すい工房 -ブログー

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2008年01月01日
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 2週間なんてあっという間だった。

 さいわいにも、休日はゆっくり休養をとれる。
 祝日出勤はしなくてよさそうだ。

 いつもは出勤時間とおなじ時間帯に目がさめるけれど、異動後はつもりにつもった疲労のせいで、気がつくとお昼まで寝てるなんてこともあった。

 けど、その休日は携帯の呼び出しで目をさました。

「……はい……」

 ふとんにはいったまま、のっそりと頭だけ上げて応答する。

『……チサトさん?』

 ユズルだった。

「……はい……」
『もしかして、寝てた? ごめん』

 私の声から、そう判断したらしい。
 私も自分でもよくわからないまま、返事をしていた。

「ん……。いいよ……別に……。
 なにか……あった……?」
『なんか……疲れてるみたいだね』
「……まあ……そこそこ……」
『今日の、どうする?
 今度にしようか?』
「……今日の……?……」

 そう言われても、眠りかぶった頭では、なんのことかわかんなくて。

 首をかしげると、心配そうにユズルが続けた。

『うちの母親が頼んでた、ドックラン。
 今度にしようか?』
「……ドック……ラン……」

 ぼーっと、ユズルの言葉を反芻して。
 その意味がわかると、ハッとしてガバっ!と体を起こした。

「冗談!!
 行くに決まってんでしょ!?」

 実は。

 数日前に、ユズルから相談を受けていた。
 以前、ルーをつれていったドックランのある公園の話をミチルさん(ユズルのお母さん)に話したことがあって。

 ミチルさんは興味をもって、ぜひその場所を教えて欲しいという。
 ユズルも、あのときは私についてきただけだから(電車使用)、場所を覚えてないという。

 初めは「場所を教えて欲しい」ってことだったんだけど。
 それなら私が一緒についていくってことになった。

 ミチルさんはカイを連れて行きたいらしい。
 もちろんルーも同伴だ。

 ユズルは、悪いから、場所を教えてくれればいいと言ってたけど、私が譲らなかった。

「ルーと遊びたいのよ私は!」

 と。
 本音を暴露したおかげで、同伴することになったのだ。

 残業続きでルーの散歩にも行ってないから、久しく会ってないから。
 無性に会いたくて仕方ない。

 だから今日だって、鼻歌気分だ。

 ……って。
 そういや、約束の時間は午後からだったはずだけど?

 時計を見ると、午前9時ちょっとすぎ。

 ユズルは言いにくそうに「じつは」と説明した。

 なんでも、ミチルさんの都合が悪くなったのだという。
 急に昔の友人がたずねてきて、一日一緒にすごすことになったらしい。

 だから今回のを延期にしてもらえないかとの話だ。

 私は首をかしげた。

「別に今日でもいいじゃない」
『え? けど――』
「今日一緒に行って。
 ユズルが場所を覚えて。
 で、ミチルさんに教えてあげれば?
 それなら、また都合をつける必要もないでしょ?」
『……あ。』

 言われて、その方法もあったのだと、ユズルは気づいたようだった。

 それから、予定通り。
 午後1時すぎに、ユズルが車で私を迎えに来た。
 車にはカイとルーが乗っている。

 私は久しぶりに会うルーに歓喜の声をあげ、ユズルに苦笑されつつ、助手席でもルーをずっと膝に抱いていた。

 カイは後部席におとなしく座っている。
 時々、前席の状況を見るように、ぬん、と肩越しに顔を出してきて、私が驚いたりしてたけど。

 で、一度私の実家に寄ってもらって家の愛犬をつれて、実家近くの公園にむかった。

 うちのとルーは一度会ったことがあるけれど。
 カイとは初対面。

 互いに興奮しているようで、そわそわしていた。

 それが顕著にあらわれたのは、ドックランの広場についてから。

 リードから離してあげると、二人とも追いかけっこするように駆けていった。
 ルーもそのあとに続いてたけど、いかんせん、体格が違いすぎる。

 で、二人のあとを追いかけるのをあきらめると、近くにいる小型犬のそばにチョコチョコと近寄って、遊び始めていた。

「……元気ねー」

 猛ダッシュで駆けていったカイとうちの愛犬を眺めて、そんな言葉がもれてしまう。
 ルーは一度来たことあるけれど。

 カイは初めてだから。

 だから、うちのとちょっと顔合わせして、慣らして、で、広場に放したほうがなじめるだろうと思って連れてきたけど。

 予想以上の反応だ。

「抑圧するものがないから、気持ちいいんだろうな」

 ユズルも、遠くに行ってしまったカイをながめて、そうつぶやいていた。

「そだねー」

 同意しつつ、私はちょっと寂しい。
 私と遊んでくれる子がいなくなってしまった。

 犬同士の遊びになれたら、少し飽きたら戻ってきてくれるだろうけど。
 ……それまでが退屈だ。

 ……こうなったら、近くの子をつかまえて遊ぶか。

 これまでも、うちの愛犬を野に放している間、私好みの子を見つけては近寄って、飼い主さん相手にべた褒めして(けど本心)、機嫌よくしている間に、その子と遊んだりしていた。

 だから結構、小型犬種の飼い主さんとは顔見知りが多い。

 そんなことを考えていると、目の前を私好みのパピヨンが通りすぎた。
 大きな耳が特徴的な小型犬種。
 この犬種も、私の好みの一つ。

 あ。確か、安井さんとこの――。

 と、そのパピヨンを目で追って――その先にあったものに、私はぎょっとした。

 かすかに、視界のすみに入っただけだけど。
 遠くで、顔もよく見えなかったけど。

 ……まさかと思いつつ、私は反射的に立ち上がると、カイの様子を眺めて立っていたユズルの腕をつかんで、ぐいとひいた。

「ちょ、チサトさん!?」

 驚いて声をあげるユズルに「しぃっ!」と声をあげないように注意して、その背に隠れる。

 なるべく体を細くしようと、直立不動の体勢をとって、ユズルに隠れるようふんばった。

 ユズルが、なにがなんなんだかって、困惑してるのもわかってたけど、今は説明してる暇なんてない!

 まさかまさかまさか!

 どくどくと高鳴る心臓をおさえて、私はひたすら体を強張らせていた。

 見間違いでなければ。

 この、同じ公園の中に。
 しかも、ドックランという限られた空間のなかに。

 なぜか。
 実家からも住まいとしているマンションからも離れている場所だっていうのに。

 久坂さんが。
 しかも私服姿のラフないでたちの久坂さんが、いた。





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最終更新日  2008年01月01日 22時28分38秒
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