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2019.03.17
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カテゴリ: 小説・ノベル
魔眼の匣の殺人を読みました。



魔眼の匣の殺人 [ 今村 昌弘 ]


【あらすじ】
前回の娑可安(さべあ)湖集団感染テロ事件。葉村譲(はむら ゆずる)と剣崎比留子(けんざき ひるこ)は辛くも生き延びることができました。
比留子もミステリ愛好会に加わり、ごく普通の日常が帰って来ました。
一方で二人は、娑可安湖での事件の背後に潜む組織「班目機関(まだらめきかん)」を追っていました。


一向に手がかりがつかめない中、オカルト雑誌に「娑可安湖での事件はすでに予言されていた」という記事を見つけました。
胡散臭いと思いながらも、記事に「M機関」という言葉が出て来たことが気になります。
班目機関のことは一般に公開されておらず、ごく一部の者しか知りません。


人里離れた村のさらに奥、真雁地区へと足を運ぶ二人。
ここは「魔眼の匣」と呼ばれ畏れられている施設でした。
時を同じくしてガス欠になってしまったバイカーや訳のありそうな高校生など、複数の男女が来訪して来ました。

魔眼の匣の主である老女サキミは「あと二日のうちに、この地で男が二人、女が二人、四人が死ぬ」と告げます。
外界との接点だったつり橋が焼け落ち、来訪者たちは閉じ込められてしまいます。

そして予言をなぞるように一人が土砂崩れに巻き込まれて死亡します。
予言は本当なのか? 残された者たちに恐怖と混乱が巻き起こります。


そんな中、十色という女子高生が自分も予知能力があることを告白し、さらに混乱が深まります。
残り48時間。これは予言なのか、それとも予言を利用した計画的な殺人なのか?
葉村と比留子は生き残るために推理を開始するのでした。




【再来のクローズドサークル】
前作に引き続きクローズドサークルの中で起こる殺人事件です。
作中で述べられていますが、クローズドサークルは犯人にとっては良い状況ではありません。

閉鎖空間と言ってもいずれは誰かが救助に来ます。
そこで殺人事件が起こっていれば、当然そこにいた人の中に犯人がいます。
警察に徹底的に調べられ、逃げおおせることは不可能に近いでしょう。

今回閉鎖空間になってしまったのは予想外の事態です。
計画を中止すればいいのに、そこまでして殺人を犯すのはなぜか?

よほど強い恨みと計画性があるとも言えます。
その一方で、恐ろしい仮説も成り立ちます。
それは、予言が本当だとしたら「同性が二人死ねば、自分は助かる」という動機による無差別殺人です。

これにより一同の緊張感と疑心暗鬼は一気に高まります。
トリックや推理といったクールな面と、予言や占いを信じるという人間臭い面が絶妙なさじ加減だったと思います。
トリックは予想できても動機が分からない。つまり誰もが犯人である可能性があるという状況は緊張感がありました。




【息の詰まる頭脳戦!】※ネタバレあり。
十色は制御のできない予知能力に振り回され、人目を避けるようにして生きて来ました。
魔眼の匣を訪れたのも、同じ能力を持つサキミに会えば道が開けるかもしれないと考えたからでした。

彼女は初対面ながら比留子に憧れのような感情を抱き、親しくなります。
身の回りに事件を引き寄せてしまう体質を持つ比留子もまた、能力に翻弄されながらも明るく生きようとする十色に自分を重ね、気を許しているようでした。


ささやかな希望もむなしく、十色は何者かによって殺されてしまいます。
大きな衝撃を受けながらも比留子が取った手段は「偽装自殺」です。
十色を失ったショックから滝に身を投げたように装い、葉村の部屋に隠れて推理を続けます。

この「自殺」により、女性の死者は二人になりました。
これ以上女性が死ねば予言が外れたことになります。
もし犯人が予言になぞらえて殺人を犯しているなら、あるいは予言を信じ切っているならば「予言が外れる」というのはあってはならないことです。


こうして犯人の動きを牽制しつつ、比留子は推理を続けます。
これまでの彼女は事件を引き寄せてしまう体質ゆえに、何度も殺人事件に巻き込まれています。
比留子が推理をするのは犯人を早く捕まえて自分の身を守るため、つまり守りの推理でした。

しかし今回は犯人の動きを阻害しながら、積極的な推理を展開します。いわば攻めの推理です。
結局のところ男女二人ずつが死に、予言は成就します。
つまり残ったメンバーは安全であり、あとは救助を待つばかりでよいという状況で比留子は犯人を暴くために推理を披露します。
そこには一時とはいえ心を通わせた十色が無残にも殺され、未来を絶たれたことに対する憤り。犯人に対する怒りがはっきりと表れています。


前作は状況に翻弄され、生き残るために知恵を絞ったような感じでした。
一方で今回の攻めの推理は、比留子の強い意志を感じ、前回とは違った味わいでした。




【傷心の名探偵に休息はない】
終章、探偵の予言は衝撃でした。
犯人が見つかってやれやれだぜと思っていたところへ突き刺さる内容でした。

前作屍人荘の殺人が実写化されることですし、本作実写化の折りは、このシーンはスタッフロールの後にやっていただきたい。
ある意味謎解き以上に背筋の寒いお話でした。



葉村と比留子はワトソンとホームズの関係を意識していて、折に触れて言葉に上ります。
ですが実際はそううまくは行っていないようです。

葉村が偽装自殺をし、比留子が堂々と推理したほうが効率が良かったはずです。
でもそれができなかったのは、相手を危険に晒すなら自分が引き受けた方がましだという気遣いであり遠慮です。


まだ相棒とは言えないようなぎくしゃくした空気の中、魔眼の匣の殺人は幕を閉じます。
しかし、最後の葉村のモノローグが衝撃でした。
数か月後、二人は新たな事件に巻き込まれます。

それはサキミが予言し機関内で大きな問題になった、班目機関でも特に極秘の施設で起こった大量殺人事件。
その後の事件に二人は関わることになるのだというのです。


ファンには心憎い「予言」を胸に、次回作の発表を待ちましょう。




【関連作品】


屍人荘の殺人 / 今村昌弘 【本】
前作屍人荘の殺人です。
クローズドサークルのやりにくくなったご時世ですが、驚きの理由で閉じ込められます。
肝心のミステリー部分もしっかりした傑作です。
紹介記事はこちら。






兇人邸の殺人 [ 今村 昌弘 ]
3作目、兇人邸の殺人です。
紹介記事は こちら。



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最終更新日  2021.08.15 20:23:59
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