灯台

灯台

2021年06月12日
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​​​​​​​​​​​​​

​何故わたしだったのだろう?


まずそれは、 ベランダで洗濯物をしていた時に起 こった。
ヒューッ、 ​ドン。​
一瞬、眼が合 った。​
血走った眼、半笑 い。​
死ぬ時ってあんな顔 をするんだ。​
あんな顔 できるんだ。​
逆に感心 した。​

飛び降り自殺 だった。​
救急車が来て、警察が来 た。​
それが自分のマンションの上の階 からだと、​
精神病院に通っていたと、部屋の鏡を割 っていて、​
部屋にお札がたくさん貼 られていたと、​
った。​

  *

飛び降り自殺の場所 と、​
少し離れた場所の道路。
よくある二車線道路の電信柱 に、​
献花 がされるようになった。​
交通事故があったのだと思 った。

でも、世間話の好きな隣のおばさんが言 うには、
交通事故なんて一度 もなかった、と。

​謎の献花。​
​そして―――飛び降り自殺・・。​

何かおかしい。
何か気持ち悪い。

​​  *

時々、昔飼っていた犬の夢を見 た。
犬は何か言 おうとしていた。

  *​​


水から髪の毛が出 てきた。​
最初は気のせいかと思 った。​
でもやっぱり出 てきた。​

大家に電話 をかけた。​
​貯 水槽の中で人が死 んでいた。​

住所不定のホームレス だった。​
どうしてホームレス が、​
こんなところで死 なねばならなかったのか、​
​よくわからなかった。​


   *

大阪のゲートタワービル は、
​五階、六階、七階を高速道路が貫通​ している。
​高速道路はビルと接触​ しておらず、
騒音と振動を減らすためにシェルターに囲 まれている。


​自殺​ って、そういうものだ。
​自然の摂理。​
どんどん、通り過 ぎていく。
脳は百パーセントを記録していると言 う。
だから天国ではすべて覚 えていて、
どのような言い逃れもできないのだと言 う。

​でもここは、現世。​
ただただ、通り過 ぎていく。

  *

ゴミ捨て場に人形が置 かれていた。​
ゴミ捨て場の人形は、ゴミの日の後 も、​
​​ こに た。​​

何日も、何日経 っても、そこにいた。​
ある日、部屋のドアの横に、人形が座 っていた。​

自分は気持ち悪くて、ゴミ捨て場に戻 した。
誰かの嫌がらせなのだろうかと思 った。
嫌がらせで、思 いついた。​

あのホームレスも、献花も、自殺 も、
がらせだったんじゃないか、と。​
​累々たる嫉妬の焔の花瓶。​
​​ うして?  故?​​
​​わか らな いかなあ、その誰 かは、 ​​
青い肺 や、​
きれいな音を立てる心臓を盗 みたいのだ。
いくつもの仕掛けが用意され、機能 し、​
やがて装置となった時 に、​
禁忌の匣、魍魎の住処が完成 する。​


  *

その頃、体重がやたらと落 ちた。
食欲が全然湧 かないのだ。​

変なことが立て続けに起 こった―――、​
いや、起こったように感じられたせいかも知 れない。

​​トルク メニス タンのダルヴ ァザ 付近にある、​​
​地獄の ・・・・・・。​
​​ドイツのシュ プロイア ーホフ通り は、 ​​
世界で最も狭い通 ​りで、​
​その幅は 三一センチ〜五〇 センチ・・。​

  *

そして、隣の家の噂好きのおばさん が、​
あの謎の献花のあった場所 で、​
交通事故 にあった。​

見晴らしのいいところ で、​
けしてそういう事故が多発 するところではない。​
でもトラックが走っているところ へ、​
びだした。​
即死 だった。​

  *

でも、隣の家のおばさんは、次の日 も、
その次の日も、そのまた次の日 も、
わたしに挨拶 した。

わたしは彼女が死んでいる のを、
その時、知 らなかった。​
本当に、知 らなかったのだ。​

だから、挨拶 した。​
隣の家のおばさん は、​
上の階から飛び降りた女 が、​
呪詛をかけたんだよ、と言 った。
あれは、まじない系の家系 なんだ。
代々そういう家 があるんだ。
感じの暗い人 っていないかい、​
もしかしたらその人 も、​
そういう感じかも知 れない。
爬虫類に似ている人には気 をつけな。

