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2010.01.27
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カテゴリ: 読んだ本
2003年11月 実業之日本社より(ハードカバー)
2005年 8月 光文社より(新書版)


事故死した運転手には、二人の愛する娘と、ささやかな秘密があった。

今田コンツェルンの広報室に勤める杉村三郎は、義父でありコンツェルン会長でもある
今田義親からある依頼を受けた。それは、会長の運転手だった梶田信夫の娘たちが、
父についての本を書きたいらしいから、相談にのってほしいというものだった。
梶田は、石川町のマンション前で自転車に撥ねられ、頭を強く打って亡くなった。
犯人はまだ捕まっていない。依頼を受けて、梶田の過去を辿りはじめた杉村が
知ってしまった事実とは・・・!?

(裏表紙紹介文より)

主人公の一人称視点で話が進むんですが、この杉村三郎が魅力的です。
児童書を扱う小さな出版社に勤めていた平凡なサラリーマンであった杉村氏が
ある女性と恋をして結婚。
その相手がたまたま大企業・今田コンツェルンの会長の娘・奈緒子であったため、
つつましい庶民の暮らしから、生活が一変してしまう。
結婚の条件の一つとして、今田コンツェルンの社内広報誌を取り扱う広報室への

社内では「逆玉の輿」というやっかみもあるし、大金持ちとの結婚を嫌った肉親とは
疎遠になってしまう。

と、こう書くと不幸な結婚だったみたいですが、そんなことはない。
杉村氏には出世欲も金欲・物欲もなく、ただ愛する妻と4歳の娘のいる生活に
幸せを感じて満足しています。
また、他人からのやっかみにもいちいち怒らず、相手の言いたい気持ちを汲んで
さりげなく受け流すことのできる穏やかな人。
また所属している広報室ものんびりとした部署であり、杉村氏の人柄と相まって
平和な日々が流れています。

そんな杉村氏が義父の依頼により、義父の運転手だった梶田信夫について
娘達が本を書きたいと言っているので、手伝ってやって欲しいと言われます。

梶田氏の娘は二人姉妹で、特に妹が、本を書くことによって轢き逃げ犯人を
捕まえる助けになればいいと願ってのこと。
しかし、話を聞いてみると、実は姉は本を出したいとは考えておらず・・・、
という感じで、立場の違う姉妹。
杉村氏は双方の意見を尊重しつつ、本を書くために梶田氏について調べていく。

梶田氏のかつての就職先に話を聞きに行ったりするんですが、
雇い主だった老人の家での様子など、杉村氏が楽しんでいる様子が伝わって
こちらも楽しい気持ちになります。
ささやかなことに幸せを見出せる人なんだなあと思いました。(^^)

でも最後は思いも寄らない結末で、衝撃。
途中経過が楽しかった割に、後味はちょっと悪いかな。
詳細は以下に、伏せておきます。


疑っていました。
理由は、聡美は幼い頃に誘拐された経験があるため、両親は何か大きな陰謀から
逃げていたと感じていたためです。
だから杉村氏は、それも含めて梶田氏の過去を探っていきます。

しかし、終盤になると轢き逃げは中学生によるただの事故、というのが判明。
梶田氏の過去に大きな事件があったけど、それは終わったことで
聡美も実は誘拐されたわけじゃなかったとわかります。
なんだー、事件なんかなかったまま終わるんだー、
でも途中の展開は十分読み応えがあってミステリーだったよね~、
と思ったのに。

最後に、聡美の婚約者が妹・梨子と浮気をしていたことが発覚します。
しかも梨子が聡美の彼氏に手を出すのはこれが初めてではない。
聡美も気付いていながら、事を荒立てると結婚が破談になるのを恐れて
黙っていたんです。
うげー、なんつー妹だ。

誘拐事件を両親と共有する聡美は両親から何かと頼りにされ、
梨子はそれが「お姉ちゃんばかり大事にされる」と感じる。
何も知らずに明るく育った梨子は「両親の一番星」と、聡美は梨子を羨ましく思う。
兄弟姉妹間で相手の待遇がよく見える、というのはよくある話だけど、
梨子の歪み方は異常。
杉村氏に、聡美との婚約者とのデート現場を見つけられて全てがバレた時に、
口汚く杉村氏を罵る梨子は醜くて、他人の幸せを認められない人なんだろうと
思いました。
こういう人は、自分が幸せな状態になっても、他人が(特に梨子の場合、姉が)
幸せであったら幸せになれない。
それは不幸な思考だけど、その不幸を他人に押しつけようとする生き方をするから
近くに存在してく欲しくないし、同情もできないなあ。

印象深い言葉が時々あって、杉村氏が実母のことを思い出す時に
「口に毒がある。蝮の毒である」と評していたこと。
悪気はないが意地悪な物言いをすることを指しています。
例えば電話があって、「ちょうど昼間、母さんのことを考えたんだ」と言うと
「道理で頭が痛かった。脳卒中の前触れかと思ったけど、おまえのせいだったんだね」
と言う。
冗談と笑い流すには、それなりの付き合いと愛情がないとできなさそう。
結婚に反対して、杉村氏が結婚した時に「おまえはもう死んだと思うことにする」
とほとんど絶縁状態にあるけど、でも1年に1回だけ梨を送ってきて、
送ったことを電話でぶっきらぼうに連絡してくるような実母です。
杉村氏はちゃんと母の毒が口にだけあって腹にはないことを理解した上で、
毒の痛みと母の愛情を両方受け止められる。
大人だなあ。
「悪気はないけど、口が悪い」というのって、よく聞く話ではありますが、
私も気を付けよう。
どこかで誰かが痛い思いをしているかも。

その実母の教えで、
「人間ってのは誰だって、相手が一番言われたくないって思っていることを
 言う口を持っている。どんなバカでもその狙いだけは正確だ」
というのがある。
最後に杉村氏が梨子と聡美の婚約者との会話(というか暴言。お幸せな金持ちに
何がわかるとか、妻の財産で暮らしている男妾だとか)の後で、
それを思い出しています。
そして、大切な自分の家庭へ帰ろうと思う。
杉村氏にとっての結婚は、他人の口の毒に日々さらされる結果を伴うものであり、
それでも、それよりも大切なものを得るものであったんだなと思いました。

杉村氏みたいな生活ってイヤだけど、それでも幸せに生きようと思えばそうできる、
と感じさせてくれて、素敵な主人公だと思いました。







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Last updated  2010.01.28 12:19:24
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