2024年05月04日
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カテゴリ: 医療




 人生の最終局面、多くの人は幸せな最期でありたいと望むだろうが、それがなかなか難しい。

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 人生の最期は、親と子供、夫と妻など、その人が築いてきた身近な人たちとの関係性が写し鏡のように反映されることも多いからだ。子供や配偶者に辛くあたってきた父親は、家族から距離を置かれやすい。子供を愛情たっぷりに育てたつもりでも、その愛情の方向性が相手にとって間違っていれば、最期に期待するような親子関係を築くのは難しい。

 そして、その関係性がいびつであればあるほど、トラブルも起こりやすい。

 「50代「ひきこもり」息子と暮らす78歳母が、末期がんで寝たきりに…「ゴミ屋敷」で迎えた「悲痛な最期」」に続き、看護師・武藤直子さんが紹介するケースは、息子の「ひきこもり」を長年にわたって許容してきた母親、小倉洋子さん(享年78)の話である――。

息子が母を呼び戻した不条理な理由
 「ひきこもりの息子さんは、親が死んだあとの自分の将来を気にしてか、母親の老後の資金をできるだけ使わないようにするため、訪問介護を入れず、自分で母親の面倒をみていました。ところがわずか1ヵ月ほどで音を上げ、介護放棄しました。『もう施設に入れて欲しい』と言い出したので、間髪いれず担当のケアマネージャーが動いて施設に入所させる手続きをとりました。その結果、洋子さんは保護され、安堵したのですが…」(武藤さん・以下同)

 ところがその2ヵ月後、息子が「母を施設に預けられない。私が引き取る」と言い出したため、洋子さんは再び自宅に戻り、シューズインクローゼットだった場所に寝床を戻ることになったという。

 「手のひらを返した理由は“お金の問題”です。施設に入所したことで洋子さんのお金の管理は、息子さんから施設に移りました。親の金以外の手持ちが無かった息子さんは、食うに困って『ちゃんと介護をするから』と言って、母親を戻してしまったのです。はたから見れば許しがたい動機ですが、洋子さんにとっては大切な息子。家に帰ってはダメだと引き止める人もいたようですが、『息子がそう言っているのなら』といって施設を出ました」


 繰り返すが、息子が自分の将来のために節約しているお金は、母親である洋子さんが定年まで懸命に働いて、貯めてきた老後の資金と、洋子さん自身の厚生年金や国民年金である。息子はそれをあてにして、末期がんで苦しむ母親にすらお金を使わせない状況だった。ただ、だからといって母への愛情がまったくなかったわけではないという。

 「相変わらず訪問介護を入れることを拒否していたようですが、オムツはこまめに変えていたし、衛生管理がどうにもいかなくなったら私たちを呼んで、訪問入浴で綺麗にしようとしていました。何か気づけば『最近、母の顔色が悪いようにみえるのですが大丈夫でしょうか』『お通じが数日ないけどどうしたらいいでしょう』と心配そうにしていることもよくありました。

私たちが入浴後に取り換えるお布団のシーツがボロボロで、『新しいシーツをだすことはできますか? 』と頼めば、『探してきます』といって違うシーツを持ってきました。ただ、それもボロボロでしたが…。

 息子さんに、母への愛情はあったと思います。ただ母親の死後の生活のことが頭にちらつき、介護がいびつになっていた。だから床ずれを心配し、熱心に予防する方法を聞いてくる反面、低反発のマットや介護ベッドのレンタルを勧めても拒否したり、ヘルパーを入れたほうが安心なのに、節約のために、自分でやろうとしていたように感じます。訪問入浴についても、週2回などの定期的な依頼ではなく、節約に節約を重ねて1ヵ月に1度程度、依頼してくる形をとっていました」

 その一方で、息子がネット通販で何かを購入しているようで、居間やキッチン、廊下には新しく届いた工具や家電製品、パソコンの周辺機器が未開封のまま増えていったという。

末期がんの母親に焼いたウインナー

 武藤さんが見ていて胸が締めつけられたのが、洋子さんの食生活だった。1日3食を息子がつくって食べさせていたというが、

 「洋子さんはがんの末期で食欲もなくなってきている状態なのに、息子さんがつくる介護食は彼女のことをまるで考えていない献立だったのです。例えば、朝食がトーストとケチャップをかけたスクランブルエッグだったり、晩御飯が焼きウインナーに目玉焼き、キャベツの千切り、おかゆ、麦茶だったりと、まるで独身の不摂生なおかずなのです。

 当然、洋子さんはほとんど食べることができません。それをみて息子さんは『母がなかなか食べてくれない』と心配し、私たちに相談してくるのですが、介護食の宅配サービスを提案しても、「それはダメです」と拒否をする。洋子さんのことを考えると、やるせない思いがしました」

 もともと末期がんではあったが、結果、洋子さんはみるみるやせ衰えていった。

 「ある日、訪問入浴に訪れると、洋子さんの容体は残された時間が少ないと感じるところまできていました。私たちはどうにかして洋子さんに好きなものを食べさせてあげたかった。でも息子さんはそれを嫌います。そんなとき息子さんが二階からおりてきて『母が痩せてしまっている。どうしたらいいですか』と聞いてきたのです。



 その2週間後、洋子さんはシューズインクローゼットの寝床で旅立った。





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Last updated  2024年05月04日 11時09分04秒
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