ◆20%OFF!監督 森田芳光BSを録画で鑑賞少しあらすじビール会社の商品開発研究員の兄・間宮明信(佐々木蔵之介)と小学校校務員の弟・間宮徹信(塚地武雅)は、30歳を過ぎても仲良く同居生活を送っていた。恋愛とは無縁だが、兄弟はありふれた日常にささやかな歓びを見つけ楽しく暮らしている。ある日、二人は勇気を振り絞って、ビデオ店の店員(沢尻エリカ)と女教師(常盤貴子)を自宅でのカレーパーティーに誘う。感想晩御飯を食べながら横目で観ていたのだけど、結局引き込まれてしまった。森田芳光はこういうホンワカした作品を作ると上手いなあ。キャストが絶妙。佐々木蔵之介と塚地の三十路兄弟、沢尻エリカと北川景子の美人姉妹、常盤貴子の不器用なのに実は結構美人の女教師、みんな本当にいそうな感じ。みょうにハイテンションな高島政伸や中島みゆきなど脇役も良い味を出している。兄が関わった同僚の離婚問題を発端に兄弟関係に亀裂が入る。でも二人の失恋によって元の仲の良い兄弟に戻るという展開。現状を壊さなければ物事は進展しないんだよ。兄弟の関係を変えなければ恋愛も結婚もできないよ。とアドバイスをしたくなる。でも仲の良い二人を見ていると「まっ、良いか」と思ってしまう。
2010.01.28
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監督 ジェームス・キャメロン少しあらすじ下半身不随になり、車いす生活を送る元海兵隊員ジェイク(サム・ワーシントン)は、衛星パンドラにやって来る。彼は人間とナヴィ族のハイブリッドであるアバターとなり、ナヴィ族に接近する。仲間とはぐれたジェイクは野犬に似たクリーチャーに襲われ、ナヴィ族の王女ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)に助けられる。やがてジェイクはネイティリと恋に落ち、ナヴィ族の聖地にある資源を狙う軍隊と対立する。感想「タイタニック」にも全く泣けず、ハリウッドのアドヴェンチャー大作を観てもしんどいと感じることが多い私だが、これは結構楽しめた。最新兵器で武装した侵略する側とプリミティブな住民の対立という構図はありふれているけれど、物語としては受け入れやすい。何となく「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」を思わせるし、山が宙に浮かんでいる様は「天空の城ラピュタ」みたいだが、最後は力と力の対決となるところがハリウッド映画らしいと思う。ただアバター自体が人格を持っていない件とか、ナヴィ族の儀式があまりにもオカルトっぽいとか、終盤への伏線のためグレイス博士(シガニー・ウィーバー)を死なせてしまったとしか見えないとか、ややご都合主義と感じる部分もある。まあ、それでも許せてしまう。下半身不随のジェイクがアバターの体を手に入れて有頂天になる場面、ナヴィとジェイクがしだいに惹かれあっていく展開は実にうまい。ジェームス・キャメロンは強い女性が好きなのか、シガニー・ウィーバーやゾーイ・サルダナ(特殊メイクのためにほとんど素顔がわからないけど)が実に魅力的。それにミシェル・ロドリゲスみたいなカッコイイ女性、私は大好きです。今回は3D吹き替え版で鑑賞。やはり映像を楽しむためには吹き替え版だろうと思う。3Dはよく活かされている。ひょっとしたら3Dが、やや沈滞ぎみのハリウッド映画の新機軸となるかも知れないが・・・私は、映画は平面という制約の中で磨かれる芸術だと思うので、やや懐疑的だ。
2010.01.21
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録画で鑑賞監督 高田雅博少しあらすじ美大生の竹本(櫻井翔)は、入学してきた花本先生(堺雅人)の親戚はぐみ(蒼井優)に一目ぼれする。ふらりと大学に帰ってきた天才森田(伊勢谷友介)もはぐみの才能に惹かれる。真山(加瀬亮)に想いを寄せる陶芸科の山田(関めぐみ)は、真山がバイト先の建築デザイナー理花に恋していることを知り傷つく。感想ずいぶん話題になった作品にもかかわらず、原作の漫画もテレビドラマも見ていない。したがって、映画化にあたって変更されている部分もあるのだろうけどわかりません。こういった切ない青春もののドラマは結構好きなので楽しめた。でも何か物足らなさが残ったのも事実。片想いだらけという展開に無理が感じられ、特に真山をめぐる三角関係は理解しずらい。また担当教官が、はぐみにオスロー国際ビエンナーレへの出展を勧める件は、教官がはぐみの才能をどうみているのかわからず、まったく理解できない。また森田が自分の作品に火をつける件など、あまりにも漫画チック(あっ、もともと漫画か)だ。それでも、役者がそれぞれに存在感を見せているので退屈はしない。蒼井優の不思議ちゃんキャラ、伊勢谷友介の俺様キャラは見事なはまり役だと思う。
2010.01.09
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NHK大河ドラマ明治15年、三菱を起こし財を成した岩崎弥太郎(香川照之)が、新聞記者から坂本龍馬(福山雅治)のことを問われ回想するという形でドラマが始まる。坂本龍馬のことを「一番嫌いな男だった」と激しい口調で放つ言葉と表情のギャップ、香川照之の上手さが際立つ。大げさなタイトルバックが鼻につき、子ども時代の回想に「また子役だのみか?」と不安がよぎる。でも子ども時代は20分ほどで終わり、福山龍馬の登場となる。でも福山雅治にもやや不安があるんだよね・・・。第一話は「上士と下士」ということで、土佐藩の武士の中にあった理不尽な身分制度が描かれる。龍馬の家はもともと商人の家系であった郷士、弥太郎は地下浪人という、ともに下士という下級武士。酔って上士にぶつかった弥太郎が手打ちになる寸前、助けに入った龍馬が上士に殴られながら「下士も人間ですきに」というシーンに、いつもの福山雅治とは違うものを感じる。龍馬は最初から坂本龍馬だったのではなく、三十三年の生涯の中で、日々悩み、迷いながら、進化していったのだろう。というのがこのドラマのコンセプトであるらしい。役者としての福山雅治がどう進化していくかというのも見どころだろう。下手をするとうるさいばかりになる手持ちカメラを多用したショットが、時に小気味よく、時に重厚に場面を盛り上げる。これはタダモノではないと思ったら、演出は「ハゲタカ」を手掛けたNHKのエース大友啓司。これは期待以上のドラマになるかも知れない。
