灯台

灯台

2021年04月04日
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「ねえ、あーちゃんのことをセニョリータって言っていい?」
「―――呼ばないで」
「わかった、百歩譲るよ、セニョリータ、
ブリキの切り屑が気になるよね」

「―――呼んでるよね、何も譲ってないよね、
声色まで使って、ハイハイあなたは二枚目の声よ。
でもねブリキの切り屑どっから出てきたの

「おいおいどうしたんだいセニョリータ、
説明台詞ありがとう。
髪に黒い蝶でもとまったのかい、それとも家の前に黒猫がいたのかい?」

「ホラー設定やめて」
「ハハ、セニョリータ、
今日はお日様が目玉焼きにでもなっちまったのかい、

わかるよ、夜はいきなり金平糖だったからね。
俺達の心はそしてサンドウィッチさ、
さしづめ明日はハーゲンダッツアイスクリームさ」

​​「や・め・ろ」​​
「ハハ、セニョリータ、照れてるんだね」
「その答えに導くのがむしろすごいよ」
「ハハ、セニョリータ、誰もいない海岸を歩こう、
ああ、その眼はこう言っているね、誰とって?
不安にさせたことは謝る、申し訳ない、でも仕方ないんだ、
二十四時間一緒に傍にいるのはハーレクインだって、
韓国ドラマだって、少女漫画だって無理さ。
でもその眼を春の日の篝火にするよ、
さあかぐわしい潮風に身をまかせながら、
想像して御覧、夕方のキャフェやレストーランを!」
「キャフェにレストーラン?」
「そうさ、夜行列車の窓から見たろう、いつか来ようって言ったろう」
「設定こまかいのね」
「ハハ、セニョリータ、支配人がピアニストに、
ビールを届ける時間さ、ジャズ・プレイヤーたちの夜は長い。
恋人の夜はもっと濃密さ。プレアデスの星は遠く、
ガレー船はさようならを決め込んだ」
「ふん、結構いいじゃない」
「ハハ、セニョリータ、ライラック色の星空を見よう、
溶けた宇宙の命がしたたる真夜中、そこから眺められる、
すべてに息をひそめていよう。
​忘れ果てた昔、俺は十二の君と約束したっけね、
ああ―――覚えてるよ、一緒に貝殻を拾いたいって」​

「じゃあ、夜行ったら駄目なんじゃない」
「ハハ、セニョリータ、そんなことを気にしていたのかい、
恋人の夜は長い、朝まで色んなことをするのさ」
「Hなことをしたら、許さない」
「馬鹿だな、セニョリータ、十八禁じゃないんだよ、
しりとりさ、そしてかぶとむしをとったりするのさ」

「せ・り・ふ!」
「でもね、クールな顎のラインに涙がこぼれるようなことをしないよ、
あの灯台までね、そして手をつなごう、

なんだったら、お姫様だっこしよう」
「持てるの?」
「ハハ、セニョリータ、俺をなめてもらっちゃ困るぜ、
このどくどくと脈を打つ筋肉隆々のこの腕が見えないのかい」

「見えないわよ、普通に」
「ハハ、セニョリータ、警戒しているんだね」
「警戒以前に拒絶してるわよ」
「ハハ、セニョリータ、素直になっておくれ、そして、
どうか、俺を困らせないでおくれ。俺の腕が折れようと、
俺の腕がひしゃげてしまおうと、

セニョリータを抱きかかえてみせるさ」
「それ、なにげに失礼だよ」
「違う、これは心意気なんだ。本当はそうじゃない、
本当は小指だって持てる」

「昔そういえば大きなトラック歯で引っ張ってた人いたなあ」
「ハハ、今日のセニョリータはおセンチさんのようだね、
これは間違いなく蜘蛛の巣病だね、間違いなく、
かげろうのゆらめきだね。春の病だね、儚くて、素敵さ」
「いいから普通に言え、恥ずかしくないの?」

「ハハ、セニョリータ、死ぬほど恥ずかしいさ、
うまくカモフラージュしているだけさ、心臓の鼓動が聞かれただけで、
穏やかな時という蜜蜂の針でやられてしまう。
世界に薔薇の花びらが振りまかれるように、
その裏側にかぎりない沙漠の海があるようにね。
でも、俺はね、そんなセニョリータに、ああ、君にだけ、
俺の本当の気持ちを知ってほしいのさ」

​​「馬鹿ってことを?」​
「ハハ、セニョリータはご機嫌斜めのようだね、
そんなんじゃ白馬にまたがった朝日の景色さえ拝めない」
「拝みたくないわよ、まず。白馬なんか大体どこで借りるのよ、
真夜中に貸してくれないわよ」
「ハハ、セニョリータ、女の子はいつでも夢見るものさ、
そのためなら、百万ドルの夜景だろうが、
ボクシングチャンピオンだろうが、世界征服だろうがね、
やってみせる、男とは激しい雪崩のなかにいる」
「それ以前に、世界征服のセンスはちょっと」
「ハハ、セニョリータ、でもね、すぐに笑顔にしてみせる、
だってそれがカフェオレの魔法だからね、
夢見たあとに花がこぼれる、
ペパーミント・シャワーを君にあげよう、
それが酔いにかすんだ美しい女の眼をつれてくる。

夏の呪文をかけるよ、夢の匂いさ、そして洪水のような夜の嵐。
もう世界には俺とセニョリータしかいないよ、
でも大丈夫、世界で俺と巡り合う運命だった」
「嫌よ」





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最終更新日  2021年04月04日 21時54分27秒


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