・歴史 金融業界のエースが、「人文学」を学ぶ理由というライフハッカーの記事ではプライベートエクイティファンドVerdadの創設者でForbsの30 Under 30に選ばれたダニエル・ラムスセンが紹介されていて、彼はハーバード大学で人文学と歴史を勉強して、人文学には金融に通じるものがあると信じていて、「歴史と文学の学生は、1つの存在を複数の観点から理解する訓練を受けています。そのため、株式市場の流れが引き起こす複雑極まる人間社会の力学を正確に理解することができます」と言ってインターンシップ・プログラムに人文学部生を積極採用しているそうである。1つの存在を複数の観点から理解する訓練を受けているというのはどういうことかというと、たとえば歴史では南京事件に対する日本と中国の見方が違うように解釈の違いは頻繁に起きるし、歴史を勉強する人は一冊の本に書いてある情報を鵜呑みにせずに、様々な意見の中から根拠と道理を見つけ出そうとするわけである。文学でもひとつの作品を批評する方法は様々で、作家論やらジャンル批評やら構造主義批評やらフェミニズム批評やらといった多面的な批評とそれに対する反駁を通じて作品への理解を深めるわけである。1つの存在を複数の観点から理解する訓練を受けたから複雑極まる人間社会の力学を正確に理解することができるというのは言いすぎだけれど、歴史は繰り返すし、人間の心理の動きにはパターンがあるので、複数の観点からリスクを理解して、どういうシナリオならどういう行動をとるべきかというマルコフ連鎖的な未来予測のパターンを立てられるというのは投資の際の強みになる。金融トレーダーがアルゴリズムに駆逐された現代では投資家として頭角を現すのは難しくなっているけれど、ラムスセンは金融業だから金融の知識がある人を雇おうというような普通の人が考えるような短絡的に物事を見方をしていないからこそ若くして成功したのだろう。 投資では四半期決算だので短期間に些細な利益を増やすより、中長期的な社会の複雑な変動を洞察して大波に乗るほうが大事である。社会に役立つ企業を見極めて長期的な投資をしたのが読書家として知られるウォーレン・バフェットである。その逆をやったのが東芝で、自分の任期の間だけ儲かれば後はどうでもいいと思っている経営陣が短期の業績水増しにチャレンジしたせいで長期的な成長と信用を失った。 1つの存在を複数の観点から理解することは日本企業のようにイエスマンで固めた上意下達の組織では欠けている部分といえる。異論を認めない組織だと発想も行動も硬直化して時代の変化に対応できなくなる。日本企業は資格取得とかの実用的な知識を即戦力としてありがたがる半面、すぐに役に立たない歴史や思想に関する教養は軽視していて、そのようにして選別された教養がないビジネスマンが専門分野や社内政治にだけ精を出して出世して企業のトップに立ったとき、会社の内部より社会に目を向けないといけないことにようやく気づいても遅くて、社会の複雑な動きを理解できずに会社が傾くことになる。たとえば日本で少子高齢化が予測されていたにも関わらずに人材確保しようとせずに就職氷河期世代の非正規を便利な雇用弁として使い捨てて、今になって人手不足だの中堅がいないだの新卒が採用できないだのと騒いでいる経営者は社会を見る目がないアホである。そういうアホに限って外国人移民を入れれば人手不足が解決すると移民を万能薬かのように言うけれど、日本企業の人権軽視の奴隷待遇は世界中に知れ渡っていて、優秀な人ほど日本を敬遠している。YouTubeにあるJetro Global Eyeの動画だと、ポーランドのワルシャワ大学の日本学科は入試倍率は20-30倍で日本語教育は欧州トップクラスの質だけれど、学生は誰も日本企業で働きたいと思っていないと特集していた。人の行く裏に道あり花の山という投資の格言があるけれど、他の会社がリストラをして採用を絞っている不景気のときこそ優秀な人材を囲い込むチャンスだったのに、他の会社と足並みをそろえて不景気なときに足元を見て待遇を悪化させて、人手不足が顕在化してから慌てて優秀な人材を集めようとしても遅いのである。