ふたり暮らしの手帖
1
土曜の夜の通例で、夜更かしするままに何となく、BSで見始めた映画でした。ピンと来なければ寝てしまおうと思っていたのだけれど、とんでもない!映画が終わるころにはティッシュの山が。一夜明けて今日は、泣き腫らした目で、人様には見せられない顔になってしまっています…公開後4、5年は経つ作品だと思いますが、確かアカデミー賞の候補になっていて、素っ気ないほどシンプルな、それゆえにストレートなタイトルが印象に残っていました。「In America」…文字通り、ある家族が、オンボロ車に乗ってアメリカへの国境を越える場面で、映画が始まります。10歳と4歳の姉妹と、その父母の4人家族。故郷のアイルランドから、摩天楼がきらめくニューヨークへ…俳優志望の父と、その夢を支える母、そして幼い姉妹の生活は、文字通り「ゼロからの出発」。最底辺の人々が暮らすボロアパートに居を構えた彼らの姿は、大都会の中ではあまりにも弱く、小さく見えて、いつか、現実の厳しさがその絆を奪ってしまうのでは…と、ハラハラしてしまうほど。そして、この貧しくも愛情で結ばれた家族には、末の男の子の死という辛い過去が、暗い影を落としていた…邦題のサブタイトルとして掲げられている「三つの小さな願いごと」というのは、この、フランキーという弟の思い出に端を発し、映画の語り手である長女にとって、重要な意味を持つキーワードなのです。この「願いごと」が本当に、一家の物語に巧みに盛り込まれていて、彼女のナレーションの最後の最後の一言にはもう、「やられたーっ!」という感じでした。「痛み」を共有することは、喜びを分かち合うことの何倍も、何十倍も難しい。この映画の中心には、主人公一家の背負った、心の傷という重荷が据えられています。傷の痛みを、すぐ隣にいる人に理解してもらうこと(あるいは、隣の人の痛みを理解すること)は、こんなにも困難で、苦しい…それは、愛情の有無とか、過ごした年月の長短とは関係ないこと。むしろ、愛があるからこそ、自分の苦しさを安易に背負わせられない、と思ってしまう。それが一層、辛さを増してしまう。そういう体験は、レベルの違いはあれど、生きていれば誰にでも思い当たることだと思うのです。私も例外ではありません。この映画を観ていて、強く胸を揺さぶられたのは、主人公一家がそれぞれに、こういう苦しみと向かい合いながら生きていく姿。そして、苦しみの先に待っていたものの、かけがえのない輝きでした。映画の終盤に出てきた献辞や、クレジットを見て、もしかして…?と思ったのですが、調べたらやはりこの映画は、アイルランド出身のシェリダン監督が、2人の娘とともにアメリカへ移住した時の実体験を基に作ったものだそうです。(脚本に、二人のお嬢さんが共同でクレジットされています)上手くいかない父のオーディション、熱帯夜に、皆で映画館に観にいく「E.T.」、ボロアパートの奇妙な住人との出会い…そんな日々の出来事の積み重ねから、やがて家族に訪れる転機。大袈裟に言えば、人生を歩くことに疲れてしまったような時、もう一度この物語を観直したいと、そんな風に思った素晴らしい映画でした。イン・アメリカ/三つの小さな願いごと
2008.04.13
閲覧総数 124