2010.01.04
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浅尾大輔(朝日新聞出版)作家というより「ロスジェネ」編集長として知られる浅尾大輔の第一小説集。自動車工場で派遣社員として働く主人公が母親の死や突然の解雇を経験する中で、わずかな生きる望みを探す表題作、新潮新人賞受賞作「家畜の朝」、「ソウル」「永遠の明日の国」の4編を収める。「ブルーシート」を読むと、洗練されていない荒削りな作品だと感じる。母親はアスベストによって肺を侵され、兄は精神病院に入院している。主人公は以前勤めていた会社でセクハラを訴えたゆう子に同調したために、ゆう子と一緒に解雇され、今は派遣の仕事に行くために一時間の道のりを歩かなければならず、住んでいる文化住宅は土砂降りの雨の中で崩れそうになっている。やや不幸を強調しすぎている印象はある。そして結末まで何一つ解決しない。しかし現在を取り上げた作品に、計算された伏線ときれいにまとまった結末を描くことができるのか。「ブルーシート」の主人公ヒロシは労働組合の宣伝に反発し、彼女と手を取り合うことにのみ生きていける可能性を見出す。それを未熟だと笑うことができる者は、自分がそれなりに安全な位置にいて、実はそれがいつ崩れても不思議ではない、極めて脆いものであるということに気がついていないのだと思う。「家畜の朝」の高雄と秀雄は競艇に賭けるために日雇い仕事をしているような男たち。そこで「勝った」「負けた」と一喜一憂しても所詮はマイナスサムゲームである。競艇なんか止めて貯金しておけばもっとまともな生活ができるはずだ、と批判することは簡単だ。しかし考えてみれば、競艇のマイナスサムゲームは労働に似ている。労働現場での一喜一憂はもっと大きな勝ち負けを覆い隠しているのである。私たちは競艇よりも巧妙に仕組まれた仕掛けの中で働かされ搾取されている。ところで作者はこの作品の印税をすべて、反貧困ネットワークと首都圏青年ユニオンに寄付するという。その潔さには感服する。しかし作家としてきちんと稼ぎ、生活を成り立たせるということも重要なのではないかと思う。(余計な世話だろうが・・・)
2010.01.03
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ベスト10を考えましたが、9までしか選べませんでした。1、グラン・トリノ2、ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト3、愛を読むひと4、パイレーツ・ロック5、スラムドッグ$ミリオネア6、それでも恋するバルセロナ7、ダウト~あるカトリック学校で8、エレジー9、チェ 29歳の革命監督賞はクリント・イーストウッド主演男優賞はクリント・イーストウッド、主演女優賞はケイト・ウインスレット助演男優賞はフィリップ・シーモア・ホフマン、助演女優賞はペネロペ・クルス「グラン・トリノ」が圧倒的に1位。邦画の低調ぶりをみると、「映画はこうやって作るものだ」と言いたくなります。決して破天荒ではない手堅い作り。それでいて陳腐にならない現代性。「シャイン・ア・ライト」は08年の公開ですけど、私は今年観たので入れました。ストーンズファンにとっては夢の世界にいるような作品でした。2~5までは甲乙つけがたい作品でした。「チェ」2部作は欠点もありましたが、努力賞ということで。
2009.12.31
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やや遠慮がちにベスト6としました。1、ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ2、K-20怪人二十面相・伝3、サマーウォーズ4、空気人形5、おと・な・り6、曲がれ!スプーン監督賞は根岸吉太郎主演女優賞は松たか子、主演男優賞は該当なし助演男優賞は国村隼、助演女優賞は中谷美紀この数年、邦画は豊作続きでしたが、09年はやや不満な1年となりました。役者は良いのに作品の出来はイマイチという作品が多かったように思います。たまたまなのか、製作システムに根本的な弱点があり、それが現れたということなのか、やや気になるところです。
2009.12.31
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監督 リチャード・カーティス少しあらすじ素行不良で高校を退学になったカール(トム・スターリッジ)は、母の旧友でカールの名付け親だというクエンティン(ビル・ナイ)のいる船に乗船。その船は、アメリカ出身のザ・カウント(フィリップ・シーモア・ホフマン)ら、個性的なDJたちがロックの取締りをもくろむ政府の目を盗み、24時間ロックを流し続ける海賊ラジオ局だった。感想実に楽しい時間を過ごさせてもらった。物語はありきたりだが、「オール・オブ・ザ・ナイト」から一気に盛り上がる。1曲1曲をもっとじっくり聞かせて欲しいと思うところがあるし、時代的にビートルズの曲がでないのはおかしいと感じるが、そこは大人の事情があるようなので仕方ないだろう。それでも、二人の看板DJがぶつかるシーンでの「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」とか、曲の使い方はうまい。カールが一目ぼれするマリアン(タルラ・ライリー)が、絵に描いたような美少女(昔のトレーシー・ハイドみたい)なのに、簡単に別の男と寝てしまったり、結局カールの初体験の相手になったり、まあ道徳的に言ったらどうなの?という部分がたくさんあるので、そういう下品な話が嫌いな方にはお薦めできない。私は・・・・結構、好きです。海賊ラジオの規制を画策する大臣の口調がヒトラーのようで笑えるが、英語のニュアンスがわかれば笑える場面が他にもありそうだ。フィリップ・シーモア・ホフマンはさすがというところ。リス・エヴァンス、ニック・フロストら、他のDJたちも個性的で魅力にあふれている。
