すい工房 -ブログー

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2006年09月23日
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 なぜ彼が私を嫌うのか、理由はわからない。

 もともと彼との接触はあまりないし、彼自身が人との関わりを持とうとしないのだから、考えられる理由は限られてくる。

 だと言うのに、彼の嫌悪を買っているのだ。
 私が気づかないうちに、カンに触れる言動をとっていたのだろう。

 彼が私を嫌っているのだろうとの推測も――ふとした拍子に気づいたことだ。

 人との接触を持たない彼だったけれど、明らかに私との他の人との対応が違うのだ。

 この前だって肩がぶつかったとき、一言も言葉を発しなかった。

 狭い教室だ。
 何かの拍子に体が衝突することだってある。
 ほかのクラスの女の子が同じ状況に陥ったとき、彼は無表情だったものの「いいよ。気にしないで」と明らかに相手を気遣うそぶりを見せた。

 それが決定打だった。
 たった一言の、たった一つの動作だったけれど、私が彼の中では「ことさら関わりたくない人物」に入っているのだとわかった。

 彼が嫌悪を外に出した行動をとったことはない。
 可能な限り、私との接触を拒んでいる。
 それが他人に気づかれない程度、にじみ出ていた。

 嫌悪をむける相手だけが気づく程度の、本当にわずかなもの。

 橋川が、言葉に、行動に出していないから、私も突き詰めて聞くこともできない。

 互いにいさかいなく、平穏な学園生活を望むなら、私も橋川との接触を極力避ける必要があった。

 グランドに戻ると、先導にしたがい、決められた組に整列する。

 競技は男子の徒競走が終わり、女子の徒競走へとうつる。

 男子のときのように、黄色い声が飛ぶことはない。
 親しい友人に、「ころぶなよー!」とか「一着以外、許さん!」とか、そんなからかい半分の声援が時折混じっていた。

 運動は苦手だ。

 陰鬱な心は、スタート地点に立つと最長に達していた。
 ずっと人の背で塞がっていた視界が急に開け、障害物のない景色が広がっている。

 支持されるまま、クラウチングスタートの体勢をとり、火薬のはじける音でスタートする。

 懸命に走ったものの、結果は6人中5番目。
 橋川やカエのように、集中的な運動の練習量はこなしていない。
 でも時々、カエと一緒に走りこみの練習をした。

 ……たいした成果はあがっていないけど。

 あがった息を整えながら、促されるまま、順位順に並ぶ。
 記録係が順位を書き留めてから、解散となる。

 解散の合図を受けて、その場から少し離れた芝生の上で留まっていた。
 2組あとにカエが走る。

 カエは予想どおりの1着。
 記録を終えると、私に気づいて側にきた。

 素直な賛辞を送ると「これしか取柄ないし」とはにかみながら答える。
 カエは陸上部の短距離走者だ。

「長野」

 カエと話し込んでいると、不意に彼女を呼ぶ声がした。

 振り向くカエに、体が強張る私。

「橋川……」

 会いたくない人が――できれば見たくもない人が、カエの後ろにいた。
 いつもの無表情で「先輩が呼んでる」と淡々とした口調で話している。

「なんで?」
「リレーの作戦を立て直すって」
「え? なんで?」
「土壇場で白が順番変えたんだと」
「ええ~。いいじゃん。ちょっと変わったからって、総タイムがそう変るわけないじゃない」
「文句は直接本人に言えば?」
「できるわけないでしょ。それにー。全学リレー、トリじゃない。お昼もまだなのにー」

 体が強張ったまま、とにかく私は橋川が離れるのを願っていた。

 ……と、ほんの一瞬、橋川が私を見た。
 動かした視線の先に私が存在してしまった。……と、言ったほうが正しいだろう。

 身がすくむ私を、ほんのわずかに眉をよせて、何事もなかったように顔をそむける。
 橋川は、文句をいいつづけるカエを置いて「用件は伝えた」とばかりに、先に歩いていく。

 ぐずっていたカエも、あきらめのため息をこぼして「じゃあ……行ってくるね……」と重い足取りで歩いていった。

「気をつけてね」

 離れていく橋川にほっとしながら、よろよろと歩いて「いやだ~」との心境を体全体で現しているカエに、手を振る。

 最近、橋川が側にいると息が詰まる。

 橋川の心情がわかるから、身の置きどころが……なんというか、足元がざわざわして気持ち悪い。
 橋川が私に向ける嫌悪は、ちょっと……痛いものがある。

 ため息をこぼして、私は空を見上げた。
 十月上旬に行われる体育祭は、秋の気配をふんだんに含んでいて、過ごしやすい。

 空は青く、空気はほどよい冷気を含んでいる。
 汗ばんだ体には、吹きぬける風がここちいい。

 さわりと前髪を揺らした風を感じながら、頬に触れて流れる風を感じながら、私は空を見上げたまま目を閉じた。

(……嫌われて、平気な人なんていないんだよ)

 そう、胸のうちでこぼして。



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最終更新日  2006年10月08日 01時11分21秒
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