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彼女は泣いていた。暗闇の中、やっと見えるケリーの輪郭。ぐすん、と手の甲で涙を拭く。しばらくして、あぁ。とため息をついた。幸せと愛情で満ちあふれてて泣けちゃったよ、と言う。え?「昔ここで舞踏会ってしょっちゅうあった?そういうのって年に二回とか三回とか思ってたけど、毎月?いや、毎週?あったみたいだね。ここで出会って、恋に落ちて、結婚した後も仲良くここで踊って、二人ともこのボール・ルームが一番大切な思い出の人がね、まだ踊ってるのかな、音楽が聞こえるよ。」こちらまで切なくなる涙声だ。「あたしなんで泣いてるんだろ。止まんないや。」へ?「こんな風に愛し合って、幸せに暮らして、おじいさんおばあさんになっても一緒に踊って、ほとんど一緒に死んでいった人って、いいな。羨ましいよ。あたしこれ程愛される事は一生ないんだろうなって思うと余計泣けてくるよ。」暗闇の中、見えない人々がクルクル踊りながらすぐそばを通っているのだろうか。ぞくり。鳥肌が立った。「ご存知の方少ないですけど、確かに昔は毎週舞踏会があったんです、まだ馬車の時代ですけど」とKが震える声で言う。「踊る婦人や紳士方が見える、ってお客様、私もお相手した事あります。もっと多いのが、音楽が聞こえるって...」お、音楽って、今聞こえてんの?ケリーの輪郭が首を傾げる。「ピアノが聞こえない?なんか聞いた事ある曲だけど、なんて言うんだろ。」...聞こえない。だが思いあたる。それって、こういうの?と「美しく青きドナウ」をちょっと歌ってみると、そうそうそう、それ、とケリーが頷く。まぁ、ありがちだけど。もしかして二人とも「古いワルツ」=「美しく青きドナウ」しか思いつかないのかもしれないけれど。アタクシ、聞いてしまったらしい。あの晩。エレベーターが、深夜真っ暗なこの階で止まってしまったあの晩、かすかにピアノが聞こえた。あの時、エレベーターの中、苦笑した記憶があるのだ。「あー、『美しく青きドナウ』ね、あれ弾いてれば気楽に十分は稼げるもんね」と同じように時間を稼いだ事があるので、頷ける選曲だ、と思ったのはとんだ間違いだったのだろうか。下の階のレストランからだと思ったけれど考えてみるとおかしい。レストランがピアニストを雇っていたとして、あの時間にはもうとうに帰ってしまっているはずだ。鳥肌が治まらない。それにしてもあれほど恐れていたボール・ルームで、そのまま少女漫画にできそうな美談に恵まれようとは。次の日、もう一度覗いてみた。ガラス越しに見た昼間のボール・ルームはどこか寂しげだった。- - -続くあるいは、目次
2010.05.03
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アタクシ、なんでこんな所でこんな事しているんだろう。さっきのは、何だったんだろう。あの閉まったドアから逃げるように、足早に廊下を進むケリーに追いつく事に気を取られていたら、あれほど怖かったエレベーター・ホールを難なく通過していた。いつの間にかやはり真っ暗なボール・ルームの前にいた。ガラスの、ちょっと豪華な両開きの扉が八つほど並んで閉まっている。中を覗くと、カーテンの隙間から黄昏時の光がまだ見える。随分高緯度地帯なんだな、と改めて思い知る。今何時だろう。九時に集合したんだっけ?暗く広いボール・ルームだ。目を凝らすと、真ん中に椅子やらが積まれているのがやっと見える。「開けますね」とKが解錠してドアを開いた。大きな窓から外を覗いてみたくなり、歩み寄った。表の大通りが見える。「タリアさん、そんな事して、ボール・ルームの窓から女性の幽霊が覗いた、なんて噂が立ったらどうするんです?」とR君が無理に冗談をとばす。あはは!そうだね。いいんじゃない?思ったより怖くない。「怖そう」と緊張していた分、ちょっと物足りない様な気までする。E も K も薄暗い中談笑している。「消灯後ここに来るの初めて。」「あたしも。あたしこのボール・ルーム好きなんだよね。」肝心のケリーは...?さっきまで恐ろしい事をぶつぶつ立て続けに呟いていたのに、急に静かになってしまった。ケリー、どうなの?ここは?返事がない。輪郭だけぼんやり見える彼女に近づくとぎょっとした。肩が震えている。ど、どうしたの?大丈夫?ケリー?ケリー!- - -続くあるいは、目次
2010.05.03
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「電話がかかってくるでしょ」と暗闇の中からケリーの声が聞こえる。 ひっとKが反応した時点で目を瞑りたくなる。ずんずん廊下を進むケリーを追いながら聞いてみた。電話って、電話ボックスから? 「え?違うよ。あの物置部屋からだよ。」 げ。 「フロントにかかってくるでしょ。何だろね。あれはマズいね。」そうなの?かかってくるの?と恐る恐る聞いてみると、E も K も恐怖で目を見開いていた。「電話、取り払ってあるんです。」「かかってくるはずないんです。それでもかかってくるので...」「電話線も切って引き抜いたって聞いてますけど、それでも...」 こ、怖すぎ。ケリーがさらにイヤな事を言う。「あれはマズいよ。なんか渦巻いてるよ。怖いね。あれは怖いよ。なんだか判んないけど、やだね。」 こ、こわいよ... 「でも、あの部屋だけじゃないでしょ。 かかってくるはずのない電話。」 もう、イヤ... 「で、ついでだけどあの電話ボックスも『何か』あるねぇ。」 - - -続くあるいは、目次