2009.12.26
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NHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」を録画しっぱなしにしていたのを、ようやく第3話まで観た。ちなみに原作は未読。幕藩体制が崩壊し生まれたばかりの日本という国家が国際社会という大海原に漕ぎ出す時代の物語。松山の貧しい下級武士の家に生まれた秋山好古と真之の兄弟、上士の子息で自由民権運動に熱中する正岡子規を中心に、実力さえあれば伸し上がることが可能な時代の熱気が感じられ、引き込まれる。しかし、現実には実力だけではなく、コネやら広い意味での運のようなものがなければ出世どころか、上京する機会さえなかっただろうということは想像できる。その意味ではキレイごととも言える。第3話でついに伊藤内閣が清国との開戦を決断する。欧米列強との衝突を避けようとする伊藤首相を軍部が押し切る形での決断である。ここ(1894年)から半世紀に渡る戦争の時代が始まることに思いが及ぶ。歴史に「ifはない」、とは言え、やはり考えてしまうのは、日本がこの日清戦争に踏み出さなかったらどうなったのか、ということ。もちろんそれは帝国主義が正義であった時代である。単純に平和的国家としてやっていけたとは思わない。しかし太平洋戦争での敗戦によって、ようやく基本的人権が確立されるというのとは違う道があっただろうと考えてしまう。出演は良い役者がそろっている。そんな中で子規の妹を演じる菅野美穂が意外にはまっているのに感心。このドラマは3年がかりで放映、全部で13話ということ。まだ先は長いので、今のところは評価のしようがないかも知れない。
2009.12.20
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監督 本広克行あらすじ超常現象バラエティ「あすなろサイキック」のAD・桜井米は視聴者からの情報を頼りに超常現象やエスパーを探す番組企画の担当を任される。しかし、どの情報もインチキばかり。落ち込む米が取材相手との待ち合わせに向かったのは「カフェ de 念力」という喫茶店。そこでは毎年クリスマス・イヴになると、本物のエスパー達が集い、普段隠していた超能力を存分に披露するクリスマスパーティーが開かれていた。感想この世には科学で解明できないことがあるのは事実。しかしエネルギー保存の法則など科学の基本的な法則に反する現象はあり得ない、というのが科学を愛する中年(私のこと)の基本的立場である。ユリ・ゲラーが来日して超能力ブームが起きたのは私が小学生のころのこと。その後、ユリ・ゲラーのスプーン曲げ等々が単なるマジックであるということは、科学者や同業者(マジックの)によって明らかにされている。彼がマジシャンとして一流であるということは言えても、決して未知の超能力云々ではないというのは今や常識。そんなわけで、超能力云々はどうでも良いのだけど、登場するエスパーたちのキャラ造形が上手くて楽しい。米(よね)という名前や細かいネタの伏線もおもしろい。 全体に舞台のコントを思わせる作りだが、米の為にエスパーたちが力をあわせる件とかちょっと良い話の部分もある。ただ、ラストシーンまでの展開がやや説明的で冗長な感じを受ける。同じことは「UDON」でも感じたのだが、監督のサービス精神が強すぎるゆえなのかも知れない。何だか最近冴えない長澤まさみだが、この作品では伸び伸びと演じていて可愛い。(実はそれだけで私は満足)
2009.12.12
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稲の旋律 旭爪あかね母親の願い通りにピアノを習い、父の意向通りに大学の教育学部に進んだ主人公が挫折し、家に引きこもるようになる。ある偶然から自然農法を営む農家の中年男性と手紙のやり取りを始めた彼女が、自分と家族の関係を見つめなおし、しだいに立ち直っていく、という物語。とあらすじを書くとありふれたつまらない話に思えてしまうが、読みはじめるとすぐに引き込まれ何度も涙させられる。風に吹かれる稲がたくさんのヴァイオリンの弓のイメージと重なる場面など、水田の描写が鮮やか。娘に重い期待をかける一方で、自分自身を押し殺してきた母。あくまでも厳格で、娘の苦しみもそこから這い上がろうとする努力も理解しない父。農業を通じて人生を深く考えているような独身の中年男性。シカトされたことがきっかけで不登校になった少女。仕事一筋に生きてきた女性。それぞれの関係の中で人生とは、幸福とは何かを考えさせられる。もちろん正解など存在しない。それで良いのだと思う。全編、書簡体で描かれているため、当事者間なら言わずもがなの事実まで手紙に書かれているなど不自然な感じもしないでもないし、クライマックスシーンのグランドピアノの件など「あり得ない」話だと思うが、フィクションの仕掛けとして心地よく受け入れられる。
2009.12.06
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終盤に向けてもっと波乱の展開があるのかと思ったら終了。11月に最終回なんて、「坂の上の雲」がある関係かしら。演出の臭さが目立ちながらも、上杉一門の流転に興味をひかれて最後まで見てしまったものの、いくらなんでも直江兼継を美化しすぎ。大阪城落城の際に千姫を救い出したという話も、真実はわからないので話を作っても良いところではあるけれど、かなり違和感があった。跡目争いからはじまって様々な業を背負いながら上杉を率いた上杉景勝の方が人物的にはおもしろかった。もっと景勝に視点を置いた方がおもしろかったのではないだろうか。北村一輝もなかなか良かったと思う。キャストは豪華だったけど、イマイチはまってなかったような感じ。加藤清史郎くんは露出しすぎ。ちょっと飽きてしまった。来年は「龍馬伝」。福山雅治は役者としての真価が問われる。岩崎弥太郎を演じる香川照之に期待しよう。
