日本酒バー開店日記

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朱一

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2011.12.07
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昨日は読書会、第2回酔読会でした。

お知らせしていたように今回のテーマはクリスマス・キャロル。

特に出版社等は指定しなかったので、今回もいろいろな版が集まりました。







新潮社、集英社、筑摩文庫(クリスマス・ブックス)、光文社、青空文庫(スマートフォン)、

そして原書が2冊。

ちなみにある参加者の方から作中に出てくるミンス・パイ、プディングも差し入れてもらいました。





全員でおいしくいただきました。

クリスマスらしくていいですね。

ありがとうございました(^^)






新潮社版は村岡花子訳で、たぶんこれが一番普及しているような気がしますね。

しかし、いかんせん訳が古い。

翻訳には賞味期限があるとはよく言ったものです。

私も新潮社版で読んだのですが、

前半部分の訳が固いというか回りくどいというか、

何せなかなか読み進めていくのがしんどかったです。

しかし、第二の幽霊(精霊)の途中あたりからようやくテンポがよくなってきて、

最後はほかの訳よりも格調高く、かえってよかったくらいです。



ある意味で一番注目だったのが、

ちくま文庫のクリスマス・ブックス収録の小池滋訳のものです。

小池氏によると、



なんと落語調で訳を試みたというのです。

出だしがちょっと衝撃的すぎますよ。

(以下、原文ママ引用)





『エー、あい変わらずバカバカしいお噂で。

 イの一番に申し上げておきますが、マーレーは死んでいます。こりゃまったくの間違いのないことでして。埋葬証明書には牧師さん、書記、葬儀屋、喪主のサインがちゃんとありました。スクルージのサインもあります。何にせよ、この男がサインをしようと考えたことなら、取引所で信用されること疑いなしです。だから、マーレー爺さんは間違いなく死んでいます。「ドア釘みたいにおっちんでる」って、よく言いますな。

 というわけで、もう一度ダメ押しに大声で言わせて頂きやしょう。マーレーはドア釘みたいにおっちんでるんです。』







ね(^^;

こりゃ、驚きですよ。

これにはやはり他の参加者の皆さんも衝撃を受けていましたね。



まあ、落語調はおいとくとして、

他の版の訳で一番こなれてるなと思ったのが、

やはり一番新しい光文社の古典新訳文庫でしたね。
定評あるシリーズですから、それも納得。

でも、それぞれ部分部分によって良いところがあったり、

これはどうだろうと思うところがあったりでこうして訳の違いを並べてみることができるのが、

海外翻訳文学の面白みでもあります。





そして、気になったところは原文ではどうなっているんだろうということで、

英語版にもあたってみました。

私は図書館で借りてきたのですが、

もう一人の方はペーパーバックを購入されていました。

私が一番気になったのは、村岡訳での「幽霊」という表現。

過去、現在、未来の幽霊がスクルージをそれぞれ案内するわけですが、

どうもそれが幽霊というのではしっくりこない。

それで気になって調べてみたら、"spirit" なんですね。
時々"ghost"とも記されていますが、基本的にはspirit。

私の読んでいた村岡訳では「幽霊」でしたが、

他の訳では「精霊」と訳されていてそうされていれば最初からわかりやすかったのですが、

たぶん出版された(≒訳された)1952年では、

精霊という概念というか言葉が日本にはまだ浸透していなかったせいなのかもしれませんね。

それで言うと、出だしの

MARLEY was dead, to begin with.





『第一にマーレイは生きていない。』(新潮社文庫)

『まず第一に、マーレイは死んでいた。』(集英社文庫)

『イの一番に申し上げておきますが、マーレーは死んでいます。』(ちくま文庫)

『マーリーは故人である。』(光文社古典新訳文庫)

『先ず第一に、マアレイは死んだ。』(青空文庫)

