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「何か」 silversheep日の光さえ遮られた 静かな路地にしゃがみ悲しみや憎しみを 刻んできた幼い僕はいつかあの川の流れの先にある“何か”を探しに行けるといいなと思ってた形が解りはじめた 午後の中庭にへたりこんで歯車が上手く回るように 外れぬようにいつかこの街のどこかで待ってる“誰か”が救ってくれるといいなと思ってた何かを手にするたびに 何かを手放して誰かに微笑むたびに 誰かを傷つけて無くすモノなんてもうないと 言いながらも守り身で僅かな微笑みを並べてく懐かしさだけで戻った 静かな路地は変わることのない冷たさが 漂っていたけどいつかのあの川が 流れの先にある“何か”を探しに行けと言っていた何かを手にするたびに 何かを手放しても誰かに微笑むたびに 誰かを傷つけてもその先にきっと “何か”があるから僕は行くことに決めたからその先にきっと “誰か”が待ってるから僕は行くことに決めたから
January 30, 2006
夕暮れ、祖母にいいつけられて、雨戸を閉めはじめた。古く朽ちた木製の雨戸はすべりが悪く、途中で何度もひっかかっては跳ねた。小学3年生の翔太はこの作業をするたびに、自分の家のボロさに心が苦しくなる。時代は高度成長期、日本はあいもかわらず大きな波にのり発展をつづけている。けれども世の中が裕福になればなるほど、目立って見えてくるものがある。金持ちはますます富を増やし、貧乏人はかわらずに貧乏。学校でも、同じクラスに金持ちと貧乏人が共存する。そんな時代だった。翔太は最後の一枚を体重をのせて押し閉めた。そして戸袋の中を見ないようにして、ガラス戸を閉じる。雨戸をぜんぶ出してしまった後の戸袋の中。その奥には見てはいけないものが入っている。去年の夏、庭から入ってこようとしたコオロギを、誤って雨戸で引いてしまったのだが、その時翔太は、びっくりしたのと、怖いのとでそのままコオロギを雨戸ごと戸袋の中へ入れてしまったのだ。それから何日かは、翔太は雨戸の開け閉め役をかたくなに拒みつづけた。きっと、あの中には、いろんな虫やら、もっと大きいものの屍がつまっているのではないか? 翔太にはそう思えてならなかった。翔太は日に焼けた畳の上に足をなげだすと、襖によりかかった。祖母が「暗いとこでなにぼーっとしてる、電気つけないで」、蛍光灯のスイッチを入れる。翔太はこの瞬間が嫌いだった。電灯をつけることで夕方からいきなり夜になる。翔太にはこれが我慢できなかった。なにしろ一日のうちで、夕方から夜に移り変わってゆくそのわずかな時間が、翔太は一番好きだったからだ。母親が工場から帰ってくるまでにはまだ半時間ぐらいあったので、翔太は薄手のナイロンジャンパーを羽織ると、玄関の戸を引いて外へ出た。行くあてもないので、いつもと同じように、土堤の道を歩いていくことにした。翔太は歩きながら、緑山君のことを考えた。いや、正確には緑山君の家のことを考えていた。緑山春吉。彼は最近、父親の仕事の関係で転校してきた男の子だった。彼はなぜか翔太とはじめから気が合い、二人はすぐに仲良くなった。そして、翔太は昨日、初めて彼の家へおよばれしたのだ。そこは最近建ったばかりの大型マンション「ブルーハイツ」で、この辺では初めてたった7階建てだった。翔太はびっくりした。正直、マンションなるものに入るのが初めてだったし、それがあの「ブルーハイツ」であるのだから、緊張せざるをえなかった。緑山君の家は7階で、玄関を入ると、なれないコンクリート造りの新築の匂いが鼻についた。しかしすぐにそんな事はどうでもよくなった。そこには、テレビの中でしか見た事が無いような外国の家具やら飾りだのが、きれいに品よくならんでいたのだ。軽く近未来だった。すげーな。すげーな。翔太はいちいち感動していた。しかしもっと感動したのは緑山君の部屋に案内された時だった。窓の外には、市役所の上空写真でしか見た事がないような風景がひろがっていた。さっそく翔太は自分の家の方角を伺ったが、さすがに遠すぎて見えなかった。緑山君に座りなよ、といわれたが、どこに座ってよいのかわからないでいると、「どこでもいいよ。そこでも、ベットでも」と言う。ベット? そういえば、ベットがあるではないか。無論、翔太はベットに初めて座ってみることにした。「緑山君はここに独りで寝てるの?」翔太のその質問に緑山くんは笑って答えた。「そうだよ。だって僕の部屋だからね。パパとママは向こうだよ」と言った。そうか!子供部屋か!!翔太は我ながら馬鹿な質問をしたことに気づいた。そして恥ずかしくて顔を赤くした。翔太の家は父、母、弟、祖母、そして翔太の5人家族だった。みんながみんな、夜になると平屋建て借家の4畳半と6畳間の間の襖を外した空間に布団を敷きつめて寝ていた。よく貧乏人が川の字で寝るというが、それはほとんど「正」の字に等しかった。翔太はなんだか泣きそうになった。これほどまでに生活に差があるのかと強く感じた。そこへ緑山君の母親が、紅茶とケーキを持ってきたものだから、ついに翔太は高度成長期という時代にノックアウトされてしまったのだ。一つ悔やまれるのは、行きと帰りと2度もチャンスがあったのに、翔太はエレベーターのボタンを押したいと、どうしても言い出せなかったことである。そんな事を考えながら、夕闇の土堤を歩いていると、向こうから見慣れた自転車が走ってくるのが見えた。翔太はにっこり笑うと手を振った。母親は三年生にもなって、親の後ろに乗ってちゃ恥ずかしいわよ、といったが。翔太は荷台にまたがると後ろから抱きついた。ゆっくりとこぎだす母親の後ろで、翔太は空を仰いだ。右の方はまだうっすらと明るく、左の空はすでに濃い紺色をしていた。あの空の下はもう、夜なのかな。翔太は自分が今まさに、夕方と夜の境目の、そんな空の真下にいることがとても嬉しかった。
January 28, 2006
「ジャングルジム」 silversheep何万年に一度の彗星が来たって、何ひとつ変わりゃしない。雨だろうが、晴れだろうが、同じ事のくり返しさ。あいつが英雄きどりの夜も、俺はソファで眠ってたし。人生は短いっていうが、けっこう長く感じてるんだ。ジャングルジムに登ってた頃は、全てが空に向かっていた。ジャングルジムの上にいた頃は、みんなが小さく見えたもんだ。何年愛し合ってたって、何ひとつ解かりゃしない。キスしようが、ナニしようが、同じ夜のくり返しさ。たとえば二人で抱き合っても、遠くの空が気になって。俺の番が来るのを、ただ祈るだけだった。ジャングルジムに登ってた頃は、後ろなんて振りかえらなかった。ジャングルジムの上にいた頃は、夕暮れの月がきれいだった。ジャングルジムに登ってた頃は、全てが星に向かっていた。ジャングルジムの上にいた頃は、みんなが小さく見えたもんだ。
January 27, 2006
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