2010.05.03
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つくづく思う。盛り沢山過ぎやしないか?アタクシ達、興奮しすぎてオカシクなっていたのか?メモを読み返すのに一苦労している。自分の字とは思えないほど字が乱れている。時々手先が見えないほど真っ暗な中、手探りで書きなぐっていたにしても酷い。とにかく。電話ボックスの写真を撮ったついでに、と皆の先に回ってもう一枚撮ってみた。暗闇に背を向けていると怖い。圧迫感なのか、視線なのか、「何か」を感じる気がする。ええぃ、考え過ぎだ。もう一枚。と思ったらまた iphone がフリーズした。え?するとケリーが「ちょっと待った」と声をあげた。 イヤです、あなたの「ちょっと待った」なんてキライです。Kが「オーノー」と後ずさっている。「オーノー」って何? ケリーが閉まったドアの前で顔をしかめている。「開けましょうか?」とKが鍵をじゃらじゃら取り出した。それをケリーが止めた。 イヤーな感じだから、開けないで。とケリーが言う。 「イヤーな感じ」?何?何?アタクシには、判らない。E が両手で顔を覆っている。「この部屋、マズいでしょ。本来オフィスなのに物置になっちゃってるでしょ。」とケリーが聞くと同時に、R君が頷いていた。「そうです。便利な位置で、大きな窓もついてて、オフィスにしたらいいのに、と僕いつも思ってたんですけど、物置です。」数秒の気まずい沈黙が流れた。何がどうマズいのだろう。聞いてみよう。 「ねぇ、」と聞きかけたそのときだ。閉まったドアの向こうから ごと...と鈍い音が聞こえた様な気がした。いや、気のせいだ。気のせいだよね?ケリーが顔をしかめたまま、「行くよ」とすたすた歩いていってしまう。残されそうなアタクシ達は顔を見合わせたまま。「ねぇ、今、何か聞こえなかった...?」 気のせい...?- - -続くあるいは、目次
2010.05.03
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あの雑音の件があったばかりで、E も K もまだ R君を小突いていた。必要以上に大きな笑い声をあげながら。すると背後で ちん...と金属音が鳴った。 ひっ...! 見ると、電話ボックス。う、う、 う、嘘でしょ。あの「花嫁」が電話をかけた直後にこの階段から落ちて死亡した、と言われている電話ボックス。冷水をざっぱーーーん!とかけられた様に血の気が引いた。後から気付いたのだが、この電話ボックスの件はメモに書いていない。きっとビビりすぎてそれどころではなかったのだろう。E と K がさっきまで殴っていたR君にしがみつき、三人とも目を見開いて電話ボックスを凝視している表情が今でもありありと浮かぶ。まさか、と思ったけれど、ケリーは二つ並んだ電話ボックスを一瞥すると背中を向けた。「じゃ、行く?」と先を示す。アタクシ達、逃げるように暗闇の中へと向かった。振り返ると、首の折れた花嫁が立っているんじゃないか。おもしろ半分に古城ツアーなんてしているアタクシ達を恨めしく見ているんじゃないか。勇気を出し、恐る恐る振り返ってみた。ちょっと、ケリー、と言いかけたアタクシに、「後で」と釘を刺されてしまった。後で...?- - -続くあるいは、目次
2010.05.03
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コンファレンス・レベルの踊り場で騒いでいたのは、先に進むのが恐ろしかったからだ。きっと。踊り場は、左奥の廊下が明るいのでほんのりと光が差している。「黒い陰」と「栗色の巻き毛の少女」が出る左奥の廊下だ。下のメザニン・レベルとほぼ同じ踊り場だ。薄暗い踊り場の右に見える赤いランプの非常階段の下には「殺された工事員」。この右先にはあの真っ暗なエレベーター・ホールがある。アタクシが気味悪い経験をしたエレベーター・ホール。怖い。暗闇からにじみ出る悪意を感じる様な気さえする。考え過ぎだ。ただ怖いだけだ。あの奥にはボール・ルームがある。きっとさらに真っ暗だろう。Kが「出る」と言っているボール・ルームだ。どうしても行きたくない。行きたくない。暗闇の中、舞踏会の幽霊だなんて、まっぴらごめんだ。ここに立っているだけで怖い事ばっかり。その上に・「絶叫する女性」・「自殺の青年」・「遊ぶ男の子」・「首の折れた花嫁」メモを取る手がそろそろしびれてきた。指が冷たい。もうイヤだ。- - -続くあるいは、目次
2010.05.03
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