と色々なところにも着目です。

deadをどう訳すか。

一番古い青空文庫の森田草平訳は1929年(昭和4年)。

その頃、完了形的な日本語はまだなかったのかもですね。

原文の意をそのまま忠実に表しているのは光文社古典新訳文庫の池央耿訳ですが、

これはちょっと情緒がないというか、文学的にはどうかなあと思うので、

個人的に一番好きというか強いて選べと言われたら集英社文庫かなあ。


まあしかし、こうして何度も何度も版を重ね、訳を重ねているということは、

このクリスマス・キャロルがいかに読まれ継がれているかという証ですよね。

童話として若い頃に読んだ時はまだ世間のことを知らないから、



「へえ、悪い人が心を改めてよかったなあ、クリスマスってやっぱりいいなあ」



くらいにしか思わないかもしれませんが、

大人になってから色々と世の中の汚い部分も知ってから読み直してみると、

単なる童話ではなく何かと色々と考えさせられる作品です。

ディケンズがこの作品を書いた1843年のイギリスは産業革命の真っただ中でした。

急速に伸びていく経済の中で、

貧富の差は拡大し拝金主義者がはびこるようになった社会に対して、

ディケンズは風刺的な意味合いも込めてこの作品を書いたのでしょう。

貧富の差が拡大し、拝金主義が世を席巻しているという点では、

現代も似たような状況だといえるかもしれません。



金の亡者のスクルージに対して警鐘を鳴らすような場面が、

第二の精霊の章の最後のあたりで出てきます。



現在を司る精霊がみすぼらしい子供を二人スクルージに見せ、

男の子の名前は「無知」であり、女の子の名前は「貧困(村岡訳では欠乏)」である、

と紹介し、この二人に気をつけろ、特に男の子の方に、

さもなければ「破滅」が待っているというようなことが書かれています。

参加者の中にはこの場面がよく分からないという方も何人かおられましたが、

この部分こそがクリスマス・キャロルの核心ではないかという気もします。

原文では無知はIgnorance、貧困(欠乏)はWantです。

辞書的には貧困で正しいかもしれませんが、

Wantは欲望、あるいは欲することという風に変えた方が理解の助けになると思います。

スクルージという人間を見た場合、まさにこの二つこそが破滅へのキーワードとなっています。

スクルージは金の亡者で自分という人間以外は信じず、

貧しき人、弱き人、あるいは善意というものに対してまるで無関心です。

それらを知ろうとしないという意味では「無知」でいいのかもしれませんが、

全体を見た場合は無関心とした方がしっくりくるような気がします。



少しそれましたが、

他者に対して無関心であり、そして自らの欲望にのみ忠実であろうとするスクルージに対して、

それが改められなければ待っているのは破滅だという警告が

二人の子供の場面には表されているのだと思います。

スクルージは言うまでもなく、世間一般のこうした人たちの代表です。

わたしたちも気を付けなければなりません。

誰の心にもスクルージが住んでいないとは言い切れないのですから。

人の心が殺伐として欲望のみが暴走し、

他人に対して無関心になってしまっている現代社会。

他者への無関心がこれほどまでに広まってしまっているこの状況でこそ、

このクリスマス・キャロルは改めて読まれるべきではないかと、

そのように思います。





余談になりますが、

第二の精霊が去った時点で既に改心したかのように見えるスクルージですが、

なぜ未来の精霊が現れて彼のみじめな死を見せなければならなかったのでしょう?

これはキリスト教圏の作品ではよくある話で、

この物語自体がイエス・キリストの物語をなぞっているからなんですね。

イエスは神の子でありながら十字架につけられ死ななければならなかった。

なぜか?

死がなければ、復活もないからです。

死と復活。

これこそがキリスト教の要です。



第三の精霊が去り、スクルージが目を覚ましたのはクリスマス当日です。

目を覚ましたスクルージはこう言います。



『「私は過去と現在、そして未来に生きるのだ」』



と。

これは新約聖書、ヨハネ黙示録の



『かつておられ、今おられ、やがて来られる方』

(ヨハネの黙示録4章8節)



と対応していると考えていいでしょう。

クリスマスというのはイエスの誕生を祝う日です。

産業革命の頃はまだニヒリズムが台頭してはいませんでしたが、

時代としては人間の勝利の時代であり、

いわば人間中心の時代でしたから、

そんな時代にあってクリスマスくらいはイエスのことを思い起こしましょうよ、

クリスマスを契機に信仰に立ち返りましょうよ、

というディケンズのメッセージでもあったのかもしれません。




最後に落語調の小池滋訳で〆てもらいましょうか。




















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Last updated  2011.12.07 14:55:14
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くーる31 @ 相互リンク 突然のコメント、失礼いたします。 私は…
金沢の音楽関係@ ニセ取材 2010年10月27日の21時、国際ジャーナルの…
高知の名無し@ Re:ニセ取材?(02/02) 昨日、国際ジャーナルの取材とTEL 俳…
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