サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.02.11
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カテゴリ: 文学
 頭の中将、左大臣派一族の御曹司として、若いときから何かにつけて、光源氏とは友情とライバル意識がある。絵に描いたような体育会系のはげしい気性で、何事につけて白黒ハッキリさせないと気が済まない。なおかつ、たんにこうした運動部の気性だけでなく、頭も切れて目先も利く。
 光源氏が、固有名詞というよりは、限りなく普通名詞に近いその命名からも、天国の御殿をこの世に造りだすために編み出された、理想化された人物設定なのに対し、云わば 世俗的なエリートの代表 として描かれているのです(数あるこの物語の登場人物の中では、今どきの私でも好感の持てる数少ない人物の一人です。つまり1000年も経てば、共有できる要素は世俗だけしか残らないということですか?)。

 世俗的なというのは、桐壺帝を取り巻く左大臣派と右大臣派の綱引き、源氏が後見なき更衣の子として、この世に生まれてきたときの勢力図というのは、右大臣派がすでに娘の弘毅殿の女御を宮中に送り込んで、帝の子も得ている。例の摂関制の構図では、この子が東宮(皇太子)になることによって、外戚たる右大臣派一族が権勢を振るうことができるのです(例の六条御息所が先の東宮妃で、この東宮がすでに若死にしているという設定も、邪推ですが陰謀めいた匂いを感じさせますね)。
 光源氏は桐壺帝の更衣に対する異常な寵愛によって、右大臣側から見れば、いわば 宮廷内の撹乱要因 として生を受けたのであり、左大臣派にとっては、この輝く日の御子は勢力巻き返しのねらい目ではあったでしょう。
 左大臣が描く巻き返しとは、さしあたって息子の頭の中将に、右大臣家から嫁(弘毅殿の妹、四の君)をもらって、右大臣派を懐柔する。かたやで臣籍に降りた光源氏が元服したのを機に、にわかに一人娘の葵の上を添い伏しの妻として嫁がせることにする。前にも触れましたが、彼女は本来ならば現東宮(弘毅殿の女御の子)の后になってもおかしくなかったのです。
 左大臣側は、息子の頭の中将を光源氏の幼友達として、早くから接近させていたので、娘の添い伏しの婚姻というのは、たぶんに左大臣一族の政略に基づくものでした。左大臣の源氏に対する気の使いようは、異常というより、何となく滑稽な感じがしないでもないので、例えば「紅葉賀」の帖では

― (源氏が)つとめて、出で給ふところに、(左大臣が)さしのぞき給ひて、(源氏が)御装束し給ふに、名高き御帯、御手づから持たせて、…御衣の、御後ひきつくろひなど、御沓を取らぬばかりにし給ふ。 ― (山岸徳平校柱、岩波文庫)


 冒頭の「桐壺」の帖を読んだ当時の読者は、ただちに上のような勢力争いの構図を理解したはずで、この物語は昔からの夢物語を装いながらも、当時の人たちにとっては、すぐれて 同時代の政治情報物語 でもあったのでした。紫式部は慎重に言葉を選びながらも、現実の宮廷内の勢力図を、示唆連想させる物語を語っていたわけで、見ようによっては「源氏物語」に主語が省かれて、人物特定に往生するというのは、あるいは相当意図的に施された仕組みであったかもしれず、宮廷の女房たちは暇にまかせて、この物語を読む以上に、この「人物当てっこゲーム」に熱中していたのかもしれませんね。

― つづく ―





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Last updated  2009.02.11 12:08:25
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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