ひーちゃんのゼミナール 名古屋産業大学(現代ビジネス学科)・大学院環境マネジメント研究科)現代の社会・経済・環境・芸能・スポーツ・宇宙

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2021.08.03
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カテゴリ: 推理小説
真佐子は何を着て行こうか迷った。昭和のレトロな感じで仲村の前に現れたのには、理由があったが、今のところ仲村は分かっている素振りがない。事件の捜査に関心が向いてしまったので致し方ないが、昭和40年代の初め、自分がまだ15、6歳の頃に流行った服装を着れば、何か記憶が戻ってきはしないか、仲村が何か思い出しはしないか、何か過去の隠された事実に向かう、何かのきっかけになりはしないかと、古いファッション雑誌を調べてしつらえたいでたちに、今のところ仲村は反応しない。というよりも何か好奇心の目で見ているようだ。真佐子は苛立たしかった。しかし、ここは事件の方を優先することにした。しかし、

つり革を一つ空けてつかまり、仲村は新宿へ向かう山の手線の中で言った。真佐子は黙っていた。
「あの頃流行っていた服装ですね。なんだか懐かしいです。あなたも制服じゃない時は、ちょうど今くらいの丈のギャザースカートでした。上はいつも白色のブラウスだったと思います。でも、これまで何度も話したように、あなたが就職してからどのような服装をしていたかは知りません。会社へ行っても会ってもらえなかったので」
 仲村は、真佐子と距離を取って言った。
「気づいてくれたのね。嬉しいわ」
 真佐子は景色を見ながら答えた。山口県の田舎の漁港で日々を送っている真佐子の目には、見るもののすべてが珍しい。仲村は、新宿駅へ着くと、見慣れた京王線の改札口の方へ真佐子を案内した。光岡瑠偉との約束は11時だった。少し時間があったが改札口で待つことにした。
「やあ、仲村先生ですね」
と長身の若い男性が声をかけてきた。やや長めの髪にラフなカジュアルに身を包み、軽快なスニーカーを履いている。テレビで見る光岡瑠偉その人だった。感染対策がしっかりした喫茶店があるというので、真佐子と仲村はしたがった。
「夏警部から事故のあとに事情聴取を受けて、特に思い当たることはないとお答えしたのですが、実は僕も気になっていて、あれから事故の、いやひき逃げの夢を見るようになって、運転手の顔がぼんやり浮かび上がって来るのです。助手席かもしれません。もちろん夢の中のことです」
 光岡は、注文したアイスコーヒーをストローで吸って言った。
「そうなんですか? 夢とはいえ光岡さんはぶつかった瞬間に運転手か助手席にいた人を見たのかもしれませんね」
 仲村が先を促した。
「ええ、そうかも知れませんね。あの横断歩道はいつも通るのですが、割と明るい照明があって、新宿方向つまりセダンが急発進して向かって来た方向を照らしていたのです。僕はボンネットにはね上げられ車の屋根の上を転がり、後ろへ落ちたのです。着地がちょうど柔道の受け身のような格好になったので、比較的軽症で済んだのですが、打ちどころが悪かったらと思うとゾッとします。」
「人の顔に何か特徴は?」
 仲村は手がかりを引き出そうとした。
「残念ながらどういう顔とか、男か女かとかそういうのではなくて、ただ、夢の中の冷たく凍りついたようで薄気味の悪い顔が夢に出て来るのです。赤いイヤリングが揺れているのです。夢なんですが」
「赤いイヤリング、このことは警部に話しましたか?」
「いえ、夢のことなんで、捜査を撹乱してもと思い、しかし今になって気になってきて、それで仲村先生からメールをいただいたというわけです」
 光岡は不安げな表情を浮かべて言った。
「それからもう一つ、ワールドプロダクションが事件の直後に倒産したことはご存じでしょうが、僕は実はそのことを察知していて、前から声をかけてくれていたSyouwa-retro プロダクションへ移籍したのです。本業の歌に専念させるというので承諾しました。」
「ええ、存じています」
「で、その新しい事務所で聞いた話なんですが、閉鎖したワールドプロダクションは、新装オープンしているのです。アジア・エンタテーメントという名前です。社長以下事務スタッフはそのままで、所属芸人・タレントは大幅に入れ替わっているのです。これだけならよくある話なのですが、大坂のドリーム・プロダクション、社長さんが確か鳥取の海岸で殺害された、ここから数名移籍したタレントがいるようなのです。誰なのかは確認はしていないのですが、聞けばわかると思います」
「そうですか、いや驚きました。ドリームの社長は殺害される前、横浜港の事件を気にしていて、奥さんに新聞の切り抜きを作るように、鳥取からメールを送っています。」
「やはりそうですか」
 光岡は宙を見るようにして言った。
「それだけなんですが、なにか参考になるでしょうか」
 光岡は真剣な表情で言った。
「私も実は若いころにバスの事故で大けがをして、人の顔が浮かんでは消え、悪夢にうなされていたのですが、その夢が手掛かりになって、バス事故を引き起こした過激派の犯人が、30年以上も経過して逮捕されたのですよ。赤いイヤリングはきっと手掛かりになると思いますわ」
 真佐子のほうを気にしていた光岡が微笑んで、
「ああ、自己紹介が遅れてすみません。光岡です。ええ、僕もそう思います。何か手掛かりになるようなことがわかったらすぐに連絡します」
と頭を下げた。返す返すも、律儀な青年だ。
「私こそご無礼を、私は仲村の幼馴染の真佐子と申します。コロナが終わったらライブを聞きに行きますから招待状をくださいね。本物のライブですよ」
と、言いにくいことを平気で言う。
「ええ、きっとご招待します」
光岡は、はははと笑った。仲村は苦笑いをしている。
(​ 続く ​)





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最終更新日  2021.08.14 20:52:08


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