ホームレスは、女に殺 された。​
生贄 にされたんだ。​
そう言 った。​
普段ぺらぺらおしゃべり するけど、​
およそ見当のつかないこと には、​
ピタッと首をかしげる のに、
​実にらしくない―――断定。​

おばさんは言 った。​
あの献花はね、魔方陣の一部を作 ってるんだ。
あの女は死んでるのに誰が供 えてるって?​
簡単だよ、もう、呪詛は完成 してるんだ。​

あの献花はね、子供を亡くした親御 さんが、​
あそこに供 えてるんだ。​
あれは負のエネルギーの最初の一段階 ​なんだ。​



何かが狂ってる。
何かがおかしい。
それが―――夢の料理、大料理店、
人生の墓場の始まり・・・。


ほかにも、いもりの死骸 とか、​
月の光を宿した水晶 とか、
わけのわからない穴に鏡の破片を入 れてあるとか、
​あちこち に、 あるは ​ず​​ だよ。
興味があったら探 してみな。
おばさんがホラーマニアみたいなことを言 う。
わたしは笑いながら聞 いていた。


  *

わたしは怖いはずなのに、
どうしてかずっと笑いながら聞いていた。
おばさんは、ずっとわたしの後ろを見ていた。
わたしの後ろしか見ていなかったかも知れない。


   *

​あの市松人形は、とおばさんが言った時、​
ゾクッ とした。​
だって、わたしはそのことを誰 にも、
していなかった。​
一瞬はこのおばさんが犯人かとも思 った。
でも一瞬だ、おばさんは心配そうにわたしを見 ていた。

​​あれは合図だ よ、 気を付け な、 ​​
​​​あれが合図だ よ、 気を付け な、 そう った。​​​

  *

そして隣の家のおばさんが死 んだ、​
と、わたしは知 った。

それでも市松人形は戻 ってきた。​
ゴミ捨て場にうんざりしながら捨 てた。
ただ、隣の家のおばさんは戻 らなかった。​
んだことによって、​
もう姿を見 せることはなかった。​

その代わり、空き家となった隣の家 に、​
めまぐるしく人がやって来 た。​
​​ドン ドン ガン ガン。
グチャッ・・・・。​​

何をしているのかはわからない が、​
​​ ずっとそんな がしていた。​​
騒音迷惑だとも思 ったが、​
隣の家のおばさんには随分 よくしてもらった、​
耳栓をしてやり過 ごした。​

その内にマンションから引っ越そうとも考 えていた。
旦那にその話 をした。​
​​​​​ 最初は困るよと言 っていたけれど、
あのさ、お前近頃、考 えがおかしいんだよ、
一人でずっと喋ってるようだと聞 いたぞ、
精神科医に行 け、
もっと治そうと思 え、
​​​​
困る ​よ、​

わたしが奇妙な気持ち悪い気色悪い話 をするにつれて、
顔色が変わって、ただならぬ様子を察 して、​
一か月待ってくれ、と言 った。​

旦那は離婚届を置いて、家から出 ていった。
わたしは、不幸 になった。​
次々の家賃や生活費や光熱費を支払うに足 る、​
いくばくの慰謝料を残 してくれたものの、​
わたしは、不幸 になった。​

