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2012.04.27
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カテゴリ: 読んだ本
2003年2月  幻冬舎より


あの男は殺人鬼だったのか?
梶間勲の隣家に、かつて無罪判決を下した男・武内真伍が越してきた…。
有罪か無罪か。手に汗握る犯罪小説。

(図書紹介文より)

梶間勲は裁判官。裁判長として最後に担当した事件が、子供を含む一家3人殺害事件。
容疑者は隣家の住人・武内真伍。
被害者宅に遊びに行っていて事件に巻き込まれ、自分も犯人に背中を強打され怪我を負った
と主張する武内。
検察は、バットで殴られたという背中の傷は自作自演で、武内こそが犯人と主張。
自分の背中を自分で強打できるものなのか?
検察はこの点が立証できず、勲は無罪と判断する。

オープンキャンパスの講座を受け持っている。
その講座で武内に出会い、冤罪事件についての講義に武内を招き、講演を依頼する。
その数日後、たまたま空いていた隣家に、偶然武内が引っ越してきて・・・・という話。


武内が越してきてから、平穏だった梶間家にトラブルが起こり始めるのです。
これは武内がやっているのか?それとも武内を陥れようとしている別の人がやっているのか?
それにしても武内の挙動は怪しい。
やっぱり過去の事件でも武内が犯人だったんじゃ?と疑いの目で読み進めていくわけですが、
有罪でも無罪でも、武内を無罪と判断した勲は恩人ともいう存在じゃないですか。
何で恩人一家に災いを為す必要があるの?というのが全くわからず、怖かったです。

犯人は誰か?有罪か無罪か?というのが話のポイントではないです。
それぞれの登場人物達の行動の動機、言動、日常生活における事件の方が重要で




以下、ネタバレとなりますので間を開けておきます。
























最初に言ってしまうと犯人は武内で、一家殺害事件でも彼はクロでした。
武内は子供の頃から、他人の好意を買うために度を超えて一生懸命尽くす代わり、
その気持ちにいちいちきっちりと応えないと逆恨みして逆上する人間だったのです。
隣家の一家殺害の動機も、プレゼントしたネクタイを相手が使ってくれなかったから。
背中の傷はバットにネクタイを結びつけて振り回した、というもの。

自傷の理由は自分の小さなミスが許せなかったり、他人の同情を買うためだったりですが、
鬼気迫る表情で鉄の柱に頭突きをする様が異様で怖かった、とは件の知人の証言。

梶間家の隣に越してきたのも、自分を救ってくれた勲に過剰で一方的な善意を捧げるため。
実際、最初はいろいろと良くしてくれるのです。
しかし、勲の妻・尋恵が寝たきりの姑・曜子の介護で苦労しているのに報われずにいるのを見て
邪魔な曜子を、事故に見せかけて殺害してしまう。

梶間家は武内に対して好意的ですが、嫁の雪見だけは何となく違和感と警戒心を抱いている。
敏感にそれに気付いた武内は、いろいろと画策して雪見が梶間家にいられないように仕組む。
最初は、雪見が6年以上前(勲の息子・俊郎と結婚する前)に付き合っていた中野を、
雪見が幼い娘・まどかを連れていつも行く公園に呼び出して、2人が出会ったところに
俊郎が行くように仕向けたり。
雪見がまどかを虐待していると児童相談所に通報して、家を訪問させたり、
まどかの足に青い染料を付けて、尋恵の前で「おや、青あざが」と言ってみたり。
おかしな薬入りのヤクルトをまどかに飲ませ、夜泣きや癇癪を起こさせて、
精神的に雪見を追い詰め、手を上げるように仕向けたり。
手を上げたと言っても、悪いことをした時に足を叩いた程度で、親の躾の範疇。
しかし、その前にいろいろと雪見の虐待疑惑を吹き込んであるため、
俊郎により雪見は家を追い出されてしまうのです。

どう見ても仕組まれている、というのが読者にはわかるので「何で騙されちゃうの!?」と
もどかしさがいっぱいでした。

特に俊郎のダメさ加減がひどい。
梶間家は裕福な家で生活に困らないため、30才になる俊郎はフリーター。
3~4年前に、弁護士になると司法試験への挑戦を始めたところです。
実は雪見は6年前に俊郎の子供を妊娠しているんですが、まだ結婚前だったし、
フリーターの俊郎に相談できず、子供を堕ろしてしまったんですね。
黙って堕ろした雪見も悪い。
それを知った俊郎が「俺はそんなに頼りないのか」と怒ったのは、仕方ないかなと。

