ホラー、近未来、童話、独り言

ホラー、近未来、童話、独り言

2007年10月31日
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カテゴリ: 悲しい
 「御大が来てはる。」窓を指差し繰り返す、勿論居る筈も無いが「そうやな、早よかえらなな。」

すっかり白く疎らになった髪を撫でながら答えると薬が効いてきたのか眠ってしまった、付き添いの

女に忠雄と洋子が心付けを渡すと女は態度を急変させ「こんなに良い旦那さんがいてはるんやったら

早よう北海道に行かはったら良かったのになあ。」ヘラヘラ笑いながら心付けをエプロンのポケットに

しまった。

 見舞ってから丁度一週間で里が亡くなった知らせが来て、数日後形見分けとして古びた着物一枚と

写真が送られてきたが里は若い頃から着道楽で覚えているだけでも箪笥に三棹は持っていた筈

時計も純金で作らせた物や指輪も数え切れない程持っていた、男は吝嗇家であったがそんな金は

惜しまなかった、其れが妹の許に戻ってきたのが古びた着物一枚とは情けなかったが本妻にしてみれば



 妾と言えば其れまでだが四十年以上苦楽を共にした者に対する扱いが着物一枚とは、後に聞いた

話しに拠れば入院した時点で生活保護の申請をし、男の家族は一円の金も出さず葬儀も市に任せ

ただ焼かれるだけのものだったと言う、参列者の一人も無く知り合いの誰一人にも看取られず

苦しみぬいて亡くなった姉を偲ぶと遣りきれない思いで涙がこぼれる、然も親族の承諾も得ず

病院が勝手に解剖し標本まで採ったと聞き驚いた。

 「何の為に生まれて来たんやろな。」古びた着物を見ていると、そんな独り言がこぼれた

「お姉ちゃん、もう苦しまんでもええんや、ゆっくり休み。」同封されていた写真に語りかけ

泣く日が続いた、忠雄は相変わらず賭け事から抜け出せないでいたが、仕事が軌道に乗ってからは

明日の米に困るような事は無くなっていた、洋子も平成二年姉が亡くなった歳を越えた時やっと

気持ちも安定した、其れまでは姉が癌で亡くなった歳まで生きられるだろうかと怯え続けていたが

其の歳を越した事で洋子の気持ちにも区切りがつき「一遍京都の御寺さんにも行かなあかんな。」










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最終更新日  2007年10月31日 15時22分48秒
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