2009.11.23
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監督 犬童一心今年は太宰治と松本清張の生誕100年ということで、ドラマ化や映画化、出版も盛んになっている。ところで松本清張が執筆活動を始めたのは40歳過ぎてから、太宰が入水自殺したのが38歳なので、二人の活動期間はまったくかぶってない。そのため40代後半である私の世代にとって、太宰は完全に過去の人なのに対して、松本清張はリアルタイムで知っている作家ということになる。ただ、「点と線」や「ゼロの焦点」といった代表作は私が生まれるよりも前の作品で、私にとって松本清張は作家というよりも、昭和の秘史や歴史の研究者というイメージが強い。「ゼロの焦点」もミステリーではあるものの、戦後の社会問題を描いたという面が強い作品だと思う。というわけで、映画「ゼロの焦点」である。ミステリーとしては中途半端。赤い服の女が誰かというのも何となくわかってしまうし、中盤で事件の真相が明らかになるところはあまりにもの急展開である。「どんな名探偵やねん」と広末に突っ込んでも仕方がない。そこはあまり重視されていないのだろうと思う。むしろ、必死に生きてきた過去を隠し続けなければならない悲劇。それを生み出した社会的な背景というところに作品のテーマがある。原作の持つ社会性を重視した結果なのだろう。学徒出陣の映像から始まり、ラストに現在の東京の風景を映して終わるという構成からもそれがうかがえる。中谷美紀と木村多江が見事。上手いというレベルを超えて、凄みを感じる演技。この二人を見るだけでも十分価値があると思う。余談だが、広末涼子も二人からかなり刺激を受けたのではないだろうか。女優としての真価が問われるのは30過ぎてから、という気がする。
2009.11.15
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監督 若松節朗言わずと知れた山崎豊子の名作の映画化。原作は全5巻という大河小説なので映画の時間枠に収めるのは到底無理な話。当然、大河ドラマの総集編的な作りになるだろうと、期待と懸念が半々で観に行った。インターミッション(休憩)がある映画なんていつ以来だろう。ベルトルッチの「1900年」以来かな?と思って調べたら、27年も前の公開。「1900年」は5時間超の大作だったんですねえ。5時間なんて作品が今の日本で作れるとは思えないし「チェ 28歳の革命」「チェ 39歳 別れの手紙」みたいに2部に分けるのも興行的には難しいだろうし、3時間22分は必要十分な長さと言えるかも知れない。そのため、恩地を帰国させることになる事件のことなど、重要な部分が抜けていたりするのも仕方ないだろうとは思う。さすがに航空会社の協力は得られないし、今の時代では狩猟場面を実写では撮れないので、あちこちにCGを使っている。これが微妙で、やや間抜けな感じがしないでもない。飛行機の離陸シーンなど、思い切ってカットしてしまえば良いのに。そんな不満を感じるところがあるものの、原作のエッセンスをうまく取り込んでまとめていると思う。労働組合員に対する報復人事。政治家の食い物にされる特殊法人。会社幹部による不正。政界・マスコミへの裏工作。労組への分断攻撃・・・。そんな中で自らの矜持にこだわる恩地(渡辺謙)と能力の限りを尽くして出世を目指す行天(三浦友和)の生き方が対比的に描かれる。原作では行天をもっと悪役に描いていた印象があるが、本作では行天の苦しみにも目を向けた感じになっている。その微妙な役どころを演じた三浦友和が見事。渡辺謙はいつも通りの熱演。松雪泰子、香川照之、西村雅彦など芸達者な脇役が作品を引き締まったものにしている。そもそも「沈まぬ太陽」という壮大な作品の映画化にチャレンジし、この水準の作品に仕上げたというだけで十分、偉業だと思う。作品そのものはフィクションであり、必ずしも国民航空=日本航空ではないと思う。しかし今の日航の問題が、この作品に描かれた労組の分裂、ジャンボ機墜落事故、為替予約による多額の損失、過大な投資などと無関係だとは言えないだろう。沈まぬ太陽(1(アフリカ篇・上))沈まぬ太陽(2(アフリカ篇・下))沈まぬ太陽(3(御巣鷹山篇))沈まぬ太陽(4(会長室篇・上))沈まぬ太陽(5(会長室篇・下))
2009.11.01
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監督 益子昌一最愛の娘を少年たちによって殺された長峰(寺尾聰)は、突然の電話で犯人の名前と住所を告げられる。長峰は自らの手で加害者の少年たちを裁くことを決意する。東野圭吾のベストセラーの映画化作品。感想文庫で499ページという原作の長さからして、かなり改変されているだろうとは思っていたが、細かな変更で結構うまくまとめていると感じた。ただ、ラストシーンの変更によって、根本と言っても良い部分を変えてしまっていることについては、やや疑問を持った。少年法の問題、死刑制度の問題、被害者の権利云々という結論の出ない問題は、結論の出ない問題として描く方が良いと思う。実は今「描くべき」という表現を、あえて避けた。そう「描くべき」か否かも結論の出ない問題なのだと思うからである。(ネタばれを避けているので禅問答みたいになってきた)原作を読まずに観たらどう感じるかわからない。役者はがんばっているし、ラストシーン自体も特に違和感はないだろうと思う。一つの作品として観れば、それも「あり」だろう。しかし原作を読んでしまっている私から観ると、きれいにまとめ過ぎたのではないかと感じてしまうのである。しょせん結論の出ない話なのだ。法治国家である以上、基本的には個人による報復は認めてはならないと思う(私も一応、法学士ではある)。しかし、自分がその立場になったら、あるいは私の周囲にそんな人がいたら、どういう態度をとるか。何とも断言できないのである。
2009.10.20
