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2007.06.26
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カテゴリ: 読んだ本
訳:最所 篤子
2005年8月18日 バジリコ株式会社より発行。

スピルバーグの映画「ターミナル」の元となった実話です。
しかし、あくまでもストーリーのアイディアとなっただけであって、原作本ではありません。

サー・アルフレッド・メヘラン(本名メヘラン・カリミ・ナッセリー)はイラン生まれ。
マスジド・スレイマンという石油採掘のために作られた町で、父の職業は医師。
裕福な家庭です。

1972年(27歳)に父が死去。
それと同時にショッキングな話を聞かされます。

イランでは姦通は石打ちの刑で、男女とも処罰され、生まれてきた子供は相続権や国籍など
イランにおけるすべての権利を剥奪されます。
それを防ぐため、両親は看護婦を匿い、出産後にイギリスへ送り返し、生まれてきた子供は
義母が5~6年後に実子を産んだ際に、双子として届け出た、と言うのです。

メヘランを憎んでいた義母は、メヘランには遺産相続の権利がないと主張。
結局、叔父の提案で、メヘランは3年間のイギリス大学への留学をすることになります。
3年間の学費・生活費等の留学費用を負担する代わりに、もう2度と家に戻ってきてはならない
という条件で。

たぶん、その3年間で、今後の身の処し方を考えろ、ということなのだろうと思います。
そして、たぶん姦通の結果の子である、ということは公にしていないと思われます。
医師であった父と、家との両方の不名誉になることですから。


翌年3月に、イギリスで行われたイラン政府に対する反体制派のデモ行進に大学の仲間達と
参加します。
11月頃から、家からの仕送りが停止。
生活に困ったメヘランは再三に渡り連絡を取ろうとしますが、かなわないため、様子を見に
イランへ帰国したところ、空港でイランの秘密警察サヴァクにより逮捕されてしまいます。

しかし、家人に逮捕者が出たことを不名誉と考える生家が、保釈金を支払ったことにより
メヘランは釈放。
移民用パスポートを渡され、イラン国外へと追放されます。

このへん、生家が反体制運動を行ったために仕送りを停止したのか、などは不明。
でも、保釈金を払ったということは、戸籍上はまだ義母の実子となっているのではないかなと
思うのですが。

で、ここからが本題の放浪生活のスタート。

1975年から1980年の5年間、イギリス、西ドイツ、オランダ、フランス、ユーゴスラビア、
イタリアの6ヶ国に対し、難民申請をしますが、すべて却下。
1981年10月に、ようやくベルギーの国連難民高騰弁務官事務所で難民の認定がされ、
身分証明書が発行されます。

メヘランはそのままベルギーに4年ほど住んでいますが、図書館で知り合った人に
実母の消息を聞き、イギリスへ渡ることを決意。
ベルギー政府から旅行許可書を発行してもらいます。

しかし、彼はイギリスへ渡るフェリーの上で、身分証明書と旅行許可書がもう不要だ思い込み、
それをベルギーの国連難民高騰弁務官事務所へ送り返してしまうのです。

当然、イギリスでは入国拒否。
送還されたベルギーでも、身分証明書がないので入国拒否。
2国間を5回ほど往復した挙げ句、フランスへと送られます。
シャルル・ド・ゴール空港の入国審査はパスしますが、身分証明がないので、不法滞在者として
空港ホテルで逮捕、刑務所へ。
刑務所から釈放後、48時間以内に国外退去命令を受けますが、身分証明がないので
どこへも行けません。
再び、逮捕・刑務所・釈放・48時間以内国外退去命令。

この時1989年5月、ここでメヘランはブールゲ氏へ助けを求めます。
ブールゲ氏は人権弁護士で、難民、亡命希望者の専門家。
彼はメヘランの弁護を引き受けてくれます。

1991年3月に不法滞在の訴えが取り下げられます。
ブールゲ氏は内務大臣に滞在許可と旅行許可書の発行を申請しますが、フランス内務大臣から、
発行のための難民認定書の原本が必要と回答。
ブリュッセルの国連難民高騰弁務官事務所に難民認定書の原本の送付を依頼しますが、こちらでは
受け取りには本人が事務所に出向くようにと回答。
でも、出向くためには滞在許可と旅行許可書が必要で、という堂々巡り。

この間にメヘランは次第に有名になっていきます。
1999年6月、マスコミの圧力が大きくなり、とうとうベルギーが難民認定書の送付を了解。
これで全てが解決、となったはずですが、メヘランはフランス政府が発行した旅行許可書の
受け取りにサインを拒否。
未だに、空港に住み続けている、というのが話の概要です。


何というか、正直なところ「変な人」というのが感想です。

身分証明書と旅行許可書が不要だ思い込み、ベルギーの国連難民高騰弁務官事務所へ
送り返してしまったことは無知による事故(でも大学に3年間も行っていてそれってどうなんだ
と思わなくもないんだけど。貧困層ならともかく、裕福な家庭で高等教育まで受けていて)
として仕方ないとしても、メヘランはその事をブールゲ氏に言ってないんですよ。
自分の失敗を他人から触れられたくないという理由で、パリで盗難にあったとウソをついている。
それどころか、ベルギーで難民認定を受けたことも黙っています。

ブールゲ氏は難民認定を受けていたことを知り、そのことを確認に行った時に初めて
「実は盗難ではなくて」という告白をされます。
それだけでもずいぶんだと思うんですが、その後もブールゲ氏はメゲずに、10年間も無償で
メヘランのために奔走して、やっと旅行許可書を発行してもらって、あとは本人の受け取りの
サインだけ、という状態からサインの拒否。

理由が、ひとつはイラン人と書いてあるから。
もう1つは、名前が「メヘラン・カリミ・ナッセリー」になっているから。
自分はイラン人ではない、空港で11年間過ごしているうちに自分は変わった、今の自分は
アルフレッド・メヘランであるというのです。

なんじゃ、そりゃ。

そりゃね、気持ちの上ではそうかもしれないけど、氏名変更の届け出をどこにもしていない以上、
書類上は「メヘラン・カリミ・ナッセリー」でしょ。
空港に居続けたところで、何の発展もないわけだから、その証明書を受けとって、その後
自力で 国籍変更でも氏名変更でもすればいいじゃん。

1991年から1999年までの待たされ続けた10年間は本人のせいではなく気の毒だけど、
そこから先は、そうしたくて空港に居座っている、としか思えません。
つまらないプライドを優先して、援助してくれる人に対してウソをつく不実さも、
名前が違うと言ってサインしない頑迷さも、その他、話の各所に出てくる言動のいい加減さも
まったく共感できなかったし、同情もできませんでした。

これが、メヘラン個人の資質なのか、それとも民族性なのかはわかりませんが、
民族性なのだとしたら、やはり国際的な相互理解は難しいものだと、しみじみ思います。

まあ、実話なので、こんな話があったということで、それはそれでよし。
ただ、私は映画「ターミナル」の原作本かと思っていたので、期待に外れたことは事実。
そのうち、DVDを借りて映画をフィクションとして楽しみたいと思います。






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Last updated  2007.06.26 12:39:12
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