でも、その後中野に会った時がね。
中野が公園に来たのは、武内が書いた偽手紙に呼び出されてのこと。
雪見の筆跡で「会いたい」とあって、でもそれコピーなんですよ。
武内が雪見の実家から盗み出した日記類を切り貼りして作ったらしい。
雪見が「私はそんなの出してない」って言っているのに、雪見の言葉は全く信じず、
「6年前の妊娠って本当に俺の子か?」発言をしているんです。
男としても夫としてもダメなヤツ、と思いました。

ダメなヤツと言えば、勲もそう。
「母の介護で」と退官しているんですが、介護は全部尋恵に任せっきり。
尋恵が忙しく家事をしている時に姑が「尋恵さ~ん」と呼んだら
新聞を読んでいた勲が「おい、呼んでるぞ」って。
誰の親なの?ダメなヤツだなと思いました。
この親にして、この子ありって感じ。

でも勲の本当にダメな部分はこっち。
東京地検に勤める検事・野見山に会った時に、野見山の言った言葉が明確に表しています。
「あなたは今まで裁判官席という風上から、下々で起こる事件をまさに他人事として裁いてきた。
 ところが今度、急に風向きが変わって自分のところに火の粉がふりかかってきたものだから、
 びっくりして慌てふためいているわけです」
武内を無罪としたのも、死刑判決を下すのが怖かったから。
一家3人殺害で、有罪なら死刑。それを避けるには無罪しかない。
ちょうど立証にあやふやな点があったからそこを突いた。
もう1件、死刑確実の裁判を抱えていたから、母の介護を理由に逃げた臆病者だ、と
断罪されるのです。
ここを読んで、なるほどタイトルの「火の粉」ってこういう事かと思いました。

結局、武内の悪行は最後に全部バレて、逆上&逆ギレした武内は
一家を全員殺そうとする。
武内のログハウスで、武内と対峙する勲。

ログハウスの外には刑事がいるんですが、玄関は武内が鍵をかけた。
すでに重症の俊郎が床に倒れていて、勲が目を離すと武内は更に俊郎に危害を加える。
武内を牽制しながら勲は鍵を開けるのですが、その隙にやはり武内は俊郎へ攻撃をする。
刑事が飛び込んできた目の前で、勲は「死ねーーーーーっ!!」と絶叫しながら
武内の頭に重いガラスの灰皿を叩き付けるのです。

最後は勲の裁判シーン。
『死ねと叫びながら、刑事の制止を振り切って10回殴った』ため正当防衛とは認められず。
しかし、家族を危機から救おうという動機であったこと、
『死ね』という言葉は殺意の現れではなく、その時の怒りの表現としての言葉と思われること
などで情状酌量があり、1年半くらいの実刑判決となるのです。

それを聞いた勲自身の感慨。
確かに防衛からは逸脱していた・・・というより、防衛としては遅すぎたのだ。
野見山が言っていた、いざというときの決断が決定的に遅れてしまっていた。
それは今でも後悔する限りである。しかし、報復と言われると違和感が残る。
あえて言うなら、責任を取ったということなのだが・・・それもずいぶん間抜けな話で、
人に解ってもらおうとは思わない。

責任、というのはたぶん、死刑判決を恐れて武内を無罪にしたことの責任かな。
ログハウスへ救出に向かうのが遅れたのも、武内がどうやって自分で背中を強打したかを
探っていたからなんですよね。
そのもっと前に、武内の知人から話を聞いて武内の危険性を知っていたのに、
家族を守ることより、自分の判決の間違いの証明に拘って、武内と対決する決断が遅れた責任
とも言えるかも。

確かに『死ね』と叫んだのは殺意があったからではない。かといって、たまたま口を衝いた
わけでもない。
あのとき、ああ叫ばなければ自分は一撃たりとも繰り出すことができなかっただろう。
息子が倒れているのを前にしてなお正当防衛になるのかと考えていたほど、性根まで
遵法精神が染みついてしまっている男だ。
そんな男が理屈を超えて行動を起こすには、殺意を持ってくる以外になかった。
殺意があって叫んだのではなく、殺意を呼び起こすために叫んだのだ。


これは、なるほど~という感じでした。
今まで裁判官として積み上げた全てを失ったが、かろうじて大事なものは守れたので
喪失感はない、としている勲。
あまり感動はできなかったです。
こういう弱さを持った凡人が精一杯頑張って結果を出した話って好きな筈なんですが、
途中の優柔不断さやダメっぷりが私の中でよほどマイナス評価だったらしい。(^^;

人間ドラマとしてはよくできていると思いますが、それほど楽しい話でもなかったです。





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Last updated  2012.04.27 12:36:46
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