Apr 26, 2005
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「もしも人生が店だったら」。その仮定に基づいて、この物語は綴られている。
主人格サトーと3人の副人格が切り盛りするバー「サトー」を舞台に、
彼等を取り巻く様々な人々との、人間物語。
初めて読まれる方は、こちら

仮想酒場 「人生のバー」について

***

「俺、どのくらい寝てた?」

カーテンを捲って、サトーがカウンターの方に出て来た。
あまり質の良い眠りではなかったらしく、
起き抜けは芳しくない。首元に手をあてがっている。



面倒臭そうに道化者は応えた。

「まあ、そう言ってやるな。実世界で3~4時間ってとこか。
正確には分からないが。」

詩人も面倒臭そうだったが、それでも柔らかく応えた。

「そうか。」

道化者の隣に、サトーは寝起きの馴染まない身体をどっかりと下ろした。
しきりに顔を拭って何か話そうとするのだが、うまく言葉がまとまらない。
長年勤めた会社を、突然解雇になって初めて迎える無職の朝。
サトーはそんな気分だった。

「時間は存在しないか。」

理解していない言葉を話すのは、


「早く馴れろ。馴れれば自分の決めた限界も制限もなくなる。
実世界でもうまく行くぞ。」

「そうだ。僕も道化者も援助はするが、
サトー自身が気付くより手がないんだ。
知覚も思考も最後は自我に委ねられてるんだ。


「そうだな。時間は存在しないからな。」

両手で顔を覆ったままのサトーを、
詩人も道化者も温かく見ていた。


「コーヒー、一杯くれないか?」

「いいとも、一杯でも百杯でも。
好きなだけ飲めよ。」

「一杯でいい。」

「遠慮すんな。お前の店だ。」
隣で道化者が茶化す。茶化されるのは嫌いだが、
道化者は人を茶化すのが好きだ。

「このカウンターに置けるだけグラス並べて、
コーヒー注いでやってくれ。」

顔を覆った手の隙間から右目を覗かせて、
サトーは道化者を睨み、

「一杯でいい!」

と強く念押しした。
サトーがムキになった事に、道化者は俄然喜んで、
ニイっと白い歯を見せて笑みを浮かべて嗜めた。
二人の様子に詩人は肩をすくめ、
言われる通りに一杯のコーヒーを出した。

「これ飲み終わったら、あと99杯あるからな。飲めよ。」

「もういいよ。」

「なんだよ、もうちょっと遊ぼうぜ。」

「もういいよ。」

サトーは道化者を疎ましく思い、
背を向けてコーヒーを飲んだ。

「ちぇ、付き合い悪いな。」

「なんとでも言え。」


「そうだ!サトー。着替えたらどうだ。」

戯れ合う二人を詩人が割って入った。

「サトーはいつもスーツだろ。ジーンズに着替えたらどうだ?」

「そうだな。大体理論武装し過ぎなんだよ。
ここはお前の世界なんだぜ。片意地張る事ねえじゃねえか。」

詩人と道化者が、同じように目を輝かせてサトーを見た。
詩人の提案よりも、二人の意見が合う事が珍しい。
サトーは提案よりも、そっちに気を取られながら
コーヒーを啜っていた。

「お前らだって、白いシャツに蝶ネクタイなんか絞めてるじゃないか。」

「僕らの事は後で良い。自我の解釈によって、僕らはどうとでもなる。
まずはサトーの方から変わるべきだ。」

「そんなに違うのか?」

「まあ、着替えて来いよ。
何事も形からだ。その思いスーツを脱げば分かる。」

「本当か?」

「騙されたと思って、騙されてみろよ。」

「気に入った。道化者が信じろって言わなかったから、
騙されてみる。」

「失礼な奴だ。一言多い。
さっさと着替えろ。」

道化者はサトーを手で追い払って、着替えるように促した。






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Last updated  Apr 27, 2005 12:53:50 AM
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さとう4632

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