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保険の異端児・オサメさんComments
前回に引き続き、高校野球の思い出を綴りたい。1976年春、第48回選抜高校野球大会は広島の崇徳高校が優勝するが、その崇徳の2回戦、茨城の鉾田一高との試合は、忘れられない試合である。
その日、私はいとこの結婚式のため、熊本市の水前寺公園近くの結婚式場の控え室で、高校野球をテレビ観戦していた。初戦、香川の古豪、高松商との打撃戦を制した崇徳は、2回戦で、こちらも初出場の鉾田一と激突する。もちろん、戦前の予想では、崇徳優位は揺るがない。
一方の鉾田一は、エースで4番の速球投手、戸田のワンマンチームだった。1回戦、新潟の糸魚川商工との試合は、まさに戸田投手1人で勝ったような試合だった。ノーヒットノーランを達成し、自らのタイムリーで決勝の1点を挙げ、1対0で勝利した。まず、簡単にこの試合を振り返ってみる。
プレイボール直後の初球をバックネットへ大暴投して始まったこの試合、初回、戸田は3連続四球を与え、いきなりの無死満塁の大ピンチを迎える。球筋が定まらないと見た、糸魚川商工の各打者は、待ち球作戦に出るが、ここから戸田は三者三振(だったと思う)を奪う。糸魚川商工は絶好の先制機を逃す。まさかそれが、最初で最後の大チャンスとは思いもしなかったことだろう。
そしてその裏、鉾田一はワンチャンスをものにする。2死ながらランナー1人を置いて、4番戸田がタイムリーヒットを放つ。鉾田一のヒットは、これを含めてわずか2本。そして投げては、初回の乱調がウソのように、とうとう無安打に抑え込んだのである。両チームあわせて2安打というのは、破られようのない、最少安打試合の記録である。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
|
糸魚川商工
|
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
|
鉾田一
|
1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | x | 1 |
そして、運命の2回戦である。初戦、ノーヒットノーランの鉾田一の戸田の真価が問われた試合であったが、戸田の剛速球は冴え、崇徳の大型打線を完全に封じ込んだのである。一方の、崇徳の黒田投手も、負けじと鉾田一打線を完全に押さえ込み、鉾田一はヒットの1本も打つことが出来ず、試合は8回裏まで進んだのである。
0対0のまま、延長戦かとも思われた試合だったが、8回裏、思わぬ形で均衡が破れる。それは、鉾田一を象徴するようなシーンだった。打者は、鉾田一のエースで4番の戸田。黒田の速球を叩いた打球は、ライトスタンド(ラッキーゾーンだったかもしれない)に一直線に吸い込まれていった。初安打が均衡を破るホームランとなったのである。
9回表、崇徳の攻撃は、あっという間に2死となる。初戦2安打で勝利した鉾田一は、この日わずか1安打で、優勝候補筆頭の崇徳を追い詰めたのであった。そして、次の打者の打球は、1塁手正面への平凡なゴロとなった。 万事休すと誰もが思ったその瞬間、信じられないことが起こった。1塁手がトンネルしたのである。勝利を目前に、固まってしまったかのようだった。
それでも既に2死。鉾田一の戸田は、次の打者を二遊間のゴロに討ち取る。ボールの正面に入った遊撃手、今度こそ万事休すと思われた。しかし、あろうことか、これも大きく弾いてしまったのである。この時、鉾田一を応援していた私は、勝利を目前に2つ続いたミスに、心中、穏やかでなかった。
そして迎えた打者は、4番永田。もはや、戸田投手は自分が抑えるしかない、という気持ちで、力みが強くなったのかもしれない。そして、打ち放たれた打球は、非情にも右中間を大きく破り、ボールはフェンスまで転がる3塁打となった。2者が生還し、とうとう崇徳が土壇場で試合をひっくり返したのである。
打線が非力な鉾田一にとっては、これで試合が決した。戸田の緊張の糸も切れてしまったかのようだった。続く打者にタイムリーヒットを打たれ3点目。そして、牽制悪送球、四球。とどめは、高々と上がったピッチャーへの飛球を無造作に片手で捕りにいって、落球。あっという間の4失点。逆転された後の戸田は放心状態で、まさに一人相撲だった。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
|
崇徳
|
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 | 4 |
|
鉾田一
|
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 |
悪夢の9回表、崇徳の攻撃が終了し、ベンチに戻る戸田投手の目は、すでに涙が一杯に溢れていた。9回裏の鉾田一には、反攻する力はなかった。試合終了後も止まることなく、泣きじゃくっていた戸田投手の姿は、忘れることが出来ない。
この試合で生き返った崇徳は、その後も強さを発揮し、初優勝を果たすのである。
そして、鉾田一は、同じ年の夏、再び、甲子園に戻ってくる。戸田のワンマンチームと呼ばれていた春のチームから脱皮し、打力を強化した逞しいチームとして戻ってきた。しかし、初戦、兵庫の古豪、市神港に延長戦の末、4対7と敗れる。戸田投手に春のリベンジはならなかった。
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