灯台

灯台

2021年08月12日
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たとえば少年の日にかすかに匂った、麦藁帽子のうちに、
狭い木材の隙間からすうっ―――っつ・・と、
やがて熱っぽい、いがらっぽい煙が流れこんでくる、潮流。
別の感覚を統合したときに生まれる、
五感から推測的にもたらされる第六感覚。
しかし、不器用な僕等は言葉を知らない。
優れた、研ぎ澄まされた、聴覚を必要とする夜への進出と、
大脳皮質の発達。
風はそよ風となり、窓から迷い込んできた迷い鳥、
見えないはずの後方まで、全方向カメラみたいに、
熱と光との暗影をもった髪を優しく揺らしていた。
触覚は見えない何かを捉えていたが、
それは面の流れをぼかすためのブラシで表現するようなもので、
その輪郭はもとより掴めるものではない。
それでも僕はそのノイズに周波数を合わせて、チューニングする、
街の一場面を現像しようとする。
どんどん吸い込まれてゆく。
最後には塵や芥でもなく、完璧な無になる。
真っ暗な思考のはてにみえる一切の澄んだ黒を虚無と呼ぶのなら、
僕は眠れない夜に何度も折に触れて考えたものだ。
神よ、網目から覗く小さな生物の体温を感じる気分はどうだい。
不安定で、絶えず打ち消されそうになりながらのわずかな違和感や、
小さな不安が大きな心落としとなって、
それも陶磁器に下絵を描くように、
何処かで繋がっている機を知る。
木星のまわりをめぐる衛星のような、
さみしい悩み、
磁石なしに方角を知り、
天気予報なしに悪天候を見破る。
ノートやメモを取らないのに、
危険を察知するノウハウを持っている。
ギガノトサウルスの脳がバナナ程度のサイズであったみたいに、
拍動数を落とし体温を下げ、完全に動きを止めて、
囚われの幽霊、巨大な昆虫、真空の世界にも似た夜の虹、
決定的に欠落し、完全に逸脱し、
猟犬が、ひと目にはわからないような足あとを見つけて、
それをつけて行くように、考え続ける。
伸長、短縮、屈曲、ねじれおよび硬直、
能動的に制御された、運動と変形。
聞こえない叫びもある。
一歩進むごとに、警戒心が薄れていきそうな社会ではあるが、
鸚鵡は相変らず人間の声を真似している、
緊張だ、
サルの警告の叫び、テナガザルの縄張りを主張する叫び、
カエルなどの求愛のための鳴き声のように分かりやすくはないが、
犬のマーキングもそうだし、
多くの哺乳類では特徴的で長く残る匂いを出す線があるのもそうだろう。
隣の芝生は青い。
念の足りなさ、思いがけないしっぺ返しをくう前に、
はなはだ誤魔化しきれない、心の中の混雑を暗示する。
鶯が尾を空様に足は枝を踏まえて身を逆様にして啼くみたいに。
ところで刺激臭は通常の嗅覚刺激のように、
嗅細胞によって感知されるのではなく、
刺激臭は鼻腔内の三叉神経への刺激。
舌の上で溶けてゆく味覚も、嗅覚の部分が大きい。
また、端倪すべからざる領野は記憶との関連性が深い。
金木犀や山梔子。
幸福を感じるための化学物質。
さみしさをなぐさめる、ひそやかな命の流れ。
ねじくれた時間のはらわた、蓮の葉、
もえあがる炎のようにゆらめく、感情の奇跡。
聴覚の影。
しかし人間は、感覚の八割を視覚に頼っているという説がある。
ヒューマン・ブレインの機能。
焔が一とゆらぎもしない闇のなかにある、葛藤の、嵐。
映像として明確に捉え、
写真を撮るようにその場の視覚的なイメージを掴まえる。
結びつきを嵌めこむことで連鎖は生まれ、
本来当然そこにあった必然性を認識することができる。
風穴、水鏡、
死刑台のエレベーターという言葉をなんの脈絡もなく想像して、
いま遠い所に、波が隠れたり現われたりする、
無意識の催眠力を培い、
けれど不思議に巧みに視覚と聴覚と意識だけは残っていて、
ああ、縮緬の皺のようにちぢれた、渦巻き、自由のなかへ。








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最終更新日  2021年08月12日 17時58分09秒


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