上生的幻想

上生的幻想

2007/12/05
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 その中での「約束事」。
 主客ともにその「約束事」を守ることで、意思の疎通が図られるし、また、「心が通い合った」という思いが生まれる。
 一方、日常生活や現実の世界では、お茶でいうような「約束事」のようなものはない。
 そんな日常や現実の世界で、どうやって意思疎通を図り、「心を通わせるか」。
 それが、多分、「茶道」の眼目。
 そうでなければ、「ちんけなお遊び」でしかない。
 なーんて、大上段に振りかぶっちゃうと、後が、しんどい・・・・。

 茶室の中では、亭主がこうすれば客はこうする、ということが決まっていて、それに基づいてお互いに行動する。「約束事」に従うことで、お互いの言動が響きあい、その結果、「模擬的に」「心が通い合った」ということを体験することができる・・・。
 茶室の中なら「約束事」に守られているけど、その外では? 
 1日の「会」で主客が亭主から求められていたのはそこ。
 「茶室」という「模擬空間」ではなく、日常的な空間で、それができるのか?
 そのためには「茶」を捨て、「道」に入らないといけない、と。

 主客の性格、人となりをそれなりに知っている僕からすると、主客にそれはかなり至難の業。
 彼女の性格というのが、人から厚意を受けると、それに応えようと一生懸命にはなるけど、どうも的はずれ。厚意を示した方が望んでいるのとはズレた応え方をする。悪気があるわけじゃないんだろうけど、そうなってしまう、といった人。厚意に応えようとすればするほど、努力はカラまわり。
 でも、そういう人でも、「茶室」のなかではうまくいく。「約束事」のとおりにやっていればいいのだから。
 そうしていれば、心が通ったと、「錯覚」できる。


 さてさて、それはそうと、やっと逃げ込んだ「茶室」。でも、その「茶室」こそ亭主が腕によりをかけて仕掛けた罠だった。
 主客が道具を運び込んだとき、ひょこっと茶道口から顔を出した亭主がなぜか水差しについて説明。
「これは、もとは、白木の曲げ物だったのを、反故を貼って、漆を塗ってリサイクルしたもの。白木の曲げ物は、一度しか使わないものだけど、これは何度でも使えるのよ」
 こんな説明を聞いた主客は、もしかすると背筋が凍っていたのでは?
 つまり、「何度でも、あなたが、『道』に入るまで、こんなふうな会をしましょうね」

 でも、裏返せば、これは亭主の主客への深い思いの表れでもある。
 その思いをはっきり伝えているのが、茶杓。
 古代杉か何かの古材を、くだけた姿に削りだしたその茶杓の銘は、「わぎもこ」。
 「わぎもこ」とは万葉時代の女性に対する親しみを込めた呼び方。
 何度でもこんな会をするけど、「でも、それは、貴女のことが憎いからじゃないのよ」と。
 茶杓がくだけた形であることが、さらに親しみを強調する。

 ただ、それだけではなく、「わぎもこ」には伏線があった。
 客がついて居間で蜂蜜漬けゆず入りの白湯を飲んでいたとき、亭主が「かぎろひ」の話をし始めた。
 朝、冷え込むと琵琶湖の上に見える、虹の光が逆になったようで、それをかぎろひといい、とても美しい。「かぎろひといえば、たしか、額田王の歌にあったわねえ、ひんがしの野にかぎろひのたつ見えて かへりみすれば月かたむきぬ」
 天智天皇の近江大津の宮が近くということもあって、この額田王の引用は印象的。
 この伏線のために、「わぎもこ」のメッセージがさらに、さらにひきたつ。

 菓子の話にも、伏線。
 食事中、「葛焼き」の話。葛焼きは作りたてが一番おいしい、云々。
 それでお菓子の話がつづき、伊織の干菓子のエピソード。
 なんでもない干菓子を200ほど贈ったときはお返しがあったけど、伊織の時はなかった、云々と笑い話ふうに。
 そして、「茶室」でお茶が始まるとき、もう一度その話。
「伊織の干菓子ではなんにもお返しがなかったけど、なんでもない干菓子を贈ったとき、そのお釜を頂いたの」と、これも呆れたような笑い話として。
 葛焼きは、もちろん、「レンジでチン」の「堅田暮雪」を暗に意味している。
 伊織、というだけで、ありがたがっている正客。ありがたがって、そんなお菓子を出してくれるのだからと、プレッシャーも。うれしいけど、プレッシャー。
 この伊織のように亭主が提供するものは、正客にとって、つねに「二律背反」、「ジレンマ」。というか、亭主自身が、正客にとっては二律背反的な存在。
 二律背反、これは、まるで禅問答。二律背反をどう解決するか。それが悟りでもある。
 「伊織にはお返しがなかった」というエピソードも、正客のなかで伊織の価値を下げる一方、プレッシャーを取り除く。伊織の価値が下がるのは正客にとってはマイナス。だけど、プレッシャーがすこしでも軽くなるのは、プラス。
 ここでも、やっぱり、「茶」を捨てろ、というメッセージは明らか。
 さらに、追い打ちをかけるのが、「堅田暮雪」。おいしい、「堅田暮雪」。「日本一」で「貴重」で「普通では入手できない」そんな伊織よりも、おいしい、「堅田暮雪」。「レンジで3分、チン」。主客ともにわいわいがやがや、いかにも「茶(客が亭主と一緒に菓子を作るなんてことは、「茶会」にしろ「茶席」にしろ「茶事」にしろ、きいたことない)」とは離れた日常的な行為のなかでつくられた「堅田暮雪」。
 亭主のメッセージは、もういうまでもない。

 一事が万事。
 実は、正客は「茶室」での「お茶」のことばかりに気がいっていて気づいていなかったのかも知れないが、この「会」全体がくだけた「茶事」ともいえる。正客は「くだけたお茶会」といって誘ってくれたけど、そこからするとやっぱり気づいていなかったのかも知れない。「茶室」の「お茶」は「お茶」だけど、主客ともに菓子を作ったり、花をとりに行ったり・・・そんなことは常日頃のただの遊びであり、「お茶」とは関係ない・・・。
 とにかく、亭主のすることは「会」の間中、この伊織と「堅田暮雪」に見られるように、緻密、周到、常に一貫していて、狙いはもちろん正客。


 草臥れた~ので、今日はこのへんで。
 料理のことなども、気が向けば。。。





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Last updated  2007/12/05 10:02:38 PM
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