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監督 根岸吉太郎原作 太宰治少しあらすじ戦後の混乱期、大酒飲みの小説家・大谷(浅野忠信)の妻・佐知(松たか子)は、夫が踏み倒した酒代を肩代わりするため飲み屋で働くことに。生き生きと働く佐知の明るさが評判となって店は繁盛し、やがて彼女に好意を寄せる青年(妻夫木聡)が現れる。妻の不貞を疑いながら、強く責めることのできない大谷。やがて大谷は親しくしていたバーの女と心中をはかる。感想原作は未読。人気作家で実家は政治家一家の大地主で、それだけで十分恵まれているはずなのに、大酒飲みで借金まみれ、あげくの果てに女と心中を繰り返す・・・そんなアホな、である。ところが、太宰が描くと不思議なぐらい魅力的な人物になってしまう。男はずるい。それはどうしようもない弱さゆえである。そして女はどこまでも優しい(たぶん)。それは強さゆえである。その太宰作品の魅力を映像化できるのか一抹の不安があったが、脚本とカメラの上手さで、映画的に成功していると思う。浅野忠信はずいぶん前の「地雷を踏んだらサヨウナラ」が一番印象的で、その後はあまり良いと思ったことがないが、今回は素晴らしい。破滅的な生き方の裏にある繊細さを、見事に表現している。松たか子は美しく、そしてたくましい。はまり役だと思う。この二人の名演にかすんでしまっているが、伊武雅刀らの脇役も良い。広末涼子は決して上手くはないが、終盤、佐知とすれ違うシーンの表情はゾクっとした。
2009.10.18
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陽気なギャングの日常と襲撃 伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」の続編。実はこちらを先に読みかけていた、ということは以前に書いたとおり。4人の特殊な能力を持った主人公がそれぞれ関わる短編が4本。新たな銀行襲撃をめぐる中編が1本。そして文庫化する際に収録された短編が1本収められている。当然、中心になるのは中編なのだけど、何だかイマイチだなと感じた。伊坂作品に対する期待が大きすぎるのかも知れないが、銀行強盗に誘拐事件が絡み、それがさらに別の事件に発展するという展開はかなりひねりの効いたものなのに、伊坂作品としては平凡に感じてしまう。でも、その伏線をはらんだ4本の短編はおもしろい。そして新しく収録された短編は、何かが解決するという気持ちよさはないものの、ちょっと心が暖かくなる作品になっている。4人の中で最も役に立たなそうな、演説だけが取り得の響野が意外なところで活躍するというオチもしゃれている。
2009.10.04
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監督 是枝裕和気がついてみると7月から9月の3ヶ月間に映画館で観た映画は1本だけ。たまたま時間が合わずに観そこなったものもあるけど、今年は観たいと思わされる作品が少ないような気がする。それでも今月からは「ヴィヨンの妻」「さまよう刃」「沈まぬ太陽」と期待作が目白押しという感じになっている。そんな中でこの「空気人形」は最も期待の大きい作品。何しろ私にとって「外れのない」是枝監督の作品だし、主演はペ・ドゥナだし、これでおもしろくないわけはない。少しあらすじアパートで秀雄(板尾創路)と暮らす空気人形(ペ・ドゥナ)に、ある日思いがけずに心が宿ってしまう。人形は持ち主が仕事に出かけるといそいそと身支度を整え、一人で街に出る。やがて彼女はレンタルビデオ店で働く純一(ARATA)に恋心を抱き、同じ店でアルバイトをすることになる。感想一言で言えば、余韻の深い作品。秀雄は性欲処理の代行として空気人形を求める。それに耐えられなくなった空気人形は街へ出る。しかしそこには、代用教員だった老人、若さに執着する年増のOL、食べ吐きを繰り返す女、妄想癖の老女、妻に逃げられ子供との関係に悩む父親等々、空疎な心があふれている。空気人形が恋する純一も表には出さない心の闇を抱えていることが、やがてわかる。それでも生命はつながっていく。つながっていくところに生命が生まれる。それなら生きているだけで十分ではないか。ということを考えさせられらる。空気人形が製作者に「生んでくれてありがとう」と言うシーンが良い。小心者の中年男をやらせたら板尾創路の右に出るものはいないだろう。ただリアル過ぎて、好き嫌いが分かれるような気がする。作品自体も、潔癖症の方にはおすすめできないと思うが、客席は女性の方が多かったようだ。ペ・ドゥナがとても魅力的に不思議な空気人形を演じている。空気が抜けてしまった人形にARATAが空気を吹き込むシーンは、下手なベッドシーンよりもエロチックだ。
2009.10.03
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陽気なギャングが地球を回す 伊坂幸太郎新刊の文庫「陽気なギャングの日常と襲撃」を買って読みかけた(ほぼ半分まで読んだ)ら、この「陽気なギャングが地球を回す」の続編だということがわかった。一応順番通りに読んだ方が良さそうなので、こちらを先に読むことに・・・。結論を言えば、やはり順番通りに読んだ方が良いです。感想嘘を見抜く男、天才的なスリの青年、演説の達人、精確な体内時計を持つ女の4人が、その能力を活かして完璧な銀行強盗を実行するという物語。現実にはあり得ない能力を持った人物(だったり死神だったり案山子だったり)を物語に放り込んで奔放に活躍させる、という作者の得意のパターン。それが、人の心を読んだり、念力で物を動かしたりなんていう派手な能力ではなく、ひょっとしたらあり得るかな?と思わせる程度の中途半端な能力なのが上手い。この設定を思いついただけで作品は成功したも同然なのでは、と思ってしまうが、さすがにそれだけでは終わらない。ある日、強奪に成功した金を途中で奪われてしまう。完璧な計画だったはずなのに何故?と物語は展開する。実は、その後の展開そのものは驚くほどのものではなく、何となく予想ができてしまう。しかし、あきずに読まされるのは、その人物造形の上手さにある。この作家は魅力的な人物を作るのが実に上手い。そして伏線の見事さ。「物語の冒頭に拳銃が登場したら、必ず発射される」ということの意味を考えさせられる。さて、陽気なギャングたちに再会するために続編を読もう。