​ど ?​

  *

部屋の扉の前 に、ずっと、​
上の階から飛び降りた女 がいる。​
​​どうし てわ かるかっ て? ​​
ずっと、ノック しているからだ。​

それからこう低い声で、洗脳 でもするように、​
こう言 ってる。​

​「 あなたの番よ 」​

そう言 ってる。​
わたしは、管理会社に電話 をかけて、​
上の階に住んでいた女性の名前 をつきとめ、​
​​ ネットで探 してみた。

蜘蛛の巣も、沙漠で宝石を見 つけるよなことも、
​​​すべて簡単に見つかると した ら―――それ は・・、 ​​
必然 ​だ、​

​​しかしその必然と 何かに操ら れた 糸・・・。​​

フェイスブックが見 つかり、
更新されなくなって久しい、ブログが見 つかった。

そして、興味深い日記が一件だけ残 された。
​タイトルは『遺書』​
そこには、たくさんのコメント があった。
釣りやネタ だろうと、
​​( 彼女が死んだことを知らない、
人達の思い込みによっ
て、
)​​

ほとんどが、笑い飛ばすための誹謗中傷 だった。
その人達がどうなるのかについてわたしは興味 がなかった。
でもおそらく、無傷では済 まないだろう。
だって、何もしていないわたしが、隣の家のおばさん が、
げんに巻き込 まれているのだから。​

  *

彼女は子供の時 から、いじめられていた。​
それについての説明らしい説明 はなかった。​
だから、彼女が言うところ の、​
まじない系の家系の影響というのを信 じるしかない。
不幸はマイナスプラシーボ効果 で、​
あるいは負のスパイラル で、​
どんどん彼女の状況を悪 くしていった。​

不登校をし、精神病院通いになり、社会不適合者 になった。
彼女の両親はお金持 ちで、それでも、
​度重なる迷惑をかけたことで、目の上のたんこぶ、​
お金以外の関係ではないことも、知 った。
でも、両親がお金を与え続 けたのは、​
彼女自身がそういう役目を持って生 まれさせられたからだとも、
​​書い ​た。​ ​​
それも真偽 はわからない。​
でも彼女の身体には死班のような珍しい痣 があって、
それが証拠だと述 べていた。
彼女にそれを教えたのは誰 なのだろう。​
自分で調べたのだとしたら悲 しい。
でもそれを誰かが、肉親が教えたのだとしたらもっと悲 しい。

​​それがある どう かで はなく、​​
​​そんなことを知ってし まっ た彼女が悲し い。 ​​

彼女はそうして、オカルト にのめりこんだ。​
彼女にはきっと、その手の才能 があったのだ。
何故なら、彼女はたくさんの負債を最初から持 っていたと、
信じて生 きてきたのだから。​
そして、ついに呪詛は完成 した。​

(以下省略)―――これから飛び降りる、
みんな死ねばいい

その後に、本当に飛び降りたのかはブログの読者 にはわからない。
でも、わたしはおそらく、その後 に、
本当に飛び降りたのだと思 う。​

  *

そのブログを見た日の夜、電燈が突然消 えた。​
ドアがどんどん叩 かれていた。​

わたしは、死を覚悟しながら、元夫にメールを送 った。
「助けて欲しい」と、送 った。​
返事は来 なかった。​
​わたしは、より、絶望を強​ くした。

次の瞬間、わたしは、ドアの開く音を聞 いた。​
タッタッタッ、と走ってくる音を聞 いた。
​この世ではもはや、聞いてはいけない種類の音。​

女は、涙に濡れたわたしに、こう言 った。
​​わたし あなたになる の、 ​​
​​あなた わたしになる ​​
そう言 った。​

意味 はわからなかった。​
でもそこからわたしの記憶は途 切れて、​
わたしは、今日も上の階から飛び降り続 けている。​

  *

下の階のベランダで洗濯物をしている人 と、​
一瞬、眼が合 った。​
血走った眼、半笑 い。​

  *

何か言 ってる。​
何か聞 こえる。​

思い出 せない。​
思い出 せない―――。​


  *




​​ア 。​​

​アハハハ...​
​​​ah ahah ah ah a ha .......​​​






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最終更新日  2021年06月12日 01時25分42秒


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