灯台

灯台

2021年05月10日
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かもちゃんが、
「アリとキリギリスを思い出して下さいダロ」と言った。
小学生たちが、いた。
「それは年金の話ダロ」

大人たち、わかっているようで中々わからない話をしている、
かもちゃんの話を聞いている。
まあいずれ案内がやってきて、手続きをどうするとか、
何歳から年金を受け取るかぐらいにはわかっているのだけれど。
それはパンドラの匣みたいなものかも知れない。
堅固な鉄の箱の底に残った、手紙みたいなものである。

「年金制度は保険料に加えて、税金や積立金を使って運営しているダロ、
ちなみに二〇一九年の時点で、加入者は六七五九万人ダロ。
ちなみに納める年金の保険料は、
働き方や給料、加入する制度に応じて、
決められた金額を納める必要があるダロ」

話はいいのだが、数字がピンと来ない。
それはおそらく、小学生だけでないだろう。
一億二〇〇〇万人といわれているからこんなものかな、と。
骨が風に吹き払われたような、数字。
しかし、かもちゃんはみんなを見て、言った。

「ようはいっぱいってことダロ」
小学生たちは、笑った。
大人たちも、笑った。

「年金は二〇歳から六〇歳の人が必ず加入する国の制度ダロ。
公的年金ともいいますダロ。
ジジイやババアが受け取っているのが、老齢年金。
保険証やら持病の薬も、新しい老眼鏡も、
それでまかないますダロ―――」

かもちゃんが、ギーチョンギーチョン鳴いた。
名人芸だった。
それはキリギリスの鳴き声だったが、どこか哀愁を誘った。

「毎月きちんと納めていたら、
六五歳から受け取れるようになりますダロ。
その頃から箪笥貯金が始まるダロ、ジジイやババアが、
急にケーキを食べ出したら、それです」

こら、と大人たちは笑いながら思った。
そんなことあるか、と思った。
でも、かもちゃんが幼稚園の先生が買ってきたケーキを、
勝手に食べてしまうという話はよく知られていた。

「ちなみに年金というのは本人の希望に応じて、
六〇歳に早めたり、七五歳にまで遅らせたりもできるダロ」

大人たちはみんなよく調べているな、と思った。

「ちなみに会社員や公務員が入るのが厚生年金。
ちなみに障害年金というのもあるダロ。
障害や重い病気や怪我を負って障害状態と認定された場合に、
受取れるダロ。障害年金を受け取っている人は、
年金事務所に届け出をすると国民年金の保険料が免除になることも、
ありますダロ。
また旦那さんをなくして子供がいる場合なんかは、
遺族年金っていう年金を受け取れるダロ。
寡婦年金っていうのもあるダロ」

そこまで言ったあとで、かもちゃんが言った。

「年金というのは社会を支える仕組みなのダロ―――表向きは」

途中まですごくいい話だったのに、と大人たちは笑った。
でもしずかに前方を見つめたかもちゃんは、少しウェットな感じで喋った。

「しかし年金だけでは老後の生活は不安になるダロ。
これはジジイやババアも言っているダロ。
貯金を切り崩したらと思うとピリピリするとも言っていたダロ。
ゆとりのある老後の金額が三五万、そんなこと言われたら、
不安にもなりますダロ、
死ぬまで働けってことかとも思いますダロ」

かもちゃんが、ギーチョンギーチョン鳴いた。
名人芸だった。
それはキリギリスの鳴き声だったが、やはり哀愁を誘った。

「でも年長い間働いて、さあセカンドライフという時、
―――それは熟年離婚ですが、
年金額が少なくなるのでやめた方がいいダロ。
しかし年金分割という手法もありますダロ!」
と大人たちを笑わせた。
絶対に、ネタだった。

「ちなみに年金の記録は、ねんきんネットとネットの検索欄に打ち込めば、
大体アクセスできるダロ。年金手帳を紛失した場合は、
マイナンバーカードで代用するか、
年金事務所に行くのがいいダロ」

ここからはとても事務的な内容だった。
先程までの盛り上がりから一転して―――とも言える。

「年金はちなみに死ぬまで一生涯受け取ることができるダロ。
世の中、本当に何があるかわからないダロ」

そう言って、何故かいきなり、商店街の通行人を邪魔するように、
大きなお尻の羽根募金を置いた。
ギーチョンギーチョン、鳴き始めた。
みんな笑った。

一部始終眺めていた魚屋のおじさんは、
大好物の刺身を持たせてあげながら、
「何か欲しいものがあるのかい」と聞いた。
「かもちゃんも年金入りたいダロ。でも市長さんに聞いたら、
ちょっと無理かなと言われたダロ」
確かにさすがに、無理だろう。
「でも、かもちゃんは大丈夫じゃないかな」
と、魚屋のおじさんはぼんやりと想像しながら言った。

だって、かもちゃんが困っていたら誰かが、
ご飯を食べさせてくれるだろうし、
お金で困るようなことがあれば、
(ただ、そんなことあるとは思われないが、)
誰かが助けてくれるだろう―――。

「かもちゃんはそれに、誰か困っている人のために、
年金で、ご飯を作って食べさせるぐらいはしたいダロ」

困った時に助けてくれるシステムというのは、
本当に必要なのだ、と魚屋のおじさんは思った。
特別定額給付金もそうだし、
途中でかもちゃんが言ったように年金だけでは将来は不安だ。
そうなってくると死ぬまで働くとか、投資とか、
そういう手法が必要になってくる。
職場で、若者は老人を馬鹿にする、と言う。
何故そんなことをするのだろ―――う、
自分たちがいつかそうなるかもしれないのに。
ホームレスや、生活保護、それもありうるのかも知れない。
病気をしたら?
その時、自由に身体が動かなかったら?

誰か一人が困っていてもそれはその人のせいで、
何もすることがないという社会のシステムはいつ、
機械仕掛けの歯車みたいになってしまったのだろう。
かもちゃんが―――、
『表向き』と言った意味が響いてくる・・・。

それも流氷どころか、氷の断片がたかだか砕けた程度の、
そういう認識の奴等が、きれいごとを並べ、ご機嫌うかがいをし、
そして天下りをし、後は何も知らぬ顔をす―――る。
国は経済破綻なんかしない。
義理と人情なんかない、合理主義、実利主義、
いつからこの国は、
不安定な幸せの教訓を垂れ流すようになったのだろう。
そしてなんて嘘だらけで、気持ちの悪い国なのだろう。
でも恐い顔をしていたのだろうか、
かもちゃんにペロリと顔を舐められて、表情が綻ぶ。

「まあしかし、何とかなりますダロ。
大変なこともありますけれど、そうやって世の中、
何とかやってきましたダロ」

五月、何処へも行くことができなかった、
GWが終わり、もう一足早い、
夏が始まっている―――。




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最終更新日  2021年05月10日 21時00分52秒


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