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2006/07/23
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カテゴリ: 小説
山奥の小さな集落に家族4人で住んでいた。父と母と私と弟。
まだ5歳の私ではあったが毎日の仕事は家から30分歩いた先にある川へ水汲みをしに行くことだった。生きていく為には食べることをまず最優先しなければならない。水も重要なもの。幼い私でもそれは分かっていた。
私は木で出来た水汲み用の取っ手の付いた桶を両手で持って半分引きずるような感じで歩いていった。季節は秋で、途中に銀杏の並木道があり、風に吹かれるたびにハラハラと黄色い葉っぱが舞い降りてきて私の行く手を黄色い絨毯に染めていった。厳しい冬に入る前のこの風景が私は大好きだった。暫く見入ってしまうこともあり家族を心配させたこともあった。
でも、この風景は美しかった。


倫子は黄色い夢の途中で目が覚めた。最近色彩の豊かな夢を見るらしい。この前は赤い夢。今度は黄色。今朝の夢のあの銀杏並木の美しさは少し不思議な余韻を残した。でも、夢は夢だ。何かしらメッセージがあるとしても倫子は夢占いなど好んでする性質ではない。それに週明けの朝は何かと忙しい。休みモードの頭を素早く切り替えなければならないし、休みでだれた体も仕事の体制に持っていかなくてはならない。とっくに冷房の切れた真夏の部屋の空気は体にいやらしくまとわりついてそれだけでも気分が悪いというのに・・・。まだ生理も終わっていないのに・・・。

しかしスーツに着替えた倫子はすっかり仕事の体制に入っていた。地下鉄まで徒歩で10分。朝と言っても真夏の日差しは体に応える。細胞が悲鳴をあげて泣いてるように背中から、胸元から汗が吹き出ているのを感じながら地下鉄の6番口に入っていく。地下鉄のホームに入ると冷房もきいていてさっきまで悲鳴をあげて泣いていた汗も引っ込んでいった。

朝の地下鉄は混んでいる。倫子の嫌いな時間だ。この嫌いな時間は20分続く。地下鉄から勢いよく吐き出されるように人々が降りてゆく。その中に倫子もいる。3番出口の方面に向かって足早に歩き、改札に定期券を入れる。右に曲がると3番出口だ。どうして地下鉄の通路は長いのだろう。毎朝思うことだ。そんなことを思いながら階段を昇っていくとまた真夏の太陽に照り付けられる。

「おはようございます。」

後ろから声をかけてきたのは後輩の吉川だ。吉川徹次は倫子よりも6歳年下だが、倫子は中途採用の為1年後輩に当たる。屈託の無い笑顔の吉川はとびきりのいい男ではないが、憎めない愛らしさを持っておりそんな親しみやすさから女子社員の中では密かな人気がある。それを吉川は気づいているのかいないのか。多分気づいていないのだろう。


「今日も暑いですね。」
「そうね。」
2人一緒に会社のオフィスのあるビルのエレベーターに乗った。
オフィスはこのビルの26階にある。
2人がエレベーターに乗り込むと一人の男が滑り込んできた。
エレベーターボタンの前に立っていた倫子に
「失礼。」
と一言言うとその男は38階のボタンを押した。
その手首からはブルガリの腕時計が顔を覗かせ、ckbeが軽く香った。
同じくらいか少し年上に見えるその男はナチュラルパーマのかかった少し明るめの清潔感のある髪型に、俳優といってもおかしくない様な整った精悍な顔立ちをしていた。倫子の視線に気づいたのか男は少し微笑んだ。どきりとして倫子は視線をそらした。3人を乗せたエレベーターは沈黙のまま26階へと向かった。倫子達がエレベーターを降りると当たり前のようにエレベーターは無言で上に向かって行ってしまった。
「先輩、ああいう男の人好みですか?」

「あはは。そうね。ちょっと素敵な人だと思ったわ。」
ちょっとした朝の出来事はオフィスに入ると、たちまちいつも通りの仕事の忙しさに立ち消えてしまった。



                                 <つづく>



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Last updated  2006/07/23 12:14:30 PM
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