2009.09.27
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最終回官僚に対する風当たりの強いこのご時世に官僚たちの活躍を描くなんて、最悪のタイミングだったかも知れない。でも全体を通して描かれていたのは、敗戦から立ち直ろうとする日本がアメリカに翻弄された現代史だったと思う。最終回は、沖縄返還交渉で繊維の輸出規制を見返りにする密約があったことが描かれている。これは、当時の通産大臣にさえも知らされなかった話であったらしく、沖縄返還交渉とは別に繊維交渉が続けられていたと言う。先の総選挙で民主党は、自民党政治と官僚を同列に描き、脱官僚をうたって勝った。でも問題は政か官かではなく、それが密室で行われてきたことにある。政権交代によって、こうした密室政治の実態が暴露されることに期待したい。
2009.09.23
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その日のまえに重松清クラスメイトや家族の死(その日)をめぐる7編の連作短編集。同級生にあまり好感を持たれていない女の子の死をめぐる小学六年生の葛藤を描いた「ひこうき雲」。夫に急死された教師が、元教え子のDV被害に気づく「朝日のあたる家」。ガンを宣告された男が、子どものころ友人が溺死した海岸を訪ねる「潮騒」。ガンを疑われる母を心配しながら、素直になれない息子の心境を描いた「ヒア・カムズ・ザ・サン」。余命わずかの妻と、思い出の町を訪れる「その日のまえに」。そして「その日」「その日のあとで」が時系列に描かれる。死というのは誰にも訪れる。特別だけど特殊なことではない、ということを考えさせられる。「その日のあとで」の妻の遺書に泣いた。大げさな話ではなく、自分自身や周囲の人たちの「その日」に対する覚悟を持って生きなければ、と思う。
2009.09.18
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彼氏なし、月給約19万円の派遣社員の勝子(田中麗奈)は、「ベルサイユのばら」の世界を妄想しながら冴えない毎日をやり過ごしています。そんなある日、会社に関西弁をまくしたてる得体の知れない社長ジュニア(徳井義実)がやってきます。その理不尽なコストカッターぶりを目にした勝子に、民衆のために立ち上がるオスカルの声が聞こえます。心にオスカルが宿った瞬間、勝子は・・・!?(番組公式サイトより)派遣労働がドラマに取り上げられることは珍しくなくなった。それだけ「派遣」という労働形態が定着してしまったということなのだろうけど、単に安上がりな労働力として、あるいは雇用の調整弁として「派遣」が拡大するとしたら、この国の産業、経済はどんどん先細りになってしまうのではないだろうか。という難しい話ではなく、このドラマは、「ベルサイユのばら」のオスカルに憧れ、それゆえに強い正義感を持つ派遣社員の勝子が会社の様々な理不尽に立ち向かうという物語。正社員の給料が高い、と憤る勝子に同じ派遣の静田が「正社員の給料が高いんじゃなくて私たちの給料が安いの」という場面がある。まともな感覚を持って作られていると感じる。「ベルばら」は私が小学校高学年のころの作品。宝塚の「ベルばら」がブームになったのは中学生のころ。女の子たちは熱狂していたけど、私はまったく無関心だった。そんな私でも、勝子を鼓舞する「弾こめ、進撃」というオスカルのセリフに、気分が高揚してしまった。さすが30年以上読み続けられる作品というべきか。私のようなおじさんでも、読んだらはまってしまうかも。勝子が憧れる女性役員、わけありっぽい管理部社員、勝子がブログで批判したために反論のメールを送りつけてきた少女漫画家・・・キャラはそろっている。今後、どんな展開を見せてくれるだろうか。ベルサイユのばら(全5巻セット)ベルサイユのばら(文庫版) 1-5巻 漫画全巻セット
2009.08.30
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赤い指 東野圭吾東野圭吾の直木賞受賞後第1作の文庫化少しあらすじ前原昭夫は夫婦関係の冷え切った妻、その妻によって過保護に育った中学生の息子、痴呆の老母と暮らしていた。ある日、息子が小学生の女児を絞殺したことがわかる。昭夫は警察に通報しようとするが、妻に止められ隠蔽工作をすることになる。警視庁の刑事松宮は所轄署の加賀恭一郎とともに、女児殺害事件を担当することになる。恭一郎は、松宮の恩人である加賀隆正の息子だが、死期の近い隆正が入院している病院にまったく姿を見せていなかった。感想一応、ミステリーの体裁をとっているが、作者は読者の裏をかくというミステリーの手法そのものには興味がないのではないかと思った。隠蔽工作を加賀恭一郎が暴いていくという展開だが、隠ぺい工作そのものが稚拙で、加賀によらなくてもいずれ破綻することは目に見えているし、終盤に明らかになる老母の秘密も途中で何となくわかってしまう。そんなことよりも、作者の書きたかったのは家族の様々な形なのだろう。前原昭夫と老母、昭夫と妻、その二人と息子、加賀隆正と別居したまま亡くなった妻、そして本当の親子のように結びついた松宮と加賀隆正・・・。それを最後まで飽きがこないように読ませるためにミステリーの手法を使っている、というように見える。関係を拒絶しているように見える加賀恭一郎と隆正の秘密が最後に明らかになる。ちょっとかっこ良すぎるんじゃない?という感じもあるが、ここに作者の美意識が見えるような気がする。表面的な言葉や態度では推し量ることのできない強い結びつき。それを信じることができたら、どんなに素晴らしいだろうと思う。
2009.08.23
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東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ 遙洋子2000年(04年に文庫化)のベストセラーなのでタイトルぐらいは知っていたけど、フェミニズムにあまり興味はないのでスルーしていた。それが、本屋でちらっと立ち読みをしたら、止まらなくなってしまったので結局購入して一気に読んだ。最近、本でこんなに興奮したり感動したりしたことはない、というぐらい面白かった。大学に復学して女性学を学んでいた著者が、東大に留学して上野教授からフェミニズム社会学を学んだ体験を綴っている。その動機は、トークショウでの議論に勝てないこと、と言うのだから、まさにケンカを学びに行った感じではある。でも、そこは日本の学問の頂点であり、「学問のプロを育てるところ」である。外国からの留学生が「私の知らない日本語を知っていた」という世界である。不用意な言葉を吐けば「わからない。どういうこと?」と追求される。そう言われてみれば、普段、どれだけ不用意に「言葉」を使っているのか思い知らされるし、学問というのは「言葉」なのだとあらためて気づかされる。「オリジナルは情報の真空地帯には発生しない」「知性も教養もあるに越したことはない」などと上野教授の言葉が引用されている。要するに、勉強しろということ。待てよ、「要するに」なんて物事を省略するようなことを言って良いのだろうか?と私は疑心暗鬼に陥る・・・というぐらいエキサイティングである。学生時代にこういう世界に触れていれば、もっと勉強したかも、なんて言ったら「わからない。どういうこと?」と問いつめられるだろう。なぜ、今は勉強できないと言うのか、と問われたら、私は答えることができない。私が悪うございました。そう言えば遙洋子は私と同世代だ。よし、学ぶぞ・・・できる限り。
2009.08.17
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【送料無料選択可!】オペラ座の怪人 [通常版] / 洋画監督 ジョエル・シューマカービデオで鑑賞少しあらすじ19世紀パリのオペラ座。プリマドンナに幕が落ちるという事故が起き、激昂した彼女が降板する。代役に起用された若いクリスティーヌ(エミー・ロッサム)はその美貌と歌唱で人気を博する。劇場の地下室に住む怪人ファントム(ジェラルド・バトラー)はクリスティーヌを住処に連れて行く。彼女はファントムを亡くなった父親の言う「音楽の天使」と信じていた。クリスティーヌは幼馴染のラウル(パトリック・ウィルスン)との愛を深める。それに嫉妬したファントムは上演中の舞台に現れ、観客の上にシャンデリアを落として劇場を火の海にする。彼女を連れ去ったファントムをラウルが追う感想こういう作品は劇場でゆったりと観るべきなのだと思う。オペラのシーンは豪華で見ごたえがあるのだけど、テレビ画面では物足りないし、本来が絵を観せ、音を聴かせる作品であるがゆえにストーリー展開が遅く、やや退屈でもある。舞台も旧作の映画も観たことがないのだけど、劇場の地下室とか、ファントムの生い立ちとか、何となく既視感を覚えるシーンが展開する。古典的なドラマツルギーに乗っ取っているということなのだろう。ファントムの正体が割りと早くわかってしまうのだが、ミステリー性よりもファントムの心情を描くということを重視したのだと思う。主演のエミー・ロッサムがとても魅力的。歌がうまいだけではなく、清楚な雰囲気がとても良い(日本人受けするタイプですね)。
2009.08.15
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終末のフール 伊坂幸太郎8年後に小惑星が衝突して人類が滅亡すると予告されてから5年後、パニックからは抜け出し小康状態になってきたヒルズタウンの住民たちの物語。8つの物語が少しずつ絡み合って描かれる短編集。小惑星が衝突して人類が滅亡する3年前という設定は何だか無理があるなあ、と思ったが、作者自身が巻末の「謝辞」でそのことにふれている。まあ虚構のない伊坂作品なんて存在しない(たぶん)わけで、その虚構を使っていかにおもしろいものを見せてくれるか、というところにこの作家の真骨頂がある。3年後にはみんな死んでしまう、という異常な状況で、ある人は和解し、復讐しようとし、許し、恋をしようとし、新しい命を授かり、という物語が展開する。そこに一貫しているのは「生きる」ということに寄せる絶対的な価値観である。最後の短編「深海のポール」で、いじめにあって、死にたいと言った主人公に父親が「自殺なんてしたら、ぶっ殺す」と言い放つ。先天性の病気の子どもを持つ土屋は「生きられる限り、みっともなくてもいいから生き続けるのが、我が家の方針だ」と言い切る。たとえ3年後に滅亡すると言われなくても、その境地に達したいと思う。
2009.08.14
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ロスジェネはこう生きてきた 雨宮処凛雨宮処凛の自叙伝「生き地獄天国」とほぼかぶる内容だが、ジェネレーション(世代)という視点で書かれているので、1975年以降の日本現代史という趣でもある。少し前の朝日新聞にロスジェネの衆議院選候補者というのが取り上げられていて、てっきり社共か、ひょっとしたら民主の候補なのかと思ったら自民党だった。まあロスジェネの人たちがみんな同じであるわけもないので不思議でもなんでもないのだけど、ジェネレーション(世代)という括り方に意味があるのだろうか、という疑問も持った。とは言え、人が、生まれ育った時代に制約を受けるのは事実だろう。私は、と言えば、団塊世代より15年ほど後、ロスジェネの走りである団塊ジュニアより10年ほど前の世代である。まあ地味な世代と言えなくもないが、日本が貧しさを徐々に脱していく過程とバラ色の未来という幻想が崩壊する過程をともに見てきた世代だ。本書を読んでいると、ロスジェネは子ども時代からある程度の豊かさの中にあったのだと感じる。いじめや体罰という悲惨な体験があったにしても、である。私たち以前の世代はアレルギーよりも寄生虫や感染症の方が大きな問題で、子どもはいつも青洟をたらしていたものだった。それはともかく、大きな時代の転換点は1995年だったようだ。私がはっきり記憶しているのは、阪神淡路大震災があったこと、地下鉄サリン事件があったこと、日経連が「新時代の日本的経営」を発表したこと。世界で最も安全な社会だというのが勝手な思い込みに過ぎないことが明らかになり、一億総中流という幻想を根底から覆すと財界が宣言した年である。その後の日本には、どんな社会をつくるのか、というヴィジョンが決定的に欠けている。産業をどうするとか、教育をどうするとかという一貫した政策がないのである。ロスジェネの多くが、安定した職業に就けず、購買力を持てず、それゆえに結婚できないという状況にある。この状況を変える闘いは、これからの日本を立て直す闘いなのだ。
2009.08.12
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走り、叫び、書いた。新聞記者たちの激動の一週間!ソニー・ピクチャーズエンタテインメ クライマーズ・ハイ デラックス・コレクターズ・エディション監督 原田眞人テレビで鑑賞「クライマーズ・ハイ」は佐藤浩市主演のNHKドラマで観たのが最初で、その後横山秀夫の原作を読んでいる。したがってこの作品に対してはやや高いハードルを課さざるを得ない。ましてやCMで何度も中断される地上波放映でもある。もちろん原作そのままで劇場版映画の時間枠に収まるわけはないので、取捨選択がされている。印象だけで言うと、悠木(堤真一)がやたら喧嘩っ早いのと、社長(山崎努)の異様さが強調されている感じ。カットバックの時制がわかりにくかった(予備知識なしに観ると意味がわからないのでは)り、ニュージーランドのシーンは中途半端だったり(カットされているのかな?)という問題は感じる。また事故原因のスクープを採用するかどうかというクライマックスのシーンなどはドラマ版の方が緊張感があったと思う。でもこの作品は映画的には成功している。全体に、言葉よりも動きを強調した印象で、特に堺雅人と尾野真知子が実に魅力的に演じている。カメラの使い方も映画の大画面を生かしていると思う(テレビで観て言うのもなんだが)。クライマーズ・ハイ
2009.08.09
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監督 細田守アニメ「時をかける少女」の細田守監督の最新作にして初のオリジナル長編アニメ少しあらすじ高校2年の夏休み、天才的な数学力を持ちながらも内気な性格の小磯健二は、憧れの先輩、夏希にアルバイトを頼まれる。アルバイトというのは、長野にある彼女の田舎に一緒に行くこと。そこには夏希の曾祖母・栄の誕生日を祝うために個性的な親戚がたくさん集まっていた。健二は突然、夏希から「フィアンセのフリをして」と頼まれてしまう。 その夜、彼の携帯に謎の数字が連なったメールが届く。数学が得意な健二は夢中になってそれを解読する。しかし翌朝、世界は大きく一変していた。健二を騙る何者かが、世界を混乱に陥れていたのだ。感想スマートで気の利いた前作と比べると、やや力が入りすぎている印象もあるけど、アニメーションという自由度の大きいメディアの特性を生かした作りは、作者の才能の大きさを感じさせる。グローバリゼーションが拡大すると、思いもよらない世界の果てで起きた事件が私たちの生活に大きな影響をもたらすという可能性がある。バーチャル世界の混乱が現実生活をかき乱すという本作の展開はそういうことの比喩だと思った。そして、それに対抗するのが家族の結束というアナログパワーだけだとしたら大時代的で白けてしまうだろうけど、数学の天才少年(?)、最新のテクノロジーを駆使する少年、花札の得意な女の子、漁師や自衛官や電器屋のおじさんたちが力をあわせる姿はすがすがしい。私が花札のルールを知らないのと、ちょっと登場人物が多すぎてわかりにくいところがあるのが残念。でも、細かいことを気にしなくても楽しめる。
2009.08.08
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そうだったのか!現代史 池上彰著者は、NHKの「週刊こどもニュース」のお父さんをやっていた元NHK記者の池上彰さん。第二次大戦後の世界史から18のトピックを取り上げて解説している。大戦後の世界を大きな流れでみると、東西冷戦が始まり、その政治力学のもとで朝鮮戦争やベトナム戦争が起こされ、やがてソ連が崩壊したことで冷戦は終結したものの、力の均衡が崩れたことが旧ユーゴ紛争や湾岸戦争の引き金になった、という感じになるだろうか。各々の出来事を個別に解説しながら現代史の流れを浮き上がらせる本書の構成は見事だと思う。「過去に目を閉ざすものは結局のところ現在にも盲目となる」というのは、元ドイツ連邦大統領ヴァイツゼッカー氏の言葉だが、本書を読んでいると人は同じ過ちを繰り返していることがよくわかる。インドシナ戦争でのフランスの過ちが、アメリカによるベトナム戦争、ソ連によるアフガン戦争、さらにイラク戦争でも繰り返される。文化大革命という過ちがポルポトによって繰り返される。「民族浄化」というナチス時代を思わせるような蛮行がボスニアで起こされたのは1992年という「つい最近」のことである。本書によると、文化大革命やその権力闘争の原因となった「大躍進政策」について報道することは中国ではタブーとなっているらしい。でも何人もの閣僚が「大東亜戦争はアジア開放のためだった」などという発言を繰り返す今の日本に、それを批判する資格はないと思う。正も負も含めてきちんと歴史を直視するという立場を取らなければ、中国の政治力には対抗できないだろう。本書が取り上げているトピックの中で、唯一「夢」を語ることができるのはEU(ヨーロッパ連合)に関するものだ。もちろんこの壮大な実験は始まったばかりで、成功するという確信はない。現実にドイツやフランスでは産業空洞化が起きているし、たぶん旧東欧諸国では経済格差や極端な拝金主義などの問題が起きているのではないかと思う。しかし、繰り返された歴史に学んだ「もう戦争はまっぴらだ」という思いが根底にあることを信じたい。そうだったのか!現代史(パート2)
2009.08.02
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